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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第1章 断罪の聖女
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第28話 決戦

お待たせしました。

第28話の投稿となります。

只今、必死こいて一章のラストまで執筆を急いでいます。

日曜日までには、終わらせたいなあ。(お盆休みにも同じことを言ってたヤツ)

 海中を進んでいた原初の巨人がついに地上へ、崖の上へと片足を乗せた。

 その際の衝撃は、地揺れのように王都中を振動させるほどだった。遠くから人の悲鳴が僅かながらに聞こえてくる。まさに世界の終末を思わせる光景だ。


「ん~~? アイツ等、どこいったんだろぉ? ま、さ、か~。アタシに勝てないと解って、逃げ出しちゃったかなぁ? まぁ、無理もないけどねぇ。あはははははははッハハ――――!!」


 再び巨人の額から戦乙女ヒルドが顔を見せた。目の前に私達がいないことに気付くと、つまらなそうに、その後は可笑しそうに笑っている。


 それから、改めて目の前に居る王国の軍勢に視線を移している。


「アンタ達ぃ、見捨てられちゃったねぇ。かわいそ~に。でも、容赦はしないよぉ? あの二人もそうだけど、そこの王様もアタシを怒らせちゃったからねえ。今日この日から、この大陸は崩壊を始めるぅ。せいぜい、いい声で鳴いてアタシを楽しませなよぉ!!」


 戦乙女ヒルドはそう言い放ち、再び巨人の足を動かし始めた。


 だが、私は此処に居る。とりあえず、挨拶代わりの一撃をお見舞いしてやろう。


「……誰が、逃げ出しただと?」


 声を返したと同時に、一閃。

 いや、今の私の斬撃は一撃ではない。右手に地竜の剣。左手に聖剣バルムンク。二刀での戦闘はもちろん初めてだ。だが、不思議と違和感はない。

 まるで相棒が私の身体に乗り移ったかのように、地竜の剣が、自分の事はこう使えと伝えてくれる。


「ハアアアアアアアアアアアアアァッ!!」


 右手の一閃で、原初の巨人の周囲に展開された聖気の防御膜を斬り裂く。巨人の岩肌を構成している岩石は周囲の地形から取り込んだものだ。つまり、下界の物質。

 続けての左手の一閃で巨人の岩肌を斬り裂く。巨人の岩肌と岩肌の境を走っていた溶岩の脈流が、火山のように噴出した。


「……はっ? なんだいたのぉ? あれれぇ、なんかちょこっとだけ変わってないぃ?」


 巨人の額から伸び出た戦乙女ヒルドの眼前に、私は降臨した。

 腰まで伸びた髪は金髪と銀髪が入り混じり、背中の左側は戦乙女の純白の翼。右側には相棒の宝珠竜の羽根。

 口からでる声は私とエルルの声色が一緒になっている。一人の私の身体で、エダとエルル二人の声が出ているのだ。

 そして私の額に浮き出た聖宝珠は真紅と白銀が混じり合い、鉱山で稀に出土するというピンクダイヤモンドのような輝きを放っていた。


 私の身体は今、コウキの血を完璧に受け入れている。まるで相棒が私の身体の中を走り回っているようだった。


「戦乙女ヒルド。今日が貴様の命日だ。さっさとトキハちゃんを返しなさい!」


 ヒルドへと突き付けた地竜の剣からはコウキ譲りの黄金の奔流が迸っている。それと対となる聖剣バルムンクからは白銀の光。

 これが、戦乙女エルルの完全体。いや、戦乙女エダとエルルの共同体だ。


「まったく、ちょっと渡すだけって感じだったのに……思いっきり持っていかれたぞ!? 俺は援護に専念するから、遠慮なくぶっ飛ばしちまえ!!」

「はいっ!! 了解だっ!!」


 コウキの号令に最初は私、次にエルルの声で答える。

 シグルド陛下の率いる王国軍と原初の巨人の間で、コウキの身体が太陽のように輝いた。周囲の風に乗り移るかのように白銀の光が私と王国軍を取り巻く。


 これは、エディル侯爵邸の上空でも見せてくれた[ニーベルングの加護]だ。


 その輝きは私と、シグルド王国軍の力を臨界まで引き出す。この広さと人数で、この強化の仕方、コウキも後のことなんて考えていない。


 ザワザワと地上の兵士達がざわめき出した。自分たちの身体の変化に戸惑っているようでいて興奮しているようだ。


「シグさんっ。エダの剣が聖気の防御膜を斬り裂いたら足を狙え! これ以上王都に近づけさせるな!!」

「……承知っ! 神官隊、神聖付与用意!! 弓兵隊、射撃準備!!」


 シグルド王の号令で後衛の神官隊およそ1500が祈り始め、弓兵隊が弓を引き絞る。特筆すべきは何と言っても、コウキの[ニーベルングの加護]の効果範囲だ。私やシグルド陛下、二人だけなら驚くまでもない。コウキの力を持ってすれば当然だ。

 だが今、私の相棒はシグルド陛下の王国軍5000すべてに身体強化を施したのだ。


 この規格外の巨大さを誇る原初の巨人に唯一の弱点があるとしたら、その大きさだ。その大きさゆえに緩慢(かんまん)な動きしかできず、狙うまでもなく攻撃が命中する。


「はあぁ!? ちょと、なんなのよぉ!??」


 ヒルドが、今だに現状を把握しきれていない。ならば、今が最大の好機だ。


(いくぞっ! エルル!!)

(……お前に言われんでも解っている)


 右手に握った地竜の剣を逆手に持ちかえ、急上昇。相棒から貰った宝珠竜の黄金の力を爆発させる。


「おおおおおおおおおおおおおぉっ!!」

「ハアアアアアアアアアアアアァッ!!」


 私達の気合が、同時に口から発せられた。

 そのまま、地表へ墜落するかのように急降下。巨人の中に居るヒルドが張った、聖気の防御膜を真っ二つに斬り裂く。


 ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!


 まるで金属同時が激しく擦れ合ったような金切り音が王都中に鳴り響いた。


 ――ギャアン!!!


 私の足が地面に触れる。それとほぼ同時に、地竜の剣も地表を捉え、防御膜の末端まで切り裂いた。


「今だ!!」

「神官隊! 矢に聖付与を付け!! 弓兵隊。放てえええええええええええ!!!」


 相棒の合図と共に、シグルド王が大号令を放った。神官達の付与が弓兵隊の矢に(ほとばし)り、1500の弓兵が一斉に引き絞った弦を、解き放った。

 いくら相棒の加護が強力でも、人間の力では城のような巨人の頭部に矢を届かせることなど敵わない。狙うは巨体を支える足。届かないのであれば、届く高さにまで下げればいいのだ。


 まるで流星のように1500の矢が原初の巨人の左足へ降り注ぐ。例え一つ一つの矢は敵わなくとも、これだけの矢が一点を狙って襲い掛かるのだ。私の眼には一本の巨大な矢が、巨人の膝下に襲い掛かったように見えた。

 結果。まるで爆発したかのように、原初の巨人の左足が爆ぜた。


 グラリと巨人の体勢が崩れてゆく。


「次弾、いそげえええええええ!!」


 シグルド王の怒声が私の耳にも聞こえてくる。けど……。


「いかん。兵を引かせろ!」


 私の口から、戦乙女エルルの警告が飛び出た。


 けど、……間に合わないっ!


「ちょうしに、のらないでよおおおおおおぉ!? この人間のゴミ虫いいいいぃ!!」


 ガギギギギ……ッと、巨人の岩肌が悲鳴を上げながら巨大な腕が持ち上がる。そのまま倒れこみながら、ヒルドは巨人の右腕を王国軍へと叩きつけようとしている。


 王国軍と原初の巨人の間にはまだ100mほど距離があった。けど、巨人の大きすぎる上半身と腕の長さで彼等に届いてしまうかもしれない。

 そんな危機感を覚えた私達の耳に、相棒の叫び声が届く。


「エダっ! エルルっ! 乗れっ!!」


 コウキの尻尾が後ろから空中にいる私達の身体を掻っ攫い、自らの背中に乗せた。コウキの首は地表へと向いている。


(おいおい、これは……宝珠竜は本気か!?)


 私の中でエルルが驚きの声をあげている。その声を笑いながら、私は自分の身体の中へ声を張り上げた。


(あははっ。これしきの無茶、コウキの相棒となる気があるなら覚悟なさいっ!!)


 戦闘の中で昂る私の意識が、妙なテンションにさせている。まだあの巨人の腕に、聖気の防御膜は再展開されていない。ならば、と私は左手の聖剣バルムンクを強く握り締めた。


 コウキの加護が私の中へ入ってくる。コウキの身体の中に残る力、ありったけを籠めて。


 私のお尻を伝い、背中に流れ、左肩を乗り越え、左手へ。


 聖剣バルムンクは持ち主の身体、技に合わせて形状を変化させる。以前の持ち主であるシグムント陛下の手にあった時は魔剣グラムのような大剣だった。それが、私の手に渡った時、使いやすい細身の長剣となったのだ。


 ならば。


 この場に相応しき形状となるのも当然。


 相棒の力をもらって、私の左手に収まる聖剣バルムンクがどんどんと伸びてゆく。通常ならば、こんな長大な剣をふるうことなど誰にも出来はしない。

 しかしこれはコウキの加護だ。私の相棒の力だ。


 ならば、私に振るえぬ道理はないっ!!


 コウキの背中に乗って真っ逆さまに降下してゆく。これはもはや、降下ではなく落下だ。


 私は相棒の背で一つ、大きく息を吐いた後に全力で飛び出した。


 目標は只一つ。

 原初の巨人の山のような腕が私達目がけて降りかかってくる。この巨人の腕と比べれば、私の身体など砂粒のようだ。

 だが、ここで(おく)していてはコウキの片割れなど勤められない。


 左の戦乙女の翼、右の宝珠竜の羽根を羽ばたかせ、私達は上昇を開始した。真上から迫り来る巨人の腕が日の光を遮り、私達の身体は影に包まれる。

 それでも、……止まるわけにはいかないっ!


「はああああああああああああああああっ!!!」


 私は裂帛の気合をもって、聖剣バルムンクを、王国軍にむかって振り落とされた原初の巨人の右腕に向けて振り上げた。



 その光景は、まるで巨大な地崩れが発生したかのようだった。これまでは戦乙女ヒルドの権能によって形作られていた巨人の腕は、私の一撃によって切断され、バラバラの岩石となって地表へ降り注ぐ。

 元々、原初の巨人の強さはその巨大さと頑丈さだ。それと同時に巨大さゆえの弱点も間違いなく存在する。

 脚部にかかる負担はもちろんのこと、腕、首、頭。各部のバランスや強度はすべて戦乙女ヒルドの聖気によって保たれている。


 その聖気を切断した今、ヒルドが新たに展開しなければ原初の巨人は崩壊の一途をたどるのみだ。まるで砂城が崩れ落ちるかのように、轟音を響かせながら原初の巨人は地上へと崩れ落ちた。



 幸いにも王国軍の迅速な退避のおかげで、兵士達に被害はでなかったようだ。だが、私達。特にコウキはそうもいかない。いかに宝珠竜とはいっても無限の力を持っているわけではないのだ。

 私達が飛び出した後、相棒は力尽きるように地表へと墜落した。


 相棒の姿が土煙の中へと消えてゆく。慌てて駆けつけたいところだけど、私達には今やらなければならないことがあった。


「ヒルド、まさか自分の巨人に潰されたとは言うまいな?」


 仰向けに転がる原初の巨人の頭部、その上空で私達は止まった。今の言葉は私ではなく戦乙女エルルのものだ。

 彼女の声に反応するかのように、もはやただの岩と化した巨人の額から戦乙女ヒルドが這い出てきた。


「あ、アンタ。もしかして、エルル? ……よくも、よくもぉ。一番下の妹のクセに、私の、私の原初の巨人を……」

「貴様の敗因は、自らの権能に頼りきって自己の研鑽を怠ったからだ。戦乙女の権能など、所詮は数ある武器の一つにすぎん。それを、最後まで理解できなかったようだな……」


 まるで親の仇のような眼で私達を睨みつけてくるヒルド。その言葉をそっくりそのまま返してやるとばかりに、今度はエルル()が口を発する。

 先ほどの一撃でコウキからもらった力をだいぶ消費してしまったが、目の前の、養父(ちち)の仇を討つ分には問題ない。

 今度はエダ()の番だ。


「貴様の暴虐の数々、決して許すわけにはいきません。貴様の犠牲になった数多くの人々、そして私の養父(ちち)に謝罪しなさい。……[竜騎士の楽園](ヴァルハラ)でっ!!」


 両手に持つ二振りの剣を構えるエダ()。数瞬後に、ヒルドの首は私達の手によって落ちる。

 もはや、私達の眼下で這う戦乙女の運命は決まっていた。


 だが、私達は気付いていなかった。


 常識というものを何もしらない、子供(ヒルド)の眼に涙が浮かんでいる事実に。

 この子の表情に悔しさはあっても、絶望の感情を表してはいないことに。


 ゆるりと、私達の前まで浮かび上がったヒルドは、顔を俯かせながら何やらブツブツと呟いている。


「……もう、いい」

「……なにっ?」

「もういい。何もかも、……どうでも! アタシの思い通りにならない大陸(ココ)なんか! みんな、キライ。きらい嫌いキライ、だいっきらい!! みんな、みんな……溶けてなくなっちゃえええええええええええええ!!!」


 その叫びは、私達のみに向けられたものではなかった。


 そしてそれが、異変の始まりでもあったのだ。

 戦乙女ヒルドの聖宝珠が異様な輝きに染まっていく。青みがかった白銀の輝きから黄色、そして灼熱の赤へ。

 それは、原初の巨人を形作っていた岩石も同様だった。土色だった岩が黒く、赤く。そして、ドロドロに溶けてゆく。


 このままでは、この辺り一帯が溶岩の海になるっ!?


(クソっ! ヒルドの奴め。ここまでやるかっ!?)


 私の身体の中で、戦乙女エルルが驚愕の声をあげた。


(一体なんなんですかっ、アレはっ!?)

(説明している暇はないっ! 早く宝珠竜を担ぎ上げろ!! 安全な場所まで退避しなければ、我等とてただではすまんぞ!!!)


 戸惑う私を置いてけぼりにして、エルルが身体を動かした。先ほど地上に墜落してしまったコウキの所へ急行し、大きな竜の身体を担ぎ上げる。そして地上に展開している王国軍の指揮官、シグルド王に向かって叫んだ。


「ミズガルズ王! 今すぐ高地へ退避しろ!! [原初の波]に呑まれるぞ!!!」

「しかしっ! ……王都が。まだ王都の民が避難しきれていない!!」

「そんなことを言っている場合か!! 全員焼け死ぬぞ!!!」


 こうしている間にもドロドロな粘体と化した原初の巨人の波が、王都へゆっくりと近づいてくる。


「あれは、原初の巨人ユミルがこの大地を創生の際に流した溶岩そのものだ! 下界に存在するすべての物を燃やし、溶かす。どうにかする手段など、無いっ!!」


 エルルの言葉を聞いたシグルド王は一瞬、悔しそうな顔を見せたがすぐに撤退を開始した。

 事は一刻を争う。

 行動が遅れれば遅れるほど、犠牲者の数は増えるのだ。


「あ、あはっ。あはは、あはははははははははっ――――――――!!!」


 王民の避難に急ぐ私達を、戦乙女ヒルドがいつまでも笑っていた。


 なぜか、今も涙を流しながら。

最後までお読み頂き有難うございました。

ありえんほど長くなった第2部1章も佳境。もう少々お付き合いください。

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