表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第1章 断罪の聖女
62/138

第21話 亡者の行進

お待たせしました。第21話の投稿です。

ブックマーク・評価してくださった読者様、本当に有難うございます。自分の作品を読み続けてもらえているというのが、モチベーションに直結しています。

 コウキの一閃が、わずかばかりとはいえ戦乙女の身体を覆う聖気の装甲を貫いた。


「……ハァ?」


 なんとも気の抜けた声が戦乙女ヒルドの口から洩れる。彼女自身、自らの身体に傷を付けられるなどと思っていなかったのだろう。心底何が起こったか分からないような表情で茫然としていた。

 だが、それも時間にすれば数秒の話。

 現実を受け止めた彼女の顔は、次第に怒りに囚われていった。


「アンタさぁ……。今、なにをしたぁ?」 


 本来ありえないはずの一閃。

 先ほど、コウキが評した戦乙女ヒルドの実力は掛け値なしの真実だ。今の私達には、彼女に髪の毛一本ほどの傷を負わせることは出来ない。それほどの絶対的な聖気量の差があるのだ。 

 だが、今のコウキの一撃は不可能を可能とした。不可思議な一撃だった。


「アンタみたいな畜生でも、血は赤いんだな?」

「……アぁ?」

「てっきり俺は、青が緑の血でも流れているかと思ったんだが?」


 そう挑発するコウキの身体にも異変が起きていた。


 赤く、まるで心臓のように脈動しながら点滅する竜宝珠。私はこの相棒の姿に既視感(デジャヴ)を覚えた。

 とは言っても思い出すまでもない。

 あの、大神殿で大司教モーズによって不当に拘束され、相棒が荒れ狂った。あの時だ。

 と、するならば今回もコウキは正気を失っているかもしれない。私は慌てて相棒に声をかけた。


「コウキっ!? ちゃんと意識はありますかっ!? コウキ!!」

「……だいじょーぶ。同じヘマはしないさ。マジギレしてるのは確かだけどな!」


 鼻息荒くしながらも、意外にも冷静な口調でコウキからの返事がきた。マジギレという言葉はよく分からなかったけれど、相棒が怒ってくれているのは感じ取れる。

 一先ず安心とばかりに私は大きく息を吐いた。


「私が言うのもなんですが、怒りに支配されてはいけません」

「ホントにお前が言うな! だな。でもまぁ、心配はいらない。アイツは絶対に許さない、エダ、行くぞ!!!」

「はいっ! ジャーリ伯爵の無念。娘である私が果たします!!」


 私達の意識が再び一つになった。

 たとえ、敵がどんなに強大でも、相棒と二人なら何とかなる気がするから不思議だ。


 そんな私達の視線の先には、イラついたように顔を伏せる戦乙女ヒルドがいた。右の手のひらで自分の顔を隠していても、感情が爆発しているのが見て取れる。


「……ムカつく。ムカつくムカつくムカつくっ!! 妹だと思って優しくしてりゃあ調子に乗りやがって!! ……き~めたっ。アンタは魂だけを天界へと連れていく。自分の姉の恐ろしさを思い出しなっ!!!」


 吐き捨てるように言い切ったヒルドの聖気が、動き出した。ヒルドの身体を覆っていた膨大な量の聖気が、一つ、また一つと分離し始めたのだ。

 白光の球体となった聖気、その数六十ほどだろうか。彼女の身体を守るかのように浮遊している。

 すると、戦乙女ヒルドは意外な方向へ声を発した。


「アンタ達っ! 聖女様が命令するよ……。今すぐ、……死にな!!」


 その声は私達へと向けられたものではなかった。


 その声の行き先は、地上の大司教モーズ。そして狂信的な神官達へと向けられたものだ。

 いくら聖女と崇めている存在だとは言え、いきなりそんな命令をされて即座に行動に移れる者などいない。特に大司教モーズは、自分の利益を最優先に考える俗物だ。


 だが、私の予想はあっけなく裏切られた。


「おおっ、聖女よ! ご命令通り、私共は神の身元へと馳せ参じます。どうか、どうかヴァルハラへと導きたまえ!!」


 大司教モーズをはじめ、その場にいるすべての神官達が懐から短剣を取り出した。そして、全員が規律正しく短剣を掲げると。


 自らの首へと、恍惚(こうこつ)な表情のまま、自らの命を差しだした。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 私達の眼下には、凄惨(せいさん)な光景が広がっていた。

 大司教モーズ、他五十名が一切の乱れなく、自らの首に短剣を突き刺したのだ。

 こんな光景は現実にはありえない。

 まるで任務に忠実な騎士が優秀な司令官の号令に従うかのように、全員が一斉に、自らの命を終わらせたのだ。


 その光景を見せつけられた私達は、声を出すこともできなかった。


 それでも状況は進んでゆく。


 自ら命を絶ったはずの大司教と神官達は、狂気の宿った笑顔を浮かべながら果てている。そんな彼らの身体から、何かが出てきた。

 それらは一様に、ある方向へと導かれるように集まっていた。


 そう、戦乙女ヒルドの居る方角へ。まるで魂が天へと昇るかのように。



「さあ……、いらっしゃい。アタシの可愛い子羊たち。アタシの愛と共に新しい身体を与えましょう」


 戦乙女ヒルドが凄まじく似合わない言葉と共に、自身の周囲に展開していた聖気の球を動かす。

 その聖球の中に、次々と彼らの魂が入っていった。


 そして、まるで卵が孵化(ふか)するかのように、彼らに新しい身体が、新しい命が与えられる。


「なっ、なんという事を……」

「……」


 私はそれだけを声に出すのが精いっぱいだった。コウキに至っては声にすらならない。


「これがぁ、アタシの権能ぉ。大神たるパパから与えられた戦乙女としての力、[亡者の行進]。下界から天界へと昇るすべての魂はアタシの(しもべ)となる」


 確かに。

 私を含め9人存在すると言われる戦乙女の使命とは本来、地上の魂を天界へと導くことだ。選別し、選択し。本当の勇者のみがヴァルハラへの道が開ける。

 だが、この戦乙女は。

 一時的だとは思うが、神へと捧げられるべき魂を自分の兵とすることができるのだ。


「さぁって……。アンタ達、さっき何て言ってたっけぇ? 二人で勝てる方法を考える? それぇ、今でも思いつくぅ?」


 戦乙女ヒルドの周囲には、彼女の聖気によって身体を得た神官達が浮いていた。もはや数の優位さえもない。しかも彼らから感じる力は、人間であった時の比ではない。それは簡易的ではあるが、完全な天使化だった。

 生ける亡霊となった神官達の手から再び聖球(ホーリーショット)が浮かび上がる。生前の彼等の聖球とは大きさも輝きも段違いだ。


「さあ、楽しいダンスタイムといきましょうかぁ? あは、…あはっははハハぁ―――!!」


 戦乙女ヒルドの享楽的な笑い声が発せられると共に、神官達は攻撃を開始した。


「コウキ――。避けてっ!」


 私は迫りくる銃弾に危険を感じ、相棒に声をかけた。だが私の指示に反して、相棒の身体はピクリとも動かない。


「コウキっ!?」


 もしかしてこれも敵方の新たな攻撃だろうか? 私の脳裏に最悪の状況が浮かび上がる。この状況でコウキまで動けないともなれば、今度こそ私達に勝機はない。


 しかし、私の心配は杞憂に終わった。


(大丈夫。俺にまかせて)


 と言う相棒の声が私の身体の中へ入ってきたからだ。


 次の瞬間。


 私達の視界は、数十もの聖球の光に包まれた――――。



 それは、私の意識では、かなり長い時間を聖球の光に包まれていたようにも感じる。そんな時間だった。

 が、実際には一瞬の出来事だったようだ。


 私が周囲の光景を目に取り戻した時、ただ一つを除いて何も変わってはいない。

 そう。戦乙女ヒルド、敵側には何の代わり映えもない光景が広がっている。


 変わったのは私達の方だった。


 相棒の頭部にある竜宝珠からの真紅の光が、まるで太陽のように発せられている。その光が、相棒の首を伝い、背を伝い。私の全身にまで及んでいる。


 私の視界が白光に包まれる瞬間。コウキは無数の聖球(ホーリーショット)に向けて口を開いていた。

 その状況から、私は直感的に相棒が何をしたのか気づいたのだ。


 コウキは、私の相棒は、聖気を、喰った。


「何が楽しいダンスタイムだって? こんなんじゃステップの一つも踏めねえぞ?」


 今度は戦乙女エルドが驚愕する番だった。私達を包みこむはずだった聖球は、すべて相棒の胃袋に収まっている。赤、金、銀。様々な光が、色とりどりの色彩が、私達の身体を走っていた。


 それまで、狂ったように笑っていた戦乙女ヒルドの表情が、ピタリと固まる。


「……あぁ? アンタ、ナニモンだ!?」


 冷酷な笑顔から表情が消え、やがて憤怒へ。

 まるで人が変わったかのように、彼女から余裕が消えた。だが同時に、何かに納得したような表情で口を開いたのだ。


「あぁ、あー。……アタシもねえ。分かっては、いたんだわ。この下界に竜として存在してるってことは、元々は天界で君臨していた神々のどなたかってこと。アンタ、天界じゃ何て呼ばれてたんだい?」


 コウキが、天界の神様?


 確かに、コウキは天から流星のように降臨した宝珠竜だ。それは荒廃の島で目撃した私自身がよく知っている。

 天界の神々が、下界へと降臨する際に竜となることも知っている。

 でも、一緒に過ごすうちにそんな意識も無くなっていた。だって、コウキはとっても、色んな意味で人間らしかったからだ。

 知識としては知っていても、自分の相棒が神様だなんて思えなかった。こんな戦乙女を送り出した連中と、一緒の存在だなんて信じたくもなかった。


「さぁてねぇ……。それは俺も知りたいとこなんだわ。俺はウチの相棒とは違って、身体の中に別人格が存在したりはしないんでね」


 コウキはそう言うと一旦、口を閉じた。そして、再び口を開く。


「俺の方こそ聞きたいね。俺みたいな、聖気を喰らえる神様ってのは天界に居るのかい?」

「……」


 戦乙女ヒルドからの返答は無かった。

 もちろん、私の知識にもそんな規格外な神様なんていない。

 分かっていることは、一つだけ。


 私の跨っている相棒は、たとえどんな存在であろうとも、私の相棒である。


 ――それだけだ。


 そんな私をよそに、私の相棒は更なる一手を放とうとしていた。


(エダ。ちょいと一発、デカいのを撃つ。バックファイアで吹っ飛ぶなよ?)

(えっ? ちょ、あのっ? コウキ?)


 唐突すぎる警告を受けて、頭が混乱する私を置き去りにしながら、コウキの(あぎと)が大きく開いた。

 それと同時に、相棒の額で光る竜宝珠の輝きが更に増してゆく。


(エダの血をもらったおかげかな? それとも伯爵を殺したヤツへの怒りか。身体中から俺の頭へ叫ぶ声が聞こえるんだ。ヤツを 許すなってな!!)


 大きく開いたコウキの口の中へ、竜宝珠の光があつまってゆく。赤く、黄色く、そして白く。

 灼熱の炎が凝縮し、光となった時。


 私の相棒は、口の中の(かせ)を解き放った。


 [宝珠竜の核炎獄(かくえんごく)


 かつて、シグルド王へと向けられた、すべてを灰燼と化す炎熱の奔流。

 だが、この熱さはあの時の比ではない。あまりの熱量に、そばに居る私はただ、相棒を信じて目を閉じる他なかった。


「なっ!? ……マジかよ!? おい、お前等! アタシを――――」


(遅せえっ!!)


 もはや私の視界は赤と黄色と白の世界に染まっていた。

 その中でコウキの短い叫び声が聞こえた瞬間。


 この世の終わりかと思えるほどの轟音と、赤く染まった地獄の光景が、私を待ち構えていた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

よろしければ、評価・感想お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=196299250&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ