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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第1章 断罪の聖女
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第27話 もう一人の私(後編)

書きたてホヤホヤ。第27話です。

本当は十分ストックを作ってから投稿した方がいいのでしょうが。。。

投稿したいんだから、しょうがないのです。

「その詳しい説明は、私からさせてもらおうか。久しぶりだな、堕天の宝珠竜」


 私の口が勝手に動いている。


 えっ?

 ここは、どこ?

 いつの間にか、私は不思議な世界を漂っていた。周囲に色とりどりの雲というか霧というか……、が漂っている。

 その中で、私は大きな窓から外の景色を眺めていた。その窓には鍵はおろか、取手すらない。窓の向こうには私の相棒が写っている。


「エダ? ……違う。お前は、誰だ?」


 あ、声もちゃんと聞こえるんだ……。

 コウキが私の異変に気付いたようだ。なんだか、まるで違う世界を覗き見ているかのようで、不思議な気分。


「忘れたのか? 以前、旧王都の遺跡で殺しあった仲だろう。もっとも、お前は後方に居ただけだったがな」


 これは私の声。けれど別の人の声。

 窓の外にいるコウキが、一歩後ずさる。


「お前、戦乙女エルルか!?」

「いかにも。お前達の行動はエダ()の視界からいつも見ていた」


 今の私は、どんな顔をしているのだろう?

 いつもの私とは似ても似つかないのだろうか、それとも変わらないのだろうか。


「エダは、彼女はどうした?」


 コウキが私の心配をしてくれている。こんな状況なのに、それがちょっと嬉しい。


「心配するな。彼女は私にとっても大事な半身。無下にあつかったりはしていない。……それこそ今までの私と同様になっているのなら、この会話も聞いているかもしれん」


 その通り。

 ばっちり聞こえている。この戦乙女が何か余計なことを仕出かさないか、私が監視しないと!


「まったく、優柔不断な半身が居るとこちらも苦労する。

 いいか。先ほどのエダの話は、私から彼女へと提案したものだ。元々のヒルドはお前達も見たとおり、偏屈なただの餓鬼だが……あの原初の巨人だけは本物だ。ただの人間無勢にあの巨人をどうにかするなど、不可能にもほどがある」


 コウキはエルルを警戒しながらも、きちんと話を聞いているようだ。


「だが、私とお前ならば不可能ではない。さきほどのエダの提案は、その準備だ」


 私、いや戦乙女エルルのその言葉に、相棒はしばし考え込むように沈黙した。


「もし、お前が俺の血を吸ったら。彼女は、エダはどうなる?」


 そして、ぽつりと問いを投げかける。


「どうにもならん。言っただろう、エダと私は二人で一人。この私が今こうして出てこられたのも、彼女の同意があってのこと」


 しぶしぶですけどね。しかも、最後はかなり強引でしたけどねっ!


「今の我らの目的は一致している。あの大馬鹿が作り出した、原初の巨人を止めることだ」


 戦乙女エルルの視線が、コウキを強くとらえる。


「なぜお前がそんな面倒を背負うんだ? エダの身体を手に入れたなら、お前からすれば人間なんて放っておいても構わないはずだ」


 確かに。もう一人の私、戦乙女エルルに人間の国を守る理由がない。なんなら、ミズガルズ王国が蹂躙され、滅んでしまってからでも問題はないはず。


 相棒の質問に、今度はエルルがしばらく沈黙した後に答えた。


「私達、9人の戦乙女は長姉たるブリュンヒルデを(おさ)として4大陸を管理する監視者の任を受けている。それぞれの大陸に二人づつ。このミズガルズ大陸の担当は……、一人はこの下にいるヒルド。そしてもう一人は、私だ」


 ええっ? でも、彼女は。


「知っての通り、私はつい最近まで表に出ることができなかった。したがって、これまではヒルドがこの大陸を管理していたのだ。……それが、ヤツの怠慢のせいでこのザマだ」

「……俺が来てから、それなりにこの大陸を見てきたつもりだけど、そこまで混沌とはしていなかったような?」


 コウキの反論に、エルルは少々嘆息してから口を開く。


「お前はこの世界に来訪してから日が浅いからな。この環境が通常だと思い込んでも無理はない。だが、お前も一度思い知ったはずだ。西、東。過去に双方の大陸に存在する軍事国家の戦火に巻き込まれたにも関わらず、今だこの国の民は一致団結できずにいる」


 それは先のエディル侯爵の一件から端を発する、貴族派、新王派の対立を指摘しているのだろう。人間族の欲の深さは人間自身が良く知っている。


「今。私の中に居るエダが貴族派、新王派の対立を指摘したがな。その影響がこの戦いにも影響しているぞ? お前も見ただろうが、あのような巨人が攻めて来ているというのに迎撃に出ている兵はシグルド王の配下である新王派の兵のみだ。どうせ、この戦いで新王派の力を削ぎたいなどと、悠長なことを考えているのだろう」


 ここに来るまでに視界にとらえたシグルド王の軍勢はおよそ、5000ほど。


「確かに。国家の窮地だというのに、あれがこの国の全軍だとは思えないな……」


 いちいち、エルルの言葉は真実を突いている。どうやら彼女は現状の把握を共有させることにより、コウキの信用を引き出す算段のようだ。


 それに……。


「それにだ。お前達にはもう一人、救わねばならぬ人間がいるのだろう? そう、あの中に」


 チラリとエルルの視界が地上へと押し寄せる原初の巨人へと移った。そう、あの中には戦乙女ヒルドに身体を乗っ取られたトキハちゃんが居る。彼女は騙されただけの被害者でありコウキの、そして私にとっても大切な友人だ。彼女を養父(ちち)の二の舞にさせてなるものか。


「具体的に、救出のプランはあるのか?」

「ある。というより唯一の可能性として、この手段しかないと言うべきか。ヒルドは私と同じように、すでに人間の身体に同化してしまっている。普通の手段では、ヒルドごと静かに眠らせてやる他ないだろう」


 コウキは黙ってエルルの言葉の先を待っている。現状を打開する手段を、彼女しか持っていないと分かっているからだ。


「ならば、トキハという人間以外を全て滅するしか他に手段はない。そのためにも、お前の血が必要なのだ」


 黙って彼女の話を聞いていたコウキが、決心したかのように顔を上げた。私の見ている窓がゆっくりと上下にゆれる。


 コウキの覚悟を戦乙女エルルが認めた瞬間だった。


「……私の前に立て」


 戦乙女エルルが私の相棒に前へ進み出るよう告げる。それと同時に、エルルが腰から一本の剣を引き抜いた。


「それは、地竜の剣? 確か、王城に安置されていたはず……」

「人間族の王が天命の丘でエダに渡していたのだ。そんなことより、動かずに黙っていろ。これより先は、此方にとっても慎重に慎重を期さねばならないのだ」


 エルルの意識がゆっくりと、地竜の剣を相棒の首筋に沿わせる。エルルの中に居る私にも緊張が走った。覚悟していたとはいえ、彼女がその気になればコウキの命はない。

 私の意識が戦乙女エルルにも感じられるように、彼女の意識も私の中へと入ってくる。


 もちろん殺意はない。それどころか、料理人が食材にナイフを入れるかのような慎重さだ。


 エディル侯爵邸でやったように、コウキが私の血を飲む分には危険は少ない。コウキの宝珠竜という竜神の存在が、私達の戦乙女より上位の存在だからだ。


 逆に私達がコウキの血を吸うということは、より上位の存在へと昇華することを意味する。

 人、一人ひとりに器があるように、天界の存在である戦乙女にも器がある。自分の身の丈にあった昇華をしなければ、逆に身体が持たないのだ。


  でも、まぁ。そんなことは今はどうでも良い。


 なぜなら、そんなことは私が(・・)気を付ければいいのだ。


 私がっ!


(おいっ!!)


 普段ならこんな口調で人に話しかけることはない。けど、こればかりは許すわけにはいかない!!


(なんだ。今、良いところなのだから、邪魔はするな)

(邪魔っ? 邪魔と言ったなっ?)

(言った。それが?)

(それが? じゃない!! お前、お前。私を差し置いてコウキの首に接吻(せっぷん)するつもりか!?)


 これは私にとっては大問題だ。いくら身体は私のものだと言っても、他の、他の誰かに、相棒の操を渡してなるものか!!


(変われっ! これは私の役目だっ!!)

(お前にも教えただろう? 私達が吸われるなら問題ないが、神々の降臨した姿である宝珠竜の血は神聖なる聖遺物。接種する量を間違えでもしたら自滅するぞ?)

(そんなことはどうでも良い!!)

(どうでもいいって……。……お前等、私が見てない間にそんな関係になっていたのか? 女性同士で……?)


 戦乙女エルルの軽蔑に満ちた意思が、私に伝わってくる。私は顔を真っ赤にしながらもなお、譲らない。


(コウキは身体は女性でも、心は男性だ! いつも私にそう言っている!!)


 私の滅茶苦茶な言葉に、彼女はわずかに口元から息を漏らした。コイツ、笑ってる……!


(お前のような、変質的な同性愛好家に任せるわけにはいかんな。私がやろう)

(ふざけるなっ!! 私がやるっ!!)

(私だ)

(私だっ!!)


 必死になって目の前にある窓へ手を伸ばす。人格を交代するやり方なんて知らない。それでも、相棒の貞操は私が守るのだ! 


「えっと、あの……。エダさん? エルルさん?」


 自らの首筋から垂れる血液を間近に、いつまでも動かない私達の顔を摩訶不思議そうに見下ろすコウキ。


「コウキ。動かないで下さいね?」

「宝珠竜。動くなよ?」


 私の口から連続して同じ意味の台詞が飛び出す。その異様な光景に、コウキの足が一歩、後ずさった。


「あの、とりあえず。一度、落ち着かない?」


「イヤですっ!」

「断るっ!」


「だから、なんで一つの口から二人の言葉があああああああああ!?」


 もはや、どちらがこの身体を動かしているかも分からない。それでも、確かに私の口は相棒の首筋からながれる血液を感じ取った。


 その瞬間。


 規則正しく植林された防風林の中で、


 黄金と白銀の入り混じった光の柱が立ち上った――――。

最後までお読み頂き有難うございました。

どうしてウチのヒロインは緊迫した場面でもこうなっちゃうんでしょうか。

普段は冷静なくせにコウキ君が絡むと暴走しちゃうんですよねぇ。


次回から最終局面です。

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