第6話 初めての冒険と魔物の脅威
第6話をお届け致します。
最初の冒険はやはり、大ネズミやイッ○クウサギでしょう。スライムは出てきませんが。
ですが大型の獣とは違い、小さな魔物にも病気という脅威を表現させて頂きました。
現実は毒消し草やパデキアの根っこなんて万能薬があるはずもないのです。
2019.5.1改稿
「よし、こんなもんさね。中庭でお茶としますかねぇ」
シスター長に終わりとばかりに背中を叩かれた俺は、グエッとカエルの鳴き声のようなうめき声を出してしまった。どこの世界でも女性は強いものらしい。
中庭にシスター長と一緒に行くと、彼女がお茶の用意を整えてくれていた。俺は感謝の言葉を言いながら近づくと、彼女が椅子を引いて着席を促してくれる。
俺は有難く席に収まった。紅茶の香りと、お手製パンケーキの甘い香りが漂ってくる。俺達はしばらく穏やかな日差しの下、お喋りを楽しんだ。
そんな時だった。彼女の同僚のシスターさんが姿を見せ、シスター長の耳になにやら内緒話をしている。
その話を聞いたシスター長の顔が強張ったのを、俺達は見逃さなかった。
どうやらこの国は宗教国家らしく、街の責任者=神殿の最高責任者となっているらしい。街の運営、警邏の監督も神殿の最高責任者であるシスター長が兼ねているそうだ。ぶっちゃけスーパーウーマンならぬスーパーシスター長である。
「何か問題でも起きましたか?」
彼女が心配そうにシスター長の顔を伺う。
「いやさね、最近魔素が濃くてね。この街は問題ないんだけど、山の麓の農村が荒らされる事態が頻発しているみたいでね」
「魔物……ですか?」
彼女の問いは疑問系の問いかけではあったが半ば確信しているのだろう。確認の意味合いの方が強かった。
「魔物化したのは、なんの動物でしょうか?」
「目撃者の話では熊らしいね……」
シスター長の答えを聞いた瞬間、彼女の顔が緊張に包まれた。
この地域で熊は食物連鎖の頂点だ。たとえ草食動物でも魔物化してしまうと、その体格の大きさから危険生物に変貌するらしい。それが肉食動物の頂点ともなれば、その危険度は押して知るべしだ。
「王都から騎士団を派遣しては頂けないのでしょうか?」
そう、本来ならそれはこの地を収める王が対処する問題だろう。だが、移動手段が馬くらいしかない時代だ。王都に騎士団の派遣申請を出して到着するまでには、半月程かかるだろうとの事だった。
「それにこんな問題は各地で起っている事さね。申請したところで魔物化した熊相手では精々警戒するだけが関の山だろうね」
「冒険者に依頼を出そうにも、さすがに熊相手ではかなり危険でしょうね……」
聞けば魔素を体内に取り込んで魔物化した動物は凶暴性が格段に上昇し、人間をも襲うようになるらしい。日本でも人間の味を覚えた熊は人間ばかりを襲うようになるとTVで見た事がある。それに失礼な話だがこんな地方の田舎街には高ランクの冒険者なんていない。
難しい顔をして考え込む二人をよそに俺の気分は高揚していた。
これは異世界主人公が活躍するチャンスじゃないのか――――?
転生前に俺が読んだ転生モノでは、こういう逆境を華麗に乗り越えて英雄となるのだ。
そして色んな可愛い女の子に囲まれて……は、女性慣れしていない俺では戸惑いそうだが、これも醍醐味の一つである。
俺は興奮した顔のまま彼女の顔を伺う。俺の顔を見て意図を察したのだろう、慌てて宥めにかかってきた。
「……コウキ様? よく考えて下さいね? この世界の魔物はとても危険ですよ? しかも熊となれば漆黒の凶獣とまで呼ばれる最悪の魔物ですよ?」
「でも早く討伐しないと街の皆が困っちゃうよね? 俺達なら討伐が困難になっても竜になって逃げられるしね」
後々この時のテンションを思い出すと赤面するほどの恥ずかしさだったのだが、この時の俺は正に舞い上がっていた。
そんな俺のテンションに「コウキ様にこんな危険なお仕事をして頂くのは……」と渋っていた彼女だったが、危険だと判断したらすぐに撤退することを条件に同意してくれた。
「お前さんやエダが強いのは重々承知しているが、くれぐれも気をつけるんだよ。別に討伐しなくても山奥へ追っ払ってくれるだけでも十分なんだからね」
シスター長にも十分に念を押された俺達は、いざ魔物退治依頼を完遂するため、山麓の農村に向かう事にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
いくら事態は急を要するとはいえ、しっかりと準備しなくては自滅してしまう。そう考えた俺達はその日の内に食堂の大将に数日のお休みをもらい、旅支度をする為に冒険者ギルドに来ていた。
王都には比べるもないとはいえ魔物の駆除はどこにでもある案件らしく、建物に入るといかにも冒険者といったイカツイ風貌の男達で賑わっている。
食堂の武勇伝が伝わっているのに加え、彼女自身過去に人員不足のため依頼を受けた事があったらしく、受付のお嬢さんに事情を話すとあっさり情報を提供してもらえた。
もらえたのだが……。
「エダさんの実力はこちらとしても十分把握しておりますが、魔物化した熊となると危険だと言わざるを得ません」
「もちろん無茶はしません。王国に騎士の派遣要請も出しておりますし、あくまで偵察です。それでも詳細な情報がなければ偵察もできません。教えていただけないでしょうか?」
「ですが……」
とここでも難色を示されてしまった。ここまで言われれば俺とて、物語のような異世界無双は無理だろうと緊張感が増してくる。しかし男たる者一度吐いた言葉を覆してなるものかと気合を入れ直した。
何はともかく情報は手に入ったのだ。ギルドとしてもこの街で所属している冒険者では手にあまる案件だったので、どうしたものかと頭を抱えていたそうだ。すでに被害にあった農村の住民は、近隣の安全な場所にまで避難しているらしい。
「どうかお気をつけて……」
他に適任者がいないのも確かだ。彼女の説得に折れたギルド受付のお嬢さんは重々警戒するようにとの言葉を付けながら、詳細な情報を開示してくれたのだった。
目的の農村まで工程はおよそ二日程度歩いた所にあるらしく、昼間は移動でひたすら歩き、夜は移動が危険なため魔物の襲撃を警戒しながら交代で休む予定だ。
竜の姿でジャンプして移動すれば二日どころか半日たらずで到着できるのだが、いかんせん竜の姿は目立ちすぎる。世界樹からユミルの街までの道のりは人の立入を禁止している方角だった為、人と出会う事はなかったが、こちらは物資を運ぶ商人の馬車が頻繁に行きかうので賑やかな道なのだ。
それでも魔物が発生した事はすでに伝わっているらしく、通りすがる馬車には必ずと言っていいほど護衛の冒険者が同行していた。
「やっぱり皆、警戒しているね」
当然の事を口に出してしまった俺だったが彼女は律儀に答えてくれた。
「そうですね。魔物が出現した事は既に近隣の街にも伝わっていますので。特に商人の皆さんにとっては死活問題です。荷に肉などの食物が積まれていれば尚更、襲撃に会う確率も上がりますので」
実にもっともな話である。
彼女との会話を楽しみながらも道行く馬車の邪魔にならないよう道路の端を歩いていたところ、一台の馬車が俺達の進む方向へ通り過ぎて行った。と思ったら程なく止まり、馬車上から一人のお爺さんが俺達に話しかけてきた。
「お嬢さん方、二人だけかい? いかんよ、ここらは最近魔物が出るんだ。護衛もなしに出歩いちゃ」
どうやら心配して声をかけてくれたらしい。やさしいお爺さんである。
「ご心配頂きありがとうございます、ですが心配は要りません。私達は神殿から魔物退治の任を受けてこの先の村へ向かっているところなのですから」
「へえ、そうなのかい? そりゃ若いのに大したもんだ」
「私達の事よりもお爺さんこそ無用心ですよ? 護衛もなしに出歩いてはいけません」
彼女がそう言うと、お爺さんは肩を竦めて答えた。
「それはしょうがねぇ。魔物が出ようが何しようがエサを食わせにゃ牛さんは乳を出してくれねえかんなぁ。ウチの村は魔物が出たってんで避難してきた身でもあるしなぁ」
それってもしかして……。俺達は驚きでお互いの目を合わせてしまった後、再びお爺さんに問いかけた。
「それってもしかしてこの先の山麓の村は爺さんの村だったの?」
この言葉にお爺さんの目もまん丸になる。
「私達は山麓の村に出没したと報告のあった魔物を退治する任を受けております。もしよろしければお話を聞かせて頂きたいのですが……」
「お嬢さんら、神官騎士かい! そりゃあ、ありがてえ。乗ってきなよ。話は移動しながらだ」
正確には俺は神官騎士ではないのだが、まあ敢えて訂正する必要もないだろう。お爺さんの言葉に甘えて、俺達は干し草が山積みになった荷台に乗り込んだ。
お爺さんの話によると、山麓の村はブオリという名前らしい。最初は放牧に出した家畜が数頭、夕刻になっても戻って来なかった事が発端だったそうで村の男達が周囲の警戒に出た所、朝方大きな熊が山の奥へ戻って行くのを目撃したそうだ。村の場所が場所だけに村民は動物の知識は豊富で、すぐにこの大きさはただ事じゃないと神殿に報告し避難を開始したらしい。
「では村の皆さんに被害はなかったのですね? 良かった……」
となりで彼女は干し草のベットに座りながら、安堵の息を漏らしている。
「魔物じゃなくても獣はよく山から下りてきては畑を荒らすからなあ。慣れっこさ。それでも家畜すべてを避難させる事はできんかったからなあ。困ったもんだよ」
お爺さんにとって家畜は財産そのものなのだろう。いくら命が助かっても生活する手段が無くなれば同じ事である。
「お任せください。討伐までは出来るかどうかはわかりませんが、しっかり調査して神殿の方でも対策を練りますので」
「大丈夫。俺達でしっかり駆除してあげるから」
慰めるように言葉を添えた彼女とハッキリとした俺の言葉に、お爺さんは柔らかくお礼を言ってくれたのだった。
移動開始初日。俺達は馬車に乗せてもらえた事もあり、夕方にはお爺さんの避難しているブオリの隣村であるルオホの村に到着した。避難している村民がいるのもあり、村の規模の割には多数の住民が生活しているようだ。
俺達は詳しい情報がないか村人に事情を話し、被害に遭ったブオリの村長の元へ足を運ぶ事にした。
他の家屋よりは少しだけ大きいこの家が仮の村長宅だと教えてもらい、玄関の扉をノックする。中から返事があったのでお邪魔させてもらうと、そこには冒険者と思われる男の四人組みがいた。
「失礼します、村長さん。私達は神殿からの任務で派遣された者です。魔物の出没について詳しいお話をお伺いしたいのですが、此方の方々は……」
俺達が目線を向けると魔物討伐を横取りされると思ったのだろう。ギロリと此方を睨むとこちらが女だと分かり大笑いしながら挑発してきた。
「なんだよ。神殿からの派遣って言うからどんな奴かと思えば女、しかもガキじゃねえか」
「お嬢ちゃん、魔物退治なんて危ないからママのいるお家に帰った方がいいんじゃねえの?」
あまりの言い様にちょっとムッとしたが、ふと気付いた。
ユミルの街で見た事のある顔だ。正確に言えば食堂で。
あ、こいつ等食堂で絡んできた奴らじゃねーか。どうやらあの時とは服装が違いすぎる為、気付いていないようだ。
さてどうしたもんか。またぶん投げてやってもいいが、村長の前だ。あまり荒っぽくして印象を悪くしたくはない。
そんな事を考えながら隣の彼女を覗うと、ニッコリと笑っていた。いつのも優しい微笑みではない、怒気を隠している笑顔だ。
思わず俺は一歩後ずさった。男の冒険者連中より彼女の方がよっぽど怖い。
「あら、冒険者の皆様がご協力して頂けるならこれほど心強い事はありません。ですが……相手は熊が魔物化した危険生物ですが問題ありませんか?」
冒険者達の笑い声がピタッと止んだ。こいつらそんな情報も持たずに来たのか?
「この件はあまりにも危険な為、冒険者ギルドにもクエストとして発注しておりません。無駄に犠牲者を出す訳にもいきませんからね。それでもよろしいですか?」
つまりは命の危険があるのに、ボランティアで良いのかと言うことだ。
命を賭けるには旨味がない事を察したのだろう。冒険者達は悪態を付きながらも家を出て行った。だがリーダーらしき男が最後までエダを睨みつけていたのが、悪い予感を俺の中に残していた。
まったく、と一言呟いて彼女は改めて村長に向き直った。
「お邪魔して早々、お騒がせして申し訳ございませんでした。先ほども彼らに告げた通り、今回の一件は冒険者ギルドに委託しておりません。おそらくは騒ぎを聞きつけてお金になると思い独断で来たのでしょう。困ったものです」
基本的に冒険者は活動の際、クエストを冒険者ギルドから受注して行う。これはギルドの方で難易度を見極め、無駄な犠牲を出さない為の配慮だ。いわゆる、[野良冒険]はギルドで登録されている冒険者の場合、禁止されているのだ。
「こちらこそ有難うございました。クエスト受領書も見せてもらえなかったので、どうしたものかと思っていたのです。ですが……」
それでも藁にもすがる気持ちだったのだろう。村長は数少ない戦力を手放していいものか迷っていたのだ。そこに入って来たのがまだ少女と言っても差し支えない年齢の二人組だったのだから村長の迷いも当然と言えた。
「正直に申し上げますが魔物化した熊は本当に危険です。私達、神殿騎士にとっても厳しい戦いになるでしょう。……が被害に遭われたブオリ村の皆様の財産だけは全力で守らせていただきます。私達だけで困難ならば王都から騎士団が派遣されるでしょうからご安心ください」
彼女の言葉にようやく村長は安心できたようだった。根拠のない自信と、きちんと対策を考慮した上での言葉。どちらに説得力があるかと問われれば当然後者だ。
俺にはまだ村長を納得させるだけの言葉は持っていない。これは命のやりとりが日常にある人間のみが持てる言葉の力だった。
改めて村長さんと目撃者のお爺さんにも詳細な情報を聞いた俺達はこの村で一泊したのち、被害現場のブオリ村へ出発した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
意気揚々と出発した俺達だったが、これまでのある意味ハイキング気分とは違う緊張感がこの先に待ち受けていた。
今までの道程では魔物の出現数はそこまででもなかったのは、頻繁に人が行きかう大通りだったからに過ぎない。その証拠に農道と言っても差し支えない被害現場のブオリ村への道は人通りがまったくなく、その分魔物の活動が活発になっていた。
「コウキ様! 一匹そちらに行きました!」
「あいよお!」
道程の半分も到達していない農道のど真ん中、周りには野菜畑や小麦畑が続いている一本道だ。自然と取れる行動は前進か後退かの二択になっていた。下手に畑に入ろうものなら人間の足より元動物である魔物の足の方が速いのは明らかだ。
襲ってくる魔物はウサギやネズミなど小動物がほとんどで此方がダメージを負う事はないのだが、とにかく素早しっこい。地竜の剣ではこんな小さな敵を切るには明らかに大きすぎた。
ちなみに彼女はと言うと神殿騎士の力?で横幅の広い光り輝くハエ叩きのような武器を作り出し、バシーン、バシーンと地面を叩いていた。どう見ても食卓に集るハエを叩いているようにしか見えない、なんとも緊迫感に欠ける戦闘である。
「俺にもその武器作ってよ!」
「申し訳ありませんが、この[武器創造の奇跡]は私の手から離れると消滅してしまいます! コウキ様は私の方へ魔物を追い立ててください!」
よく見れば彼女の持つ武器、俺命名[ハエ叩き]は物質化しておらず彼女の力の流れと一体化しているようだった。ならばしょうがない、俺達は魔物討伐というより害獣駆除と言った方が正しい作業にしばらくの間没頭した。
「ある意味、猛獣を相手にするより面倒かもしれない」
ようやく周辺の畑から飛び出てくる小型の魔物の襲撃が一段落した時、散々駆けずり回った俺はその面倒さに辟易していた。
「確かにそうですね。でもこれも立派な魔物退治なんですよ? 小動物は色々な病気を撒き散らしますから、人里に近寄らせる訳にはいかないのです」
確かに病原体をしこたま抱えていそうなのは間違いない。彼女はしっかりと頑丈でそれでいて軽い皮装備で体を守っているし、俺はそもそもあの程度の攻撃では傷つかない。
冒険者家業と言うものはやっぱり華やかな冒険だけって訳ではないんだなあと実感した瞬間であった。
この調子ですと15話くらいまでは更新ペースを維持できそうです。
もしよろしければ感想、評価など頂けると嬉しいです。
by mikami




