第37話 エピローグ-2 戦乙女の謀略
一日連続投稿二話目!
これにて第一部完となります。
今後は二部の構想を練りつつ一部の改稿作業に入ります。
時々でいいので「なんか変わったかな?」と覗きにきてくださいw
2019.5.3改稿
結局、俺とエダは王族の一員などという大それた身分は回避できたものの、ミズガルズ王国の[聖女]として国民に大々的に公表される運びとなった。
本心は、どうしてこうなった?
と海の向こうにまで叫びたい気分だったが、革命前に一時的にとは言えシグムント王に敵対してしまった俺達やジャーリ伯爵、三人娘を無罪放免にするには特別な待遇が必要なのだと説得されてしまった。
さすがは一国の王と王子。
口先の滑らかさでは俺達の遥か先を行くらしい。
俺達が[聖女]となるなら無罪放免だけではなく、ジャーリ伯爵やシスター長には[聖女を正しき道に育て、導いた偉人]としての箔までつくらしい。おそらく二人にとっては面倒な箔だとは思うが、今まで散々迷惑と心配をかけ続けたのだ。これくらいの親孝行も必要だろう。
そうそう。シグムント王が所持していた聖剣バルムンクなのだが、実は今現在エダの腰に納まっていたりする。
「俺にはこの相棒があるからな。だが親父殿に持たせておいて元反革命派を刺激させても困る。ならば[聖女]たるエダ殿が持つに相応しい」
なんてシグルド殿下……今はシグルド王か、に押し付けられたのだ。確かに地竜の剣は戦乙女としての身体と相性が良くない。ならば俺が持っているべきだし、丁度良いといえば丁度良かった。
シグルド王は長年の相棒たる魔剣グラムがあるし、王城の最奥で腐らせて置くよりも良い選択だろうとは思う。
「さらに王家のイザコザに巻き込まれた気もします……」
なんて呟くエダの気持ちは複雑だろうが、聖剣バルムンクの権能[破樹]は下界に存在するすべての物質を切断するという破格なものだ。戦乙女の肉体と合わせて今の彼女に対抗できる存在はごく僅かだろう。
元々はシグムント王が持つに相応しいほどの大剣だったが、エダが手にすると彼女の身体に合わせるかのように細長い長剣に変化した。これも天界の戦乙女たる力なのだろうか?はたまた聖剣の力なのだろうか、まったく便利なものである。
あの革命戦争からそろそろ一月が経とうとしていた。
ようやく王位継承の手続きも終盤を迎え、残すところは城内に国民を集めての王位継承式のみとなった。そこで俺とエダもミズガルズ王国の[聖女]として大々的に国民の前で発表される予定だ。
正直、そんな役職など要らないと心の中で悲鳴を上げているのだが外堀は全て埋められ、残りは俺の意思のみという状態だ。もう一人の[聖女]であるエダはもはや腹をくくったようで毅然とした態度で準備に励んでいる。いざという時には女性の方が肝っ玉がデカイというのは本当のことらしい。
「太陽の聖女様。衣装合わせの時間ですので、どうか化粧室までお出で下さいますよう……」
「……はい」
俺に与えられた城内の一室に、扉越しからのメイドさんの言葉が届いてきた。これで何度目かの衣装合わせなのか忘れてしまった。いっそ逃げてしまおうかとも考えたのだが、俺のわがままで各方面の皆さんが罪に問われるのは忍びない。
俺は観念して着せ替え人形となるべく自室から出撃した。
そしてとうとう、王位継承式の本番がやってきた。謁見の間の外れにあるベランダからは、新王と二人の[聖女]を拝まんと城内に集まった国民の喧騒が響いてくる。そこがお披露目の場なのだ。ベランダを見上げる城下にはおそらく俺達の知人達もいることだろう。まあ、いくらヴェルが大声とはいえ謁見の間までは聞こえてこないだろうが。
「コウキ? 準備は整いましたか?」
俺個人の準備室の扉が静かに開き、見知った、けれども普段の数倍かもしれない美貌を誇っている相棒が顔を覗かせた。今では肩ほどまでしかなかった綺麗なプラチナブロンドは、着け毛を足すことで腰ほどまでに伸びている。まったく、この世界でもこれほどの権力者ともなれば現代日本にも遅れを取らないほどのお化粧技術が存在しているらしい。
「ホントに、聖女様そのものだね……」
俺の言葉に彼女は若干顔を赤くしつつも笑いながら反論してくる。
「コウキの方がお綺麗ですよ?正に女神様の顕現ですね」
俺の顔には真紅の口紅とお白粉が塗りたくられ、まるで歌舞伎俳優にでもなったかのような気分だ。重くも動きづらいピカピカした装飾品も、これでもかと身体に付けられている。
「……嬉しくない。何度言っても周りは信じてくれないけど俺は元々、男だ!」
「ですが、今は女の子でしょう?ならば今後もこのような機会はあるでしょう。今の内に慣れた方が懸命ですよ」
エダは嘆息をつきながらも、いい加減諦めて下さいと言わんばかりだ。巫女装束をベースに色とりどりの宝石を散りばめたドレスの腰に両手の拳を当てている。そしてその衣装には不釣合いのようで見事に溶け込んだ聖剣バルムンク。
かく言う俺の衣装にも地竜の剣を腰に帯びるためのベルトが用意されている。
なんでも戦乱の世らしく、継承の儀式では己の剣に誓いを立てるらしい。若き新王シグルド王も今頃、剣グラムを帯びていることだろう。
「ええいっ、今は女でも男は度胸だ! 行こうかエダ!!」
「はいっ! それでこそ私のコウキです!!」
せっかく化けた顔が崩れない程度に両手でパチンと気合を入れ、俺は相棒と共に新しい戦場にむかって歩き出した。
「やっと来たか。待ちくたびれたぞ、[聖女様]」
「それは失礼しました。罰として地位剥奪とかいかがでしょうか?[ミズガルズ大王様]」
式典用の礼装に着替えたシグルド王の言葉に、俺は満面の笑みを浮かべながら返答した。文句があるなら、何時でも逃げてやるぞと脅してやる。
まるで苦虫を噛み潰したかのような顔で返答にどもってしまった彼は、適当な良い訳を並べながら舞台であるベランダの方へと消えて行った。まったく戦場ではあんなにも勇猛果敢だというのに、普段の姿は情けない所ばかり見ている気がする。本当に彼が王になって大丈夫なのだろうか?
「コウキ、式の段取りは万全ですか?」
「もうこれまでにイヤって言うほど練習したよ。今なら寝ていても再現できそうだ」
俺の軽口に穏やかな微笑を浮かべる彼女は、勿論万全なのだろう。こうなれば最早、自分に与えられた役割を果たすのみだ。
式の段取りとしてまずは王位継承式が行なわれる。現代日本ではメインイベントは大取りだが、この世界では大事なものほど最初に行なわれる。
当初は[聖女顕現の儀]を最初に執り行おうかとシグルド王から提案があったのだが、俺達が断固として拒絶した。何が楽しくて王様より目立たなくてはならないのか。
ベランダの先では新王が前王であるシグムントと共に国民に向かって演説しているようで大歓声が上がっている。どうやらシグルド王は無事、国民に歓迎されたらしい。貴族たちの受けは悪かったが、元々が城を抜け出して放浪する王子様だっただけに人気はあるようだ。
「……し、国民の安寧と繁栄を実現するべく奮闘することを此処に誓う。さて、今日はよき日だ。私の戴冠に合わせ、二人の[聖女]が我がミズガルズ王国を守護してくれる運びとなった。国民の皆にも紹介しよう、[太陽の聖女コウキ=ヴィーブル殿]と[月の巫女エダ=ヴォルヴァ=ジャーリ殿]である!!」
城下の歓声が一段と大きく伝わってくる。事前に情報が行き届いていたらしく、王国の外敵を排除すべく尽力した(相手が天界の神々だという事実は伏せられている)二人の美しき[聖女]の話は王国中に伝播していた。
俺達がベランダに姿を見せると更に大きな大歓声が襲い掛かってきた。幸い、俺達は演説などという面倒なものはしなくとも良いらしい。女性は淑やかたれ、という現代では女性差別とも取られかねない風習が当然のようにあるからだ。
城下の皆さんに一礼し存分に顔を拝ませてあげた後、式は誓いの儀式に移る。
「では最後に誓いの儀に移ろう。抜剣!!!」
シグルド王の大音量の号令と同時に、ベランダに控える騎士、城下で警備する騎士達が腰の長剣を抜き天高く剣先を掲げた。その情景は正に圧巻の一言。ハリウッドのファンタジー映画で見るような情景が現実のものとして俺の視界に映りこんだ。
思わず震え始めた身体を叱咤し、シグルド新王、先代シグムント王、そしてエダと共に鞘からそれぞれの魔剣、聖剣を抜き放った。先代シグムント王だけは聖剣をエダに託したのでソレっぽい豪奢な剣を帯びている。
「余は天界におわす大地母神竜に剣をもって誓う! この豊穣なるミズガルズの地に更なる繁栄をもたらすために全力を尽くすと!! そして数十年の後、[竜騎士の楽園]にて御身に忠誠を誓うことを!!!」
ようやく分かってきた。この世界の竜神教とは、北欧神話の神々の信仰に竜信仰が混在しているのだ。実際に天界には大神オーディンや炎神スルト、雷神トールがいるのかは分からない。でも、このミズガルズの人々は大地母神竜が唯一神として天界に君臨していると信仰しているのだ。それが、人類を滅ぼすなどといった決定を下しているなど微塵も考えずに。
俺がそんな事実を噛み締めながら剣を掲げていると、突如、脳裏に異様な感触を憶えた。
「っ!? なんだこれ?」
慌てて周囲を見やると他の騎士達は何事もなかったかのように剣を掲げた体勢を維持している。
過去……啓示を受け取った二人以外は。
――的外れな宣誓ご苦労様。ですが、数十年の後などと気の長い話にしなくても良いのではないですか? ミズガルズ国王よ。
「……なっ何事!?」
「このっ……この声。そしてこの感触は……天界からの啓示!?」
この声、何処かで聞いた憶えがある。……どこだ? どこか、大切な場面で、聞いた声。
それに、この声が出ている場所は。
「シグルドッ!!! エダから離れろ!!!」
「……何っ!?」
突如、彼女の背中が、右肩が、聖剣バルムンクを持った右手が不自然に動いた。これは彼女が自発的に行なっている動きではない。
頭も、
首も、
腰も、
両足も動かず、
背中から右腕のみが彼女の意志とは反して、可動している。
――喜びに打ちひしがれなさい? 我等が大神の決定に。ミズガルズ国王よ、天界への帰途に着くことを許します!
……思い出した。この声、旧王都の遺跡から転移した先で出会った戦乙女にしてエダの体の本来の持ち主。
戦乙女エルルだ!!!
俺が事態を正確に把握した瞬間、エダの持つ聖剣バルムンクはミズガルズ王の胸を貫いていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
城内を含め、城下の式典を見学に来た国民の全員が言葉を失っていた。
この場は新しい王のお披露目となる祝いの席。
この国の新たな門出、新たな歴史の始まり。
この国民の全てがそれを信じて疑わなかった。
なぜ、そのような場でこのような惨劇が起こりうるのかと誰もが信じられなかった。
ただ一人、私だけがこの惨状をいち早く認識した。
(貴様っ! ……貴様が何故私の身体を操れる!?)
私は怨嗟の念を込めた咆哮を私の中に解き放った。
――あら、エダ。貴方は忘れてしまったのですか? 世界樹の麓、堕天竜との邂逅を終えた帰り道。貴方の養母が居る街に一刻も早く着きたいがため、私に背中を貸したではないですか。
(貸したのは背中だけだ! 腕まで貴様に支配されるはずが……)
――そこは単純な話です。背中とは人の機能を占める部位が非常に近い場所。そして全ての可動部の中心。今までの時間をかけ、ゆっくりと、私の支配域を広めていったのです。
それに……と戦乙女エルルの独白は続いた。
――不思議に思わなかったのですか? 堕天竜の剣を振るった時、シグムント王の傷を癒した時。なぜあなたが宝珠竜の邪気の影響を受けなかったのか?
(……っ!?)
――理解したようですね。貴方の操る聖気は本来あるべき量よりも明らかに減少していたのです。本来、天使化したとはいえ人間などに遅れをとる戦乙女など居よう筈もありません。ああ、三人の少女達との戦闘もそうですね。
――すべて、この日のために貴方を動かしていたのです。
――戦乙女の使命を忘れ、天誅を下すべき人間共と馴れ合い、天界へ反旗をひるがえした貴方への大神からの贈り物ですよ。
――まあ、本来連れ帰るべき人間とは違いましたが良いでしょう。ミズガルズの王には違いありません。
(……違う人物?)
私は恐るおそる自分が握った聖剣バルムンクの先を視界に捉えた。
「……月の、巫女に宿りし、天界の戦乙女よ。あのような、若造では[竜騎士の楽園]へ、至るには……不足でしょうや。どうか、私を……お連れなさいませ」
突然の出来事で全員が動けない中、この御方だけは動けていた。自らの息子を天界の凶刃から守るため、その身を盾にして若き新王を守ったのだ。
その傷は明らかに致命傷、確実に彼の王の心臓を貫いていた。
先代ミズガルズ国王シグムント。
――なるほど。貴方も天界からの啓示を受けた経験がお有りだったのですね。ですが、王ならば、誰でもよかったのです。
――良かったですね、エダ。これで貴方は自分の愛する人間からも憎悪の念を抱かれる。
――人の愛と憎しみは紙一重。貴方ほど人間から想われる戦乙女は居ませんよ?
その言葉で、私の頭の中の線が、プツンと切れた。
「おのれ……。おのれえええええええええええ!! 戦乙女エルルぅ――――――!!!」
私の憎悪の叫びが、王城にいるすべての人々に聞こえたかは定かではない。
分かっていることは一つだけ。
私は、王殺しの大罪人。
私は、守るべき人達から狙われる存在となったのだ。
(第一部 完)
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