第4話 繁華街の楽しみ方(その3)
第4話です。
エダさんはコウキ君を家族としてみているのか、それとも……。
作者にもよくわからなくなってきました。。。
「あの~~。エダさん? 俺の朝食は……」
「……」
「お腹空いちゃったなぁ~、なんて……」
ギロッ!
「あ、はい。……すみません」
「――ふんっ!」
正に鬼の眼光だった。
ようやくミズガルズからドベルグルへの船旅が終わり、地に足がついた日の夜に事件は発生した。
昨晩、一人羽根を伸ばそうとおもむいたスナックで俺は、ドワーフ美人のお姉さんと楽しくお酒を飲んでいた。ところが突如、銀の鬼と化したエダさんによって逮捕されてしまったのだ。一切の弁明も許されない強制連行である。
そのまま朝まで部屋には入れてもらえず、俺は廊下で寒い一晩を明かすはめになった。
輝かしい朝日の光が上っても検察の対応は、けんもほろろ。弁護士の手配さえ許されない有様だ。
ようやく他の皆が起き出したところでなんとか朝食のテーブルには着けたのだが、俺の前には何の食べ物もない。
俺の空きっ腹に、他の子達の前から漂ってくる美味しい匂いが響き渡る。
「ねえ、お姉ちゃん。エダお姉ちゃんとコウキお姉ちゃんケンカしたの?」
「う~~ん。とりあえずアタシ達は退避しとこうな~」
蚊帳の外で、セッパ姉妹が食料を持って自室へと退避しようとしている。
まてコラ。
聞いたぞ、お前の余計な一言がなければバレなかったんだからな! パンも夢中で朝ごはん食べてないで助けてくれ!
必死で救いの手を探す俺に、仏の慈悲の手はいっこうに差し伸べられない。
まあ、正直。一食くらいは抜いても別にツライだけだ。死にはしない、しないのだが、これほどまでに相棒を怒らせてしまった経験など今までなかったので、どうしたら良いのか皆目検討もつかないのだ。
ほんとうに、どうしよう?
だらだらと背中に流れる汗の感触が俺の焦りを加速させる。スナックのお姉ちゃんとの付き合い方は分かっていても、純粋無垢な女の子の扱い方はサッパリな俺だ。ただただ、静かに朝食の席で沈黙するほかないまま、時間が過ぎていった。
そんな俺に希望の星がやってきたのは、俺以外の全員が朝食を取り終えてからしばらくのことだった。
地獄に垂れ下がった一本のクモの糸は、意外な場所から垂れてきたのだ。
「なにこの空気。アンタ達、ついに倦怠期でもきたの?」
俺達が宿泊している宿屋の玄関から、懐かしい顔が入ってきた。
この懐かしい顔を見るのは、東の砦で王都への潜入計画を練った時以来だ。俺達の仲間であり冒険者三人娘の一角、ハーフエルフのケイカだ。
ああっ、女神さま! いや、ケイカさま!!
お願いします。なんでもしますからエダの機嫌を直してえぇぇぇ……。
この場の雰囲気から、俺が弾劾される立場だというのは察することができるだろう。
エダがガタっと立ち上がり、ケイカさまに何やら耳打ちしている。
「……実は」
「えっ? ふんふん……。まぁ、コウキだって心は男だって言ってるし。そういうトコだって行くんじゃない? それでっ? 朝帰りでもしてきたの?」
俺とエダ、お互いの顔が真っ赤に染まる。
してねぇよっ! っていうか、現行犯で捕まったよっ!!
「ふ~~ん。エダって案外、嫉妬深いのねえ。スナックで女と飲んでただけで、この有様か」
「だけってなんですかっ、だけって! コウキったら薄着でしかもプロポーション抜群の女性と、これみよがしに仲良さそうにっ!!」
まるで宿敵に出会った猫のように、前歯をむき出しにしているエダさん。
「けど、別の宿にしけこんだわけじゃないんでしょ?」
「そんなことをしていたらっ、していたら……っ!!」
冷静に事件の概要を確認しているケイカを前に、エダは涙を浮かべている。
「はいはい、よしよし。悲しかったわね~」
「気持ちがこもってないぃ――!」
ケイカが泣きじゃくるエダを抱き締めて、良い子良い子してあげている。これで機嫌が直ってくれればいいけど……。
「今日一日はまだ、この街に滞在するんでしょ? なら[一日、スネアす巻きの刑]で許してあげなさい。男の暴走を許すのも女の甲斐性よ?」
なんか優しげな表情で、すごい刑罰が言い渡されたんですがっ!?
エダがケイカの胸の中で小さくコクンと頷くと、了承と取ったのか俺の足元の床から見覚えのあるツル植物が生えてきた。
「ちょっ、ちょっと待てえぇ――!」
この僅かの時間にツル植物に巻かれた俺の体は、食堂の天上からランプの灯りのように逆さまに吊上げられた。
「そこで今日1日、反省してなさい。女の子の涙は高いんだからねっ!」
「せめて、自分の部屋にしてくれっ! ここは宿に泊まる人達が使う食堂だぞ!?」
「……ぐすっ。却下です。反省してください、コウキ」
どうやら、一日。この宿の名物となるほかないようだ。結局、俺を助けに来てくれたのは女神様でも仏様でもなく、その正体は……いたずら好きの小悪魔さんだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
日の出まもなくから始まった俺のオシオキタイムは、そのお天道様が180度移動するまで続けられた。
両手に抱えるほどの買い物袋を持って帰還した女子組は、まるで忘れているかのように俺の下を通り過ぎようとする。
「ちょ、もういいだろぉ!? 頭に血が上り(下がり)過ぎて、もう身体の感覚が……」
昔の漫画でよく見たお仕置き方法だったが、逆さ吊りの刑は思ったよりずっと酷い刑罰だった。これ、普通の人間がされたら死ぬぞ?
「エダ、もう許してあげられる?」
「……はい」
疲れたような口調でエダの了承を取ったケイカは、口元で何やら呟いた。すると俺の体を締め付けていたツルが緩くなっていき……ってちょっと待て。
「――うわぁっ!?」
このままじゃ、頭から床へ墜落する!
いつもの体調ならこれくらい何ともないのだが一日中逆さ吊りにされて、しかも身体を拘束されていた疲れの影響か、身体が俺に意思に反応しない。
俺はこの一瞬先に来るであろう衝撃を覚悟した。
「…………」
「……えっ?」
しかして、俺が覚悟した衝撃がやって来ることはなかった。
他でもないエダが俺の体を受け止めてくれたのだ。硬い床の衝撃を覚悟した俺は、予想外の柔らかい感触に困惑してしまう。
「もう、怒ってないの?」
我ながら情けない声が出る。
「初めから、怒ってません」
いや、それは嘘だ。少なくとも朝までは完全に怒っていた。でも今更ツッコんでも状況を悪化させるだけ。なにしろ俺は罪人なのだ。
けど、俺のそんな態度は、次の彼女の表情によってアッサリと崩壊してしまった。
「怒ってませんけど……、とっても寂しかったです」
ポツリと、そういったエダの瞳に再び涙が溜まる。刑の執行時に言ったケイカの言葉が脳裏に去来した。
――女の子の涙は高いんだからねっ!
そうだ、彼女は数日前。大切な家族を失ったばかりだった。今のエダは人一倍、家族の温もりに飢えている。俺はそんな彼女の気持ちも察せ無いまま、行動してしまったのだ。
「ごめん。本当にゴメン。もう二度とエダを泣かせないから、……絶対に」
「……はい」
今度は俺の方から彼女の身体を抱き締める。今だに拘束されていた後遺症で身体が痛むが、ここは男の意地だ。なんでもないかのように、必死に振舞わなければならない。周囲からみれば、美女二人が抱き締めあっている奇妙な光景にうつるだろうけど、今は周りのことなど関係なかった。
「まっ、これで一件落着かしらね。お~い、そこのバカップル~? 私が調べてきた情報で話し合いをするわよ。いつまでも抱き締めあってないで、こっちに来なさいっ!」
ケイカのからかい混じりの声が聞こえてくる。さすがに此処は、宿屋でもっとも人が集まる食堂兼玄関だ。あまりプライベートを晒すのは俺もエダも恥ずかしい。俺はゆっくりと彼女の身体から離れて、優しく話しかける。
「……行こうか」
「はいっ!」
どうやらようやく許してもらえたようだ。おもわず安堵の息がもれる。
もう、ああいう所に行くのはやめておこう。
ああ、でも……。でも、たまにならエダも許してくれないだろうか。
「……コウキ?」
「いえっ、なんでもありませんです。はいっ!」
「行きましょう? 皆が待ってます」
そう言って、ようやく笑顔を見せてくれたエダの後をついてゆく俺は。
なんとも、男は意思が弱い存在だってことを思い知ったのであった――。
最後までお読み頂きありがとうございました。
第5話は17時に投稿予定です。
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