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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第2章 ドベルグル皇国
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第1話 ショウルス川と港町ヴィリンガホルト

夕方の序章に続いて、第1話をお送り致します。

今回の舞台における川や町の名前は、アイスランドの地名を参考にしています。調べてみると、とっても良い所だとわかりますよ。

「さぁ、ここから内陸へと入っていくっすよ~っ」


 出来れば聞きたくなかった新事実を、ヴェルから提供された翌日の朝。

 大海原の波に揺られながらも順調に航海を続けた俺達の乗る蒸気船[ドベルグル号]は、いよいよ火の巨人の内陸部へと続くショウルス川へと船首を向けていた。


「これ、……ホントに川なのか?」

「ミズガルズにはこれほどの大河はありません。すごいですっ!」


 見たところ、二つの大陸が両脇に望める海のようにしか思えない。なぜなら両脇の陸地が、水平線の向こうに影となって僅かに見えるのみなのだ。

 俺はもちろん、この世界で長年生きてきたエダだってこのスケールには驚きを隠せない。


 しかも驚くべきはそれだけではなかった。

 俺達の乗る船がこの広大な河川を流れに逆らって上流へと登るにつれ、両端の川岸が見えてきた時だった。俺の元いた日本では当たり前のようにあり、この世界の河川では今まで見なかったモノが俺の視線に飛び込んできたのだ。


「マジか……、すげぇ……」

「川の両脇に土の壁がありますけど、……それが何か?」


 それは、河川の氾濫(はんらん)を防ぐための土の壁。堤防の存在だった。

 なんだ、そんなものかと呆れることなかれ。ここまで広大な河川の治水工事が、この世界において施工されているのは本当に近代的なのだ。

 近代日本においては画期的な機械設備、技術、重機の登場により全てのライフラインがありえないほどの速度で浸透した。まあ、それでもまだまた熟練した職人による経験に支えられているところが大きいのだが、それでもほんの数十年前までは、豪雨による河川の氾濫などで甚大な被害が出ていたのだ。

 まるで、中世から近代へとタイムワープしてきたかのような錯覚を覚える。


「このショウルス川はこの大陸でも最大最長を誇る、アタシ達ドベルグルの交通の要所っす。それでもここまで整備するのにはけっこう大変だったって聞いたっすよ~」

「あの堤防の先は、平野か?」

「その通りっす。この大陸でも栽培しやすい小麦、寒冷に強い野菜などっすね。もうちょい山の方へ行けば酪農もやってるっす!」


 キチンとその地域にあわせた生産体制も確立しているってわけだ。俺は心の中でシグルド王へ警鐘を鳴らした。今のところこの国に対して、ミズガルズ王国が勝っているところなど何処にもない。

 海上を蒸気船で移動している時の、ミズガルズ王国でもある程度は戦えるだろうという考えを、間逆にせざるを得ない光景だった。この国ならば、別に巨人の力など無くとも余裕でミズガルズ王国など一飲みにできるだろう。


「王都へはもっと上流へ進んでゆくのですか?」


 俺の隣にいたエダがヴェルに問いかける。


「もっともっと上流っす。というかあの山の上っすね」

「うえぇ!?」


 実にあっけらかんと、ヴェルがこの大河の先にある雄大な山脈を指差した。ドベルグル皇国の王都はあの山中にあるというのだ。


「……交通の便が悪くないか?」

「そうですね……。王都シグムントのように、海沿いの港街に隣接しているほうが便利かと思いますけど」


 俺の疑問にエダも同意している。一々首都へ訪れるのに、あの広大な山々へ登山を慣行しなければならないのだろうか。


「確かにその不便さはあるっすね。でもこの国に住んでいるほとんどがドワーフなんで、山登りの大変さよりも鉱山の近くに鍛冶場があった方が便利なんすよ。それにあんな海沿いにあるから、この[ドベルグル号]にあっさり首都への進入を許した。あれの方がもっと問題っすわ」


 そのヴェルの反論にエダは沈黙せざるを得なかった。もしあれが敵意のある軍船だったとしたら笑い話にもならない。東西の山脈を警戒することも必要だけど、海路の警戒も充実しなければならないだろう。

 まあシグルド王だって馬鹿じゃないだろうし、今後その対策を進めていくと思う。




「さて、そろそろ到着っすよ~」


 そんな穏やかな時間も、空が夕闇に染まり始める時間帯になってから終わりを告げた。

 何時もどおりの軽い調子でヴェルが俺達に船旅の終わりを教えてくれる。だがここは、ヴェルの示した山頂の首都ではない。前後を見渡せば、河川全体のせいぜい中流に差し掛かった辺りではないだろうか。


「首都までは船で行けないのですか?」

「この先は水深も浅くなるし、急流になっちゃうから。船でこの川を登るのはココが限界っすね。これだって防衛対策の一つっすよ」


 なるほど、たしかに天然の要塞と考えれば戦争に明け暮れるには良い立地だ。


「なるほどな。お~~い、パン、ウルドちゃん。そろそろ起きろ~」


 日中はお昼寝に最適な陽気だったが、さすがに季節は冬。パンの暖かい毛皮に包まれているとはいえ、寒い外で寝ていては体調を崩しかねない。

 ただでさえ、ウルズちゃんは病弱なのだ。俺とエダはヴェルに頼まれるまでもなく、彼女の体調に気を使っていた。


「うにゅ~。……いまおきますぅ~」

 ――ゴロゴロゴロ。


 まだ眠そうな少女の声と、寝返りを打つパンダの姿はなんとも愛おしい。


「パン、間違ってもウルズちゃんの方へは転がるなよ?」


 今のこの子の巨体でウルズちゃんを押しつぶしてしまえば、ペシャンコになってしまう。でも一応言葉にしただけで、俺達はあまりその心配はしていなかった。なんだかんだで俺達の子は賢いのだ。


「うにゅ~……、ひゃあ!?」


 一足先に目覚めたパンが自分の子を乗せるように、ウルズちゃんの(えり)をくわえて、ヒョイと自身の背中へと放り込む。最初は危ないと思ったが、パンなりの優しさのこもった愛情表現なのだ。


 そのままウルズちゃんを乗せて、のっしのっしと船内の客室へと歩き出す。俺達は苦笑しながらも彼女達の後に続いた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 夕闇に包まれたドベルグル皇国の港街[ヴィリンガホルト]は、すでに漁や交易の仕事も終わって静まり返っていた。

 この世界でも漁師や貿易商の朝は早いのだろう。住人達は酒場に繰り出す者を除いて、眠りにつく準備を始めているようだ。

 お先におやつを食べておねむ(・・・)になってしまったパン・ウルドちゃんの子供組を宿に送ると、遅くなった夕食を取るために酒場へと繰り出した。日本ではそこまで酒好きというわけでもなかった俺だが、異国の酒と料理には人並み程度の好奇心がうずく。王都シグムントでは海産物が主な名物だったが、内陸に位置するこの街にはどんな料理が並ぶのだろうか。

 俺は心の中でワクワクしながら酒場の扉を開いた。


 薄暗い店内には、数個の頼りないランプが明かりを灯していた。

 店の規模としては大きくも小さくもないといったところだろうか。座っている客のほとんどは縦より横の方が広い、見事な恰幅(かっぷく)のドワーフ達である。

 突然の外国人の入店に、ギロリとした彼等の視線が集まった。俺とエダの間に緊張がはしる。やはりパンとウルズちゃんを宿に置いてきて正解だった。この世界にはまだまだ、外の異分子を快く受け入れようという思想は発達していないのだ。


 そんな俺達の緊張感あふれる視線の応酬を、後ろについて来ていた少女が豪快にぶち破った。


「み、ん、なあぁ――! たっだいまぁ――――っすぅ――――!!」


 さすが自国の姫といったところだろうか。何も臆することなく酒場の隅から隅まで届くような快声で、ヴェルが飛び込んだ。

 その瞬間、緊張感に包まれていた酒場の空気が一変する。


「なんでぇ、誰かと思えば、猿姫様かよ」

「ムキぃ――っ! 誰がサルっすか、誰がっ!!」


 一人のいかついドワーフのおっちゃんが放った一言に、ヴェルがすかさず反応する。それまでムスッとしていた男達が途端に明るくなった。


「旅から帰ってきたのか? ウルズ姫の病気は治ったのか?」


 職人らしい、要点のみを言葉にするドワーフ達。だけどまぁ、俺にとっては元の世界で付き合いなれた男達の性格だ。


「この席、空いてる? 他はほとんど満席みたいでさ」

「コ、コウキ!?」


 エダのような貴族のお嬢様では、この空気は戸惑うばかりだろう。ここはこういう場に慣れた男達の出番だ。男? とか、言わないよーに。

 俺は完全に空席のテーブルがないことを確認すると、2人でテーブルに座っていたドワーフのおっちゃんに目をつけた。


「姉ちゃん達、どこから来なすった? ワシらの姫様と知り合いのようだが」

「ミズガルズからさ。ちょいと知り合いの子が病気になっちゃってね。この国になら希望があるかと思ったんだ」


 嘘は言っていない。トキハの容態が心配なのは本当なのだ。だが、ドワーフの男達は不思議そうな人間を見る目で俺を見上げてきた。これは疑惑の目ではない、本当にただ疑問に思ったような表情だ。


「びょうき? 病気を治したいからって、なんだってこの国に来たんだ?」

「……はっ?」

「……えっ?」


 長年連れ添った相方のように俺とエダの声が重なる。


「だって、この街に来るまでに立派な堤防を見たぞ? 俺達が乗ってきた蒸気船だって大したもんだった。これほどの技術がある国なら、医療も発達しているんじゃないのか?」


 俺の考えはそう的外れではないはずだ。産業の発展と共に、先端医療も成長するのは当然のことだ。誰だって長生きしたいのだから、真っ先に医療を研究するはずなのだ。

 そのはず……だったのだが、ドワーフのおっちゃんからは意外すぎる言葉が返ってきた。


「俺ら、ドワーフの男達に病気にかかる軟弱者なんざいねぇ」

「なんだよっ、その根性論っ!!」


 初対面のおっちゃんに盛大にツッコミを入れてしまった。

 でも俺は、多分間違ってない……よな?

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

明日の投稿は、10時・17時を予定しております。

時間になりましたら直接確認していただくか、私のツイッターで確認してくださいな。

https://twitter.com/Mikami47386113

フォローもお待ちしておりますよ。。。。(笑

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