第33話 対峙
お待たせ致しました。
第33話をお届けいたします。
最近、設定の甘さに気付いて色々と考えているところです。
後にこの33話の改稿するかもしれません……。
気軽に読んで頂ければ幸いです。
2019.5.3改稿
「ねえ、エダ。なんかおかしくない?」
「はい。なぜ、こうも兵士と出くわさないのか……」
出発前の打合せで、シグルド殿下から王城内部の構造を簡単な地図にして書いてもらっていた。この方角にシグムント王の寝室と書斎があるのは確かな筈だ。しかし、それにしては護衛の兵士はおろか人っ子一人とも出くわさない。まるで廃墟と化したお城に迷い込んだようで、不気味な雰囲気を感じていた。
まさかもう何処かへ逃げられてしまったのだろうか。いや、それこそまさかだ。王が城を放棄するなど愚の骨頂である。
人間形態に戻った俺とエダは、先を急ぎながらも足音を立てないよう細心の注意を払いながら進んでいた。深夜とはいえ、お城で働く人達はまだ起きている時間帯のはずだ。それなのに廊下の光が全て消えているし、足音一つ聞こえないのはどう考えても不自然だった。
今の俺は元々着ていた戦乙女の鎧をエダが着ている為、シグルド殿下が用意してくれた全身甲冑を着込み、左手には大盾、右手には予備の剣を持っている。竜形態の時はエダの権能で仕舞ってもらっているのだ。ひみつ道具万歳。
「十分注意して進みましょう。特にコウキは鎧の音をたてないように注意してくださいね?」
「……ああっ……何?」
「だから、鎧の音をたてないように、と。コウキ? どこを見ていたのですか?」
俺の視線に気づいたのか、彼女のジト目が俺に襲い掛かってきた。
隣を見れば、戦乙女の鎧を纏った露出度の高いエダの艶姿がある。姿は女性でも心は健康な男子としては中々刺激が強い光景だ。
緊張する場面だからなのか、鼓動する心臓の音が五月蝿くて仕方が無い。それが緊張したこの場面のせいなのか、隣の彼女のせいなのか。何を今更と言われるかもしれないが、今までは色々とやる事が多すぎて彼女の服装をマジマジと見る機会が無かったのだ。
……ヴェル。やっぱこの鎧は恥ずかしいわ……。
彼女の助言通り、俺は物音を極力立てないように注意しながら進んでいた。すると、暗闇に包まれた廊下の奥から一つの光が漏れている。
その先にある部屋がこの廊下の最終地点なのだろう。あからさまに金細工が施された豪奢な扉が、この先に起きる出来事を暗示しているようで息を呑む。俺達はお互いにアイコンタクトで確認を取ると、ゆっくりとその豪奢な扉を押していった。
ギギギ……
重く重厚な扉の開く音が閑散とした空間に鳴り響いた。
その部屋はまるで昼間のような光で照らされていた。夜目になれた俺達の瞳孔はその光に慣れるため数秒を要したのだが、部屋の主は悠然と俺達の視界が戻るのを待っているようだった。
「よくぞ来た。天界からの使者殿よ」
その声は、布生地の少ない部屋全体に反響してから俺達の耳に届いてきた。俺にとっては始めて聞く声だが、隣の彼女には聞き覚えのある声だったらしい。荘厳で威厳のある声だ。まるで一国の元首や大企業の重役のような声。
歴戦の戦士を彷彿とさせる使い込まれた金属鎧に、玉座の脇にはシグルド殿下の魔剣グラムのような大剣を置いている。日本に居た頃の俺だったらガチガチに緊張していただろう声の主は、意外にも落ち着いた雰囲気で俺達を出迎えてくれていた。
そこは王の部屋にしては余りにも殺風景な部屋だった。いや、ここは日々の労務の疲れを癒すための部屋ではない。飾り気が無く、その代わりいくら剣を振り回しても問題ないように凹凸のある大理石で作られた部屋だ。おそらくはこの人物の私的な鍛錬部屋なのだろう。
その部屋の奥、休憩場所であろう唯一置かれた王者の椅子に座った初老の戦士が此方を威圧するかのように睨みつけていた。
「お久しぶりでございます。ミズガルズ国王、シグムント陛下」
「……うむ。だが、久しいと言うほどの時はたっておるまい。シグルドとの婚約披露の場から数日振りといったところか。」
やはり俺の知らないところで面識があるらしい。ところで婚約披露の場ってどういうことだ?
「あのままシグルドの妻となってくれれば、このような再会もなかったであろうな」
「私の返答は変わりません。なにより泥舟に乗る人間もいないでしょう」
は!? シグルド殿下とエダが婚約!?
一体どう言う事だと二人に問いかけたい衝動にかられたが、二人のかもし出す雰囲気に俺の口から声が出ることはなかった。
「フフフッ。この余と、ミズガルズ王国を泥舟呼ばわりするか。確かに事態は貴殿達の思惑どおりに進んでいるようだ。否定も出来まいか」
「王城の中はシグルド殿下が制圧しました。もはやこれ以上の抵抗は無用、どうか降伏して頂きたい」
彼女はハッキリとした声でシグムント王に降伏勧告を告げた。
すでに革命は始まっている。王国兵五万と革命軍二万の戦いの音が遠くから響いてくる。シグルド殿下の策略は見事に成功したようだ。城内に潜ませていた革命軍の同士達、全体で言えば圧倒的に不利な戦力差だが五万人もの軍勢が全員城内にいるわけではない。城内にいる兵士で比較すれば革命軍の兵士達の方が多いのだ。今、この王城だけに限って言えば革命軍が数の有利を誇っている。計画は順調に進行していた。
それでもエダは、はっきりとした確信を持って革命の成功を断言したわけではないだろう。時間が経過すればするほど、城内の争いに気付いた城外の王国軍が殺到してしまう。人間族同士の不毛な争いは一秒でも早く終焉を迎えなければならない。
エダの降伏勧告にシグムント王は沈黙をもって答えた。YESともNOとも取れるその表情から、まったく違う話題をふってきた。
「そちらの女性が例の竜神を名乗る者か。なるほど、神秘的な美しさだ。貴殿と並んで革命の旗頭にするには十分よな。出来るならば我が国の旗頭になってもらいたかったが」
シグムント王は俺の方に視線を向け、溜息交じりの声を漏らす。
「悪いけど彼女の言う通り、泥船に乗るつもりはない。それに喧嘩を吹っかけてきたのは王様の方だ。ユミルの街を襲うなんて暴挙を犯していなければ敵対することもなかったんだぞ?」
「……」
俺の詰問にもシグムント王は沈黙をもって答えた。俺としても不可解なのだ。なぜこの王様はユミルの街に軍勢を向けたのだろう? 彼女の話では俺達側としては王国に反逆する意思なんてなかった。意思もなければ理由もない。完全に売られた喧嘩なのだ。
ユミルの街を襲えば、戦乙女として覚醒したエダを敵に回すことは分かりきっている。俺が意識を取り戻した後に聞いた経緯での一番の疑問点だった。
「天界の主である大神は人を失敗作と蔑み、処分しようと画策しています。我々が争えば争うほど大神の思惑通りになるのです。王よ!」
「それではお主は一体なんなのだ。お主こそ天界が使わした戦乙女であろうに。その美貌からして下界の人間族では有り得ないだろう」
俺が思考する間もエダとシグムント王の交渉は続いている。
昔とは違い、もはやエダの姿は人間を超越した美貌と体躯を誇っている。今の彼女を見て普通の人間だと思う人は皆無だろう。主要な顔の造形は人間だった時と変わらないが、その他の全てが美の女神と化している。化粧や美容が発達した現代ならともかく、すっぴんでこれ程の美しさを体言している女性なんていないのだ。
「私は天界より下界を滅する為に使わされた者。ですがその下界で育ち、人間族の希望を見出した者でもあります。これから先も天界の神々との戦いは続くでしょう。ですが私は人と共に生きたいと望みます」
自身の胸に手を当て、これから先に起こるであろう困難を受け入れると宣誓するエダは聖女の名に相応しいほどの清廉さをシグムント王に見せ付けていた。
「ならば、その覚悟の程を確認せねばならぬだろうな」
これで交渉は決裂だ、と言わんばかりにシグムント王が玉座から立ち上がった。脇に置いてあった大剣を鞘から抜き放つ。正に、この親にしてこの子あり。この王様も多分に肉体言語で語るお人らしい。常人なら両手で持つのがやっとな程の大剣を軽々と片手で持ちながら近づいてきた。
「コウキ、下がっていて下さい。この戦いは私がやらねばならない試練なのです」
「……わかった。でも危険だと判断したら直ぐに止めるからな」
剣を取った王に合わせてエダも腰から地竜の剣を抜き払った。俺とて彼女を失うのは我慢ならない。だが、それと同じくらい俺達はシグムント陛下を殺してはならない事情があった。
この王様を信望する国民は今だ大多数を占めている。それに国教である竜神教を崇めている国民がいる現状では、生きて王位を穏便にシグルド殿下に譲渡してもらなければならないのだ。それが出来なければ国内は信徒を中心に内乱となり、巨人族の侵攻を許す事態になってしまうだろう。
「天界の戦乙女にお相手願える日がくるとは光栄の極みよ」
シグムント陛下が長剣を片手に不適な笑みを浮かべながら大剣を構えた。その言葉が今だ残る竜神教……天界への崇拝なのか、それとも皮肉なのか俺には判断がつかなかった。
「私は身体こそ戦乙女のものですが、心はエダ=ヴォルヴァ=ジャーリのまま。ミズガルズの人間族です。私に対して天界への敬意を示すのはお門違いですよ?」
「それでもよ。我等は竜殺しの一族、元々は人間族の平穏などと高尚な思想を持っていた一族ではない」
苦笑しながらも口を発したシグムント陛下の言葉に、俺は元々の世界の竜殺しの英雄譚を思い返していた。ゲームやアニメに多数登場するこれらの逸話は俺の脳内に今だ焼きついていたのだ。
現在に語り継がれた竜殺しの神話や物語の主人公なんて[家族を守る為]とか[国の危機を救済]する目的で活躍する人間はほとんどいない。あるのは人間らしい自分自身の[欲]のみだ。
物欲、性欲、権利欲。もしくは一時の激情。
人間が無償で他人の為に動くことはありえない。表面上ではそうであっても裏には必ず何かしらの策略があり、欲がある。地球で伝えられている有名な逸話「ヴォルスンガ・サガ」に登場する竜殺しの英雄シグルドだって、様々な人間や神の思惑に欲されながらドワーフの青年が変化した邪竜ファフニールを討伐し、自身も非業の死と遂げている。すべての生物は自身の欲に正直なのだ。
と言う事は、シグムント王は天界の神々が人間の敵に回った事実を承知の上で戦乙女であるエダを排除しようとしたのか? 天界への敬意を今だ持っているのに?
考えれば考えるほど、シグムント王の行動と言動はチグハグだ。
「天界の神々が我々を見捨てた、それは間違いである。この[聖剣バルムンク]の輝きがある限り、天は我と共にある」
大剣と表現したが、魔剣グラムに比べれば細身の剣である。その剣がシグムント王の気合と共に発光していた。金で装飾された柄の中心にはめられた碧玉の宝石が新緑の光に満ち溢れ、両刃の赤い縁飾りを包み込んでいる。緑と赤のコントラストがなんとも美しい剣であったが、俺には大地が血を流しているかのように見えた。なんとも悲しい嘆きに包まれた剣だ。
その姿を見たエダが、なんとも苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
「魔剣グラムがシグルド殿下の手にあるならばもしやと思いましたが、やはりその剣も地上に降臨していましたか」
「……もしかして、あの剣の事、知ってる?」
「ええ。鍛えた人物こそ遥か昔に下界にて存在したドワーフの天才鍛冶師の作ですが、その素材は天界から送られたアダマンタイトという超金属。下界のどの金属よりも強固で、撓りのある天界の産物。魔剣グラムの兄弟剣にあたります」
エダが言うには、その効果は[破樹]
魔剣グラムの竜殺し。地竜の剣の破天とは違い、この下界に存在するあらゆる物質の最高峰である世界樹の幹でさえ斬り得る能力を持つ。文字通り、地上最強の剣らしい。
「ですが、普通の人間が持つには大それた剣です。魔剣グラムは神々が下界の勇者に与えた物であるがゆえに、人間族であるシグルド殿下でも扱えますが……その聖剣は天上の武具。権能を引き出すことが出来るのは天界の神々の血を引く者だけのはず」
ミズガルズの王とはいえ、ただの人間には使いこなせない。そんな剣のはずだった。しかし、実際にはシグムント王の手にある[聖剣バルムンク]は輝かしいばかりの光を放っていた。
「神々の血か。そんなにも珍しい物でもない、ここにあるぞ?ほれ」
事も無げに懐から何かを取り出し、俺達の方へ放り投げてよこしたそれは、
――真っ白な肌が美しい、女性の腕だった。
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