第7話 皇都への道のり
毎日投稿ふつかめっ!
第7話です。
今回は説明回なので、さっと読んでもらって構いません。
「いっちばーん! とおちゃーっくっす!」
急勾配の山道を獣のごとく駆けあがったドワーフの少女は山頂に立つと、そう宣言した。
「ひゃぁっ! にっ、にばんです~」「クゥーン!」
パンの獣らしい鳴き声と、その背中に乗ったウルズちゃんの疲れながらも楽しそう声が続く。
「お~い、ちょっとは俺達のことも考えてくれ~」
「ヴェルちゃん、パンちゃん、ウルズちゃ~ん。もうすこし、ゆっくり……」
まさに子供の体力は無尽蔵だ。常人よりはるかに強靭な肉体を持っているはずの俺達が、少女達の元気の前にはなすすべがない。
「にゃははっ。もうちょっとで山頂っすよー」
「コウキお姉ちゃん、エダお姉ちゃん、頑張ってー」
セッパ姉妹の声援が、進むべき道の先から聞こえてくる。だが俺とエダはもうヘロヘロだ。額には汗が浮かび、足腰はとっくの昔に悲鳴を上げて久しい。
「ま、まさか、一国の首都がこんな山奥にあるなんて……」
俺達は自らの誤算を認めつつも、数日前から続く登山工程に悩まされ続けていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
十分な食料や雑貨品を港街ヴィリンガホルトにて買い込んだ俺達は、ヴェルの警護役となっていたケイカの用意した馬車に積み込んで一路、皇都レイキャヴェークを目指して進んでいた。さすがのドベルグル皇国でもゴムの発明はまだらしい。木製の車輪が地面の凹凸を直接、車内へと振動となって伝えていた。俺がかすかに期待していた蒸気機関車もまだないようだ。
序盤の旅路は楽しいものだった。広大な平野に広がる小麦畑、人間族と比べると少し手狭な家屋と野菜畑。そんなのどかな田園風景が続いていたからだ。稲とは少々色合いが違うものの、この景色は俺にとって元の世界を思い出す情景だ。
「コウキ姉の故郷も、こんな感じなんすか?」
馬車の中で退屈そうに両足をパタパタしていたヴェルが、俺の故郷の話を聞きたそうにしている。周りを見ればエダもウルズちゃんも、そしてなぜかスクルドさんも興味深々のようだ。
「そうだなぁ、俺の故郷はここよりも四季がはっきりしていたからな。春には花が咲き、夏にはセミの音が、秋には山が真っ赤に染まり、冬にはいちめん銀世界ってやつだ。こういう黄金の海が見られるのは秋だな」
まあ日本は小麦じゃなくて稲だけど、そこまで詳しく解説しなくてもいいだろう。
「……とても美しい国なのですね。出来ることなら行ってみたいくらいです」
「一体なにが原因で、この世界にこれたのかも不明だからなぁ。……でも」
「……でも?」
「俺が幸運の女神に愛されているのは間違いないと思う。元の世界で俺は、たぶん死んだんだ」
こちらの世界に来る切欠となった工事現場で掘削していた穴の深さは、少なくとも3mを超えていた。ちょうど市が下水道の配管を推し進めていた時期に起こった事故だったのだ。そこから俺は頭から落下している。仮にもうすこし作業が進んで、緩衝材である砂が入れられていたら希望もあったかもしれない。だが、現実はそうではない。楽観的な推測はできそうになかった。
「そんな……」
横に座るエダが、俺の語る事実に衝撃を受けたのか口を手でおおっている。
「でもラッキーだったよ。どんな姿で生まれ変わろうとも、俺はエダに出会えた。この幸運がなかったらその日の食料もあやしかったし、最悪の場合は魔物として討伐されていたかもしれない」
「……コウキ」
「はいは~い、イチャラブモードは二人きりの時にやりなさいな。なんにせよ、私達の大陸はコウキ君の故郷とはかなり違うみたいだね。この大陸はそこまで四季がはっきりしていないから」
またいつもの雰囲気になるかと思った、スクルドさんのツッコミが入る。エダはちょっとうらめしそうな顔を見せたが、俺は笑って答えた。
「けど、この世界に来る前の俺がまったく無知だったかというと、そうでもない。これまで居たミズガルズ大陸も、今居る火の巨人の大陸ムスペルスヘイムも。俺の元いた世界の神話の一つとして多少の知識はもっていたからね」
「ふ~ん、もしかして私達のことも知っていたっすか?」
俺の話に興味をもったのか、ヴェルが興味ぶかそうに身を乗り出してくる。
「……半分正解で半分はずれ、かな。スクルド、ヴェルザンディ、ウルズの三姉妹は俺の知る神話だと女神様三姉妹だしな」
少なくともドワーフではなかったはずだ。
「わたし達が、女神さま?」
「にゃははっ、そんなたいそうな存在じゃないっすねぇ」
「でも、私達の名前は戦乙女スルーズ様が付けてくれた名前らしいからね。もしかすると、天界に私達と同じ名の女神様がいるのかもねぇ」
ふむ。そういえばこれから俺達が向かう先に、このムスペルスヘイムの管理者である戦乙女様がいるわけだ。彼女達の敬愛する人物なのだから、敵対したくはないな。
「その戦乙女スルーズ様は、どんな人物なんだ?」
自分の話を終わらせて、ヴェル達に話題をふってみる。俺達はまだこの大陸についての知識が不足しすぎているのだ。
「きれいですっ!」
「かっこいいっす!」
「アンタ達、それじゃ説明になってないよ。そうさねぇ、スルーズ様はアタイらの強さの象徴として君臨してくださっている。とは言ってもドベルグル皇国の政治や軍事にたずさわることはないよ」
簡潔な言葉しか発しない妹達に変わって、お姉さんであるスクルドさんが説明してくれる。
「ってことは、本当に皇国の[象徴]としてのみ存在しているってことですか?」
「そうだね。我らドワーフは毎朝、皇都ドヴェルグの中央にそびえたつレイキャヴィーク城に祈りを捧げることから始まるんだ。そして就寝の時も同様だね。一日の始まりと終わりを、守護者であるスルーズ様に感謝の祈りを捧げるのが毎日の日課さ」
なるほど。聞けば聞くほど日本の皇室と似ている。さすがにお祈りまではしたことはないけど、この戦乱の時代に人民の心の支えがあるというのは重要なことだ。
「まっ、実際に見たほうが早いわね。実際にお会いしてみれば、どんな方か分かるだろうし」
「……会えるんですか?」
スクルドさんのあっさりとした言い口にエダが驚いている。一国のシンボルとなっている戦乙女様に、簡単に会えるなど思っていなかったからだ。
「むしろ面白がって、スルーズ様の方から見に来るかもしれないねぇ」
ハっはっはっ! と笑いながらスクルドさんは話をしめた。どうやら随分と気さくな戦乙女様なようだ。とりあえずはあのヒルドのような、人を人と思わないような狂人でないことを確認できて俺はホッと胸をなでおろした。
さて、まずはミーミルの泉に向かうための万全な用意をすることが最重要課題だ。しかもヴェルが俺達の装備をすべて作ると息をまいているので、まずはその監視作業からだな。またあのような痴女を思わせる鎧を作ってもらっては、まともに外を出歩くことも出来なくなってしまう。
快晴の空を眺めながら、俺はこの先の運命を前向きに考えていた。
そんな感じで気分よく旅を楽しんでいた俺だったが、この楽しくも平穏な時間が続いたのは平地を馬車で進んでいる間だけだった。
一週間程度の旅路で平地での移動は終わりを告げ、見上げても先が見えない山道へと移行する。
「さって、馬車で移動できるのはここまでさ。こっからは荷物を担いでの楽しいたのしいハイキングだ」
一番手でさっそうと馬車から降りたスクルドさんが、こちらを向いて楽しそうに説明してくれる。
「……この山を荷物を担いで登るのか?」
「……」
山頂が雲に隠れて見えないんだけど……。俺の横で、エダも似たような表情で絶句しながら上を見上げている。
「まさかぁ、そんなわけないだろ?」
「で、ですよね?」
「皇都レイキャヴィークはもっと先さ。これくらいの山を、んっと……4つくらい超えた先にあるよ」
そんなにアッサリ言わないでほしい。なんか、色々と折れてしまいそうだ。主に、気持ちが。
「はいはい、見ていても皇都には着かないよ? ほら、荷物を担いだかついだ!」
スクルドさんに俺の背中より大きいリュックを渡される。これは何のイジメだろうか。
「大丈夫っすよ、途中とちゅうに休憩小屋はしっかりあるっすから。足腰を鍛えるには丁度いいトレーニングっす!」
いや、別に足腰を鍛えなくてもいいから! と俺達はドワーフの少女達に叫びたい。
「れっつ、ごー。なのです!」
「クゥーン!」
ウルズちゃんんもパンの背中にのって行く気まんまんだ。
俺とエダは一つ大きな溜息をつくと、これからの旅路の過酷さを覚悟しながら歩き始めた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
さて、明日の投稿は夜になるかもしれません。
用事が終わり次第、投稿しますのでよろしくお願いします。




