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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第2章 ドベルグル皇国
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第5話 たった一つの希望とお姉ちゃん

新キャラ登場! 第5話です。

いや、もう前話で登場してるんですけどね。つよかっこいいお姉ちゃんキャラ大好きです。


「結論から言うと、この大陸にミズガルズ以上の医療知識があるかといえば、無いわ」


 その言葉が、彼女の口から飛び出ることは覚悟していた。


 昨日。

 この港街の酒場で、ドワーフのおっちゃんに宣告されていた事実だから。だが、ヴェルの指示で調査してきたケイカの表情はそこまで沈んだものではない。

 ケイカとしても調査してきて。はい、無理でした。では、立つ瀬がない。よほどの事がない限り戻ってはこないだろう。


 ならば彼女はトキハを目覚めさせる、なんらかの手段を見つけてきたはずだ。

 固唾を飲んでケイカから続きが語られるのを待つ俺達に、ケイカは重い口を開いた。


「さっきも言ったとおり、このドベルグルを支配するドワーフ族に高度な医療知識はない。それはヴェル、アンタだって解ってたでしょ?」

「……うん。そもそもアタシ達ドワーフは、頑丈さが売りっすからね。よっぽど老齢にならないかぎり病気にかかった、なんて知られたら一族の恥っすから」


 あらためてドワーフ族のハチャメチャっぷりには溜息がもれる。元人間の俺には到底理解できない世界だ。


「……ドワーフの技術には頼れない。だから私は色々な伝承を調べてみたの」

「伝承? 伝承ってドワーフのか? ……よく調べられたな」


 この世界の紙はかなりの貴重品だ。かなり前の話になるが、ユミルの街で俺達はマリーさんの夫であるエシアさんが集めた竜神教の古文書を見せてもらったことがある。あれだって、エシアさんは司祭という立場を最大限利用してかき集めたものだと言っていた。


「私は一応、ヴェル付きの護衛官だからね。セッパ家の名前を出せば、殆どの施設にある文献は読めるわよ」

「今更もう驚かないけど……、お前ら本当は東の砦で何やってたんだ?」


 隣国のお姫様にその護衛官が、敵国とまでは言わないまでも隣国で冒険者をやってるなんて常識ではありえない。


「何やってたか? って、コウキ姉には話したっすよ? 妹の、ウルズの身体を癒すためだって」


 ああ、そうだったな。しっかし、いくら妹のためとは言っても一国の姫様がそんなことするかね。

 ……まあ、ヴェルならするんだろうな。ヴェルだしなぁ……。


 そう頭の中で自問自答しながら、ヴェルの顔を凝視する。


「な、なんすか?」

「いや、妹想いの良いお姉ちゃんだなって思っただけだ」

「な~んか、こっぱずかしいっすねぇ」


 にゃはは。といいながら苦笑するヴェル。


「はいはいっ! 話が脱線してるから戻るわよ!」

「了解っす、ケイカ先生!」


 まるで学校で授業をうける教師と生徒のようなやりとりだ。


「誰が先生よ、誰が。……まぁいいわ。これはドワーフのっていうより、この大陸に伝わる神話のたぐいね。ここから北東に行った場所にとっても深い森がある。そして、その先には神々の水と呼ばれる[ミーミルの泉]が存在するって伝承を見つけたのよ」

「その泉には、……何が? そういえば私の中に居る戦乙女エルルも言っていました。トキハちゃんの傷は戦乙女ヒルドの精神汚染で出来たものだと。そして、これをなんとかするのは神々の奇跡が必要だとも」


 俺の隣にいるエダが自分のあごに指を添えて、その時の会話を思い出している。元より天界の使者である戦乙女に傷つけられたなら、癒すのもまた天界の奇跡が必要だということか。


「そう。そして、直接的な手段じゃないんだけど……。その[ミーミルの泉]の水を飲むと神々の知識が授けられる……、らしいわ」

「らしいわって、お前……」

「しょうがないでしょっ!? もはやトキハを救うには奇跡にすがる他ないってのが、現状での結論」


 ケイカの表情も何時になく厳しい。そんな夢物語にすがらなければならないのか、俺達は。

 部屋の中に重い空気が流れる。だがそれに対して、俺は意外にも希望を見つけた気分になっていた。


「エダ、俺が戦乙女ヒルドとの戦いの中で言ったこと覚えているか?」

「コウキ? えっと……」


 突然の俺の言葉に、彼女は慌てて自分の記憶を掘り返している。


「出来るかもしれない策がある。でも、出来ないかもしれない。なら、やってみて駄目なら次の策を考える。……だ。分かりやすいだろ?」

「……っ、はいっ!」


 相棒の顔が明るくなる。笑う門には福来る、が俺の座右の銘だ。どんなに絶望的な状況でも、今まで俺達は何とかしてきた。ならその姿勢を貫くだけだ。

 俺の言葉に、ヴェルとケイカも笑いながらうなずいてくれた。


 なら、あとは行動あるのみだ。


「ケイカ、その[ミーミルの泉]までどのくらいの時間がかかる?」


 それによって食料の買出しとか、準備する荷物の量が変わってくる。かなりの遠方なら馬車の用意も必要かもしれない。


「そんなの、分かんないわよ。神話の世界に記されているだけの代物よ?」


 うぇっ!?


 ようやく希望の光が見えてきた俺達一向に、再び不穏な空気が流れる。念のため、ヴェルの方にも視線を送ってみたが、沈黙したまま首を横に振るのみだ。


「唯一の手がかりは、北東にある[奥深き森の奥の奥]って記述だけね。ヴェル、それなら心あたりはない?」

「ううぅ~~ん……。もしかしたら、っすけど……」


  とりあえずの心あたりはあるようだ。こうなれば、しらみつぶしに探し回るしかないかと、俺達が覚悟を決めようとした時。


「ああ、ミーミルの泉ね。お兄さん、そこ行きたいの?」


 突然、俺の背後から謎の声が聞こえてきた。


「当たり前だろ、こうなったら……」

「仕方ないねえ、ならアタイが連れて行ってあげようか? 昨日の酒は美味かったからね、特別大サービスさ」

「ああっ、それは助かる……って?」


 ちょっとまて。

 俺は今、誰と話している?


「あ、あっ。貴方はっ――――!!」


 エダがガタンと椅子を鳴らしながら立ち上がり、俺の後ろに向かって信じられないという風に絶叫した。

 なんだ、誰だっていうんだ?

 そう思って振り返ろうとした俺の視界は突如、何者かの手によってさえぎられた。


「だ~~っれだ?」

「ぶふぅっ!?」


 だ、だれだっ!? こんなイタズラするのはヴェルのやつか?

 いや、あいつは俺の対面の席に座っていた。かといって俺の隣はエダとウルズちゃんだ。こんなイタズラをする子じゃない。

 しかも、しかもだ。俺の後頭部に当たる暖かくも柔らかい感触は……もしかして、もしかしてぇ?


「すっ、スクルド(ねえ)!? なんでここにいるっすか!?」

「はぁ~い、ヴェル、ウルズ。久しぶりだねぇ、元気だったかい?」


 ん? なんだこの声、どこかで聞いたことがあるような……。

 しかもごく最近だ。

 どこかで……………………あ。


 俺の脳内で彼女の声と顔と、そして出会った場所が一致した。


「はっ、はなれてっ! 早くコウキから離れなさいっ!!」 


 そして、エダが天敵と相対した猫のような怒髪天をつくにあたり。やっと解決した問題が、完全にぶり返す予感がした。


 ……ああ、やっと機嫌が戻ったのに、……神様。


「なんだい、昨日といい今といい。アンタ、このお兄さんの奥さんかい?」

「お、おっ……。お、おくさん!?」

「なんだい、やっぱり違うんじゃないのさ。なら、お嬢さんに良いことを教えてあげようか」


 そういうと謎の女性は、俺の顔に当てた手の力を緩めてくれた。

 や、やっと開放される……。と、思った瞬間。


「えいっ」

「む、むぐぅっ!?」


 後頭部に感じていた暖かくも柔らかい感触が、今度は。がががががが、がんめんにっ。


「男が欲しいなら、すがり付いても離すんじゃないよ。そして、骨の髄までしゃぶりつくしな。自分の身体無しじゃ、生きられないくらいにね?」

「あ、ああああ……。ああああああああああぁ――――――――!!!」


 相棒の怒髪天をつく絶叫が、部屋の中で反響する。

 今日というこの日、俺はこの大陸に来たことを初めて後悔したのだった。

最後までお読み頂き有難うございました。来週末もこれくらい更新できたらいいなぁ。

また来週末までお待ちいただければ嬉しいです。

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