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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第1章 断罪の聖女
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第20話 戦乙女ヒルド

お待たせしました。

第20話をお届けします! 少々残酷な描写が含みますので苦手な方はご注意を。

書き上げたそばから投稿していますので、もしかすると辻褄合わせのために後々改稿するかもしれません(汗

「アハはッ、……アハハハははははアアはははぁ――――!!!」


 彼女は、狂ったように笑いながら養父の首を天へと掲げていた.


 養父の首から流れ落ちる血液を、大口を開けながら自らの体内に導いている。


 実に美味しそうに、養父の鼓動を噛み締めるように。


 流れ落ちた大量の血液が彼女の身体を伝う。


 口から顎へ、顎から首へ、首から胸へ。


 真紅の流れは止まらない。


 元々純白だった神官服は、まるで地獄に流れる川のように線を辿り……彼女のすべてを、赤く、紅く。染め上げた。


 そんな身まみれの彼女に変化が訪れる。


 身体の中から。身体の外から。


 まるで生きた人間の血管かのように養父の血が流れ始める。


 脳天から、足のつま先まで。


 彼女の中を、外を。


 養父の血が駆け巡る。


 腕が伸びる。足が伸びる。


 髪が淡い紅色へ、瞳が灼熱の赤へ。


 すべての変化が終わった時、彼女はもはや、私達の知るトキハではなかった。


「ようやく……、ようやくここまで、きた!

 まったくこの小娘もさあ、けっこー手こずらせてくれたよねえ。大神の娘たる私達に人の神官ごときが抗えるはずもないのにさぁ……。

 ああぁっ……?

 ――――――ひさしぶりぃ、元気だったぁ? エルルちゃぁん?

 改めて自己紹介させてもらうねぇ? 私の名は、戦乙女ヒルド。

 このミズガルズ大陸を管理する戦乙女の一人でぇす!

 よろしくねぇ?」


 戦乙女ヒルド。


 この戦乙女は、近所の猫を見つけたかのように。


 養父の首を抱えながら、 


 ひどくゆがんだ笑顔で、


 私に話しかけてきた。


「………………………………………………」


 私は、その光景を、現実だと認識できなかった。


 頭の中に、幼い頃の思い出が去来する。


 私の誕生日に、ぬいぐるみを満面の笑みで買ってきてくれた養父。剣を習いたいと言い張り、複雑な表情をしながらも付き合ってくれた養父。巫女になると王都を出た時、寂しそうな顔で見送ってくれた養父。コウキを連れて来た時、昔と変わらず暖かに迎い入れてくれた養父。


 これが報いというものなのだろうか。


 人殺しには相応しい報いだとでもいうのだろうか。


 赤子の私を十七年も見守り、育ててくれた養父。


 そんな恩人であり、愛する父親の最後を。私は、何も出来ずに見送ってしまった。


 私は……、私は…………っ!


「あ、あ。あ……ああああああ……アアアアアああああああああああああああああああああああああアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 私は相棒の背の上で奇声をあげていた。こんな声が本当に私の口から出ているのだろうか。

 視界がぼやける。うまく身体に力が入らない。胸が熱い。まるで心臓が引き裂かれるかのようだ。


「うっさいなぁ。たかだか人間を一匹、供物にしただけでしょ? ……ああ、それともこの人間ってエルルちゃんが食べる予定だったのぉ? だったらゴメンねぇ」


 そういうと戦乙女ヒルドは、手に持った養父の首を投げてよこした。私の胸の中に養父の首が納まる。


「けっこう壊れちゃったけど、まだ血はでるからお裾分けぇ。やさしいお姉ちゃんに感謝しなよぉ? あハハハハははは――――!!」


 胸の中に居る養父を見下ろす。なぜだか、とても穏やかな死に顔だ。だが、その表情が私の激情を更に加速させる。


「き、キサマアアアアアあああああああああああああああああ!!!」


 もう、何もかもが知ったことか。

 目の前に明確な敵がいる。


 養父の仇だ。ならば私の全てを籠めて、殺してやる!!


「あああああああああああああああああああああああっ!! ――っ!?」

「エダっ!! 行っちゃダメだ!!!」


 拘束の魔の手は信じられないところからやってきた。

 激情に身を任せた私を、自身の尻尾で巻きつかせて止めたのは最も信頼する相棒だった。

 相棒の信じられない行動に私は、思わず睨みつける。


「離せっ! 離してっ!! 養父(おじ)様の仇をとるんだ!!! コウキ! どうしてっ!!!」


 思わず右手にもった聖剣バルムンクの剣先を、私を拘束しているコウキの尻尾に叩きつけようとした時。

 コウキは再び、信じられない行動にでた。


「落ち着けぇ!!!!」


 なんと私の相棒は、あろうことか、私を海にむけて投げ飛ばしたのだ。

 今の私に翼はない。このままじゃ、私は地上の摂理に抵抗できることなく海に墜落する! 王都周辺の海は荒波で知られる名所だ。いくら戦乙女の身体を持つ私とて、ただではすまない。


「アハハハっ! なぁにぃ? いきなり仲間割れぇ?」


 上空からトキハちゃんの声色で侮蔑の言葉が聞こえてくる。


 落下する私の眼前に、一際大きな荒波が迫る。思わず眼を瞑ってしまった私は、荒波に晒されながらも海中に沈むことはなかった。


 何の事はない。私を荒海へ放り投げた張本人が、再び私を背に乗せたのだ。


 私の服や髪は、塩水でびしょ濡れになってしまった。


「コウキ、一体何を……!」


 なおも苦言を呈そうとした私に、コウキのギョロっとした視線が突き刺さった。


「ちょっとは、冷静になったか?」

「でもっ!」

「なったか!!?」


 私の耳にコウキの怒声が突き刺さる。


「……はい」

「なら、今度は冷静になってあの戦乙女、ヒルドを見てみろ」


 コウキが再び上空へと私を運ぶ。

 相棒に言われた通りに、にっくき仇を視界に捉えると。

 その、あまりにも膨大な聖気のオーラが私の身体に打ち付けるように伝わってきた。あれはもはや、聖気の化け物だ。私程度では掠り傷一つとしてつけることは不可能だろう。


「こ、これが。天界の戦乙女……?」

「一人じゃ、あっという間に返り討ちだ。忘れるな、お前は一人じゃない。俺という相棒がいる。考えるんだ、二人で勝つ方法を!」


 コウキが背に乗る私へ顔を向けて、そう諭す。

 ふと、コウキの口元が視界にはいった。口元に伸びる大きな牙の間から、血が流れていた。これはコウキ自身が、力を入れるあまりに噛み切ってしまった跡だ。

 思わず手を出そうとしてしまった私を、コウキはまたもやジト目で睨んでくる。


 明らかに「今やろうとしたことの結末が分かるか?」とでも言いたそうな顔だ。


 あ、そっか。私が顔に触っちゃったら人間に戻っちゃう。


 少しづつ冷静さを取り戻した私は、頭が回るようになってきた。


「あれが、完全に覚醒した戦乙女ってところか」

「はい。……ですが、まさかあれほどの化け物とは」


 私達はこれまで、三人の戦乙女と出会ってきた。


 戦乙女の長姉、ブリュンヒルド。

 私の分身たる戦乙女の末妹、エルル。

 そして、旧王都の遺跡で出会い、今目の前にいる戦乙女ヒルド。


 だが、私達にまともな戦乙女との戦闘経験は無いに等しい。これまではシグルド王や、ヴェルちゃん達が私達を守るために戦ってくれていたからだ。

 あらためて、目の前の完全体として降臨した戦乙女を見上げた。彼女を見れば分かる。


 今までの戦乙女達は、その力の、一割すら出していなかったという事実に。


「けど、以前のヒルドとはあまりにも力量が違いすぎる。別に隠す必要なんてなかったはずなのに、なぜ?」


 今までの彼女達は、積極的に戦闘に介入してこなかった。

 戦乙女の長姉ブリュンヒルドは常に私達に対して代役を立てていたし、今目の前にいる戦乙女ヒルドも旧王都の遺跡では、戦闘のほとんどをエダの中にいた戦乙女エルルに戦闘を託している。


「正解、教えてあげよっかぁ?」


 警戒していたはずの私達の前に、戦乙女ヒルドの顔面が突如として出現した。


「うわぁっ!?」

「……っ!」


 反射的に後方へ飛びずさる。そんな私達を笑いながら、彼女は口を開いた。


「私達、天界の戦乙女はねぇ。竜となることで下界に降臨できる神々の皆様とは違い、地上では実体を持たない存在なのよぉ。だ、か、ら。こうして触れ合おうとするなら下界の身体が必要となるのぉ」


 自らの胸を両手で抱きしめながら、エルドは語り始めた。


「それも、誰でも良いってわけじゃない。自分に適応する者の身体じゃないとダメなんだけどぉ、私の場合この子の身体が適応していたってわけ。前に会った時にこの子も気づいていたんでしょうねぇ。後方で待機したまま、私達には近づこうともしなかったしぃ。でもぉ……」


 そこで一度、口を止め。戦乙女ヒルドは歪んだ笑みを浮かべる。


「何を思ったか。この、トキハだっけ? この子ったらわざわざ自分から私のところへやって来たのよぉ! 私にも大切な友達を救う力をお与えくださいって! ちょっと礼儀正しい天使様をやればコロッと騙されちゃって。――身体を支配される瞬間のこの子の顔、可笑しかったわよぉ。アははハっ!!」


 もういい。


 これ以上、私の友人の声で汚い言葉を吐くな。私は問答無用で聖槍を投げつけようとした。


 けど、それよりも速く。


 コウキの翼が、はためいた。


 ――――ヒュン――――


 一瞬の斬撃。 


 私はおろか、完全体となった戦乙女ヒルドにも見えない瞬足の一撃。白銀の宝珠竜となったコウキの羽に生えた刃が、ヒルドの頬をかすめる。


「……もういい。黙れ」


 ヒルドの頬から一滴の血が垂れた。


「これ以上、俺の仲間の顔で、身体で。醜態をさらすなっ!!」


 コウキが激高する。


 仲間の威厳を、誇りを取り戻すために。


 額の竜宝珠が、真っ赤に輝いていた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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