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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第1章 断罪の聖女
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第8話 幼き日の思い出(前編)

エダとタリナが友情を育み、そして壊してしまうお話。

子供って自覚がないまま、人を傷つける言動をしてしまうものだと思います。(経験談

「失礼致します侯爵閣下、お茶をお持ち致しました……」

「うむ」


 ……ギリッ。

 ちくしょう、ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう畜生!!


 私の入れたお茶を、目の前の男が偉そうに飲んでいる。

 いっそ毒でも入れてやろうかと何度思ったか数え切れない。しかしこの現状でこの男が倒れたら、間違いなく私が糾弾されるだろう。


「まだまだ、田舎臭さが抜けない茶を淹れておるな。まったくもって使えない秘書よ」

「……申し訳ありません」


 奥歯を噛み締めながら頭をさげる。別に喉なんて渇いていないのだろう。せっかく淹れた私のお茶も、半分も飲まずに冷ましてしまう。

 この屋敷に連れて来られて一週間。


 私はこの男。エディル侯爵の秘書として、労働という名のイジメを受けていた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 本当は思い出したくもない思い出だった。


 私が赤子の頃にジャーリ伯爵に拾われ、六年が経過した時だった。それまでの私は養父に憧れ、養父の後をずっと追いかけていた。

 今でこそ、好々爺ぜんとした人だけど、この頃は現役の騎士。それも猛将と名高い騎士だったのだ。毎日のように部下の騎士達を連れて帰り、私の稽古相手を務めてくれる騎士の皆が私は大好きだった。


 正直、養母マリーさんは私の練習する姿を見ては、淑女(しゅくじょ)としての教育を優先すべきだと口すっぱく言ってくれていた。が、私が楽しそうに剣を振る姿を見て、溜息を付きながらも優しく見守ってくれている。


 そんなある日、養父の部下の騎士が私にこう話しかけてきた。


「エダちゃんは国立騎士養成学校に入らないの? ……もったいないよ」と。


 実は養父と養母は、この話題を意図的に私の耳に入らないようにしていたらしい。可愛い一人娘が軍人への道を進むことを望まなかったのだろう。

 今の私ならば、両親の気持ちは理解できる。だが、その頃の私は憧れの養父のようになりたいという考えしか頭の中になかった。


「騎士養成学校に行きたいです!」


 私は養父の書斎へ直談判しに突撃した。かかったお金は将来必ず返すから! と。

 だが、別にお金が無かったとかそういう話ではない。養父はただただ、幸せな一生を送ってほしかっただけなのだ。

 それが初めは護身術を見に付けさせようと考えていただけだった娘が、いっぱしの騎士になるために訓練を開始したのが想定外だったようだ。

 実は私が稽古に疲れはて寝てしまった後に散々、養母にカミナリを落とされていたらしい。


 私のどうしても、というお願いについに両親は折れた。

 六年後。

 私が十二歳になって学校を卒業した後に花嫁修業を開始する。という条件を元に、私は国立騎士養成学校に入学を果たした。

 それからの五年は実に充実した生活を送れた。何も剣の腕だけではない。騎士としての礼節や振る舞い、将来騎士団に入団する時の心構えなど、厳しく教え込まれた。

 時には苦しくもあったが、私は楽しかった。この先に養父のような憧れの騎士像が待っているとなれば迷うこともない。


 友人にも恵まれた。女だてらに騎士課程に進んだ私に、神官課程だったタリナは優しく接してくれた。


「将来、私が騎士になったら。私がタリナを守るね!」

「なら、私はエダの傷を癒すために神官になる!」


 校庭で布を敷き、一緒に寮母さんが作ってくれたお弁当を食べた時に誓い合った。

 そんな青春の一ページも、私の大切な思い出となった。


 事件は私が騎士養成学校の最後の年となった、十一歳の春に起きた。

 それまでの私は、騎士になるためにひたすら剣の腕を(みが)いていた。それと同じようにタリナは神官になるために、竜神教の歴史を学び、奇跡を使いこなせるように祈りを捧げる毎日。

 そんなある日、タリナが昼食の時間になっても校庭にやってこない。不審に思った私は、普段入ることのない学校内に併設された教会へと足を踏み入れたのだ。

 そこは普段、私が剣の修練に明け暮れるような訓練所とは違う、清廉(せいれん)な雰囲気に包まれていた。


 そんな教会の中で、ただ一人。


 タリナが竜神像にむかって祈りを捧げていた。

 これは後から知った話なのだけど、その時タリナは唯一、神の奇跡に目覚めない落第生として他の生徒から誹謗中傷を受けていた。今年がこの学校に在席できる最後の年。なんとしても竜神の祝福を受けたかったタリナは追い込まれていたのだ。


 当時の私はそれに気付けなかった。あまりに幼く、あまりに短慮で、あまりに彼女の気持ちを理解していなかった。


「も~~! 何時までお祈りしてるの? お昼休み終わっちゃうよ~?」


 私の声に気付いたタリナは、申し訳なさそうに振り向いた。


「エダちゃん……。ごめんね? 私だけ居残りだって、司祭様に言われたの」


 その声は、今となっては思いつめた人の声だと理解できる。


 だが、私は、やってしまった。


「じゃあ、私も一緒にお祈りしてあげる! 竜神様、タリナちゃんに答えてあげてください!」


 その瞬間、私達の周囲が白銀に包まれた。

 私がふざけ半分で言った言葉に、竜神様が、答えてしまった。しかも、その対象がタリナではなく、よりにもよって私へと。


「きゃああああああ!」

「えっ!? なにこれっ!? なんなのよ、も~~!」


 教会の屋内に竜神像から放たれた光が充満する。隣のタリナがあまりの光量に悲鳴をあげた。困惑する私。時間にすれば一分もないだろう。竜神像から放たれた白銀の光はすべて、私の体内へと宿ったのだ。


 その後、教会は文字通りの大騒ぎとなった。

 私達二人しか居なかった教会には神官課程の司祭様方が集まりだし、私を質問攻めにしたのだ。その質問に私は正直に答えた。自分の保護者はジャーリ伯爵とはなっているが、赤子の頃に城門前で拾われた孤児であるということ。竜神教徒ではあるが、毎週のミサ以外お祈りもしていなかったこと。

 話を聞くにつれ司祭様達の目がまん丸になっていくのが、ちょっと面白かった。

 司祭様達は神官としての修行もろくに積んでいない私が加護を受けたこと以上に、あの閃光のような加護の量が信じられなかったらしい。到底、一人の人間が受け入れられる量ではなかったらしいのだ。


 結局、私が司祭様達から解放されたのは夜遅くになってからだった。


 それからというもの、私はやりすぎだと言いたくなるくらいもてはやされた。

 剣と竜神の奇跡を扱える、真の神官騎士が天界から降臨したのだと。その時、竜神が私に与えた加護は癒しの奇跡と武器創造の奇跡。自ら戦い、自ら癒す。新時代の騎士が誕生したのだと。


 しかし、私のその力は。


 タリナとの誓いを裏切るものでもあったのだ――――――。



 一連の出来事がようやく収束にむかったある日。

 私は信じられない知らせを受けた。


「……うそ。タリナが……学校をやめる?」


 私は実践訓練の授業中なのにも係わらず、六年間生活している寮へととってかえした。今日のタリナは授業にも出て来ていないらしい。ならば寮にいると思ったのだ。


 私の予想通り、タリナは自分の部屋で荷造りをしていた。バタンッ!と勢いよく部屋の扉を開けた私に、タリナは悲しそうな視線で出迎える。


「タリナ! 学校を辞めるなんて、どういうこと!?」

「言葉の通りだよ。私は竜神様の加護を受けられなかった落第生。そんな私にもう居場所はないの……!」


 そんな馬鹿な話があるもんか。だって、騎士課程の私だって加護をもらったんだよ?この六年間、頑張って祈ってきたタリナが受けられないなんて信じられない。


「私達の約束はどうするのよ! 私を守ってくれるって言ったじゃない!!」


 瞳に涙を溜めながら言った私の言葉に、タリナは悔しそうに答える。


「もう私なんていらないでしょ? ……エダは天才なんだから。私なんて居なくても自分で治癒の奇跡が使えるじゃない!!」


 そのタリナの今までの想いを振り絞ったような悲痛な叫びに、私の思考は停止した。そして私は思い知った。


 私は自分でタリナとの友情を捨ててしまったのだと……。そしてこれが学校で話したタリナとの最後の会話となった。


 その日、タリナは両親に連れられて――――――――去っていった。





 それから。

 騎士養成学校の最後の一年を、私は誰とも話さずに授業に没頭した。教師達から特別扱いされるようになった私に、友達と呼べるような人間関係が出来ることはなかった。


 曰く、「特別扱いされてて偉そう」「無表情、鉄仮面」「他の人を見下している」などなど……。


 最終学年においての、クラスメイトが採点した私の性格評価は最悪だった。

 けど、それでも良かった。別にいまさら友達が欲しいとも思わないし、今の私に遊んでいるような時間はない。

 私は、タリナの分も、頑張らなくてはいけないのだ。


 勉学と訓練に集中していれば、時間などあっという間に過ぎ去ってしまう。そんな、夏の到来を予見させる暑い日だった。

 急遽、私達の教室の受け持ちだった先生が変更になったのだ。突然の出来事に周囲のクラスメイトがザワザワとざわめいている。


 だが正直、私にはどうでも良かった。

 周りがどうであろうと、私は私。養父が認めるくらいの神官騎士に私はなるのだと。もう授業で教わることもない。私には通常の授業が免除され、自己鍛錬の時間が許されているくらいなのだから。


 ガラッ! っと教室の扉が開いた。どうやら新任の先生が来たようだ。男はざわつき、女子は黄色い悲鳴を上げている。年齢は二十を少し過ぎたくらいだろうか。なんとも貴族らしい整った顔立ちだったが、その奥底にドス黒いモノが見えた気がして気味が悪かったのを覚えている。


 それが、私とエディル教官。後のエディル侯爵との最初の出会いだった。

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