第10話 魔の鍛冶屋スズリ(前編)
毎日投稿いつかめ!
第10話をお送り致します。
やっとドワーフらしいドワーフさんを出せました……(苦笑
翌朝。
一晩たって容態が安定したウルズちゃんを交えて、俺達はセッパ邸で朝食を取っていた。
俺は朝食を頂きながらもう一つの可能性、スールズ様から聞いたミーミルの泉に咲く世界樹の花のことを説明している。
あの後聞いた話では世界樹の苗木が花を咲かせるのは年に一度、この大陸が極夜となる一日だけらしい。ちなみに極夜とは一日で太陽がまったく昇らない日のことだ。つまり、決行当日は完全に暗闇の中を、灯りだけを頼りに進まなければならないということになる。
「そうですか……。ならば、行かないという選択肢はありませんね」
昨晩はウルズちゃんの容態が気になって、一晩中看護していたらしいエダが重い口を開いた。ショックを受けたのは彼女だって一緒だ。
「それは良いんだけど、一応言っておくよ? アタイ達が行こうとしているミーミルの泉は、あのスルーズ様でも危険視する場所だ。気がはやる気持ちは十分理解できるが、十分に準備して行かないと二次災害が起こりかねない」
それはもちろんだ。この場にいる全員がスクルドさんの言葉に強く頷いた。
「さてっと、じゃあメンバーはどうするんだい? まさか妹の大事に、私を置いていくなんて無しだよ?」
「スクルドねえが来てくれれば百人力っすよ! もちろんアタシも行くっす! 誰が何と言おうと行くっすよっ!! ――いてっ」
スクルドさんの隣の席で朝食をガツガツ食べながら、ヴェルが息をまいている。「分かったから、アンタはもうちょい落ち着きなっ!」とスクルドさんに拳骨をもらう始末だ。
スクルドさんの力はまだ見た事はないが、完全体ではないとはいえ一度は戦乙女エルルに勝利したヴェルの発言は信頼できる。それに港街ヴィリンガホルトのスナックで初めて出会った時に感じた、スクルドさんの印象は、今だ変わってはいない。こう言っては失礼かもしれないが、何やら俺達が今まで出会ったことのない類の強さを本能的に感じるのだ。
「さすがにウルズはお留守番だね。それとケイカはウルズの警護をお願いするよ」
本来はヴェルの警護役であるケイカに、スクルドさんはウルズの守りを頼んだ。この皇都に居る以上、そこまで心配することも無いかとは思うが念には念を入れるつもりなのだろう。
「……うん」
「本当なら私も行きたいトコだけど、仕方ないか。……おまかせくださいな」
二人ともセッパ姉妹の長女さんを信頼しているようで、大人しく皇都で待機していてく
れるみたいだ。
「悪いね。人数が多いければ多いほど戦力としては頼もしいと思うかもしれないけど、今回だけは別だ。なにせ向かう場所の知識が少なすぎる。荷物は最小限に、滞在もできるだけ短くしたい。その方が身軽に動けるからね」
なんとも的確にプランを練っていく彼女の姿を眺めながら、俺はエダと一緒に傍観者に徹していた。まったく口を挟む必要性を感じないからだ。なんとも頼もしいお姉ちゃんである。
だが、安心して話を聞いていた俺達の下で朝ごはんの新鮮野菜を食べ終わったのか、パンが勢いよくテーブルに前足を突いてきた。
「クゥーンっ!」
その場にいたパンちゃんが猛々しい鳴き声を響かせる。どうやら行く気満々のようだ。以前は俺だけに聞こえていたパンの言葉は、最近になって聞こえなくなっている。赤子の頃しか使えなかった能力なのか、それともパン自身が喋ろうとしていないのか。
「私としてはパンちゃんにもお留守番をお願いしたいのですが……」
エダは危険な場所にパンを連れて行きたくなさそうにしているが、パンちゃんの瞳は気迫に満ちている。どうやら連れて行かない方が大変な事態になりそうだ。
「心配は要らないと思うっすよ? パンちゃんはマジつよっす!」
俺達がそばに居てあげられない間、常に行動を共にしていたと言うヴェルが太鼓判を押してくれる。自分達の子のように接しているとはいえしばらくの間、自分達の目で成長を見守れなかった。その間、パンの面倒をみてくれたヴェルの言葉だ。信用するとしようか。
「何かあったら俺達が守れば良い。……違うか?」
仕方ない、パパは娘の味方をするとしようか。
「コウキまで……」
一方のママは今だ反対のようだが、自分の不利を悟ったらしい。大きなため息と共に許してくれたようだった。
「いいですか? パンちゃん。目的地に着いたら私かコウキのそばを離れないことっ。いいですね?」
「クォン!」
なんとも元気の良い返事だこと。嬉しそうにヴェルにじゃれつくパンの姿に、俺達は苦笑せざるを得なかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
結局。ミーミルの泉へと行くメンバーは俺、エダ、スクルド、ヴェル。そしてパンの4人と一匹が行くことになった。
これから俺達のやるべきことは、出発までに万全の準備を整えることだ。ミーミルの泉へは、この大陸が極夜になる日から逆算して1週間後に出発する手はずとなっている。
朝食を終えた俺達はさっそくレイキャヴィークの街を攻略しにかかった。なにしろ、やるべきことは山ほどあるのだ。
長期間の旅に必要な食料から馬車、寒冷地用の防寒具。だがその中でも一番大事なのが俺とエダの装備一式を調達することだった。
今現在、俺はまともな装備を持っていない。ヒルドとの戦いで地の守護竜様にもらった地竜の剣は、他の誰でもない俺自身が喰らってしまったからだ。
エダに関して言えば元々は俺のためにヴェルが制作して、後に彼女用に調整された戦乙女の鎧だけは顕現できる。できるのだが、もうちょっと街中を歩いても恥ずかしくない鎧にしたいと熱弁していた。
ヴェルはコウキ姉とエダ姉の装備一式はアタシが作る! と張り切って公言していたが、さすがに一人で作るのは時間が掛かりすぎるし、何よりも前科がある。俺とてもう、あのような痴女のような恰好は勘弁してもらいたい。
幸いここは鍛冶の国、ドベルグルだ。一流の職人であるドワーフ達のお膝元である。
俺達はヴェルの案内の元、彼女の師匠でもあるという皇国で一番の武器鍛冶屋へと向かうことになった。
ヴェルに案内された鍛冶屋は、一見してこの街では一般的な普通の木造家屋に見えた。そもそもがお店として最低限の装備である看板でさえ、扉の横でくたびれたように立てかけられているだけだ。俺達の目にはどうみてもまともなお店には見えなかった。
「ここっすよ~。ささ、入ったはいった!」
「お、おい。押すなって! てか、大丈夫なのか!? ここ!」
「だいじょうぶっすよ~」
「はいります、入りますからっ!」
ぐいぐいとヴェルに背中を押されながら無理やり古びた鍛冶屋の中に入店したのだが、店内の品ぞろえを見た俺とエダは、その意外な光景に感嘆のため息をもらした。
「おおっ……」
「これは、素晴らしい一品ばかりですね!」
店内に陳列された武器防具の数々。そこにはまるで魔剣のバーゲンセールか、と思ってしまうほどの一品がところせましと並んでいたのだ。だが、その魔剣達には値札が付いていない。それどころか、よく見れば店内の陳列も乱雑の一言に尽きる。
「商売っけがないなあ……。本当にお客さんが来ているのか?」
「お店じゃないっすもん。ここはただの倉庫。ししょー、スズリ師匠! いないっすかー!?」
「……へっ?」
ヴェルが無駄に元気な声で屋敷内へ向けて叫ぶが、返事は何もない。
ていうか倉庫? こんな玄関先の空間が倉庫なのか!? 玄関の扉にはカギも掛かってなかったぞ? 防犯対策のボの字もねえじゃねえか!
もしかしたら俺の感覚が間違っているのかと隣にいる相棒の顔を伺ったが、相棒の顔も似たようなものだった。どうやらここの主はかなり危機感の甘い御仁らしい。
こうしている間にもドワーフの少女は「ししょー!」と叫びながら屋敷の中へ入ってゆく。俺とエダは慌てて彼女の後を追いかけたのだった。
ヴェルの説明によると、このドワーフ族の皇都レイキャヴィークの鍛冶区は東西南北4つの区域に別れており、それぞれの地域に専門の鍛冶師をまとめる代表がいるのだという。
東はアウストリ。機械兵団の根幹たる、機械兵を作り出す機械職人。
西はヴェストリ。装飾品に魔石を付与し、様々な効果を生み出す魔法具職人。
南はスズリ。魔剣などの武器を作り出す武器職人
北はノルズリ。かつては神々の鎧も作り出したといわれる防具職人。
その中でヴェルが師事していたのは北と、南の鍛冶職人の最高峰だ。ヴェルが今、声をはって呼んでいるのは南区の最高棒スズリさん。ドベルグル皇国の開国以来、魔剣職人としてこれ以上の逸材はいないとまで呼ばれている名匠らしい。
しかし、ヴェルが大声で呼ぶも屋敷の奥からは返事がいっこうに返ってこない。その代わり、地下からは鉄を鍛える甲高い音だけが一定のリズムで鳴り響いていた。
「いるみたいだけど……、返事がないな」
「……はい」
「にゃはは、いつものことっすね。師匠は武器を作り始めると、集中しすぎて周囲の音が一切聞こえなくなるっす」
ヴェルは笑いながらコウキ達に説明すると、勝手に屋敷の中へと入っていった。
「おいおい、勝手に入ってもいいのか?」
「そうですよ。まずは家主の許可をとらなければ、そもそも聞こえないほど集中していらっしゃるなら作業の邪魔になってしまいます」
「スズリ師匠はいつもこんな感じっすよ? 遠慮していたら一生、話を聞いてくれないっす」
屋敷中に鳴り響く金属音は地下へと続く階段から聞こえている。屋敷自体は樫の木で作られた立派なものだが、地下は石造りの剛健なものだ。地下へと降りてゆくにつれ気温が上昇していくのが体感できる。この下は本当に、本物の工房なのだ。
「しっしょぉーっ!!」
「うるっせぇ、誰かと思えば帰ってきてやがったのか! このサル姫がっ!!」
「きゃっ、キャッ。帰ってきたっすよー。久しぶりっすね、ししょー」
ヴェルに続いて地下の作業場へと降りてきた俺達の目の前には、部屋中に煤が付いて真っ黒になった鍛冶屋さんの戦場があった。そして先行していたヴェルの前に立ちはだかっているお爺さんは、これぞドワーフ! といった感じのガッシリした筋肉を身に纏っている御仁だ。乱雑に後頭部へと撫で付けれられた白髪と、同じ色の顎から生えた長い白髭がいかにもな風貌を更に際立たせている。
「てめえ、ワシが一人前だと認めてないくせに、別の場所で鍛冶屋やってたらしいな?」
ガチガチの鍛冶職人ドワーフが放つ威圧感に、俺とエダは思わず一歩後ろへと下がってしまう。が、弟子のヴェルには効果がないようだ。
「やってたっすよ? いやー、いい刺激になったっすよー」
「ああっ?」
師匠の眼光を華麗に受け流しつつも、いつもの調子で話すヴェル。なんだかんだ言って信頼している者同士が交わす遠慮のない会話というやつだ。お気楽そうな声色ではあるのだが、その奥には家族のような信頼関係をうかがわせる温もりがある。
「で? このお姉ちゃん方は?」
先ほどまでヴェルに注がれていた眼光が、今度は俺達の方へと向けられる。こんなに背中がザワザワしたのは新入社員の挨拶で社長室に行った時以来だ。
「コウキ姉とエダ姉っす!」
「名前を聞いてるわけじゃねえよ! てめえと、どういう関係だって聞いてんだ!」
ようやく会話に参加するタイミングを得た俺は、直立不動の姿勢で口を開いた。正直、怖いというのもあるのだが相手はこの道数十、もしかしたらそれ以上の匠だ。尊敬の念を籠めて話しかけるのは若輩者として当然のマナーである。
「初めまして、コウキ=ヴィーブルと申します。こっちはエダ=ヴォルヴァ=ジャーリです。ヴェルのお師匠さんにお願いがあってお邪魔しました、スズリさん」
「ああっ? ここは武器屋だ。お姉ちゃん方に似合いそうなモンを扱ってるのは、ヴェストリの方だぞ?」
お前等みたいな女子に鋼の武器が持てるわけが無い。魔法具のアクセサリでも見繕っていろと、まぁそう言いたいのだろう。だが、俺達の求めているモノはここでしか手に入らない。
「まさか、その細腕で武器を振りまわしてぇ。なんて言うんじゃねえだろうな?」
「いや、実はそのまさかってやつでして……」
再び、ギロリとしたスズリさんの眼光が俺達に襲い掛かる。しかし俺達だって負けてはいられない。武器もなしでミーミルの泉に行くなんて問題外なのだ。
スズリさんと俺達の睨めっこは1分ほど続いただろうか。正直ダメかな? と思い始めた頃に、スズリさんの方から「ふんっ、強情な姉ちゃんだ」と言いながら目線を外してくれた。とりあえず第一関門は突破したらしい。
「……、まぁ。このサル姫様がお世話になっているようだしな、上にある短剣か、レイピアでも見繕ってろ」
それぐらいなら、その細腕でもなんとか振り回せるだろってことか。
「師匠、違うっすよ。エダ姉は確かにレイピアでも良いかもっすけど、コウキ姉は長剣がほしいんす。しかも、二人とも師匠の魂の篭った魔剣がほしいんすよ」
「…………ダメだ」
「ええ~、どうしてっすか~?」
「持ち手が扱いきれない魔剣は、いつか必ず自分の身に災いが返ってくる。こんな綺麗な貴族の嬢ちゃん達の肌に傷をつけたなんて言ってみろ。この街の鍛冶職人全員に怒鳴り込まれちまうわ!」
まあ、初対面の俺達を見たらそう思うのも無理はない。だがそれで納得してもらっては困るのだ。同じことを考えたのか、先に行動に移したのは俺ではなくエダだった。
「実は私、ミズガルズの竜神教で巫女をやっております」
「ああっ? だったら尚更だろ、神職にあるモンが刃物なんて持つんじゃねえ」
「本来であればそうなのですが、私は神官騎士でもありますので」
そういうとエダは武器創造の奇跡を使った。彼女の身体を取り巻く聖気が右手に集まり、白銀の刃が精製された。
「この通り自分でも武器は作れるのですが、これでは物足りないのです。私達の赴くミーミルの泉では、予想をはるかに超える試練がまっているでしょう。スズリさんの魔剣ならば私の期待に答えてくださるはずです」
エダの出した聖気の剣に、スズリさんはぎょろりとした目を見開いた。当然だろう。俺にとっては見慣れた光景だが、この国でこの剣を作り出せるのはおそらくスルーズ様だけだ。
「お前さん、天女さまか?」
「えっあっ、天女さまなんて呼ばれ方は恥ずかしいのですが……戦乙女スルーズ様の妹にあたると考えてくださってかまいません」
その彼女の言葉を最後に鍛冶場に沈黙が流れた。しばらくエダの出した剣を凝視していたスズリさんは、一つ大きく溜息をついた後に口を開いた。
「手を出しな。そっちの姉ちゃんもだ」
「……俺も?」
「当たり前だ、俺の魔剣が欲しいんだろうが!」
「はっ、はい!」
まるで現場の熟練大工さんに怒鳴られたような気持ちだ。俺達は大人しくは利き手である右手をスズリさんの前に出した。
「……………………………………。」
二人の手をがっしり掴んだスズリさんは、ただひたすら手の平を見続ける。何をしているのかまったく分からないのだが、弟子であるヴェルだけは呆れたような表情だ。
「あ~、やっぱりこうなっちゃうっすねぇ。ちょっとお茶でも入れてくるっすよ」
「おい、ヴェル?」
「こうなったら、もうこの鍛冶場からは逃げられないっすからね? コウキ姉もエダ姉も覚悟しとくっすよ」
「うるせぇ! ヴェルお前はさっさと飲み物でも作ってこい!!」
「はいはい~」
スズリさんに怒鳴られたヴェルは、それでも笑いながら上の階にある台所へと上っていった。
最後までお読み頂きありがとうございました。
正直、ストックはあまり多くはないのですが。出来うる限り毎日更新を続けていきたいと思います。




