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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第一部《ミズガルズ編》第1章 ユミルの街
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第4話 剣と聖遺物とドッキリと

第4話目をお送りさせて頂きます。

いきなり異世界に飛ばされたら何をしていいやら混乱するのが普通かと思いますが、早々にエダさんと出会って甲斐甲斐しく(精神的に)お世話してもらったお陰で、まだまだ心に余裕のあるコウキ君です。


あとちょっとで現代日本ではまず遭遇しない事件に巻き込まれますので、よろしければお付き合いください。


mikami

2019.5.1改稿

「ここが竜神殿です。少々お待ちください、今シスター長を呼んで参りますので」


 彼女はそう俺に伝え、先に神殿の中へ入って行こうとした。すると、いきなり後ろから声をかけられたのだ。


「あら、エダ。裏口からご案内するのではなかったのですか?」


 俺達が同時に後ろへ振り返ると、年配のシスターさんが買い物籠を脇に抱え神殿に入ってくるところだった。

 そんな年配シスターさんに、彼女は笑顔をもって話かける。


「お疲れ様ですシスター長。ええ、その予定ではあったのですが少々事情が変わりまして。正門から竜神様をお迎えしたのです」

「そうだったの。それで? 貴方の言う竜神様はどちらにいらっしゃるの? まさかまだ街の外なのではないでしょうね。それに其方の綺麗なお嬢さんはどなた?」


 まさか、隣にいる俺が竜神だとは夢にも思わないのだろう。当然だ、当の本人も自分が竜神だなんて思っていないし、ましてや今は金髪の女の子の姿である。エダが俺を紹介すると、彼女は俺の方へ体を向け跪いた。正直そんな仰々しい事はやめてもらいたいのだが、この場合は仕方ないか。俺はシスター長の前に立ち話しかける。


「初めまして、シスター長。俺の名はコウキ=ヴィーブル。今はこんな姿ですが、竜らしき者をやっています」


 とりあえず苗字を、オルムさんから教えてもらった種族名である[ヴィーブル]にしてみた。

 俺の自己紹介に彼女は「竜らしきではなく、まごうことなき竜神様です!」と憤慨している。俺はそんな彼女を(なだ)めながらシスター長に話しかけた。


「信じられないのも無理はありません。正直、自分自身そんな大層な存在だとは思っていないのですから、他人に信じろというのも無理でしょう」

「ええ。失礼ですが、私から見る分には普通の綺麗なお嬢さんにしか見えませんね……」


 とりあえずネタバレその1だ。

俺は頭に巻いていた手拭いの結びをほどき、取り去った。シスター長が悲鳴を抑えるかのように口に両手を当てる。

 俺の額には竜形態の時と同様、紅の光を放つ「竜宝珠」が輝いていた。



 何時までも驚いてもらっていても話が始まらない。俺はコホンとワザとらしい咳をしてから。


「とりあえず、どこか落ち着ける所へ行きませんか? そこでじっくりお話をお聞きしたいのですが」


 ここは神殿の入口だ。人の往来もそれなりにあるので自分の額をあまり見せるのもどうかと言うものだ。俺はすばやく頭に手拭いを巻き直して提案した。


「そうですね。中庭がありますのでそこでお茶でもいかがでしょうか? シスター長もぜひご一緒して下さい」

「ええ。そうですね、そう致しましょう。エダ、すみませんがお茶の用意をお願いできますか?」


 彼女はもちろんですと答え神殿の中へ入っていった。どうやらここからは、このシスター長さんが案内してくれるらしい。

 こちらへどうぞ。の言葉と共に歩き出すシスター長に俺は付いていった。

 神殿の中は街の規模からしても、そこまで大きい造りではないが荘厳な雰囲気が漂いとても静かだ。他にも勤めているシスターはいるのであろうが、皆自分の仕事に一生懸命で特に注目されることもない。

 そのまま、花々が綺麗に咲く花壇に囲まれた中庭に連れられてきた俺は白い鉄造りのテーブルセットに薦められた。

 彼女がお茶を持ってくるまでどう空気を持たせようかと思案する俺に、シスター長は笑って話しかけてくれた。


「エダがご迷惑をおかけしなかったかしら。ごめんなさいね、真面目な子なのだけど少々思い込みの強い所があって。その額の宝石は誰に付けられたの?」


 ここまで来る間に落ち着いたのだろう。優しい声で話しかけてくれた。

 想像よりずっと度胸のある、やさしいシスター長さんのようでホッとした。

 それに、どうやらシスター長は俺が竜神様という存在だということを信じてはいないらしい。まあ本人が自覚していないのでそれでも構わないといえば構わないのだが、彼女が変人扱いされるのも可哀想だしちょっとフォローしておく。


「この額の宝石は元々付いていた物です。本当は別の姿だったので俺自身うまく現状を把握しきれてはいないのですが、彼女が嘘をついていないのは本当ですよ」


 [竜宝珠]に関しては守護竜さんに秘匿せよと言われていたのも忘れてはいない。だがこのシスター長さんなら大丈夫だろうと俺は判断した。

 俺の言葉にシスター長はなおの事、訳がわからないといった表情だ。


「これ以降のお話は彼女がお茶を持って来てからにしましょう。それに此方からもお聞きしたい事があります」


 俺の言葉にシスター長は分かりました。とだけ言い、質問に答えてくれるようなので色々聞かせてもらうことにした。

 この竜神殿での信仰についてから始まり、エダから聞いたこの世界の事情を再確認し、現状この人間族の大陸はどういう情勢になっているかなど。

 この辺りはかなり長々と聞いてしまったので、その都度説明させていただこう。

 俺とシスター長がこの世界での世間話に花をさかせていると、エダがカチャカチャとティーセットを持ってきた。この世界のお茶はよく知らないが中々に良い香りだ。


「お待たせしてしまい申し訳ありませんシスター長、コウキ様。」

「こちらこそありがとう。シスター長と楽しく会話が出来て俺も嬉しいよ」

「ええ。最初は貴方の話を聞いて心配していたのだけれど、杞憂(きゆう)でしたね」


 にっこりと微笑みながらエダはお茶を入れ、差し出してくれる。俺はお茶を一口飲んで話しっぱなしだった喉を潤わせてから本題に入った。


「さて、彼女も来た事だし先ほど話しの途中だった俺の事について話しましょうか」


 そう言って俺は席を立つ。この中庭の先には遊びに来た子供達が使うであろう広場があった。そこならこの綺麗な花壇を荒らさずに済むはずだ。

 まるでドッキリを仕掛ける人のような悪戯心を内に秘めながら歩き始めた俺を見つめつつも、彼女に進められるままシスター長も一緒に歩き出す。

 砂遊びをする為に造られたであろう砂地にて、俺と彼女は並び立った。

 彼女の目を見ると微笑みながらも見つめ返してくれる。先ほどと同じように両手を差し出してくれる彼女に俺は顔を差し出した。

 その瞬間、俺の体はまた変化していた。異世界に降り立った時の、先ほどまでの飛竜の俺に。


「……おお、神よ」


 恐怖なのか、信仰なのか。中庭に出現した俺の竜の姿に、シスター長は跪きながらも祈りを捧げる。そのまま動けないでいるシスター長を彼女が立ち上がらせてあげたのを見届けてから、俺は口を開いた。


「改めて自己紹介した方がいいでしょうか?初めましてシスター長。俺の名はコーキ=ヴィーブル、異世界からの来訪者です」


 後日改まって神殿を訪問した時にはシスター長に言われたものだ。「あの時は世界の始まりか、はたまた終わりかを覚悟しました」と。



 しばらくして、ようやく落ち着きを取り戻したシスター長を席に座らせ三人でゆっくりとしたティータイムを再開した。竜の姿のままではお茶が上手く飲めないので人間の姿だ。

 初めて頂いたが、彼女の入れてくれるお茶は美味しい。テーブルの中央に置かれたカゴからお茶菓子も頂いてみた。これは現代風に言うならマフィンだろうか、口の中に甘い蜂蜜の味と柔らかいスポンジの感触が最高だ。

 俺が舌鼓を打っていると、シスター長は先ほどの出来事が信じられないような顔でこちらを見続けている。このままでは話が進まないので俺から話しかけてみた。


「シスター長。お聞きしたい事があるとおっしゃっていましたが?」

「そ、そうですね。取り乱して申し訳ございません、コウキ様」


 すっかり言葉使いが変わってしまったシスター長だったが、自分のすべき事を思い出したようだ。


「失礼かもしれませんが、貴方様は本当に竜神様なのでしょうか?」


 俺の隣で彼女はうんうんと首を縦にふっているが、それに習う事はできなかった。

 自分が神様だなんて、とても思えなかったからだ。

 もし神様なのだとしたらもうちょっと神々しい姿になっているだろうし、俺をこの世界に転生させた誰かもそうしていると思う。


「俺は自分が神様だなんて妄想は持っていません。この世界に来るまでは本当に普通の人間だったんですからね。彼女は俺の事を竜神様だと信じて疑わないのですが、俺の方こそお聞きしたかったんです。あの姿を見ても竜神様であると思いますか?」


 俺の言葉にシスター長は黙り込んでしまった。色々と頭の中で考えているのだと思う。

 しばらくしてシスター長は顔を上げた。その顔にはある種の決意のようなものが見て取れた。


「もしかして、ではありますが貴方様が竜神様かどうか確かめる手段があるかもしれません。私に付いて来て下さいませんか?」


 シスター長はそう言い放ち席を立った。



 シスター長に続き俺達も神殿の奥に向かっていた。ここはとても栄えた街ではあるが竜神教の総本山という訳でもない。俺を竜神であると断定できる物がここにあるのだろうか?


 たどり着いた場所は礼拝堂だった。

 おそらくは毎日信者の皆さんが祈りを捧げているのだろう。数多くの席が並んでおり中央には俺には似ても似つかないほど立派な竜の彫刻が神々しく置かれている。西洋の教会のような荘厳な雰囲気がそこにはあった。

 シスター長は竜神像に近づき、腹の辺りを押し込んだ。するとそこだけ奥に沈みこみ、そこから大きな棘のような物が厳重な透明の箱に包まれて出てきたのだ。


「これは聖遺物。この大陸を生んだとされる母なる竜神様の体から生えていたとされる(トゲ)です。これがあるからこそ我々はこの神殿が聖なる神殿であると言えるのです」


 そういえば西洋でも教会それぞれに聖遺物を所有することで、正式な教会となることができると映像で見た事がある。この世界もそういう事なのだろう。

 

「触らせてもらえるのですか?」

「本来ならばとても許可を出す事はできないのですが……」


 それはそうだろう、国宝級の一品だ。

 シスター長は懐から鍵を取り出し箱の鍵を空けた後、聖遺物の横に陣取った。

 俺が何か不審な事をしようとした場合の対処だろう。

 俺はゆっくりと聖遺物に向かって近づいてゆくと……。


「……え?」

「おお……」


 最初はぼんやりと、そして徐々にハッキリと聖遺物が光り始めたのだ。隣から二人の感嘆の声が聞こえたが、俺の意識は別な方向に向かっていた。

 額の竜宝珠が熱い。まるで何かと共鳴しているかのような感触だ。今まで感じたことのない感覚だったが、不思議と嫌悪感は覚えない。


 そして、かすかにだが声が聞こえたような気がする。


 ――――選別じゃ。受け取れぃ。


 その声は世界樹の麓で会話した、地の守護竜オルムの声のように感じた。


(オルムさん?)


 返事はない。

 その代わりに何かが手に収まる感触がした。ずっしりと重い金属の手ごたえだ。

 その光はやがて細長い棒のような物に変わっていき、


 俺の手に一本の剣が握られていた――。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 神殿を出た俺達は大通りを歩きながら、街中の宿を目指していた。シスター長は神殿に滞在してもらって構わないと言ってくれたが今現在、神殿の中はちょっとした騒ぎになっているので一度間を空けた方がいいと思ったのだ。

 まあその張本人が俺なのだが、あのままあそこにいたら竜神像ではなく俺に向かってお祈りしそうな勢いだったのだ。逃げ出してよかったと思う。

 どうやらオルムさんが彼女と繋いでくれた糸というのは、人間に変身する能力らしい。

 シスター長からもお供も申し出されたが、彼女が「私で十分です。しっかりお世話致しますのでご心配なく」と言ってくれたので、彼女に案内してもらっていた。

 それに折角この世界に来て最初の街だし、ゆっくり見て回りたかったのである。

 神殿に向かった時も思ったが本当に色々な人種がいる。

 人間しかいない世界から来た俺には非常に新鮮で目に楽しいのだが、なぜかチラチラと此方を往来の人達の目線がこちらに向けられている。


「なんか周りの人達の目が痛いんだけど、なにか変かな? 俺達」


 確かに見た目は美少女だが中身はいい年の男である。なにか仕草に違和感があるのかもしれない。

 俺が気になって同行者の彼女に尋ねてみると笑って答えてくれた。


「みんなコウキ様を見て驚いているんですよ?」

「俺?」

「はい。コウキ様があんまりにもお美しいので」


 思わず俺は「うへぇ」と変な声をだしてしまった。

 言われてみれば男の視線の方が比率が高い気がする。


「俺から言わせればエダさんの方がよほど女性らしいと思うけどな」


 言葉使いも男だし女性の作法なんて知ってる訳もない。こんな外見だけのオトコ女に何を期待するというのか。

 何気なく言っただけだったのだが、隣の彼女は顔を真っ赤にしてしまった。

 慌ててしまった俺は、ちょっと気まずい空気になってしまったのを払拭しようと話題を変える事にする。


「そういえば、この聖遺物から出てきた剣。俺が持っていていいのか?」


 先ほど聖遺物から出てきた剣は、現在俺の腰に納まっている。

 信者の人達から見たらとても貴重な物だろうに、シスター長は俺に持っていてくれと言ってくれたので預かっているのだ。


「もちろんです。その剣はコウキ様のものですよ?」

「だって神殿の持ち物から出てきたんだから、この剣は神殿のものでしょ」

「違います。コウキ様が地の守護竜様から託されたのですから、それはコウキ様の剣です」


 彼女はキッパリと主有権は俺にあると断言した。


「まあ、シスター長も許可してくれたしな。有難く使わせてもらうよ」


 実際、登場の仕方は派手だったが特に変哲のない剣だ。色々試してみたが別に剣から炎が吹き出る訳でも、岩を豆腐のように斬れる訳でもない。

 それに、彼女の言う所の「最終戦争」も大事だがやらなければならない事がある。


「異世界に来てまで就職活動か」

 

 何時までも彼女の懐に頼るのは俺の沽券にかかわるのだ。

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