第2話 ドワーフの幼女
週末になんとしても書き溜めたい。mikamiです。
書きあがった順に公開しているので、後日改稿するかもしれません。
今回もまったりとお読みくださいな。
「だぁれえ……? おねえちゃん? 帰って来るなら先に連絡してよ。もぉ~~」
裏口の直ぐ傍、二階に続く階段の上から幼くも可愛らしい声が俺達の耳に届いた。俺とエダの間に緊張が走る。
以前、ヴェルから聞いた言葉が俺の脳裏によぎった。
「でもアタシは諦めないっす! お金を貯めて、王都で一番の大神官様の所へ妹を連れて行くっすよ!」
そうだ。ドワーフの少女ヴェルには病気の妹がいる。旧王都の遺跡に向かう道中の話を、俺は思い返していた。
「ど、どど。どうしましょうコウキ? 今現在の私達は完全に不法侵入者です!」
「エダ、落ち着いて! 大丈夫だから。ヴェルから妹さんがいるって話、今思い出した」
隣でエダが慌てふためいている。そんな彼女も可愛いと思ってしまい、思わず吹き出してしまった。
「笑っている場合ではありませんよ! どうしましょう? 潔く事情を説明して謝罪しましょうか?」
「うーん。それはどうかなあ? でも俺はともかく、エダは自己紹介はしない方がいいな」
さすがに昨日の今日で王都からの手配書が東の砦まで来ていることは無いだろうけど、今後妹さんに迷惑をかけない為にも親密にならない方がいいだろう。何せ俺達は逃亡犯なのだから。
俺はエダの肩をポンと叩くと、身振りだけで「俺に任せて」と伝えた。数ヶ月という短さではあるが相棒と呼べるだけの信頼を培ってきたつもりだ。彼女は静かに頷いてくれた。
「もう~お姉ちゃん! 聞いてるなら返事してよ~」
妹さんにも俺達の気配が伝わっているのだろう。てっきりヴェルが帰ってきたのだと思いながらも一階に降りて来ようとはしない。俺はなるべく驚かせないよう、穏やかな口調を意識して話かけた。
「ごめんね。ヴェルお姉ちゃんは多分、まだ王都にいると思うよ」
「えっ……だれ?」
予想外の知らない声に、妹さんの緊張が俺にも伝わってくる。そんな声だった。
「驚かせてごめんね。俺はヴェルお姉ちゃんの冒険者仲間でコウキと言います。お姉ちゃんから聞いたこと無いかな?」
半ば確信を持って聞いてみる。あのお喋りなドワーフの少女が妹さんに俺の事を話していない訳はない。ならば俺に関しては隠すだけ無駄だ。
「あ、うん。……違った、ハイ! ちょっと前にお姉ちゃんが楽しそうに聞かせてくれました! 貴方がコウキお姉ちゃん? うわあ……お姉ちゃんの言うとおり女神様みたい」
その形容詞にも若干慣れて来た俺がいる。ナルシストみたいで抵抗感はあるが、この際だ。
「ハハ……。褒め言葉として受け取っておくよ。正直、女神様なんて言われても本当の女神様に申し訳ないんだけどね」
「そんな事ないです! とってもキレイです! ヴェルお姉ちゃんが夢中になって話してくれたのも納得です!」
妹さんは、まるでアイドルにでも会ったかのような興奮ぶりを見せている。このままでは話が進まない。そう感じた俺は強引に話題を戻すことにした。
「俺の顔については、これくらいで良いかな? それで、妹さんのお名前は?」
余りの興奮で、自己紹介を忘れていたらしい。
「す、すみません! 私の名前はウルズ。ウルズ=セッパです!」
年の頃は10歳くらいだろうか?寝起きのパジャマ姿が実に似合っている。顔立ちもヴェルをそのまま幼くした感じだ。
それにしても? なんか聞いたことのある響きの名前だな。前世の北欧神話っていうか漫画っていうか……。女神3姉妹の一人がそんな名前だった気がする。
と、するとだ。もしかしてヴェルって、ヴェルダンディの略ってことか!?
うーん。ヴェルや目の前のウルズちゃんには申し訳ないが、ちょっとイメージが違う。このセッパ姉妹は綺麗というより、ひたすら元気で可愛らしいのだ。
「あんまり興奮しないでね。お姉ちゃんから聞いてるけど、病気なんでしょ?」
「あっ、はい。でも家の中に居る分には全然大丈夫です! そもそもヴェルお姉ちゃんが過保護なんですよ! もうっ」
確かに、病人というにはお姉ちゃんに似て元気が有り余ってる気がする。この時代の病気には全然詳しくないけど、アレルギー反応で発作で起きる持病なのかな?
まあ、ともかく余りはしゃぎ過ぎないよう注意させなければな。ウルズちゃんに何かあればヴェルが悲しむ。今でさえ大変な迷惑を掛けているのだ。これ以上の負い目は勘弁願いたい。
それにもう一人、ウルズちゃんに紹介しなければならないのだ。
「それでね。今日はもう一人、俺のお友達を連れてきたんだ」
「コウキお姉ちゃんのお友達?」
「うん。ウルズちゃんにも紹介するね?」
俺はそうウルズちゃんに説明すると、手振りでエダに姿を見せるよう伝えた。裏口から普段は俺に見せないようなしおらしさで登場したエダは、俺の意図の斜め上をぶっちぎる挨拶をかましたのである。
「初めましてウルズ様。私はご主人様にお仕えしております、奴隷のペルーダと申します……」
「えっ!?」
「うえっ!?」
思わず、ウルズちゃんと一緒になって変な声が出てしまった。
いやいや、確かに正体をバラしたらこの子に被害が及ぶのは理解していた。偽名を使うであろう事も、なんとなく察してはいたが。
奴隷ってなんだよ!? 奴隷って!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから暫くは俺の言い訳タイムが続いた。
なにせ、このミズガルズに奴隷制度などない。いや、有るにはあるのだが、生活難におちいった農村家庭がどうしようもなく裕福な家庭に奉公する。といった形での通称として、奴隷と称されるのだ。
もちろん、褒められた行為じゃないのは当たり前の話だ。
この世界に最低賃金制度なんて存在しない。雇われ側にもある程度の権限は認められているが、上記のような立場の差ともなれば後は言うまでも無いと思う。
そんな訳で奴隷持ちって言う存在だけで、一般の人達から見れば悪人とみなされるのだ。
「ご心配して下さり有難うございます、ウルズ様。ですがコウキ様はお優しい御方。私のような者にも甲斐甲斐しくお気を使ってくださいます。私は自らの意思で、コウキ様にお仕えしているのです」
両手を胸の前で組みながら祈りを捧げる姿は、尼さんっぽい格好も相まって実に様になっている。だが、俺は気づいていた。しおらしくしながらも、エダの口元が微妙に笑っていることに。
まったく。元気になったのは良い事なのだが、俺をイジリ始めるのは勘弁してもらいたいもんだ。
「そうなんですか……。ま、まぁ私はコウキお姉ちゃんのことを信じてましたけどね? これでも私、人を見る目は自信があります!」
さっきまで動揺しまくってたクセに、調子の良い子である。さすがは、あのヴェルの妹ということなのかな?
とりあえず、なんとか誤解も解けた頃にはすっかり日が昇った頃となっていたのだった。サッと服だけ借りて脱出するはずだったのに、どうしてこうなった……。
既に[ヴェル=セッパの鍛冶屋]の店先は、大勢の人達がねり歩くような時間帯になってしまった。もしかしたら、すでに手配書が東の砦にも回ってきているかもしれない。
外の往来に出るに出れなくなってしまった俺達はウルズちゃんの薦めもあり、しばらくこの家にお世話になるハメになった。
今はウルズちゃんが一人台所で朝食を作ってくれている。
病人に働かせるなんてとも思ったのだが、お客さんにお世話されるのは家人のプライドが許さないらしく台所に入れてもらえなかった。
「どうするんですかコウキ? このままではウルズちゃんにまで迷惑を掛けてしまいかねません」
「俺もまったく同感だけど。さすがに事情をすべて暴露する訳にもいかないしなあ。隙を見て出ようか」
「それがいいでしょうね……。あっ、この臭い……」
「もうすぐ朝食が出来るですよ~!もうちょっと待ってて下さいね!」
奥の台所に聞こえないよう小声で会話していた俺達だったが、元気な声と共に美味しそうな臭いが食堂に飛来した。パンや肉と野菜の炒め物が目の前に置かれると、昨日から何も口にしていない事実を今更ながらに実感してしまう。
「お待たせしました! さあっ食べましょう!」
「「……頂きます」」
これは、まったく、戦乙女の一撃より強烈だ。
脱出の機会を失った俺達は、これからの苦難に立ち向かうための腹ごしらえに勤しむのだった。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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