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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第1章 断罪の聖女
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第15話 ニーベルングの加護と最終戦争

三話連日投稿、二日目です。

今回はコウキ君の新たな力と、最終戦争のお話。

地球の北欧神話とこの異世界は、どのような繋がりがあるのでしょうか?

今回も楽しんで頂ければ幸いです。

 王都全体を包み込むほどの光の中、その中心にいた私の視界は真っ白な世界に支配されていた。


 そんな私の腰にヒヤリと冷える何かが巻きつく。しばらくぶりの太く懐かしい感触に、私は何とも言えない安堵を覚えた。

 そのまま私の足は地を離れ、同じく冷たい感触をお尻に感じる。


 それは、間違いなく私だけの特等席。相棒の背中に相違なかった。


 久しぶりの空の風に私の銀髪が元気にたなびく。この相棒の席だけは他の誰にも譲る気はないし、譲りたくはない。


「う~~ん。久々に、空を、飛んだ気がするよ。人間の姿じゃ、この、感覚は絶対に味わえない、よね」


 私の座る背中の前方からコウキの声が聞こえてきた。やっぱり人間の姿の時に比べて宝珠竜の姿はしゃべりにくいのか、話しづらそうだ。


「……私も最後に乗ったのは、革命のために王城への突入した時以来でしょうか?」

「いやいや、王都から東の砦に逃げてきた時も乗せてたんだよ? 覚えてないだろうけど、落とさないように跳ぶのが大変だったんだから!」


 コウキはあえて軽い口調で話している。ジャーリ伯爵(おじさま)を早く助けなければと、気を急く私を落ち着かせようとしてくれているのだろう。私は心の中で相棒のやさしさに感謝した。


「それにしても、以前のような金ピカになるかと思ったらギンギラギンになっちゃったなぁ」


 コウキが長い首を上下左右に振って自分の姿を確認している。確かに、私の血の影響だろうか? コウキの今の姿は以前の陽光のような黄金の鱗ではなく、磨きぬかれた鋼を思わせる白銀の装甲を身にまとっている。その白銀の装甲は刃のように鋭い皮膚で覆われており、特に翼の先に生えている鍵爪が、長く鋭い大鎌のような刃となっていた。

 一方の私も上空に上がった瞬間に[戦乙女の鎧](ヴァルキリーアーマー)一式を顕現し、すっかり臨戦体勢だ。

 例え戦乙女でも、白銀の宝珠竜(コウキ)の一撃には注意しなければならないだろう。私はコウキの翼にはなるべく近寄らないようにしようと、心に決めた。


「コウキ。身体に何か違和感はありませんか?」


 以前、ユミルの街で私の血を舐めた時点では戦乙女として覚醒してはいなかったし、ごく少量だったためコウキの身体には変化がなかった。なので、実質的に私の血を大量に摂取したのは今回が初めてとなる。私の血に邪まなモノは混ざっていないとは思うが、コウキの体調が心配だった。


「いや? すこぶる快調だよ。地の守護竜様の竜宝珠を受け継いだ時にも感じたけど、身体中に力がみなぎっている気がする。けど……」

「……けど?」

「なんだか、前回とは身体をめぐっている力の種類が違う気がする。なんというか、前と違って血が高ぶっているというか興奮しているというか」


 そう言うと鼻から豪快に呼吸し、空を飛びながら身体をくねらせている。自分の身体に異常が無いか確かめているようだ。


「大丈夫ですか?」

「うん。大丈夫すぎて、このまま全力でミズガルズ王国中を飛び回りたい気分だ」

「流石にそんな暇はありませんよ?」

「分かってるって。冗談、じょーだん」


 コウキのその言葉に、私は一先ず安心だと息をついた。なにせ、何もかもがぶっつけ本番の連続なのだ。そろそろ、こんな綱渡りのようなやり方はどうにかしなければとも思う。

 そんな今後の事を考えていた私に、コウキは爆弾を落としてきた。


「とりあえず、頭の中にポッと浮かんだ能力はコレなんだけどね?」


 というと、私の騎乗する宝珠竜の相棒は、何やら新しい力を披露してくれるようだ。

 コウキの身体からあふれ出す霧のような光が、私の身体に集まってくる。


 ――なんだろう?


 身体が軽い。

 まるで、今は無いはずの翼が再び生えてきたかのようだ。

 それと共に、自分の心が高揚しているのが実感できる。


 まるで、今の私ならどんな試練でも笑って乗り越えられそうな。


 そんな自信と気力に満ち溢れているのだ。そんな身体の状態に、私は覚えがあった。


 これは、まさか――。


「これは……っ。[ニーベルングの加護]?」

「えっ? 何々? 心当たりあるの?」


 私の呟きにコウキが食いついてくる。


「はい。今、コウキが私に使ったのは竜神教の神官が賜る加護の一種[ニーベルングの加護]又は[戦神の加護]とも呼ばれるものに近いと思います」

「なんか、名前からして大体効果の想像はつくけど……どんな加護なの?」


 どうやら[ニーベルング]の名はコウキにも聞き覚えがあるらしい。


「主な効果は[戦意向上]です。騎士や兵士から戦場での恐怖を取り去り、狂戦士として戦わせるための……禁忌の加護です」


 私の声が沈みこむのを、コウキは敏感に察してくれたようだ。


「禁忌か……。そうだよね、恐怖を忘れさせるってことは戦争の機械になるってことだもんねぇ」

「正にそれです。人にとって恐怖とは自己を守る防衛本能のようなものです。それを取り去るというのは殺戮(さつりく)の道具になるのと同義ですから……」

「いくら戦争とはいえ、人を辞めてしまったら魔物と変わらない……」


 コウキの言葉に、私は重くうなずいた。


「しかも、この権能は身体能力の向上効果まであるようです。とても身体が軽い……。推測ですが、一般の兵士でもコウキの力があれば一昼夜は戦い続けられるでしょう」


 それは正に機械であり、兵器だ。


 私達の間で、……重い空気が流れた。

 そんな中、コウキが口を開く。


「この世界が、俺の元いた世界の神話に似ているって話は前にしたよね?」

「――はい」

「この世界で言うところの加護なんて不思議な力は無かったんだけどさ、ある天才的な音楽家が神話を元に[ニーベルングの指環]って歌劇を作ったんだ。その曲は勇壮で、勇猛で……戦地へ向かう兵士を鼓舞する楽曲として、勝利した敵国から演奏を禁止されたこともあるんだけど」


 どんな曲なのかは聴いたことの無い私には想像も付かないが、人々を勇気づける曲だったのだろう。だが、コウキの言葉には続きがあった。ただ単にコウキの元居た世界を紹介している訳ではないのだ。


「その曲目の中には、エダのような[戦乙女](ヴァルキリー)が登場して[神々の黄昏](ラグナロク)へ向かうシーンがあるんだ」

「――っ! ……」


 元々、この世界に[最終戦争]なんて言葉は伝わっていなかった。

 私が神からの啓示を受けて発覚した未来を、コウキは前から知っていた?


「……コウキの世界での[最終戦争]とはどのようなものだったのですか? ――結末は!?」


 果たして、それを聞いて私はどうしようと思ったのか。まったくの別の世界の出来事、しかも神話として語り継ぐほどの太古の物語。そんなものが私達に関係するとは到底思えない。けど、それでも。私は自分が神から受けた命が一体何なのか、……それが知りたかった。


「……」


 コウキはしばらくの間、沈黙した。彼女の様子からしても決してハッピーエンドで終わったとは考えにくい。

 やがて、コウキはゆっくりと口を開いた。


「巨人スルト・ロキと、神々との大戦。結末は……、無い」


 ――Nichts(ニヒツ)


  ――無。


 結末は何もなかった。何もかも、残らなかった。何もかも、消え去ったと。


 コウキからの回答はある意味、私の予想通りで、決して認めたくない現実だった。


 私達の住む、この世界も……。全てが消え去るのだろうか?



「なぜ……。今まで教えてくれなかったのですか?」


 思わず責める口調になってしまった私は、自分を恥じた。そんなことは分かりきっている。この心優しいコウキが、そんな残酷な結末を口にできるはずがなかったのだと。だからこそ、この世界の救済という大儀にここまでついて来てくれたのだ。


「……誤解されたくなかった。考えたくなかったし、この世界では違う結末になると信じたかった。それに、俺の知る神話とこの世界は、違いがありすぎる」

「それは、どんな……」

「エダやマリーさん、ジャーリ伯爵。ヴェルやケイカやトキハ。ヒトと呼ばれる種族の繁栄。それは[最終戦争]が終わった後に栄える人々なんだから」


 本当にコウキの世界の神話通りならば、そもそも私達ヒトはまだこの世界に存在していない。

 コウキは、ぐるりんっと長い首を大きくひるがえし、私を見た。


「これは、あくまで俺の世界での神話、……物語だ。エダの生きるこの世界でそんな結末になんてさせない、させたくない。まだ、時間はある。何よりこの世界には俺達が、居る。ゆっくりと、この世界の真実を確かめよう」

「……ええ。コウキ、貴方が降臨してくれて本当に良かったです」


 私は両手を伸ばすと、彼女の竜の頭をしっかりと抱き締めた。

明日、日曜日にもう一話投稿します。

気分は週間連載(笑

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