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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第2章 ドベルグル皇国
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第2話 繁華街の楽しみ方(その1)

昨日に引き続き第2話の投稿です。

エダさんの暴走が加速度的に増してきている気がします。

あの、エダさん。女性同士ですよ?


本日17時に第3話を投稿します。ミテネー

「なんだよっ、その根性論っ!!」


 日の光はとうに沈んでしまったドベルグル皇国の港街ヴィリンガホルトの酒場で、俺は奇声をあげてしまった。確かに頑丈そうな種族ではあるだろうが、ドワーフってのは医者いらずなのか!?


「ちょっと、周りのお客さんにご迷惑ですよ。コウキ」


 後ろで俺の腕の裾を引っ張りながらエダが口をとがらせている。それでも俺達の会話を聞いていたのか、彼女の表情もかんばしくはない。


「わるい、いきなり大声あげちまって……。詫びに一杯おごらせてくれ」


 質問に答えてくれたドワーフのおっちゃん二人組に、俺は素直に頭を下げた。


「いんや、かまわんよ。それほど大事な人なんだろ? 姉ちゃん達にとっては」

「ああ……。大事な仲間なんだ」

「まあ、座んな」


 別に怒っているわけでもないようで、俺達に相席をすすめてくれる。ちょうど三席、椅子が空いていたので俺とエダ、ヴェルがこのテーブル席に腰を据えた。


「この街の羊肉はちょっと有名なんすよ? エダねえもコウキねえも、堪能するといいっす!」

「おお、この街のメシはどれも天下一品よ。この姫様だって、昔は城を抜け出してよく食いに来てたもんな?」

「にゃはは。おっちゃん達と違って、まだ火酒は飲めないっすけどねぇ」


 この世界に飲酒の年齢規制はないんだろうが、子供の飲むものじゃないのはどこも変わらないようだ。ドワーフのおっちゃん二人組の相手をしながら、ヴェルは俺達にこっそり話しかけてきた。


「トキハちゃんを見てもらうお医者さんは、今ケイカちゃんが別行動で探してくれてるっす。今は信じて待つほかないっすよ」

「そっか、まあヴェルの国だもんな。俺達が闇雲に探すより効率的か」

「はい。今はヴェルちゃんとケイカちゃんを信じて待ちましょう」


 そうと決まればまずは腹ごしらえだ。ラム肉なんて日本でも中々食べる機会がないしな。存分に舌鼓をうたせてもらおう。


 腹が減っては戦は出来ぬ。俺達は大声で注文すると、目の前の羊肉を処理する作業に取り掛かった。




 自分の腹から聞こえる盛大な苦情に対応し終わった俺達は、いつまでもウルズちゃんやパン。そしてトキハを宿に置いてけぼりにしておくのも不安なので、宿へと戻ることにした。お土産もしっかりと確保済みだ。

 この港街に到着した頃にはもうすでに夕闇の気配が色濃くなっていた頃だったので、この港町の全体は把握しきれていない。けどこうして歩いてみれば、やはりかなり大きな街であることは分かる。


 それに俺は気づいていた。この大通りから外れた裏道の方から、色とりどりの派手な色彩が灯っていることに。


「しっかし、ちょいと食い過ぎたなぁ。エダとヴェルは先に宿に戻っていてくれ。俺は腹ごなしに散歩してから戻るわ」


 適当な理由をつけて単独行動を試みる。


「それでしたら、私も……」


 案の定。エダが付いてこようとするが、そのあたりは対策済みだ。


「あんまり俺達が離れていると、パンやウルズちゃんが寂しがるぞ? 特にパンなんかが暴れ出したら宿が滅茶苦茶になる」


 家族になった当初は可愛いぬいぐるみのようだったパンは、今や急激に成長をとげていた。体重なんて宝珠竜と化した俺くらいはあるんじゃないだろうか。

 だが、いくら身体が大きくなったと言っても、心はまだまだ子供。親代わりの俺達がいないとグズってしまう。逃亡生活を続けていた時も、そばに俺達が居てやれなかったせいで大変なぐずりっぷりだったとヴェルが苦笑していた。


「そんなに遠くには行かないさ。それにこの街は治安も良いみたいだし、一人でも大丈夫」


 それでも承服しかねるようでエダは難しい顔をしていたが、最終的にはヴェルに連れられて宿へと戻っていった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 落ち着かない夜だった。

 その原因なんて、一つしかない。

 あの荒廃の島からずっと一緒に行動していた相棒が今、私の横にいないからだ。「ちょいと腹ごなしに散歩してから戻るわ」と相棒は言った。確かに異国とはいえ、信頼できる仲間のヴェルちゃんが保障した街だ。それほどガラの悪い連中などいないのかもしれない。だが、そんな悪漢だけがコウキを狙うとは限らないのも確かなのだ。


 私は今、ウルドちゃんの横で添い寝するように横になっている。ベッドの直ぐ脇には、床に敷かれた毛布で丸くなるパンちゃんの姿がある。


 ……、………………っ。


 ダメだ。このままじゃ、到底眠りにつける気がしない。

 私はウルズちゃんが起きないように、そっと寝床から抜け出した。


「ぬき足、さし足。しのび足……」


 周りが聞けば、なんだそれはと言われるだろう単語を並べて、私は寝室から抜け出した。その意味は、ともかく音をたてずにゆっくり歩くということらしい。

 コウキが元いた世界を思い返すかのように、語ってくれた時に出た単語だ。とても語呂がよかったので、こういう時には不思議と口からついて出る。


 ギイィ……。


 ゆっくりと扉を押したつもりだったのだが、予想以上に扉のきしむ音が響いた。ここはそれほど高級とまでいかない宿屋だ。貴族の屋敷のような扉を期待するのも、無理な話だろう。


 ギイィ……、ガチャンッ。


 キチンと部屋の扉を閉めて施錠する。扉に耳を当てても、ウルズちゃんとパンちゃんの眠る音しか聞こえない。どうやら脱出に成功したようだ。


「ごめんね。……すぐ戻ってくるから」


 でも二人(正確には一人と一匹だが)への言葉、というよりは自分自身への言い訳のようにも思えた。




「あれ? エダねえ、寝たんじゃなかったんすか?」


 宿屋の一階。

 玄関に続く広間にはヴェルちゃんの姿があった。まだまだ彼女の背丈には似合わないボトルをテーブルに置き、グラスを傾けている。


「それは、もしかしてお酒ですか? ヴェルちゃんにはまだ早いかと思いますけど……」

「にゃははっ。ドワーフには当然の嗜みっすよ。といっても、あま~い林檎酒っすけどね?」


 グラスをひょいと持ち上げながら何時もの調子で笑っている。暗に私にも、飲むか? と言っているようだ。


「いえ、私はそんなにお酒は得意じゃないので……」

「じゃあどうして、……ははあぁ~ん?」


 この行動を不思議そうにしていた彼女が、外行きの服を着込んでいる私の姿を見て何かを察したようにからかってくる。


「束縛癖のある女は……、嫌われるっすよ?」


 グサッ!


 彼女の言葉は、私の胸の奥深くへと突き刺さった。しかも急所、クリティカルだ。

 いつもは子供っぽいヴェルちゃんが、今はどうにも大人びて見える。私は慌てて言い訳を考え始めた。


「ななな、なんのことでしょう?」


 一応は誤魔化してみるけど、その効果はまったくない。


「だいじょうぶっすよ。一見、気の荒いように見えるけど、ドワーフの男達は女性に暴行を働くような不埒者はいないっす。まぁ……」


 まぁ……なにっ!? なんなのっ!?


「綺麗な女の人を見たら、口説くのが男の甲斐性! ってヤツラはいるかもしれないっすけどね?」


 バタンッ! と部屋の扉とは打って変わって、私は宿屋の玄関の扉を勢いよく開け放った。そのままコウキのいる場所も分からぬまま、外へと飛び出してしまう。


 もう、私の頭の中には愛しの相棒の存在しかない。


「あちゃぁ、こりゃ明日になったら大目玉っすかねぇ?」


 そんなヴェルちゃんの声も、私の耳に届くことはなかった。


 なぜなら、その時にはすでに。

 私の身体は早馬のごとく宿屋から飛び出していたのだから。

最後までお読み頂きありがとうございました。

今後もよろしくお願い致します。

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