第4話 夢見の巫女
書きたいことが多すぎて中々前に進みません^^;
本当はもっとあっさり終わらせて新展開を始める予定だったのですが……。
こうなったら、習作であることを盾に書きたいことを書きなぐってみようかと思います(笑
ケイカさんの言葉を聞いた瞬間、私は玄関のドアを壊しかねない勢いで飛び出した。
今の私に戦乙女の翼はない。頼れるのは己の足のみ。それでも間に合わせてみせる。コウキの力を借りればもっと早く到着できるだろうけど、竜の姿のコウキは目立ちすぎて隠密行動には向いていない。王都に到着する前に大騒ぎになってしまい救出どころではなくなってしまう。
「叔父様……マリーさん……!」
私は大切な家族を守るため、王都での処刑に間に合わせるために。自らの足に全ての力をこめようとした。
「ったく! ちょっと待たんかっ。この猪突猛進娘がああああああああああああ!!!」
「ちょっ、ちょっと! きゃあああああ!」
私の足にケイカさんの家の柱から生えてきた太いツル植物のツタが絡まってくる。ケイカさんお得意の精霊魔法による罠[スネア]だ。前方に向けた勢いを殺しきれなかった私は、顔から地面に突っ伏した。
「まったく……! 人の話は最後まで聞きなさいってマリーさんから教わらなかったの!? アンタ一人が行って助けられるものなら私がとっくにやってるわよ! それとも何? アンタは王国と全面戦争する気!?」
土まみれな顔を上げると、コウキとはまた違った色合いの金髪をなびかせたケイカさんが呆れた顔を隠しもせずに立ちはだかっている。
「……でもっ! でも!!」
「人の話は最後まで聞きなさい! まあ……万事解決ってわけにはいかないかもしれないけど、ただアンタ達を探すためだけに東の砦まで来たわけじゃないのよ」
ケイカさんが魔法の言葉を呟くと、私の足に絡まったツタが短くなってゆく。そのままケイカさんの家の中に引き戻されてしまった。
「まったくもうっ! お尋ね者が目立つ真似するんじゃないわよ」
「…………すみません。……でもっ!」
「アンタの気持ちも十分わかるわよ。でもあっちの立場もよく考えてみなさい。王国側からすれば伯爵やマリーさんはアンタ達をおびき寄せるための重要な人質なんだから、そう簡単に処刑したりなんてしない」
理屈の上ではそうだ。だけど今、この間にも二人がどんな目にあっているかと思うと気が気じゃない。
「ケイカの言うとおり、今ここで俺達まで捕まったら、それこそ終わりだ。今は焦らずに考えるんだ。ジャーリ伯爵とシスター長を助ける方法を」
「……はい。取り乱してすみませんでした」
私は素直に頭を下げた。
いくら戦乙女の力が常人離れしているとはいえ、数の暴力にはかなわない。それに、あちらには私やコウキの天敵。魔剣グラムとシグルド王がいるのだ。この地上で唯一、戦乙女の肉体を滅ぼせる魔剣。私の天敵だ。
食堂兼リビングに置かれた大きなテーブルに集合した私達は、ケイカさんを中心にしてこれからの行動について話し合う。私やコウキが注目するなか、ケイカさんは重い口を開いた。
「私が東の砦に来たのはね、残念だけど、もはやこの国に私達の居場所がないからよ」
その原因を作ったのは私だ。申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになる。
「ならどこへ行こうっていうんだ? この世界に人間族の国はミズガルズしかないんだろ?」
「別に人間の国じゃなきゃ生きていけないわけじゃないわ。……王国の指導のせいか、竜神教の布教のせいかはしらないけどね。東の火の巨人の大陸も西の霜の巨人の大陸も、私達の何倍もの大きさの巨人がいるなんて考えてるのはこの国だけよ」
「へ?」
「え?」
そうなの?
騎士学校時代の講義では身の丈4~5メートルの巨人が支配する大陸だと教わっていた。
「そんな化け物がいる国に東西を挟まれてたら、この国なんてとうの昔に滅んでるわよ。ある程度ミズガルズに住む人間族でも抵抗できたからこそ、今日まで繁栄してこれたんじゃない」
「では東西の大陸にはどのような種族が居るのですか?」
「それを教える権限を私は持ってないのよ……。まっ、行けば分かるわよ。どっちにしろ東の火の巨人の大陸に私達は亡命するんだから」
知り合いの伝手もない私達が東の大陸に亡命なんて出来るのだろうか?だけど、ケイカさんの眼光は自信に満ち溢れている。
だが、その前に解決しなければならない問題があるのも事実だ。
「それに関してはヴェルに感謝することね。問題は……王都で処刑されそうになってるエダの家族をどう救出するか……よ」
「「う~~ん……」」
三人でテーブルを囲い唸ってしまう。
簡単に名案が浮かぶのであれば苦労はない。ケイカさんだって王都で出来る事は尽くしてくれたようだ。それでも難しいからこそ私達が居るという希望を掛けて東の砦にまでやってきたのだから。
「うなっていても名案なんて浮かびはしないわ。まず、現状戦力を確認しましょう」
腰を上げてテーブルに手を置き、ケイカさんが建設的な意見を出してくれる。
「私の武器はコウキも知っての通りの弓よ。それと精霊魔法、これは基本的に自然の力を借りて行使する魔法ね」
先ほど私の足を止めた魔法もツタ植物を一気に成長させるというものだ。基本的には森や草原など、自然が多い環境で真価を発揮する。
「旧王都の遺跡で使った重力魔法は? あれも自然魔法なのか?」
初めて戦乙女化したエダと戦った際に、ヴェルの必殺の一撃を命中させるために足止めとしてケイカが使用した魔法。その威力は天界の戦乙女をも行動不能にするというシロモノだ。
「あれも一応自然魔法の一種なんだけど……詳しく言えば自然と大地の混合魔法、私のオリジナルよ。でも「世界樹の重み」(ユグドラシルグラビティ)は大地に干渉させるための魔力が膨大に必要だから最後の奥の手だと思って」
一度あれを使ったら、スッカラカン。魔力なんて何にも残らないから、とケイカさんは両手を上げている。
「コウキは? あの黄金の飛竜にはもう変身できないの? ブオリ村で王国軍に使った黄金の波、あれがあればかなりの戦力だと思うけど」
「あれは堕天竜ミドガルズオルムの力をもらったから使えた力だ。正直あの戦争で勝てば一件落着だと思ってたからなあ……。ほとんどの力を使いきっちゃったんだ。今できることと言えば、数人分の人間の殺意と武器を消し去るぐらいかな」
それも人間の姿での話。黄金の宝珠竜の姿は燃費がそうとうに悪いらしく現状、空の有利を取るのは不可能。それほどまでにあの戦争で勝利を収めたのはコウキの力あってこそだった。
「万が一のためにちょっとは残しておこうとは考えなかったの?」
「無茶言うなよ……。500対50000、あれだけの絶望的な戦力差でどうにかするには出し惜しみなんてしてられるか!」
ケイカさんの苦情にコウキが憮然と反論している。二人の歯に衣を着せない会話がちょっとうらやましい。短い間ではあったがコウキがこの東の砦で築いた人間関係が垣間見えた瞬間だった。
「まあ、それでもコウキの身体能力は常人とは比べ物にならないほどだし。まったく戦力にならないわけじゃないか」
「すっげえ上から目線だな……お前。まあ事実だけどさ、この地竜の剣も人間相手じゃ普通のロングソードだし」
ブツブツと顔を下に向けながら落ち込むコウキ。コウキの愚痴をサラリと受け流したケイカさんは最後に私の方に顔を向けた。
「エダさんは? 戦乙女としての力は今、どうなってるの?」
「私は……」
二人の目線が私に集まる。
私は自分の現時点での能力を二人に開示するために口を開いた。
冷静に現状を把握し、この先の打開策を練る。ケイカさんの沈着冷静さに、私は心から感謝した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「結局、誰かが王城に潜入して伯爵とシスター長の居る場所を探さなきゃ話にならないわね」
「そりゃそうだけどさ……、俺達の一件で王城は厳戒態勢をしいているんだろ? どうやって忍び込んだらいいのやら」
「相手はシグルド王です。先の戦で私とコウキの能力も熟知していますし、なにか突破口が無ければ……」
私達三人はリビングのテーブルを囲んで現状の難題に対する突破口を探していた。中々、名案が浮かばない。部屋の中に重苦しい空気が支配した。
ふとコウキが頭を上げると、この家に入ってきた人間が一人見当たらないのに気付いた。
「……そういえばウルズちゃんは?」
ずいぶん長い時間、話し込んでいたらしい。窓へ視線を向けると、雲ひとつない青空が赤く染まってきていた。
作戦会議に夢中になっていた私達は、いつの間にかウルズちゃんの姿が見えないことに今更ながら気付いた。玄関方面は私の座った位置から見渡せたので、いくら会議に夢中になっていたとしても一人で外に出たということはない。
ならばどこへ行ったのかと思えば、台所から食欲をそそる臭いがただよってきたのを私のお腹が感知した。
グウ~~。
その食欲を刺激する臭いに、私のお腹が分かりやすく反応してしまう。慌ててお腹を両手で隠した私に、眼前の二人は今にも笑い出しそうなニヤニヤ顔を浮かべていた。
「う~ううう……」
自業自得ではあるのだけどイジメっ子が二人も目の前に居る前での失態で、恨めしそうな顔をかくせない。
そんな時に台所から大皿をもったウルズちゃんが登場した。
「お話は終わりなのですか? 材料が小麦と調味料しかなかったのですから、パンしか作れなかったのです! でも、これでも十分お腹はふくれるのです!」
確かに部屋に充満する香ばしい香りがなんとも言えないほど魅力的だ。すっかり空腹に支配されてしまった私は改めて隣に配置された食卓のテーブルに移動し夕食の準備を開始した。
コウキとケイカさんはまだ王城の地図を眺めながら議論を交わしている。正直、涙が出るほどに感謝の気持ちでいっぱいになる。
私は一人で晩御飯造りをさせてしまったウルズちゃん、そして真剣に救出作戦を練ってくれて居る二人をねぎらうべく、せめてお茶の用意だけでもしようと席をたった。
水がめから水を汲み、台所でパンを焼いた残り火を利用してお湯を沸かす。ケイカさんは紅茶好きらしく、食材が無い代わりに色々な茶葉が棚の中に置いてある。
そういえばコウキと紅茶を飲むのはユミルの街以来かもしれない。ここはさっぱりめの茶葉にしよう。私がお茶の準備を済ませ戻ってくると、ウルズちゃんが食事の準備を整えてくれていた。将来ウルズちゃんをお嫁さんにもらう殿方はミズガルズ王国一の幸せものだ。
「コウキ、ケイカさん。一旦休憩して夕食にしましょう。せっかくウルズちゃんが焼いてくれたパンが冷めてしまいます」
「りょ~かい。しっかし、当たり前なんだろうけどネズミ一匹入り込めないほどの厳戒態勢だな。いっそ上空から強行突入するか?」
「やめてよね。私に自殺願望はないわよ? しかもお城の中は魔法無効化の結界が張られているわ。おそらく竜神殿の神官達の仕業ね」
ケイカさんが持っていた王城の地図とにらめっこしながらコウキが不穏な発言をしている。気持ちはうれしいが誰かの犠牲を必要とするような救出作戦は承諾できない。いっそ私が囮になって……なんて作戦を提示したら二人に頭をはたかれたのだ。
「ほえ~。これが王様のお城なのですか?立派なお城なのです!」
私の横からウルズちゃんが顔をのぞかせて地図を見ていた。
「えっ? ウルズちゃん地図よめるの?」
コウキが意外そうな表情でウルズちゃんの顔をのぞいている。大人ならともかくウルズちゃんはようやく10才になろうかという少女だ。冒険者家業をしている姉のヴェルならともかく、この年齢で地図から建築物の構造を読み取れるのはすごい。
「はいっ! ウルズの体が完治したら一緒に冒険に行くってヴェルねえと約束してるですから。そのために勉強してるです! ……あれっ?これ……」
ウルズちゃんは何やら難しそうな顔をして王城の地図とにらめっこしている。どうしたのだろう?
「このお城……。ウルズの昨日の夢に出てきたお城なのです!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夢見の啓示。
確かに昔、ユミルの竜神殿で巫女として勉強している際にそんな記述があった。
私が受けた啓示とはまた違う。私の受けた啓示は3年後の未来、しかもひどく抽象的だ。ラグナロクと呼ばれる最終戦争が、いつ、どこで、どのように、起きてしまうのか一切分からない。
一方、ウルズちゃんが見た夢というのはなんとも、まるで今、上空から見てきたかのような詳細さだった。
実際、ケイカさんが城外から見てきた警備体制とウルズちゃんの夢は一致している。
しかもハッキリとは分からないらしいが、王城の警備がどのような思惑でしかれているのかも分かるらしい。
お城の外壁の外よりも内部に警備兵が多く配置されていること。これは私達がコウキの背に乗って上空から奇襲することを念頭に置いている配置だ。本来、王族の部屋はお城の最上部にあるが、今は人気がないとウルズちゃんは言う。むしろ地下へ行けば行くほど濃密になっているらしい。
これほどまでにハッキリとした口調で細部まで説明されると、もはや妄想や嘘の類とは信じられない。もしこれを前もって用意していたというなら、ウルズちゃんは生まれながらの策略家か詐欺師のどちらかだ。
「ここ。お城の裏門に雑用係の人が使う勝手口があるです。そこは人の気配がないのですが……何かイヤな感じがするです」
そう言ってウルズちゃんは眉をひそめた。ウルズちゃんの夢見を地図に書き込んでいたケイカさんは厳しい表情で口をひらく。
「おそらく……罠ね。ワザと進入しやすい場所を作っておいて誘いこもうとしているんだわ……。それなら私の見てきた他の場所が異常なほど厳戒だったのにも納得できる」
シグルド王はブオリの村での戦闘で王国軍の駐屯地に侵入し、コウキを助け出した手腕を重々承知している。もう変装しての人質奪回作戦は不可能だろう。……ならばどうするか。
「……ああっ! もう、みんなが早くたべないからウルズのパン冷めちゃったですよ!」
時間を忘れて考え込んでしまった私達に、ウルズちゃんが盛大な苦情をもらした。
「ごめんごめん……! ケイカ、エダ。まずは腹ごなしだ」
「……そうね。いただきましょっか、私も王都を脱出してから満足に食べてないの思い出したわ。行きましょうエダ」
「……はい」
正直、まだ地図に未練があるんだけど……。ウルズちゃんの好意を無碍にするのも申し訳ない。私は後髪引かれる思いで食卓についた。
「はいっ。これがペルーダさんの分なのです! たりるです?」
「ええ。十分です、ありがとうございます」
冷めてしまったパンをウルズちゃんがもう一度温めて食卓に出してくれる。あいかわらず料理上手なウルズちゃんは手際も実にいい。
「なによ、ペルーダって?」
ウルズちゃんが私を呼んだ名前にケイカさんが食いついた。そういえば、まだ私は奴隷のペルーダとウルズちゃんに自己紹介したままだっけ。
ここまで巻き込んでしまってはもはや偽名を使う必要もないだろう。私は席を立つとあらためてウルズちゃんに自己紹介をした。
「今まで騙していて本当に申し訳ありませんでした。私の名はエダ。エダ=ヴォルヴァ=ジャーリと申します」
ウルズちゃん自身を守るためとはいえ、私はウルズちゃんを騙していたことには違いない。ふかぶかと頭を下げた。
「えええっ!? ペルーダさんがホントはエダさんで、エダさんはペルーダさんでヴァルヴァのジャーリさんで、あわわ……!」
突然の私の自己紹介にウルズちゃんの思考が追いついてこないようだ。
この家に来るまでは深いフードで顔を隠していたし、この家に到着してからウルズちゃんは忙しく動き回ってお世話をしてくれていた。真正面から私の顔をまじまじと見るのは、これが初めて。
「……ハイはい! ウルズっ、深呼吸よ。し、ん、こ、き、ゅ、う!」
「はっ、はいなのです! す~は~……。す~~~~はぁ~~~~……」
しばらくの休憩の後、ようやくウルズちゃんが落ち着いてきたところで私達は話を再会させた。
「ようやく落ち着いたわね。まあ、気持ちは分からないでもないんだけどね。私達一般庶民からすれば貴族のお嬢様なんて一生話す機会なんてないでしょうし」
名前が三つあるのは貴族の証。
片肘を付きながら殊勝な言葉を並べているケイカさんだけど目が明らかに笑っている。正にイジメっ子の目だ。
まあ、私としても敬語なんて使われても困ってしまうので今の関係が最上なんだけど。
「話を戻そうか。本当なら俺達三人で王都へ行こうかと思っていたのだけど……ウルズちゃんをここに一人で残すわけにはいかなくなった」
コウキの言葉に私は深くうなずいた。
ウルズちゃんの夢見の啓示、この力はなんとしても隠しとおさなければならない。今のところはウルズちゃんの見た夢が過去のものなのか、それとも未来のものなのか判明していない。
だけども遠くの情景を見る力、もしくは未来視の力かもしれないこの能力は大変に希少で危険だ。悪意のある者にばれれば間違いなく誘拐されてしまう。
私達の事情に巻き込んでしまった責任は取らなければならないのだ。
私はウルズちゃんをなだめて以来、ずっと何かを考えるように黙り込んでしまったケイカさんに目を移した。
「……ケイカさん? どうかしましたか?」
「奴隷……。奴隷ペルーダね……。使えるかもしれないわ」
「使えるって何にだよ?」
私とコウキは顔をテーブルに伏せながら思案しつづけるケイカさんに注目する。しばらくして顔をあげたケイカさんは、悪巧みを思いついた子供のような表情を浮かべていた。
「現在指名手配中の容疑者を誰にも見つからず、お城に連行する方法を……ね」




