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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第1章 断罪の聖女
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第25話 決戦の時

第25話をお送りします。

お盆中に1章を書き終わるつもりだったのですが、暗雲立ち込めてきました。。。。


 戦乙女ヒルドが化けた原初の巨人ユミルの動きは、実に緩慢なものだった。

 ただし、その巨体ゆえに一歩一歩が途轍もなく広い。まるで城に足が生えて歩いているかのようだ。

 もし、この巨人が王都シグムントにまで到達したら、どれほどの被害を被るのかなど考えたくもない規模となってしまう。


 迅速に対策を講じる必要があった。


「エダ殿!」


 戦乙女の長姉ブリュンヒルデと対峙していた私のところに、シグルド王が足早に近づいてきた。事態は一刻を争う。なんとしても、あの巨人の歩みを止めなければ……!


「私のことならお気になさらず。ヒルドから聞いたのでしょう? 私達、戦乙女は媒体となる下界の肉体を持たなければ貴方達に干渉できません。残念ながら私にふさわしき身体は今だに見つかっておりませんし……。今の貴方達が気をとめなければならないのは、私ではないでしょう」


 竜神像の上でくつろぐブリュンヒルデは、楽しそうに見世物を見物するかのような口調で私に話しかけてきた。

 諸悪の根源が何を言うか! と盛大に文句を並べたい私だったが、確かに今はあの巨人の対処が最優先だ。


 それに無念極まりないが、今の私達ではブリュンヒルデには手も足もでないだろう。ここは最悪の敵が増えないことを信じる他ない。


「……覚えておきなさい。貴方はいつか、私が滅します。かならず、……必ずだっ!!」


 この戦乙女とて、私達の敵には違いない。私とコウキの平穏な生活を、誰にも邪魔などさせるものか。


「……楽しみにしていましょう。さあ、私に見せてみなさい。貴方という人間と堕天の宝珠竜とやらの力を」


 私の必死の誓いを、戦乙女ブリュンヒルデは微笑みながら受け流した。これが、今の私とブリュンヒルデとの差だ。


 だが何時の日か、対等の舞台に立って見せる。私はそう自分自身に誓いを立てると、未来の宿敵に背をむけ走りだした。



「シグルドっ! コウキの容態はっ!?」


 ブリュンヒルデに背を向けた私は、相棒の介護を続ける王直属の兵士の元へと駆け付けた。その場にはもちろんシグルド王の姿もある。


「……大丈夫。おかげ様で大分回復したよ。それより、とんでもない化け物が出てきたな」


 私の声に答えたのはシグルド王ではなく、脳震盪となって意識が混濁していた相棒自身だ。今は衛生兵である女性兵士の手によって手当を受けている。私は問答無用で相棒の頭を奪い取り、自分の膝へと乗せた。


「……はい。アレは戦乙女ヒルド自身がこの世界を創生した巨人[原初の巨人]を自らの肉体に降臨させた姿です」


 私の言葉に、周囲の兵士から恐怖の入り混じったどよめきが起こる。無理もないと私も思う。実在したかも不確かだった神話に登場する巨人が今、自分たちの前に居る。

 矮小な存在である人間(俺達)に、立ち向かうことなど出来るのか。とでも言いたいのだろう。だが、それでもさすがは王直属の兵として選抜された男達だ。この場から逃げだす者など誰一人としていなかった。


「……策は?」


 短く、端的に。

 シグルド王の声が私に投げかけられる。本当なら私が知りたいくらいだと、言い返したい。だが、今はそんな意味のない会話をしている暇もない。


「……一つだけ、可能性があるとするならば。ヒルドの額にある[聖宝珠]です」


 [聖宝珠]

 天界の戦乙女が額に持つ、戦乙女の証。

 私の額にもかつてあったこの宝珠は、自らの聖気を貯蔵する役目も持つ。逆に言えば、あの巨人を形作る聖気の心臓部でもあるはずだ。


 しかし。


「ならば、話は単純ではないか。エダ殿がコウキ殿の背に乗って、破壊してくれば良い」


 シグルドから至極全うな作戦が提示された。


「それが困難だから悩んでいるのです。そんなことは戦乙女ヒルドとて百も承知。今の奴には、これまでに無いほどの聖気によって作られた障壁が展開されているでしょう。これまでのようにヒルドが展開した聖気に乗り移った魂ならいざ知らず、あの原初の巨人はヒルド自身の身体によって形成されている」


 おそらく、(ヒルド)にとっても背水の陣なのだ。

 でなければ、この最強にして最後の切り札を切るのにあれほど躊躇(ためら)いはしない。


 私達の間に重い沈黙が流れた。一刻も早く何とかしなければ、あの原初の巨人は王都を蹂躙(じゅうりん)してしまう。そんなことは分かっている。だが、今ここに居る誰もがあのような規格外と応対した経験など無いのだ。


 この長く、重い沈黙の破ったのは一人の口からでた高い声だった。


「それでも、やってみるしかないんじゃないか?」


 その声は、私の太ももを枕にしている相棒からの声だ。


「コウキ? ……話を聞いていましたか?」

「もちろん。出来るかもしれない策がある。でも、出来ないかもしれない。

 なら、やってみて駄目なら次の策を考える。分かりやすいだろ?」


 そう言って、ニカッと私の相棒が微笑んだ。

 なんという単純な思考なのだろう。この戦にはミズガルズ王国全土の民の命がかかっている。

 それでも「やれるだけのことを、まずやってみよう」とコウキはそう言っているのだ。

 私の脳裏に今までの人生で出会ってきた様々な人たちの顔がよぎる。


 ユミルの街で私達と一緒にを暮らした人々。食堂の大将、看板娘のエリさん。


 ブオリの村で出会ったパンちゃん。


 王都にいるであろうジャーリ伯爵邸の皆。友達のタリナ。


 コウキと一緒に冒険をしていたヴェルちゃん、ケイカさん。


 今も東の砦で姉であるヴェルちゃんの帰りを待つ、ウルズちゃん



 みんなの命が、私達の両肩に乗っている。

 そして、あの原初の巨人の中で苦しんでいるであろうトキハちゃん。


 私達は皆の希望とならなければ、いけない。


「決まりだな。我らは王都へと戻り、万が一に備えよう。……この国の未来、貴殿らに託す」

「……そんな晴れやかに言わないでくれますか? ……重すぎます」

「なに、もし失敗したら俺がヴァルハラで国民全員に土下座しようではないか」


 その国王の言葉に、わずかながらも兵士の中に笑いが起きた。まったくこの人は。もしかすると先代のシグムント王以上の賢王となるかもしれない。


「エダ、手を貸して?」


 私の足元で相棒の手が私に伸びてくる。その言葉の意味は明白だ。


「コウキ……。もう動いて大丈夫なのですか?」

「大丈夫だよ。それに今のエダには翼がないだろ? 俺無しでどうやって原初の巨人の上まで行く気だ」


 その言葉に、私は無言で相棒の顔を包み込んだ。

 相棒の純白の肌から鱗が浮かび上がり、犬歯が牙となる。背中の肩甲骨が飛び出し、膜を張る。お尻から尻尾が伸び、身体を支えた。


 なんとも頼もしい相棒の姿が一瞬で出来上がった。


「さあ、行くぞぉ! のった乗ったっ!」

「……はいっ!!」


 私は相棒の背に颯爽(さっそう)とまたがり、原初の巨人に向けて飛び立った。


 私の中に懐かしい感触が蘇っているという事実に、その時はまだ。


 気づくこともなかった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 その姿は、一言で言い表すなら圧巻であると表現するのだろうか。


 当然といえば当然なのだろうが。私の人生17年の間に、これほどまでに巨大な生物と相対した経験などない。


「ああ、もう! デカ過ぎて、イヤになるぐらいデカいなっ!!」


 コウキが呆れかえるような調子で、苦言を呈している。だがまったくその通りだと私も賛同せざるを得ない。間近で見る原初の巨人の迫力は、私の想像を遥かに超えていた。


「コウキ、巨人の頭部へっ![聖宝珠]があるとするならソコです!!」

「がってん、承知!」


 相棒の首が天へと向く。狙うはただ一点。他の箇所をいたずらに削ったところで意味はない。勝負は一撃で決まる。私の全力の一撃が、この巨人に通用するかどうかだ。



 上空から見た原初の巨人ユミルは、まるで動く岩山のようだった。その動きは実に緩慢。だがこれは、この巨人があまりに巨大すぎるためにそう見えるだけだ。


 私とコウキは巨人の頭上を旋回しながら、狙いである[聖宝珠]のある個所を探していた。

 聖宝珠とは呼んで名のごとく、青白く光る宝石だ。

 人の肌に浮き出ていれば目立つことこの上ないが、岩石の表面にあるとなれば見分けるのも困難だ。巨人の肌である岩石の境目には、溶岩が通っているかのような赤い脈流がある。その脈流が放つ烈火の明かりが、更に聖宝珠の場所を判別しづらくしていた。


「もしかして、……身体の中にあるんじゃ?」


 相棒の不吉な発言に、私の背中から汗が垂れる。


「ま、…まさかぁ?」


 よくよく考えてみれば、自身の唯一と言っても良い弱点をさらけ出す馬鹿がいるだろうか? いや、ない。いくら子供っぽい下種な戦乙女ヒルドでも、そのくらいは考えるのではないだろうか。

 私達の間に不穏な空気が流れ始めた……。



 私とコウキの予想は半分は的中し、そして半分は外れていた。


「どうよぉ! アタシの最終兵器! ゴミ虫なアンタ達じゃ手も足も出ないでしょ? あハあははははっはハ――――!!」


 原初の巨人の顔にあたる場所。もっと正確に言えば額にあたる場所から、下品な笑い声が鳴り響く。

 まるで子供のような高い声と共に、戦乙女ヒルドの本体が姿を現していた。

 そして、その額に輝く聖宝珠。


 正に私達のターゲットだ。


 自ら自分の弱点をさらけ出した彼女に、私達の表情がピタリと止まった。


「どおぉ、どおぉ? 怖いでしょぅ? 怖いでしょうぉ!!」


 ヒルドの姿は上半身、正確に言えば腰の辺りまでが岩石の表面から飛び出るように現れている。


「ああ、怖いね。怖いから、……さっさと終わらせてくれよっ!!」


 ヒルドの会話に応じるふりをして、コウキが彼女に急接近する。だが、岩石の肌から一メートルほどのところで聖気の膜にはばまれた。


 私の血から得たコウキの聖気と、原初の巨人の聖気がバチバチと火花を飛ばす。


 その衝撃に驚いたのかヒルドは再び、巨人の体内へ隠れた。


「――チッ!」


 私の前からコウキの舌打ちが聞こえる。早く何とかしないと、もう王都まで距離がない!

 しばらくすると、ひょっこりとヒルドが頭だけを出して見せる。


「ちょっとぉ、驚かせるんじゃないわよぉ! ……まぁいいわぁ。蚊トンボみたく飛び回るアンタ達は後回し。見てなさぁい、あの人間達の居る街を、城を。粉々にぶっ壊してやるんだからぁ!!」

「やめろぉ!!」


 私達の焦りが加速する。


「んー……、いい顔ぉ。楽しいわぁ、ホントに楽しいぃ。もっと、もっと絶望した顔を、アタシに見せなさいよおおおおおおぉ!!」


 巨人の身体を手に入れた、戦乙女ヒルドの行進が止まらない。


「くそ、こうなったら足止めだけでもっ!」


 コウキが、海面へと首をむける。それと同時に(あご)が大きく広がり、自分の赤く染まった聖気を口の中に集め始めた。


 これは、先ほどもコウキが見せた[宝珠竜の核炎獄]だ!


 確かにこれで巨人の足を粉砕すれば、一時の足止めにはなるかもしれない。


 けどっ!


「コウキ。ダメッ! 撃っちゃダメです!!」


 私はその結末を想定したところで、慌てて背中から前へ、コウキの頭部にしがみ付いた


「エダっ!?」

「ダメですコウキ! たとえそれで足止めできたとしても。この山のような巨体が一気に海へ沈没したら、大津波が発生します!!」


 その大津波の行き先は、間違いなく王都だ。荒ぶる大波は、王都のすべてを飲み込んでもおかしくない。


「じゃあ、どうしろってんだ!! あの王都には伯爵低の皆や、マリーさんだって居る! このまま、見ているだけだなんて……」


 コウキの悲痛な叫びが木霊(こだま)するなか、私は必至に考えを巡らせていた。


 何かないかっ、何か。……何か!!


 あらゆる可能性を模索し、結果を思い浮かべ、却下する。


 私の中で考えうるすべての策が、却下され終わった頃。


 懐かしくも、憎らしい冷静な声色が、私の頭の中を駆けた。



 ――――教えてやろうか? あのヒルドの馬鹿を止める方法。













 ――――教えて、やろうか? 

最期までお読みいただきありがとうございます。

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