序章ー新たな旅路
ようやく新章へと漕ぎつけました。
第2部2章の始まりでございます。
さて、ミズガルズからヴェルの乗ってきた蒸気船で旅立ったコウキ達は一路、火の巨人の大陸へと向かいます。こちらの大陸では、一体どんなトラブルに巻き込まれるのでしょうか?
今後ともよろしくお願いします。
見渡すかぎりの雄大な大海原。
吹き付ける心地よい海風が俺の顔を叩き、長い髪がユラユラと棚引いている。
時折、ポーっと鳴る蒸気船が大海を元気に進んでゆく。
俺は今。ドベルグル皇国の蒸気船にのって一路、火の巨人の大陸を目指していた。
「みんなっ! 久しぶりぃ!! コウキ=ヴィーブルだよっ!!!」
「きゃっ!? ど、どうしたのですか? いきなり叫び声なんてあげて」
「いや、なんとなく叫びたくなったんだ」
いきなり奇声を上げた俺に驚きながらも、隣にいたエダが微笑んでいる。
「ま、まぁ、その気持ちは分からなくもないです。まさか海を進む船が、これほどの速度で自由に進めるとは……」
確かに普通の帆船なら、風の吹き具合にずいぶん左右されるだろう。それを人の意思で自由自在に動かせるのはドベルグルというドワーフの国の技術力のおかげだ。
「こうなったらタイタニックごっこでも始めたい気分だなっ!」
「たいたにっく? なんですかそれは」
「ん? 俺のいた世界の映画、……実際にあった物語か。大勢の客を乗せた豪華客船タイタニック号が巨大な流氷に激突して沈没するお話」
「……やめてください。縁起でもない」
巨大な蒸気船の船首に立ち、両腕を真横に大きく広げながら俺は全身全霊で船旅を楽しんでいた。
俺達の足元には、すっかり大きく成長したパンが白黒の毛玉のようになってお眠りをしている。今までの寂しさを払拭するかのように、俺とエダにかまってくれとおねだりし続けていたのだが、さすがに疲れてしまったようだ。
「にゃははっ。コウキねえ、元気いっぱいっすねぇ」
「そういうお姉ちゃんだって久しぶりの船旅を満喫してるくせに……。こんにちわ、コウキお姉さん、エダお姉さん」
そんな俺達が視界に入ったのか、これまで忙しく動き回っていたヴェルと妹のウルドが近づいてきた。
「おう、ヴェルにウルドちゃん。休憩か?」
「そんなところっす。いくら他の船より速いといっても、ココは他国の領海っすからね。海賊とかに出くわしたら面倒なんすよ」
「お疲れさまです、ヴェルちゃん、ウルドちゃん。お茶などいかがですか?」
「エダねえ、さすがっ!」
「お姉ちゃん、はしたない……」
こんな会話が成立するほど、航海は順調だった。
この蒸気船に乗り込んだ当初は、俺もエダも彼女達がお姫様だと知った直後だったので礼をもって敬語で話しかけたのだ。
だが、俺達の知るヴェルはヴェルのままだった。
「なんか、ヨソヨソしい感じがしてイヤっすよぉ……」
「いえ、そうはいいますけど。……なぁ?」
俺は困惑した顔を残したまま、後ろの相棒へと助けを求める。
「はい。昔のヴェルちゃんではなく、今はヴェルザンディ姫であらせられるのでしょう? 王族の方に対してはそれ相応の言葉遣いが求められるとは私も思いますが……」
と、エダも困った表情を浮かべている。
この船が目的地であるドベルグル皇国に到着するまでの間に、彼女へと態度をキチンとしなければと話し合った結果だ。
さすがに到着した途端、不敬罪で投獄されたくはない。
そんな感じで説得を試みたのだが。
「う~~っ。そんなことを言ったらエダねえは天界の戦乙女様だし、コウキねえに至っては宝珠竜っていう神様の化身だって言うじゃないっすか!? 立場でいうならアタシの方が敬語を使わなきゃっすよ。一日に5回くらいお祈りしても良いくらいっす」
うっ。それを言われると俺達もツライ。別に自覚していないが、俺達の立場も最初に比べて随分と変わったもんである。
「そんな、どこかの唯一神みたいな扱いは勘弁してくれ……」
ずっとそんな扱いされるぐらいなら、相棒を乗せてサッサと逃げるぞ俺は。
「自分がされてイヤなことは、相手にしてもダメっす! というわけで、これまで通りアタシのことはヴェルと呼んでくれなきゃダメ……っすよ?」
うるうると、涙目になりながら俺達を見上げる彼女の表情に俺は敗北を予感した。
それでもどうするか迷っていた俺達だったが、これ以上話を長引かせるとヴェルの機嫌が悪くなる。普段は元気いっぱいな彼女だが、意外とグズると大変なのだ。それをなだめる役目をになっていたトキハも今は眠ったまま。
ならば、ここらで俺達が折れるしかないだろう。
「わかった、わかった。俺達だけの時はこれまで通り話そう。だけど、公の場ではお前にも立場があるんだからわきまえろよ?」
「りょうかいっす!」
それでいいな? と、目線だけでエダにも確認をとる。彼女も溜息をつきながらも同意してくれた。
「それにしてもこの船はすごいな。まさか、この世界に機械文明があるとは思わなかったぞ」
そう言いながら俺は船の後方へ振り返ると、視線を上空へと向けた。
俺達の乗る蒸気船[ドベルグル号]は、片時も休まずに元気に航行中だ。船の中央にそびえる四つの巨大な煙突からは、もうもうと黒煙が上がっている。
「アタシ達の大陸は、ミズガルズだと火の巨人が住んでいる大陸。なんて言われているらしいっすけど、そんなワケないって常識で考えれば分かるっしょ?」
このドワーフの少女に常識をうたわれても困ってしまう気がするが、確かによくよく考えてみればその通りだ。
ミズガルズ王国が今現在も繁栄しているのは、ある程度の損害で巨人戦争を切り抜けたということだ。ならば東西の列強におよばずとも、それなりに抵抗できたと考える方が自然ではある。
「多分ミズガルズの人達は、アタシ達の機械兵団を見て巨人だと誤解してしまったんだと思うっす」
「機械兵団? それはまた凄そうな感じですね……」
この世界は鉄製の武器を基本として、聖剣・魔剣・魔法が存在するファンタジー世界だとばかり思っていた。だが、もしヴェルの国がたとえ近代化文明の発端に位置するような兵器でも開発しているのならば、その優位性は言うまでもない。魔法を行使する者には限界があるが、機械は資材があるかぎり限界はないのだから。
「にゃははっ。そのあたりは見てのお楽しみっすよ。明日はの夕方まではこの船旅が続くから、ゆっくりしていて欲しいっす!」
そう言って、いつもの笑顔を絶やさないヴェル。
「ああ、そうさせてもらうよ。ここのところ、休まる暇がなかったからなぁ」
この世界に来て最初こそ、ユミルの街でのんびり過ごさせてもらったが、その後はトラブルの連続だった。もうそろそろゆっくりさせてもらってもバチは当たるまい。
「そうですね……。久々にゆっくりできそうです」
そういうエダもゆったりと海風を満喫している。以前なら私のせいだと恐縮していた彼女も今は昔。これくらいではもう動じたりはしない。俺達は久しぶりの平穏を満喫していた。
ちなみにウルドちゃんは、パンのモフリとした毛皮がたいそう気に入ったらしく一緒にお昼寝中だ。
「トキハの容態は心配だけど、これだけの先端技術が結集している国だ。ヴェルに紹介してもらって国で一番の医者に診てもらおう。大丈夫、希望はある」
「……はいっ!」
久しぶりの心からの笑顔を見せてくれた彼女に、俺は満足した。
「そういえば、エダの中にいる戦乙女エルルはどうしたんだ? 最近、めっきり姿を見せていないけど」
「しばらくお前に任せるって言ったきり、出てこないんですよ。特に何か企んでるわけではないようですが……」
どうやらエダにもその理由はよく知らないらしい。不気味と言えば不気味だが、大人しくしてくれているのならそれに越したことはない。
「まぁ、今まで散々かき回されてきたからな。戦乙女関連の事件はお腹いっぱいだよ」
「ふふっ……、それは私も同感です。エルルの話だと戦乙女はこの世界に9人しかいないらしいですから、そうそう出会うことなんて無いでしょう」
戦乙女はこの下界にある4つの大陸をそれぞれ二人組、ペアで管理しているらしい。言ってもこの広い世界で9人、大陸で言うなら2人だけだ。エダの言う通り、見つけ出すのも大変なレベルだろう。
「そう願うばかりだな。これでドベルグルにも他の戦乙女が待ち構えてるなんて言われたら、逃げるぞ俺は」
冗談交じりに言った俺の言葉に反応したのは、エダではなく、ヴェルだった。そしてその情報は、今一番俺達が聞きたくない情報でもあったのだ。
「ん? いるっすよ? 戦乙女様」
今まであんなにのんびりした空気を満喫していた俺達に、寒気が走る。
「ちょい待て。……ヴェル。お前今、なんて言った?」
「……うそ、ですよね?」
万が一の聞き間違いを期待してしまった俺だったが、そんな想いもむなしくドワーフの少女はアッサリと期待を裏切った。
「ドベルグル皇国はアタシの父さんが政治を取り仕切っているっすけど、王様ではないっす。天皇陛下は文字通り天からの使わされた神様。[力、強さ]の象徴である戦乙女スルーズ様が、アタシ達を導いてくださっているっす!」
アタシ達ドワーフの象徴っすよ! とヴェルが元気に教えてくれる。
その情報はこれからの波乱を予言するかのようで、俺とエダの楽しい空気を木っ端みじんに粉砕してくれたのだった。
嫌な予感しかしねぇ……。
新章にお付き合い頂きありがとうございます。
なるべく週末に大目の投稿を目指していますので、感想・評価・ブクマいただければ幸いです。
※本日21時ごろに第一話を投稿する予定です。そちらもよろしくです!




