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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第1章 断罪の聖女
73/138

第32話 宝珠竜の激怒

32話です。

予告より早いですが、予定ができたので投稿しておきます。

もう一話は予定通り21時に投稿します。

 ――――――――――――――、っ?


 何時までたっても、灼熱の痛みが襲ってこない。いや、それもそうか。今現在、私の身体は戦乙女エルルが使っている。

 なら、彼女の悲鳴が聞こえてこなくてはおかしい。もしかして、声を上げる間もなく焼かれてしまったのだろうか?


 それにしては、外の景色が今までと変わらない。


 混乱している私の意識は、唐突に現実の感触を得た。


「えっ? ええっ!? ここは、この乗り心地は。……コウキ!!?」


 いつの間に、彼女(エルル)と意識を交代したのか。私は混乱したまま、現実の風の感触を身体に浴びていた。


 前を見れば、宝珠竜の顔が、コウキの顔が必死になって原初の波を避けている。


「……なんとか間に合ったな。自分でも忘れていたけど、こうやって最高のタイミングで登場するのが異世界主人公ってもんだろ!!」


 何やら、相棒が良く分からない言葉を発している。

 でもそんなことどうでも良い。私の相棒が復活したのだ!!


「コウキ。怪我はもう大丈夫なのですかっ!?」


 これだけの速度で飛び回っているのだ。それなりには回復したのだろうけど、聞かずにはいられない。

 相棒の白銀の鱗も、大きな羽も、太い尻尾も。元気そうに動いている。


「絶好調っ! とまではいかないけどな。マリーさんのお陰で飛びまわれる程度には回復したよ。……っと!」


 私の質問に答えながらも、コウキは器用に原初の波を避けている。それでも私が避けきれなかったように、限界は来るはず。

 それほどまでにヒルドが操る原初の波は、不規則で、巧妙な動きをしていた。


「コウキ、危ないっ!」

「うえぇっ!?」


 コウキの目の前に原初の波が立ちふさがっている。このままじゃ、激突しちゃう!?

 私はとっさに、顔面を守るように両腕を上げた。さすがのコウキでもこの状況から原初の波を避けることは敵わない。そんなタイミングだったのだ。


 だが、私の相棒は突拍子もない方法でこの窮地を凌いだ。


「邪魔、だあああああぁ――!!!」


 相棒の叫びと共に、大きな宝珠竜の口から、黄金の炎が飛び出した。

 コウキは。私の相棒は。その黄金の炎で、私達の前に立ちはだかった原初の波を打ち消したのだ。


「今のは、今のは、いったい……」


 いや、分かる。なぜなら私が一番、相棒と長い時間を過ごしてきたのだ。


 あれは、かつて黄金の宝珠竜として覚醒した時に、相棒が使った堕天竜の力。自分に降りかかる、全ての脅威と敵意を消し去る平穏の光。


 技の名前は、[宝珠竜の暖光]ピース・オブ・ヴィーブル


 あの時はブオリの村で防衛する私達に対して、シグムント王が派遣した兵50000、全ての戦闘力を奪った。


 あの、優しく暖かい光に違いなかった。



 しかし今だ私の疑問は解決していない。

 コウキは。私の相棒は原初の巨人に対抗するため、私を含めた王国軍3000に身体強化の加護[ニーベルングの加護]を与えて殆どの力を使い果たしたはずだった。先ほどまでのコウキは、そのおかげでグッタリと倒れていたのだ。


「どうやって力の回復を……」


 あれは、地の堕天竜ミドガルズオルムの聖遺物が無ければ、得られないもののはず。不思議がる私に、相棒はアッサリとした口調で言葉を返した。


「秘密のタネは、コレさ」

「それは……竜神様の(トゲ)?」


 コウキの口に、私達がユミルの街でマリーさんから見せてもらった聖遺物がある。


「ですが、アレは私が使ってしまったはずなのですが」


 世界樹へと行く前に、私の身体を心配したマリーさんが私に委ねてくれたのだ。あの時確かに、私の身体の中へと入っていったはず。


「マリーさんが、他の街の竜神殿から譲り受けてくれたんだってさ。気が利くお母さんだよ、ホントに」

「……はい。さすが、マリーさんです」


 一瞬、暖かな空気が私達の間に広がった。


 けど、無粋な邪魔者というのは何時でも空気を読めないらしい。私達の良い雰囲気をぶち壊すような声が眼下から昇ってきたのだ。


「あ~~~、もうっ! もうちょっとで黒コゲに出来たのにぃ!! ゴキブリみたいにシブトイよねぇ。アンタたちぃ!」


 戦乙女ヒルドが空中で地団駄を踏んでいる光景がここからでも見えた。まるっきり、自分の思い通りにいかないとグズってしまう、子供そのものだ。


 そんなヒルドに対して、相棒が口を開いた。


「おいっ、ヒルドとか言ったよな。お前、ほんっとうに、いい加減にしろよ? 王都をこんなに滅茶苦茶にしやがって、イタズラにしてもやり過ぎだと思わんのか?」


 コウキがヒルドに向けて文句を言っている。しかもその口調はかなりの厳しさで、詰問しているかのように。

 この世界で一番長く傍にいる私でも、理性を保ちながらこれほど怒るコウキはほとんど見た経験がない。思わず私が首をすくめてしまいそうだ。


「そんなこと、アタシにはカンケイ無いしぃ。人間なんてほっといても勝手に増えるんだから。時々間引いてやってんのよぉ。文句あるぅ?」


 そんな相棒の様子にも気付かないのか、ヒルドは変わらない調子で挑発してくる。


「……大有りだ。ったく、久しぶりにブチ切れそうだぜ。日本人だって怒る時は怒るんだっつの。もう、問答の余地はねーな。お前は、消えろ。……なぁ?」

「なっまいきぃー。もう話す事が無いのは、こっちも同じだってのぉ」


 もうこれ以上話す意味もないと、コウキは違う方向へ話し、かけてる? この場に私達とヒルド以外の誰がいるというのだろう? だが、コウキの口から出た人物名には、私もヒルドも驚いた。


「それで良いんだよな? ……ブリュンヒルデ」


 ……えっ?

 私は最初、相棒の声で発せられた名前を脳が認識しなかった。なぜなら、相棒の口からその人物の名前が出てくるとは考えもしなかったから。


 けど、コウキが声をかけた戦乙女は、いつの間にか私達のすぐそばに降臨していた。


「良いも何も、最初に言ったはずです。私はこの戦いに一切介入しないと。ヒルドもエルルも大切な妹ですが、時には天界へ戻り学びなおすのも良いでしょう」


 なんだろう、この感じは。ヒルドのように感情を爆発させるでもなく、エルルのように人間味がある訳でもない。

 あえて言うならば、無関心。すべての事象に対して、ただただ在るがままに見守るだけ。そんな印象を私はブリュンヒルデから受けた。


(それは少々違うな)

(……エルル?)

(我らが長姉はな。すべてにおいて平等なのだ。基本的には天界の神々の味方でも、下界の人間の味方でもない。

 だが、姉自身の判断において不平等が生まれたと判断した時には、天秤の(はかり)の役目を担うのだ。お前達も長姉が新たな敵を用意することはあっても、長姉自身と戦ったことはないだろう?)

(それは、そうだが……)

(それはお前達の相手側が、不平等だと判断してのことだ。だが長姉自身が剣を握れば結果は見えきっている。だからこそ、あの長姉は自分で剣を持つことがほとんど無い)


 それは、ブリュンヒルデの実力は私達の考えも及ばない所にあると言っているようなものだ。


(今回ばかりは、私達の方が不利だと判断したのだろうな。原初の巨人、原初の波、そして人質。さすがにヒルドの有利な手札が多すぎる。とは言っても、直接的な増援を連れてきた訳ではないようだが)

(と、いうと?)

(おそらくは……)



「やっぱ、お前等って死の概念がないのか?」


 あっさりと自らの妹であるヒルドが負けても構わないというブリュンヒルデに対して、それはそれで不快だと言わんばかりにコウキは口をとがらせた。


「さぁ? 死んだことがありませんので……」


 そう言いつつも、戦乙女の長姉である彼女の感情は揺らぎない。


「そりゃ、そ~だ。じゃあコイツで実験してみるか」

「ひっ……」


 相棒の視線が再び、戦乙女ヒルドへと向けられる。この戦いが始まって初めて、ヒルドの顔に恐怖の感情が見えた。

 それはそうだと、私は自身で自己完結してしまう。本来コウキの姿である宝珠竜は天界の神々が下界へ降臨した姿。

 それはつまり戦乙女ヒルドは今、自分より上位の存在である筈の神々と戦おうとしているのだ。


「今更、無条件でトキハを開放するから許して。なんて言うなよ? お前はやり過ぎた。どうしようもない所まで、俺を怒らせちまったんだからな」


 大きな牙の生えた相棒の顎から、黄金の炎が漏れ出している。

 今の相棒は、本当に、本気で、怒っていた。


「ヒルド。今の貴方の全力を、私に見せてご覧なさい。見事この(いくさ)に貴方が勝利したのなら、この大陸は貴方一人に任せます」

「ホントッ、姉様!?」

「ええ。そして今度こそ、天界の神々の皆様が満足する世界を作ってみせなさい?」

「うんっ!」


 まるで母親と新しいオモチャを買ってもらう約束をした子供のようだ。


「もうお遊びは終わりにするからねぇ。この街ごと、アンタ達を溶かしつくしてやるぅ!!」


 そう言うと、戦乙女ヒルドは焼き尽くされた王都の地表へ降りて行く。


(……何をする気だ?)

(私にも分からん。基本的に私達は戦乙女の間でも、自分の権能を見せるような真似はしない。私がヒルドの原初の巨人を知っていたのさえ特異な例だ)


 今だに王都の地表には、原初の波という名の溶岩が固まることなく流れている。その溶岩流にヒルドは足を付けた。


 額の聖宝珠だけが赤く、不気味に輝いている。


 私の目にはヒルドが溶岩流の上で何かを呟いているように見えた。


「……コウキ、奴は何と?」


 私達の居る上空から地表まではだいぶ距離がある。この距離では人間の耳では到底きこえない。だが、私の相棒の聴覚なら話は別だ。


「……アタシの元へ集まれ、原初の波よ」


 コウキが戦乙女ヒルドの呟きを復唱してくれる。


 それって、つまり……。


 私が頭の中である仮設をたてた時、地上を流れる原初の波に異変が起きた。それまで王都中を周回するように流れていた溶岩が、一か所に集まり始めたのだ。

 その溶岩はヒルドの足元へと集まり、山となす。


 ゆっくりと、まるで火口から噴火したかのように。


 王都中の溶岩がヒルドの足元へと集中し、彼女の身体を元の場所。私達の前へと押し上げた。


「おまたせぇ、……待ったぁ?」


 まるで、待ち合わせでもしているかのような口調だ。


「おお、まった待った。コレがお前の奥の手か?」


 あまりに場違いな発言に、コウキも同じような口調で返した。


「まぁねぇ。……アンタ達もバカだよねぇ。なんでアタシの準備が終わるまで待ってんだか」

「そんなの決まってんだろ? お前は俺の手で潰す。何の言い訳もできないくらい完全にな」


 そんなコウキの台詞を、ヒルドは歪んだ笑いで受け止める。


「きゃ、は、ハぁっ。アンタだってもう残ってる力は殆ど無いんでしょぉ? あとは、あ、と、わぁ。アタシが、アンタを、飲み込んでぇ、おわぁありぃ……」


 もう、ヒルドの身体に残った聖気はほとんど無い。

 私も治癒を続けているとはいえ、戦力にはなりえない。


 コウキだって多少は聖遺物で補給したとはいえ、この原初の波をどうにかする力が残っているとはとても思えない。


 どうするの? コウキ――――。

最後までお読みいただきありがとうございました。

決着までもう一話、どうぞお付き合いください。

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