第6話 ミーミルの泉
第6話です。
このお話から実験的に、週末投稿から毎日投稿に変更させてみようかと思います。
時間帯は毎日夕方16時~18時頃を予定しておりますので、覗いてみてください。
「ということで、改めて自己紹介しようかね。アタイの名は、スクルド。スクルド=セッパ=ドベルグル。そこにいる可愛いヴェル・ウルズのお姉さんさね」
と、今までケイカの立っていた位置に陣取った彼女は、まるで何もなかったかのように自己紹介を言い放った。
「ううううぅっ――っ!!」
頭の上から相棒の威嚇するような唸り声が聞こえてくる。
俺の顔面は、それまで居た彼女の胸元をようやく離れたと思ったら、今度はエダの胸の中に納まっていた。いくら抜け出そうとしても、エダの腕でガッチリ押さえ込まれた俺の頭部は動く気配すらない。まるで自分の天敵に出会った猫科の動物のようだ。
「あの~。スクルド様。……なぜ、ここにいらっしゃるんですか?」
ケイカがおずおずと、突然現れた新たなお姫様に問いただす。というか、このお姉さんと俺は昨日の時点でお知り合いになっていた。
この声、この臭い。間違いなく昨日の夜、俺をスナックへと呼び込んだドワーフ美人のお姉さんだ。
「いやさ、アタイの可愛い妹達が帰ってきたってんでね。わざわざ迎えに来てあげたってわけさ。それに、面白いお客人もいるって聞いたのでねぇ」
相変わらず俺の視界はエダの胸に閉ざされたままだけど、こちらを見るような視線は感じる。
「ふっ不潔です! 貴方のような人の近くに、コウキを置いておくわけにはいきません! 大体、なんですかその不埒な格好はっ!?」
その規律を正そうとする口調は正にマリーさんゆずりだ。
でも確かに、今のスクルドさんはかなり煽情的な格好をしていた。赤銅色とでも言い表せば良いのだろうか。血液のような濃い赤色の布を、必要最低限の箇所しか隠していない衣装はまるで水着だ。上半身は胸部をそこまで幅広くもないまっすぐな布で隠しているだけだし、下半身にはハイウエスト・スカートを身に着けてはいるが彼女の褐色で健康的な太ももを隠せてはいない。
いや、俺らだって戦乙女の鎧っていう恥ずかしい鎧を着ていたのだが、スクルドさんのプロポーションでは、目のやり場に困る。そんな彼女の姿を見て俺はどこか納得していた。元々ドワーフ族ってのは薄着を好む種族なのだ。
「不埒って言われてもねえ。これはアタイ達ドワーフの、伝統的な衣装さね」
「にゃはは、アタシも皇都ではそんな格好っすよ? 熱いっすからね~」
「いいなぁ、あたしもお姉ちゃん達みたいな可愛い服きたいもん……」
「ウルズは病気が治ってからだね。そういう約束だろ?」
「……、うん」
ドワーフ3姉妹の会話で、一気に部屋の中が騒がしくなる。まあ、雰囲気が暗いよりはなんぼかマシだろう。あ、ちょい方言がでちゃった。
それよりも……。
「ふが、ふがふが、ふがが、……ふが、ふ、が~」
もう、そろそろ、息が、……もた、な、い~。
「……んっ。あ、コ、コウキ!?」
自分の顔が真っ赤に充血しているのを自覚する。美少女の胸の中で死ぬのなら男としては本望なのだろうが、俺はせいいっぱい四肢をばたつかせて自らの危機をアピールした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ぜぇ、ぜぇ、ぜえ……」
「すみません、ごめんなさいっ!」
あやうく天国で窒息死しかけた俺は、隣で平謝りしているエダに大丈夫だという意味の片手をあげて、必死に呼吸を整えていた。
「あらら、かわいそうに。お兄さん……コウキ君、だっけ? こっちに来るかい?」
スクルドさん、この後におよんで更に燃料を投下しないで……。また相棒が暴走しちゃいますからっ!
「……ごほんっ、それでスクルドさんは[ミーミルの泉]を知っているんですか?」
無理やりにでも話題を戻さないと事態が進展しないと思った俺は、呼吸が整うのを待った後に話を再会させた。
「んー、知ってるね。……行ったこともあるし」
「行ったことあるんですか!?」
「ん。といっても途中までだけどねぇ。あんまりにも危なすぎて、トンズラこいちゃったのさ」
突然の告白に驚いた俺達だったけど、その直後の不穏な空気に不安感を覚える。人と比べれば俺は人間の姿であっても、宝珠竜の身体能力を使うことができる。それでも抱き締められたスクルドさんから抜け出せなかったのだ。
それほどまでの実力を持つスクルドさんが、危険すぎて逃げてきた場所っていったい。
それでも貴重な情報には違いない。
トキハを救う、唯一の手掛かりがそこにはあるのだ。なんとしても行かねばならなかった。
「あそこはヤバイよ。何がヤバイって、あそこは、大地の力で守られた要塞だからさ」
「……要塞?」
「そう、コウキ君達はこの大陸に来て間もないから知らないのも無理はないんだけど。この大陸は、単独で世界のすべてを表現している場所なのさ」
「「「……」」」
寒さ、暑さ、標高による空気の薄い濃い、不毛の砂漠もあれば開拓民が入り込む隙を与えない樹海もある。けどミーミルの泉が本当に危ない理由は気候でもなく、植物の力でもない。大地そのものが与える試練だというのだ。
「場所はさっきケイカも言ったとおり、北東の樹海。しかもその奥の奥に氷河地帯があるんだけど、そこで唯一、地面が湧き出る熱水で作られた大氷穴があるのさ。遠巻きに見るだけなら中々の絶景だね。間違っても近づきたくはないけど」
数十分間隔でどぱーんっと、穴から毒の熱水が吹き上がるんだ。とスクルドさんは身振り手振りで表現してくれる。
俺はその現象に覚えがあった。
「なるほど、氷河の中に間欠泉が沸いているのか。さすが異世界、珍しいなんてものじゃない……」
しかも、その間欠泉のお湯を飲めってか? 神々の記憶を得る前に、高濃度の硫黄を含んだお湯なんか飲んだら死んじまうぞ?
「コウキ……」
「コウキ姉……」
俺の複雑な表情を見て、エダとヴェルが不安そうな顔を見せた。声には出していないがケイカやウルズちゃんも同様だ。
だが、先ほども言った通り。案ずるより生むが安し、である。
「行って見よう。まずは自分の目で確かめなきゃ、始まらない」
「……そうですね。かなり危険なところのようなので、向かうメンバーも考えなければいけないでしょう」
俺の言葉にエダが賛同の意を示す。ただ、エダの言うとおり人数は少ないほうが良い。万が一の時にもそれなら犠牲が少ないからだ。
「あっ、でも。スクルド姉、そこって……」
何かを思いたったかのように、ヴェルがスクルドさんに確認をとる。
「ああ、言い忘れていたね。その地域一体は、アタイらゴベルグル皇国で一切の侵入を禁止している。まずは、皇都に行って戦乙女スルーズ様の許可を頂かないとね。どっちにしろ、ウルズやトキハって子は連れていけるような場所じゃない。なら、拠点が必要になるだろ?」
思い出したようにスクルドさんが声をあげた。
確かに。
自然の力をあなどったバカが、神々の知識目当てに忍び込む可能性もあるわけだ。自業自得とはいえ、被害なんてものは出ないに越したことはない。
「それに、見たところ満足な装備も無いんじゃないのかい? ミーミルの泉はそんな甘いトコじゃないよっ!」
それも確かに。
戦乙女ヒルドとの戦いで、俺は地竜の剣を喰ってしまい剣さえ無い。それはエダも同様だった。聖剣バルムンクはミズガルズ王国の宝なので、おいそれと外国に持って行くことなど出来なかったのだ。
「そうだな、俺とエダの分の装備一式が欲しい。皇都で揃えられるかな?」
と言った時だった。反対側の席から一人の少女が待ってましたと言わんばかりに飛び跳ねた。
「ハイ、はいっ! アタシにお任せっすよ! 今度はコウキ姉とエダ姉、二人が並んで最高にカッコイイ鎧と剣を作るっす!!」
「お、おい。頼むから前の戦乙女の鎧みたいな、露出度の高いのはやめてくれよ?」
「……同感です」
テンション爆上がりなドワーフの少女に、俺は注意喚起するが聞こえているのだろうか? ヴェルは「くぅ~、腕がなるっす!」と一人で盛り上がっている。
「話は決まったかい? どっちにしろ、ウルズを安全なところで休ませたいからね。準備が出来次第、出発だ!」
「「おー!」」
ちなみにスクルドさんの号令に元気いっぱいの返事でかえしたのは、ヴェルとウルズちゃんだ。彼女達も久々の里帰りを楽しみにしているらしい。
トキハの容態も今のところは安定している。だが、この先もこのままだという保障もないのだ。
俺達は一路、ドベルグル皇国の首都へと向かうため準備を開始した。
ついにセッパ姉妹の長女スクルドさんの登場です。
ヴェルザンディ・ウルズと来たらスクルドさんも出さざるを得ないでしょう。
今作品初の姉御肌キャラとして大切に書いていきたいと思います。(お母さん・お姉さん的なキャラは多かったんですがね……)
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