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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第1章 断罪の聖女
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第16話 天命の丘

3話連続投稿3日目!

遂に一章最後の舞台へとおもむくエダさんとコウキ君。

果たして二人は伯爵を救い出せるのでしょうか?

今回もよろしくです。

「ちょっと長話しちゃったね。ようやくこの姿にも慣れて来たし、行こうか?」

「はい! 一刻も早くジャーリ伯爵(おじ様)を地下牢獄より助け出さないと!!」


 と、私は力強く言葉を返した。


 返したのだけど……。


「地上、大騒ぎになってるねえ……」

「……」


 そう。眼下の大騒動の原因は私達に起因する。

 大神殿の総力をあげた奇跡封じの結界を聖剣でぶった斬り、エディル侯爵家の天井に大穴を開け、満天の星空の下には巨大な白銀の竜となったコウキと、同じく白銀の聖気を纏った戦乙女姿の私が出現したのだ。


 もはや言うまでもないと思う。


「私達、これ以上なく目だってますね……」

「……」


 今度はコウキが沈黙した。まったく、当初の隠密行動とは真逆の状況に、思わず二人してお星様を見上げてしまうような事態だった。


「現実逃避していても始まらない。覚悟を決めよう」

「……そうですね」


 本当は見たくもない心境だったのだけれど、私達は呼吸を合わせるかのように再び視線を下へと向けた。


「ふははハハハッ。見ろっ! まるで人が豆粒のようだ!!」

「笑っている場合ですか……。そもそもなんです? その演技……」


 地上を目にした途端、私を乗せた相棒はバタバタと上下に羽ばたかせながら声を上げた。

 なぜか、相棒が変なテンションになっている。だがまぁ、私も目を覆いたくなるような現状が地上で展開していたのだから無理もない。


 とっぷりと静まりかえっていた深夜の王城。それがいまや、数え切れないほどの松明が地上を埋め尽くしている。真夜中なせいで人の顔までは此方からうかがい知ることはできない。けど、地上の兵士達の視線が私達に集中していることは、松明の火を見るより明らかだった。



「この状態では……こっそり大神殿に近づく事はおろか、コウキが跳ぶたびに大行列が追いかけてきますよ」

「……」


 そんな指摘に、私の跨る愛機は言葉もない。どうしたものかと頭を悩ませる私を置き去りにしてコウキが異変を見つけた。


「ちょい待った。エダ、あっちの灯りは何だ?」


 コウキの頭がふいに、真下の地上から大神殿の方角へ向いた。つられて私の視線もそちらへ向く。そこには真下の灯りの数と同じくらいの真っ赤な点がたくさん灯っている。


「あちらは、大神殿の方角ですが……私達の奇襲を警戒して先回りしているのでしょうか?」

「いや、あれは……。大神殿より更に奥だ」


 大神殿より更に奥ともなれば、該当する建設物は一つしかない。


「天命の丘? なぜあんな所に――?」


 しかも多数の松明が、まるで行進でもするかのようにゆっくりと移動している。それは大神殿から天命の丘への行進だ。


(――こんな真夜中に? なぜ……、異変が起きたから? ――私達が来たから!?)


 私の頭の中で最悪の想定が駆け巡る。その予想は、今。確信に変わった。


 あれは、――――死の行進だ!!



「コウキ!あの灯りへ向けて行ってください!!急いで!!!」

「わかった――!」


 大神殿より先は神聖な場所として一部の人間しか入ることを許されない聖域だ。眼下の兵士達の追跡が及ぶこともない。それに私には根拠のない確信があった。


 ――――あの中に、ジャーリ伯爵(おじ様)が居る!


 その場でホバリングしていたコウキの羽が一際大きく羽ばたいた。一度、フワリとその場で浮かぶ上がり、滑空体勢に入る。普通に跳ぶより落下スピードを生かしてムササビのように滑空する方がコウキは断然速いのだ。


「コウキ!! もっと、もっと急いで!!!」

「りょーっ……かい!!」


 私の声に呼応して、コウキはスピードを調整するために広げていた羽を畳んだ。空気の抵抗がなくなり、私の上半身に凄まじい風圧がかかる。少しでも気を抜けば吹き飛ばされそうだ。私は思わず、抱きつくようにコウキの背中に張り付いた。


「吹き飛ばされるなよっ!!」

「――っ!! はいっ!!」


 まるで、周りの空気をすべて置き去りにしているかのような速度だった。襲い掛かるように吹く風を片腕で防ぎながら前方を見れば、月明かりに照らされた竜神像が見えてきた。コウキは私を乗せたまま、文字通り矢のごとく飛び込んだのだ。


 ドゴォォォォォォン――――――――――!!


 一本の矢となったコウキは当たり前のように減速もせずに、上空から見えていた松明を目指して飛び込んでしまった。


 大きく開いたクレーター。

 周囲には大量の砂埃が蔓延している。

 その底、中心部に私達はいた。着地の衝撃で何回地面を転がったか分からない。


「ごぼっ!ゴホッ、ゴホッ……。幾らなんでも無茶苦茶ですっ!コウキ!!」


 ううっ、咳が止まらないうえに、口の中が砂でジャリジャリする……。私は鎧や髪に付いた砂埃を払い落としながら、自らの愛機に苦情を訴えた。


「思いっきり飛ばせって言ったのはエダだろぉ!? 加速する手段は分かってたけど、ブレーキと着地のこと考えてなかった……!」

「考えてください! 一番重要な項目です!!」


 思えばコウキは周囲の人々に配慮して宝珠竜の姿でいる時より、圧倒的に人間でいる時間の方が多い。

 人間の姿に比べ、宝珠竜の姿での経験が圧倒的に足りないのだ。

 この一件が解決した暁には、コウキとの飛行訓練を実施しなければと私は心に誓った。


「そんな事より、ここは……?」


 私達の激突により形成されたクレーターは意外に深く、底からでは周囲をうかがい知ることができない。それに輪をかけて、この砂埃だ。私達の視界はゼロと言っても間違いではなかった。


「とりあえず、上に出よう。エダ、乗って」

「乗ってと言われても、視界が悪くって……キャッ!?」


 エディル侯爵の館を脱出した時と同じくコウキは自らの尻尾で私の腰を巻きつけ、強引に自身の背中へと私を座らせた。

 そのまま羽を使わず、尻尾の反動をもって地上へ跳躍する。あまりの扱いの悪さに、またも抗議の声を発しようとした私だったが、


 目の前に飛び込んできた光景に、私は声を出すキッカケを失った。


 エディル侯爵邸上空からは無理だったけれど、現地に到着した今だからこそ解る。

 [天命の丘]の全景が。


「なぜっ? 以前にきた時とは地形が変わってる……?」


 確かに私は以前、この[天命の丘]へ来た。不当に投獄され、暴走してしまったコウキの真実を確かめるため竜神様に再び啓示を授かろうとしたのだ。

 その結果は散々たるものだった。真実を知るためにいった[天命の丘]で私は神々の使者たる戦乙女に天界の[竜宝珠]を埋め込まれ、戦乙女の末妹として覚醒したのだから。


 実はその時に私に埋め込まれた天界の竜宝珠、[聖宝珠]は今現在、私の額には存在しない。

 あの、先代ミズガルズ国王シグムントを自分の意思ではないにしろ刺し殺してしまった時に消えてなくなったからだ。まあもっとも、その事実に気付いたのは私が正気を取り戻した東の砦で、だったのだが。

 それ以来、戦乙女エルルの気配は私の身体の中では感じない。その事実と[聖宝珠]の関連性は定かではないが、戦乙女エルルが持っていったのかもしれないと考えている。

 だけど、これも私の勝手な想像だ。


 そんなことより、目の前の状況を把握しなければならない。


 今の私達は、天命の丘と大神殿の丁度中間に位置する場所に着地していた。

 愛機の背に乗る私の前方には前回と同じ、巨大な竜神像が月明かりを浴びて聳え立っている。その足元の祭壇も、それに至る階段も、何も以前と変わってはいない。

 以前とまるで違ったのは天命の丘へと至る道の方だった。



 大神殿から天命の丘へと至る道が――――ない。


「なんだこの道……、こんなところ、歩いて行けるのか?」


 いや、ある。


 あるにはあるのだが、あまりにも細かった。そして、道の下が大きく(えぐ)れていた。


 まるで自然が作り出した巨大な吊り橋だ。


 その、自然が作り出したあまりにも不安定な吊り橋は、人一人が通り抜けるのがやっとの幅しかない。少しでも足を踏み外そうものなら、遥か下の荒波にもまれて確実に命はないだろう。


 その、大自然が作り出した奇跡の光景に私は心当たりがあった。


「……未練落としの橋です」

「未練落としの橋……?」


 私の発した言葉にコウキが聞き返してくる。


「この世での役割を果たし[竜騎士の楽園](ヴァルハラ)へ至る際、下界への想いを捨て去る場所として信仰される神聖な橋です……実在するとは私も知りませんでした」

「それがなんで天命の丘へ続く道に?」

「わかりません。けど、予想はできます。もしかして天命の丘とは……、神からの啓示を受ける場所であると同時に、神のいる天界へ向かうための祭儀場でもある……?」


 天命の丘とは、このミズガルズの地で数少ない天界への入口となる場所。ならば[竜騎士の楽園](ヴァルハラ)への道となってもおかしくはない。そんな私の予想を、後方からの声が事実として伝えてくれた。


「正解だ。貴族や平民には知られていないがこの地は本来、王族の墓標として使われる聖地なのだ」


 その声は明らかに相棒とは違って男らしい低い声だが、私達にとっても聞き覚えのある声だった。

 かつて共に戦場を駆け、背中を預け、剣を交えた男の声。


「シグルド王」「シグさん?」

「――久しいな、二人とも」


 闇にまぎれるかのように漆黒のマントを羽織ながら現れたのは、現ミズガルズ国王シグルド。


 その人だった――。

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