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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第5章 俺はこの地で生きてゆく
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第32話 突入の狼煙

お待たせしました。

第32話をお届け致します。

遂に最後の戦いに突入するコウキ君達。彼女等は平穏なミズガルズ大陸を築き上げれるのでしょうか?

週一ペースとなってしまいましたが、気長に付き合っていただければ幸いです。


2019.5.3改稿

「コウキ姉ええええ!! 元気になってよかったっすよおおお!!!」

「コラ、ヴェル、苦しい。うぐぐぐぐ……」


 ブオリの村に帰還してから一夜明けた朝。

 村長宅で正気を取り戻したヴェル達三人娘とタリナさんは、ジャーリ伯爵やシグルド殿下を含む皆が見守る中で無事の再会を祝いあっていた。ドワーフの少女ヴェルは人間の姿に戻った俺を見付けるや否や超特急のタックルをぶちかましてきた。もちろん悪意がないのは分かっていたので、これまで心配をかけた分だと思って甘んじて受け入れた。今はそのまま悪意の無いチョークスリーパーに移行している


「今まで散々心配かけた罰ね。甘んじて受け入れなさい?」

「ヴェ、ヴェルちゃん? コウキさんも病み上がりなんだからホドホドにね」


 隣でエダも暖かい微笑みで見守っているし、もうしばらくは我慢しなければならないだろう。ようやく開放された頃には[宝珠竜の暖光]と長い間の寝たきり生活のせいで、俺はクタクタに疲れ果ててしまったのだった。


「さてさて、とりあえず救出作戦は成功したのは目出度き事。しかし、問題は以前変わっておらん。コウキ殿、貴方の使った奇跡はどの程度の時間効果が持続するのかの?」


 ジャーリ伯爵が最近整えていない顎の白髭を触りながら、ポツリと呟いた。確かに戦意を喪失させただけで、俺は実際には一人の兵士も殺めてはいない。つまり王国軍五万の兵は今だ健在なのだ。明日には正気に戻り、ブオリ村への進軍を開始するだろう。


「つまりは、大元を断たねばならんと言う事だな」


 シグルド殿下が重い口を開く。正直、王都での地下牢獄での一件が昨日のように思い出せる俺は話しかけづらいのだが、エダ達の言葉は信用に足るものだ。ならば自身の親であるシグムント王を裏切ってまで協力してくれているという事実は、過去の過失を払拭するのに十分なものだろう。俺もそう思いなおして意図的に過去を忘れることにした。


「つまり直接、シグムント王を説得しないかぎりこの戦いは終わらない。そう言う事だろ?」

「……うむ。親父殿は全体の指揮を執るため、王城に戻っているだろう。なにせ、エダ殿の翼はすでに知れ渡っているはず。無闇に危険な場所に居座る道理もない」


 俺の出した結論に、シグルド殿下がゆっくりと頷いた。

 戦闘機など存在しないこの世界では、空からの攻撃は今まで有り得なかった新戦力だ。平面的な戦略が常識なこの世界では、空の利は圧倒的。地上の攻撃は空にいる俺達には届かず、凶器を雨のように降らせるだけでいい。俺やエダの航空能力はこの世界の戦争を一変させてしまうほどの力なのだ。

 ならば、頑丈な屋根がある場所に避難する他ない。シグムント王が堅牢な本拠地で対策を練るという道理は至極当然だった。


「この度の襲撃で、我々の位置は特定された。ならば各地に散った兵士達も王都に戻しているだろう。つまり、またも五万の軍勢が君達を待ち構えているはずだ」


 彼の憶測が事実なら、ブオリ村を防衛すると同時に王城も攻略しなければならない訳だ。変わっていないどころか悪くなっているじゃないか。


「それとも、またその[宝珠竜の暖光]とやらで五万の兵士を無力化できるのか?」

「いや、多分無理! あれはオルムさんの力があって出来た奇跡だ。あの時にかなり使っちゃったから、あれだけの規模の光を出すにはかなりの時間がかかる」


 俺は慌てて首を横に振って否定した。さすがにそこまで万能な力ではないのだ。先ほどはエダから貰った竜宝珠で得た力を用いて何とかなった。だが、本来五万人もの軍勢の精神に介入するには膨大な力が必要となる。

 おそらく、再び世界樹に(おもむ)(おもむ)かなければ然したる回復は望めないだろう。オルムさんが危険を承知で敵の本拠地、天界の真下である世界樹の根元に居たのは世界樹の力を浴び宝珠竜としての力を貯める為だ。

 それほどに創生の時代から生き抜いているあの大樹はこの世界にとって特別ものなのだ。それでもあの場は使うしかなかった。楽勝であの場を切り抜けたような印象だが実際は六人対五万人、非常事態もいい所だった。


「それでも俺なら空を飛んで人員を運搬することはできる。なら少数精鋭で急襲するしかないかな?」

「むう、コウキの背中に私以外が跨るのは少々、いやかなり抵抗があります」


 あの? エダさん? そんな個人の感情を優先させている時では……。


「いや、君がタリナと共にコウキ殿を助けに行った時に使った籠があるだろう。そこに俺を乗せてくれれば問題ない」


 最速でシグムント王の元にまで辿り着き、兵団を引かせる。俺達が勝利するにはそれしかない。


「それってコウキ姉とエダ姉、そしてシグルドさん三人で行くんすか? アタシらも行きたいっすよぉ……」


 会議の最中、ヴェルが不満の声を口に出してきた。その気持ちは嬉しいが、現状はそれが最良だと気付いているのだろう。語尾の最後はトーンが落ちていた。


「すまんが、空を飛べる二人以外では俺が最適解だ。これでも第一王子だからな、王城の兵士を抑える役として俺以上の適役はいないだろう」


 それに、とシグルド殿下は言葉を付け足した。


「俺達よりも此方の防備の方が重要だ。ここには彼女達の大切な家族が終結している、下手をすれば彼女達が人間族の敵になりかねんぞ?」

「失礼な。と言いたいところですが、理解はできます。ヴェル、皆さん。私達のたった一つの宝を……お願いします!」


 エダがヴェルの両肩を力強く掴んだ。エダを含め、国教となっていた竜神教の教えは今やこの場にいる人々の支えとはなり得ない。この中世のような世界だ、俺のような無神論者はいるはずもない。

 この世界の人達は、天界に住む神々の存在を心の拠り所にして厳しい日常を乗り越えているのだ。エダは特に敬虔な信徒だっただけに、その衝撃は計り知れなかっただろう。

 心なしかヴェルの肩に置いたエダの手が震えていた。彼女の心の支えはもはや此処にいる家族しかないのだ。


「……うっす! 委細承知っす!!」


 事の重大さに気付いてくれたみたいだな。ヴェルは珍しく真面目な表情でしっかりと頷いてくれた。他の二人もしっかりと頷いてくれる。

 おそらくは明日には俺の王国軍にかけた[宝珠竜の暖光]の効果は切れるだろう。一般人ならば一週間は持つとは思うが、ミズガルズ王国兵である彼等はこの動乱の世界を生き抜く職業軍人だ。両大陸を巨人に挟まれたミドガルズ王国は徴兵制なんて甘い手段は取っていらない。王国が直轄で維持し、鍛え上げている戦闘集団がブオリ村に残る皆の相手となる。俺達のような潜入任務ではない本当の戦争が明日、ここで始まる。


 そして俺達の一か八かの特攻作戦も明日、雌雄を決するのだ……。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「あの~……エダさん? 貴方も背中の翼で飛べますよね。何故に俺の背中に?」

「戦乙女の力は限られたものです。今後のためにも節約するに越したことはありません」


 翌日の朝。王都に向かう空の上、これから決死の突入をするという旅の道中だ。竜の姿になった俺の背中に跨る彼女は実に楽しそうに笑顔を浮かべていた。


「あ、お弁当も用意してきたんですよ? 途中での休憩で一緒に食べましょうね」

「うっうん。ありがとう……」


 実に上機嫌な彼女は見ていて楽しいのは確かだが、若干の緊張感の欠けた道程であることは否めない。まあ、ガチガチに緊張しているよりかはマシか。俺は自分をそう納得させた。


「そうだな。旧王都の遺跡に王国軍が居なかったら、そこで休憩しよう」

「はいっ!」


 俺達はお互いの目を見合わせて微笑みあった。久しぶりの二人旅だ。精々満喫させもらおう。ん? 二人?

 思わず手に握った籠を見下ろしてみる。完全に世界に入ってしまった俺達に気付いたのかどうなのか、三人目の同行者であるシグルド殿下は、固く目を瞑ったまま胡坐をかき瞑想していた。その顔が若干寂しそうだったような気がしたのは気のせいだろうと思いたい。


「シグルド殿下、ちょっといい?」

「ん? なんだコウキ殿」


 この場の変な空気を変えたいという気持ちもあったが、王城に到着する前に確認しなければならないことがあった。


「王城に居る兵士をシグルド殿下が止めてくれるって段取りだったけど、実際問題どれぐらいの時間止められる?」


 今回の作戦は少数精鋭による、潜入作戦だ。城内がいくら広くても相手も五万人という兵士を一度に動員できない。その点については俺達に有利な反面、不利でもある。潜入するということは、逆に言えば自ら袋小路の中に入り込むということだ。潜入したら最後、シグムント陛下を説き伏せなければ俺達に道はない。


「そうだな。半日くらいは稼げるはずだ。五万の兵の内、俺が味方に付けられるのは二万といったところだからな」

「はっ!? そんなに?」

「俺は廃嫡された身だが、そんな俺でも理解者は居てな。それが、俺の滅亡の啓示を信じてくれた者達だ。今は王都で形の上は親父殿に恭順してくれている。だが、王城での騒ぎが合図となって蜂起してくれる手筈となっているのだ」


 それはもはや只の作戦ではなかった。それは……。


「それってまるっきりクーデター、革命じゃないですか!」

「ああ、そうなるな。今の親父殿は両大陸の巨人族に隙を見せまいと目が天界に向いていない。本当は左右のみならず、上からも押さえつけられているのにな。正に致命的だ」


 要するに、シグルド殿下はシグムント陛下に三行半(みくだりはん)を突きつけるつもりだ。歴史の教科書でしか知らなかった、国の変化、時代の変化の真っ只中に俺は今いる。それを今更ながらに思い知った。

 もし失敗すれば、それは俺達だけの問題じゃない。革命軍としてシグルド殿下に着き従った人達全員が反逆者として処刑されてしまう。これは失敗すれば何もかも失う、そういう種類の戦争なのだ。

 俺の肌が、いや今は竜形態だから鱗になるのか、が緊張でめくり上がるかのようだ。俺達の一戦に数多くの人命がかかっている。今更ながらに俺はその事実を確認したのだった。



 王都に到着する頃には真夜中になっていた。普通なら一週間ほどの道程を、一日で飛んできたことになる。転生したばかりの頃には考えられないような速度だった。

 あの頃は飛べない代わりに、尻尾をバネのようにクルクル巻いてジャンプしていた。あの跳躍飛翔と名づけたその技はもはや必要ない。今やこの一対の羽根で全てが表現できる。

 こんな事態だというのに、自由に大空を舞える快感は如何ともしがたかった。きっと人類はこの感覚を味わいたくて飛行機を開発したのだろう。そう確信できるほど、この快感は俺を(とりこ)にしていた。


「ちょっとコウキ。揺れ過ぎですよ~」

「うぷっ……」


 あ、しまった。

 どうやら少々はしゃぎ過ぎたようだ。俺の曲芸まがいの飛行に、乗員の二人が目を回してしまっていた。シグルド殿下に至っては乗り物酔いしてしまっている。俺はしばらくその場でホバリングして、二人の回復を図った。しかして王都の兵士に見つかってしまっては潜入作戦が破綻してしまうので雲の上で停止中だ。

 ここから急降下して王城へと緊急着陸する。これなら、上空を警戒する術を持たないこの世界の人間には見つけようがない筈だ。航空戦力が絶対の力であると人類が痛感するのは、ずっと後の話なのだから。


「もう大丈夫だ。今丁度、月が現れていて良い月光だ。普通なら月明かりは邪魔なものな筈だが、コウキ殿にとっては都合がいい」


 竜形態の俺の体は、今では黄金の鱗に覆われている。今までの浅黒い鱗ならば月明かりは邪魔者以外の何者でもなかったが、今の身体なら月光の中を突入する方が見つかりにくい。

 俺を助け出す時にエダも似たような方法を取ったようだが、そこまでの情報は王都にも届いていないはずだ。どれだけ早馬を飛ばしたとしても、今の俺の速度には敵わないのだから。


「了解。シグルド殿下も準備は万端?」

「うむ。俺の方はコウキ殿とは違い、実際に火災が起きるまでは目立たないからな。問題ない」


 この時ばかりはシグルド殿下も籠ではなく、俺の背中に陣取っている。エダには申し訳ないけど今のシグルド殿下は俺達にとっても危険な存在となっているので、彼女には自前の翼で飛んでもらっている。

 なぜかと言えば、原因は魔剣グラムだ。竜殺しの権能を持つ彼の魔剣は俺だけでなく、戦乙女の身体を有しているエダにもとても危険なシロモノだ。

 その権能は[竜殺し]

 名前からすると危険なのは俺だけのようにも思えるが、天界の神々は下界に降りる際に竜化することはエダがオルムさんから聞いてきた確かな情報だ。つまり、天界の住人には大なり小なり竜の因子を持っていることになる。戦乙女の身体にも竜の因子が混在している可能性は否定できなかった。

 俺の背中でシグルド殿下が魔剣を最大限に開放していた。真夜中な為、目立つことはないが飛び散る黒炎が俺の背中の鱗にも飛び散っていて地味に熱い。


「まったく。こんな状況じゃなかったら最悪のお客さんだよ。間違っても二度と乗せたくないし、敵にも廻したくない」


 この魔剣は本来、俺やエダのような天界に生きる身体を切る為のものだ。味方とするなら頼もしいが、敵として応対したのなら間違いなく逃げの一手を選択するだろう。


「その可能性は無いと思ってもらいたいな。コウキ殿やエダ殿が天界の神々に洗脳されないかぎりは。それとて、この魔剣がなければ俺の方こそ御免こうむりたい」


 シグルド殿下の言葉に、僅かだがエダが反応したような気がしたのは気のせいだろうか。彼女からすれば、今現在彼女が所持している地竜の剣よりも魔剣グラムの方がよほど恐ろしいだろう。

 地竜の剣はオルムさんの力がある為、同じオルムさんの聖遺物をその身に取り込んだエダには効果は薄い。だが魔剣グラムは純粋な[破天]の力を宿しているのでその対象には俺達も含まれる。おそらくはこの地上で唯一、俺達を瞬殺できる武器だった。


「さて、じゃあ乗り込むには良い頃合だ。そろそろ行きますか」

「はいっ!!」

「応っ!!」


 二人が心強い返事を返したところで、俺の体は王城に向かって急降下を開始した。



 王都の最奥に位置する巨大な王城に黒い魔剣の炎が立ち上った。時刻が深夜だった為、その黒炎は目立つこともなく王城の中庭に立ち昇った。その後、近くの立木に引火して初めて王城に赤いグラデーションが写り込む。中庭には綺麗に刈りそろえられた立木が並んでいる。それらが巨大な松明となって革命への合図となるのだ。


 それはまるで壮大な冒険活劇映画のワンシーンのようだった。


「て、敵襲うううううう!! ……き、貴様! 何をするか! グワぁ!!」


 中庭付近にいた警備兵の一人が声高らかに敵襲を告げた瞬間、隣に居た相方の警備兵がその口を封じた。シグルド殿下の手の者は王城内部にまで及んでいたのだ。実に頼もしい限りである。


「ではシグ、手配どおりに私達は王の寝室に向かいます。出来るだけ時間を稼いで下さい」

「了解した、エダ殿。コウキ殿も気をつけてな」


 いつの間にかエダのシグルド殿下への言葉が敬語じゃなくなっている。俺が眠っている間に色々あったらしい。色々と聞いている内に腹が立ってきたので途中で聞くのを止めてしまったが。


「この先は通さん! 同士諸君、今こそ時代の変革の時だ!!」


 予め中庭に集結するよう伝達済みだったようで、シグルド殿下の周りには早くも味方の兵が集まり始めている。その兵士達は、雄雄しい咆哮と共に俺達を送り出してくれた。

 彼等の命と未来が俺とエダの双肩にかかっている。一秒でも早くシグムント王から降伏の言葉を引き出さなければならない。

 兵士達が終結するであろう中庭を背に、俺達は王城の最深部に向けて駆け出した。

最後までお読み頂きありがとうございました。

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