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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第二部《巨人大戦編》
40/138

プロローグー王殺しの巫女

第一部のエピローグから随分と間が空いてしまいました。

ようやく、第二部を開始させる準備が……出来ているような出来ていないよーな(笑


第二部のプロローグを投稿させて頂きます。

ゆっくりな更新になるかとは思いますが、今後ともよろしくお願いします。

 全ては最初から仕組まれたものだった。


 私の中の別人格である戦乙女エルルが、あっさりと私に身体の自由を譲ったのも。


 敵対関係であるはずの彼女が私に助力の手を差し伸べたのも。


 すべては、この時のため。


 養父様、マリーさん、パンちゃん、ヴェルちゃん達。


 そしてコウキ――――。


 私が守りたいと渇望してやまなかった人達。


 その人達との[平穏]を破壊するためだったのだ。


 ――良かったですね、エダ。これで貴方は自分の愛する人間からも憎悪の念を抱かれる。


 ――人の愛と憎しみは紙一重。貴方ほど人間から想われる戦乙女は居ませんよ?


「おのれ……。おのれえええええええええええ!! 戦乙女エルル――――――!!!」


 その場で跪いた私は、ただ、ひたすら自分の中にいる戦乙女へ憎悪をたぎらせるしかなかった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

  宝珠竜と予言の戦巫女 《第二部》 

   《巨人大戦編》

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 すべてのミズガルズ国民にとって、今日は特別な一日になるはずだった。

 長年続いたミズガルズ国王シグムントの退位。そして、新しき王となるシグルド王がこの大陸の平穏を約束する日。多くの国民が見守る、国王即位の儀式のさなか。


 誰もが、これからの王国の繁栄を疑いもしなかった。

 そんな、王国の歴史書に載るであろう1ページを。

 私は自らの手で摘み取ってしまった。


「あ、あ……。ああああああ……」


 既に、私の意識の中にいた戦乙女エルルは消え去っている。

 その証拠に今まで背中に感じていた、頼りがいのあった翼の感触は既にない。

 私は、口から言葉を発することも出来ずに、右手に握った聖剣バルムンクを手放した。

 支えを失った前国王シグムント様の身体が、グラリとよろめく。そのまま、床の石畳を寝床にするかのように、倒れこんだ。


 その眼に一切の生気はない。今度こそ、本当に。人間界の英雄王シグムントは[竜騎士の楽園](ヴァルハラ)に召されたのだ。


 数瞬の静寂の後。


「キャ……。キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 傍で控えていた侍女の悲鳴で、再び世界は動き出した。



 その場で膝を落とし動けないでいる私に、何本もの衛兵の槍の先端が突きつけられた。当然だ、王殺しの大罪人が目の前にいるのだ。彼等の行動は至極当然だった。

 また、別の方向からも金切り声のような重臣の悲鳴が聞こえた。


「な、なんということを……。このような者が聖女である筈がない! ……魔女だ。この者は王国を混乱に陥れる魔女だ!! 衛兵! 何をしている!! 早く殺せ!!!」


 そうだ。その重臣の言うとおり。

 私はこの世界で出来うる最大の禁忌を犯した。

 さあ、その槍で私を刺してくれ。

 この世界にいるだけで害悪な私を……この世から消してくれ!!


 数瞬の躊躇いの後、衛兵の槍が私の身体に襲い掛かる。

 だが、傷ついたのは私の体ではなく、衛兵の槍の方だった。


 私の身体は戦乙女の身体。通常の刃物では傷一つ付けることも叶わない。その事実が私を更に絶望させる。


「刃が通じぬ……。やはり魔女だ!! 誰か、この罪人を斬れる者をおらんのか!!」


 周りの喧騒が更に慌しいものになる。

 だけどもう、私に立ち上がる力は残っていなかった。もはや私の頭には、早くこの世から消えて無くなりたいという自暴自棄な願望だけが支配していた。


「待ってくれ! お願いだから……、待ってくれ!!」


 後ろからコウキの叫び声が聞こえてくる。

 どうやら周囲の侍女に取り押さえられているようだ。それが男の衛兵ならコウキは多少荒っぽい手段にも出ただろう。だが、何の力もない侍女に押さえられているのは彼の女性に対する優しさだ。

 まったく、実にコウキに良く効く(かせ)だった。

 

 実際、コウキにも私が何故このような凶行に及んだか理解していないだろう。

 コウキやヴェルちゃん達が、私という人格を開放してくれた旧王都での一件以来。誰にも私の中に戦乙女エルルが隠れ潜んでいる事実を話してはいない。これだけは、これだけは私の中で、私自身が決着をつけなければ、ならなかったからだ。


「皆の者、前を開けよ!」


 依然、騒然となっている王城のベランダに聞きなれた、そして威厳のある声が響き渡る。新王であるシグルド陛下だ。

 石畳に跪く私の前に堂々とした体躯が立ちふさがる。

 ふと、彼の腰に帯びた魔剣グラムが視界に入った。竜殺しの魔剣、神殺しの魔剣。それはこの場にある数少ない、私を殺せる剣だ。


「こ……して……」


 身体中が震えていて、満足な声も出ない。私の声はシグルド殿下に届いただろうか?


「君がなぜ、このような行動に手を染めたのか。俺には、分からない。だが、今ここで君を斬らねば国が崩壊する」


 上はおろか、前を見ることも出来ない私は石畳に移るシグルド殿下の影で魔剣を振りかぶった事実を知った。

 そう。シグルド殿下、いやシグルド陛下は私を斬らなくてはならない。このような王国始まって以来の大犯罪を処断できなくては、王たる威厳を維持できる筈もないからだ。


 私はそっと目を閉じ、自らの首を差し出した。

 これで良い。私という戦乙女が死ねば、少なくとも9人いる戦乙女の一人を滅することになる。

 それは将来、天界の軍勢と戦わなくてはならない地上の人達にとって有益なはずなのだから。


 シグルド王がゆっくりと魔剣グラムを振り下ろそうとした、その時。


「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 この場はおろか、城下で何が起こったのかと混乱する民衆にまで届く音量で。


 コウキが飛び出してきた。その余りの剣幕に侍女では押さえきれなくなったのだ。

 そのまま、覆い被さるように私の背中に抱きついてくる。背中に落ちる水滴のような感触は、コウキの涙だった。


「エダを殺すなら俺も殺せ! 俺はエダの相棒だ。彼女が何故こんなことをしたのか分からない。けど、普段の彼女じゃなかったのはシグさんなら分かるはずだ!!」


 コウキが泣きながら私を庇っている。いいえ、違うのですコウキ。これは私の責任。身の内に悪魔がいるにも関わらず、平穏な日々を享受しようとした私の罰なのですから。

 それから、しばらくしても私の意識は明るいままっだった。シグルド陛下が魔剣グラムを下ろしたのだ。


「……この場で斬るわけにいかぬ」

「陛下! 王殺しの罪人ですぞ!? その罪は一族郎党皆殺しでも償いきれませぬ!!」


 意外すぎる判決に、周囲の重臣から反発の声が上がった。


「……彼女は実行犯にすぎぬ。裏で何者かが、指示しているはずだ。それを吐かせてからでも遅くはあるまい」

「……情に流されてはおりませぬな?」

「無論だ」


 その重臣の言葉はシグルド王を試すものだった。そうだ、どうせ死ぬのならば天界の情報をすべて話してからの方が良い。これから先も私の大切な人達はミズガルズの地で生き続ける。その平穏の為にはシグルド陛下には奮起して頂かなければ。


 私とコウキの周りを再び数人の衛兵が取り囲んだ。

 その内の一人が私の肩を衛兵が掴み、起き上がらせた。まるで全ての活力が消えうせたかのように、自分の身体に力が入らない。駄目だ、しっかりしなくては。死ぬ前にまだ、私のやるべきことが残っている。


 満身の力を込めて、起き上がろうとした時。


 ふと。

 私の手が、コウキの顔をかすめた――――――。


 ミチミチ、とコウキの纏ったドレスが引き裂かれていく。

 コウキの白い肌が黒く変色し、鱗が隆起してゆく。腕は細く膜を貼り、足は1本になりながらも長く伸び、鼻は前に突き出て、大きな牙が口からはみでる。


 その光景は、私を強制的に現実に押し戻した。


「いけない、コウキ! 竜化しないで!! 今この場で竜化してしまったら!!!」


 そのコウキの姿は、私にとっては懐かしいもの。だが、この場にいる人達にとっては……。

 黄金に輝く宝珠竜であったのならば神竜として、崇められたのかもしれない。しかし今のコウキは私と同じく力を使い果たしている。


 その姿は、額に血のように紅く光る[竜宝珠]の輝きは、周囲の人間を誤解させるには十分なものだった。


「……じゃ、邪竜だ! 魔女の相棒は邪竜だったのだ!!」

「軍はまだ到着せんのか! 陛下にもしもの事があったら何とする!!」


 周囲は大混乱に陥っていた。貴族連中や侍女は我先にと逃げ出し、槍を構える衛兵もコウキの姿を見て後ずさっている。竜化したコウキの長い首に腕を絡める私はさぞ、邪悪な魔女に見えていることだろう。


 コウキはそんな人々の喧騒を悲しげに見つめた後。


 私のドレスの襟首を優しく噛みながら……大空に向かって跳躍した。

最後までお読みいただき有難うございました。

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