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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第1章 断罪の聖女
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第35話 終わりの始まり(前編)

エピローグその2

第35話になります。

本日夕方にもう一本投稿して、第2部1章完結となります。

(もしかしたら2本になるかも……^^;)

「ほらっ! 何時までも泣いてんじゃないよ!! 今のアンタには、まだまだ守るべき者がいる。そうだろ?」


 それまで優しく撫でてくれていた手を、マリーさんはバンバンと私の背中に数回振り落とした。いつの間にか書斎の扉の向こうには、二人の気配がある。


 トントン、と。養父の書斎に扉を叩く音が鳴り響いた。


「……。はいっ!」


 その内の、一人の気配は分かりきっている。


「エダ? 入っても大丈夫?」


 間違うはずも無い。コウキの声だ。とすると、もう一人の気配は……?


「大丈夫です」

「……お客さんが来てるんだ。入ってもらうね?」


 という、コウキの声が聞こえると同時にギィッという低い音を鳴らして書斎の扉が開いた。


「また久しぶりの挨拶になっちゃったわね。ひさしぶり、エダ」

「……タリナ?」


 相棒と共に書斎に入ってきた女性は、私の騎士養成学校時代の友にして王家の密偵としての役目を持つタリナだった。


「ご苦労さん。王城の方はどうだい?」


 まるで気の知れた人へ話すような口調で、マリーさんはタリナへと話しかけた。二人は面識があったのだろうか?


「それが……」


 何かあったのだろうか。何ともタリナの口が重い。


「……どうしたんだい。さっさと報告しなっ!」


 そんなタリナへ、マリーさんの激が飛ぶ。それを受けてようやくタリナの口が開いた。


「シグルド王がこのあとすぐ。すべての重臣に収集をかけ、査問会を開かれるそうです。その場に急ぎエダとコウキさんを呼んでくるようにと命を受けました」

「査問会? 今、この時にかい? ……今はそんなことより王都の復興を最優先しなきゃいけないだろうに、悠長な……」

「それはその通りなのですが……」


 タリナの言葉に、マリーさんの呆れたような返答が即座に飛んでいる。だが、それでもタリナの表情は複雑なままだ。


「……今回の件につきまして。貴族派閥の重臣達が、シグルド王に対して釈明を求めています。この大災害の原因と、……犯人は誰なのか?……と」


 タリナの言葉に、私の心臓の鼓動が一気に跳ね上がった。

 今回の事件、事の発端となったのは。先代ミズガルズ国王シグムントを刺したのは、私だ。正確に言えば私の中に今も居る戦乙女エルルだ。だが、そんな事情を貴族のお偉方が信じてくれるとも思えない。ただの責任逃れだと糾弾されるだろう。


(正確に言えばヒルドの頼みをきいた長姉ブリュンヒルデが、私へと命じたのだがな)

(……なぜ、だ?)

(決まっている。お前の相棒を、天界へ送り返すためだ。それが私にとっても好都合だったに過ぎん)


 コウキを、天界へ!?


(私も詳しくは知らされておらんがな。……お前の相棒は随分と天界の神々に好かれていると見える)


 これまで何度も言ったが、宝珠竜とは天界の神々が地上へと降臨した時の姿。コウキ自身の意識は別の世界からやって来たらしいけど、身体は天界から降臨した何らかの神が変異した姿。


 私の中で事態は決定的となっていた。


 この被害を王都にもたらしたのは、――コウキと、私だ。


 ならば、私は決着をつけに行かなければならない。私が自分自身の罪へと、向き合わなくてはならないのだ。


「タリナにここから案内されるのも、二度目ね」

「……」


 寂しそうに笑った私の言葉に、友人からの返答はない。タリナは優しい女性だ。任務とはいえ、友人である私を二度も窮地へと連れて行くも辛いのだろう。


「では、タリナ、コウキ。――行きましょうか」


 もう既に私の中で覚悟は決まっていた。


 たとえ、どんな形であろうとも、私は贖罪(しょくざい)を果たすのみ。


 けど、もう二度と。


 私の大切な宝物に、傷を付けるわけにはいかないのだ。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「私の今の立場じゃ、こんなこと言っちゃいけないんだけど」


 そう、別れの際にタリナが口を開いた。

 王城の城門前。

 以前。戦乙女として覚醒した私が、シグルド王との婚約させられるために王城に来た時も、案内役はタリナだった。タリナに案内されるのも二度目だと言ったのは、その時の思い出が私の脳裏によぎったから。


 でも前回のような展開はもう望めないだろう。私達とヒルドとの戦火は、あまりにも周囲に拡大しすぎた。あまりにも王都の民を危険に晒しすぎた。全力で避難を呼びかけたとはいえ、原初の波の被害は家屋や財産だけに留まらない。


 きっと、私の知らない誰かが。犠牲になっている筈だ。それに関してはもう、どう謝罪しても戻らない。私の養父と同じように、いくら天界の戦乙女だろうと宝珠竜だろうと、失った命は戻らないのだから。


「……危なくなったら、すぐに逃げなさいよ。私はもう、貴方をこんな形で連れ回したくなんて無いんだからね」


 それでも。友人は、こんな私でも心配してくれる。私は良い友人を持った――。


「……ありがとう。私はタリナを泣かせない。今度こそ、本当の約束よ」


 騎士養成学校での私達の約束は果たせなかった。共に助け合いながら、相棒となって騎士団で活躍するという約束はもう果たせない。

 だから今度こそ。


「……コウキ。行きましょう!」

「ああっ!」


 約束を果たしてみせる。

 私はそう自分自身に誓って、今の相棒と共に王城の門を潜り抜けた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「お待ちしておりました……コウキ殿、エダ殿」


 場内に入った私達を待ち構えていたのは、またもや顔見知りの男性だった。


「フィン殿、……ご無事で何よりです」

「お二人こそ、無事の再会まことに喜ばしいかぎりです。ですが」


 私達の前に姿を見せたのはエディル侯爵邸で共に働き、コウキの貞操の危機の時にもその場にいた騎士フィンだった。

 一瞬は無事の再会に顔をほころばせた騎士フィンだったが、それも一瞬のもの。彼が今、この場に居る事実は間違っても歓迎すべき事柄ではない。

 なぜなら、エディル侯爵付きの騎士である彼が私達を出迎えたということは、この王城の大部分が新王派ではなく、貴族派が権威をふるっているとみるべきなのだ。


「エダ。これって……」


 コウキもこの状況に気付いたようだ。


「はい。十分警戒してください、事態はかなり私達にとって不利になっているようです」


 私達はお互いに頷き合うと、騎士フィンの後に続くべく足を前へと進めた。


 しばらくすると、なんだかとても見覚えのある道を歩いていることに私達は気づいた。やはりと言うか、なんと言うか。


「……やっぱり、こうなりますか」

「……」


 私達は騎士フィンの背中を前にして大きくため息をつく。


「私の案内は、ここまでです。以後はこの侍女達がお二人をご案内致します」


 そういって廊下の脇にずれた彼の先には、大勢の侍女達が待ち構えている。


 ここは、女性専用の化粧部屋だ。

 かつて私とコウキも、この部屋で十全に準備をほどこされ聖女として戴冠式に臨んでいる。部屋の中に入ってみれば、以前と何ら変わらない光景が私達を待ち受けていた。


「もしかすると、このお城で一番苦手な部屋かも」


 私の隣で相棒の腰が引けている。だが、私達を着せ替え人形にせんと侍女の皆さんの手がせまっていた。


「コウキ、諦めましょう。ここで着替えることで、おそらくは身体検査の意味も兼ねているのでしょうから」

「えええ……」


 私の相棒は、ドレスやらスカートやらの女性らしい衣服を着るのが大嫌いだ。隣で顔をゆがめる相棒を眺めながら、私は違和感を覚えていた。


(貴族派からすれば、私達は罪人のはず……。なぜこのような衣装を?)


 身体に暗器を忍ばせていないか調べるだけならば、ここまでの衣装を用意する必要もない。ならば、貴族派かもしくはシグルド王が、着飾った私達が必要だと判断したということになる。


(もしかすると、お前達が欲しいという狂った奴等が居るのかもしれんな)

(それは、……できるなら、いやかなり遠慮したい)

(人間族の目で見るなら、戦乙女や宝珠竜の女子はかなり見目麗しいらしいからな。自分の物にしたいと思う輩も出ないはずがない)

(うう……)


 私の身体の中にいる戦乙女エルルが嫌な推測が飛び出した。想像するだけで、気分が悪くなることこの上ない。


(なに、いざとなれば飛んで逃げれば良かろう。私とてこの先、自分の身体になるであろうこの身体を脂ぎった男共に触れさせる気などない)

(それはそうなのだけど、……いざという時は、頼むからな?)

(うむ、任せておけ)


 自分の中でこんな会話をしている間にも私の服は剥がされ、化粧を施され、着飾られてゆく。さすがに侍女の皆さんに乱暴を働くわけにもいかない。ここは素直に人形に徹するしかないだろう。

 隣をチラリと見れば、相棒も侍女の皆さんに任せて抵抗していない。顔は複雑な表情だが、相棒も私と同じ考えだったようだった。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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