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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第2章 ドベルグル皇国
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第3話 繁華街の楽しみ方(その2)

朝に引き続き、第3話です。

久しぶりにハメをはずしたくなったコウキ君。

彼女だって心は男なのです。分かってあげて……エダさん。

 首尾よく一人きりの散歩へと出かけた俺は、港の方へ行くと見せかけてすぐに裏通りへと飛び込んだ。大通りに比べれば薄暗いその通りは、その代わりにカラフルなランプを置いた店が軒を連ねている。


「まぁ、たまには息抜きも必要だよなぁ!」


 久々の景色に俺の心は沸き立った。日本に居た頃は週末になれば会社の先輩に連れて行かれたものだ。最初は面倒くさかったが、行きなれるにつれ酒の味にも女性の臭いにも慣れていった。


 まあ、だからと言って通いつめていたかと言えばそうでもない。

 時折、親にも仕事仲間にも話せないような愚痴を聞いてもらうために行っていたようなものだ。

 それでも娯楽というものが殆どないこの世界に来て、もう3ヶ月がたとうとしている。多少の息抜きをさせてもらってもバチは当たるまい。この世界に来てからというもの、俺の隣には常にと言っていいほど綺麗、又は可愛らしい女性が隣に立っていた。

 その代表格といえば、相棒でもあるエダだ。


 他人から見れば天国じゃないかと言うかもしれない。

 確かに、それはそれで苦しくも楽しい毎日だったのだが、男として発散しなければならないものもあるのが悲しいところ。身体が女になったと言っても心は男だ。ガス抜きは必要なのである。


「とは言っても、この身体じゃな。逆にお出迎えする方だと思われちゃたまらん」


 今更言うまでもないが、俺の今の身体は何処からどう見ても完璧に女性だ。しかも自分で言うのもなんだが、かなりの美人である。


 対策が必要だった。

 昼間の内に用意していたサラシを胸に巻きつける。そして、貧乏人にも貴族にも見えないくらいの旅人服。黄金の髪は乱雑にあみこんで後頭部にまとめてやった。


 これなら女顔の男、もしくは男装の麗人くらいには見られるとたくらんだのだ。


 はやる気持ちを押さえ込んで、ゆっくりと裏通りを歩いてゆく。酒に酔ったドワーフのおっちゃん達が俺の姿を見てギョっとするが、無視、無視。


「あら、お兄さん。……お姉さん?」


 店先で客引きをしていたドワーフ美女に、さっそく声をかけられる。どうやら男か女か判別がつかないらしい。


「さぁ? どっちだろうな? まあ、遊びに来た客なのは確かだよ。俺は」

「ふぅ~ん。……まぁどちらでもいっか。ウチで飲んでいきなよ」


 ふむ。

 この世界に来てからというもの、ドワーフという種族とはヴェルとウルズちゃん以外お話をしたこともない。というか、大人のドワーフ美人と出会ったのが初めてだ。

 男とは違い、女性のドワーフは抜群のプロポーションを誇っている。言うなら男は横、女は縦だ。

 しかもビキニのような布面積しか無い服を、見事に着こなしている。

 素晴らしい。俺は異国の楽園に来たのだ。


「じゃあお邪魔しようかな。手持ちはこんなもんだけど、大丈夫か?」


 お楽しみの後にイザコザなどは起こしたくはない。

 治安が悪い地域なら手持ちの金を見せびらかすのは問題外だが、ここなら大丈夫だと判断した。


「それくらいなら、二時間ほどかねぇ。あ、お客さんくらいの美貌なら働いて返してくれてもいいんだよ?」


 ドワーフ美人の言葉に俺は苦笑した。(いや)されに来ているのに、暑苦しい男共を癒したくはない。

 時間としても2時間なら散歩としても丁度いいだろう。


「それは遠慮しとくよ。さて、居酒屋で飲んだのは火酒だったけど、ココでは?」

「騒いで飲むなら火酒もいいけど、静かに楽しく飲むなら蒸留酒(ウィスキー)だね。強いのは苦手かい? おにーさん?」


 いいだろう。挑戦と受け取ったっ!


 俺は若き異国のチャレンジャーとなるべく、色彩豊かな光が放つ扉に手をかけた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 初めて訪れた異世界のスナックは、意外なほど俺が元いた日本と代わり映えはしなかった。カウンター10席に、5席ほどのテーブルが小奇麗に配置されている。


 薄暗い店内を見渡すと既にテーブル席が満杯になっており、ママらしき人と対面で座るカウンター席が3席だけ余っていた。


「さてっ、何を飲むんだい?」


 俺を連れてきたドワーフ美人のお姉さんが、隣に腰をすえる。どうやら自分の獲物を逃す気はないらしい。周囲の女性店員の獲物を狙う鷹のような目をかいくぐって、自分のポジションを確保していた。


「任せるよ。さっき見せた金で二時間居られるプランで頼む」

「はいよっ。ちょいとお待ちね?」


 ママからボトルと氷をもらった彼女が、手馴れた手つきで一杯作ってくれる。というか氷まであるのか、すごいな。


「ちょい強めだけど、ロックで大丈夫かい?」

「ああ」


 透明なグラスに同じく透明な氷。

 それになみなみと注がれた琥珀色の液体に軽く口に付けてみる。なるほど、かなりの強さだ。北欧の地域ではこういう強いお酒で身体を暖めるのだろう。俺は久々の刺激に舌鼓を打った。


「お客さん、ドベルグルは初めてかい?」


 強い刺激を喉元で楽しんでいた俺に、お姉さんが話しかけてきた。どうやら性別不明の俺を「お客さん」と呼ぶことにしたようだ。別に名前を教えてもいいのだけど、ここはお姉さんの調子に合わせてやろうか。こんな一夜の出会いを楽しむのも、スナックならではだ。


「ああ、今日着いたばっかりだ。この国はすごいな、俺の元いた国と比べるとあらゆる意味で雲泥の差だ」

「……ふふっ」


 至極、素直な感想を口にした俺に、お姉さんが笑った。何か変な言葉使いでもあっただろうか。


「それで分かった。お客さん、ミズガルズから来たんだね?」


 あっさりと言い当てられてしまった。そんなに俺は分かりやすいだろうか。


「まあ、主な客は船乗りだけどね。そんな感想を持つのはミズガルズ人だけだねぇ」

「……そうなのか?」

「そうさ」


 そういうと、お姉さんは自分で作ったお酒を美味しそうに口に運ぶ。客の酒に付き合うのも仕事のうちなのだろうが、あきらかに俺より一口が多い。


「この国に永住している人はね、ほとんどがドワーフだ。何故だか分かるかい?」

「……いいや」


 お姉さんの問題に俺は答える知識を持っていない。もうちょっと酔っているなら当てずっぽうでも答えたかもしれないが、そんな雰囲気でもなかったのだ。


「ここらの平野部で作っている小麦や野菜なんて、自給自足の域を出ない遊び程度さ。本当の仕事はね。鍛冶にある」

「……」


 無言でお姉さんの言葉に耳を傾ける。貴重な現地民からの情報だ。今後の役に立つに違いない。


「誰もが人生最高の一本を打つために金が溜まりゃ、皇都にいって剣を打つ。それと一緒に自分の人生最高の使い手を待っているのさ」

「……大量に数打ち物を打って生計を立てようとは思わないのか?」


 鍛冶屋だって立派な職業だ。副業に野菜や小麦作りをするよりよっぽど効率的だと思うのだが。


「そこがドワーフ職人の意地なの。自分の剣が世に出るなら、世界一の剣じゃなけりゃ許せないってね。まったく、偏屈な奴らの集まりなのさ」


 そんな悪態を着きながらもお姉さんは楽しそうだ。ドワーフの男達の歪んだ生き方が気に入っているらしい。


「なるほどな……。なんとなくだけど、分かるな」


 自分の仕事に責任を持ち、自分の仕事に誇りを持つ。それは日本人なら当たり前の姿だろう。「日本人は働きすぎだ」という言葉は、日本に居た頃の海外を飛びまわって活躍していた友人の口癖でもあったものだ。


「それで? お姉さんが隠し持ってるソレは、どのドワーフの生涯をかけた傑作なんだ?」


 こんな薄手の衣装で、よくここまで上手に隠せているもんだと感心する。宝珠竜の嗅覚を持っていなければ、俺でもこの鉄の臭いは分からないだろう。

 大したお姉さんだと俺は感心していた。


「まいったねぇ。何時から気付いてたんだい?」

「俺はちょいと他の人間より鼻がよくてね。香水でうまいこと誤魔化してたんだろうけど、分かるよ」


 だからと言って別に決闘を始めるわけでも、このお姉さんが刺客ではないことも解っている。ただ、普通のお姉さんじゃないだろうな。という感想は持っていた。鉄の臭いに混じるこの魔力。お姉さんが隠し持っているのは、魔剣だ。


「別に変な意味はない。余裕しゃくしゃくな美人さんから、一本とってみたくなったのさ。不快に思ったのなら謝る」

「……いんや、かまわないよ。自分の未熟さを痛感しただけさね。さすが、アタシが目をつけたお客さんだ」


 そういいながら、自分のグラスを持って近づけてくる。お姉さんが何をしたいか察した俺はグラスを同じように近づけた。


「……今日の出会いに」

「美人のお姉さんとの一夜に」


 お互いのグラスがチンッと鳴いた。

 やはり今日は一人で散歩して正解だった。元の世界に戻れたら、有給を使って海外の酒場を飲み歩くのもいいかもしれない。

 そう思いながら、お姉さんと笑いあってグラスを傾けた。


 その時。


 バアァ――――――ンッ!!!


 スナックの扉が、けたたましい音をたてて吹き飛んだ。開いたじゃない、文字通り、吹き飛んだ。吹き飛んだ扉が、お店の綺麗な絨毯の上に墜落する。


「こぉ――おぅ――きぃ――?」


 これまでにない危険を感じた俺が、思わず振り向いたその先には。


 銀髪をおもいっきり逆立てた、鬼がいた。


「えっ……エダさん? よくここが、分かった……ね?」


 これまでに体験したことのない絶体絶命の窮地だ。俺はいかにすれば、この地獄から脱出できるのだろうか。


「……コウキ。これが、貴方の言う、散歩ですか?」


 銀の鬼が一歩前に踏み出す。


「いや、散歩していたら偶然、良い店を発見しちゃってね? ちょっと休憩していたと言うか何と言うか……」


 俺の理論はこの鬼に対して何の効果もない。


「ずいぶん、楽しそうでしたねぇ?」


 銀の鬼が更に一歩を踏み出す。


「いやぁ、まぁ、ね?」


 銀の鬼が次の一歩に力を籠めた。


「私達と居るよりも、ですかぁ?」


 もはや、逃げ場はない。おれの命はここまでなのだろうか。


「いや、それは比べるべきではないというか。何というか……」


 うん。終わった。


「コウキィ――――――――――!!!」


 ああ、今の俺には一夜の出会いも許されないのだろうか。


 今夜の記憶はここまで。

 後にどんなに思い返そうとしても、この先の出来事は俺の頭に残っていなかった。

最後までお読み頂きありがとうございました。

明日は、10時頃の更新になるかと思います。

どうぞお付き合いください。

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