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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第4章 宝珠竜の復活
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第28話 ユミルの危機

第28話をお届け致します。

エダさんとシスター長の再会ふたたび。

出来るだけ印象的なシーンにしたかったのですが、殿下イジリで終わりました(笑

最近不遇なシグルドさん。がんば!


2019.5.2改稿

 予め目印を置いていたので、樹海の帰り道は問題なく走破できた。こんな所で時間を掛けてはいられない。一刻も早くユミルの街に戻らなくては!

 私の想いは樹海を抜けた瞬間に、更に強まった。


 樹海の入口は先ほどまでと変わらず沈黙を保っていた。聞こえるのは世界樹から吹き付ける風の()と虫たちの鳴き声のみ。

 まだ此処からはユミルの街の影も形も見えない。しかし、何かとんでもない災厄が降りかかっているのだと私は確信してしまった。


「空が……赤く染まってる」


 時刻は真夜中。本来ならば闇夜が空全体に広がっていなければならないはずが、ユミルの街の方角だけ赤く照らされていた。その灯りは間違いなく人災だ。


「シスター長……コウキ!」


 本当にシグムント王の軍勢がユミルの街を襲っているというのか。一体何のために?

 いや、考える時間も惜しい。私は全速力で飛び出した。この世界樹の麓にまで赤い光が届くということは、既に街は炎上している。

 今の私の力では全速力で走っても半日はかかる。その頃にはもう――。絶望的な光景が私の脳裏を襲った。


「くそっ! 何かないか? 何か手立てが!?」


 そんなものはない。それは私自身が重々承知していた。せめてシグルド殿下が皆の非難を誘導してくれていれば良いが、攻めて来ているのは王国軍だ。王子であるシグルド殿下が私に味方してくれているとは限らない。

 私の脳裏に絶望の二文字が去来した。


(――手伝ってやろうか?)


 私の意識の奥深くから言葉をかけられた。私の中にいて言葉を紡げる者など一人しかいない。


「……戦乙女エルル!!」


(――急いでいるのだろう?)


「五月蝿い。私の邪魔をするな!」


(――このままでは間に合わんぞ? お前の大切な者達が命を失ってしまう)


「分かっている! だから邪魔するなと言っているんだ!!」


(だから手伝ってやろうと言っているのだ。私の力ならば、そうだな。今のお前の速度の三倍は出せる)


 それは正に悪魔の囁きだった。それなら確かに間に合うかもしれない。街の炎上はもはや仕方ないとしてもシスター長や昔なじみである神官の皆、そしてミドガルズオルムの言葉が本当ならコウキまで。

 だがもう一度、私の体を戦乙女に貸してしまえば今度こそ私は……。


(何も私にすべてよこせと言っているのではない。そうだな、背中だ。背中を私に貸すと念じろ。それだけで良い)


「……ぐっ」


 それが厚意の発言では無いのは重々承知している。だが、今の私には皆を救う手立てがない。慙愧(ざんき)の念に駆られながらも、私はその案を呑むしかなかった。



 効果はすぐに現れた。背中の肩甲骨が(うごめ)いている。まるで自らの意思で皮膚を突き破るかのように。……うごめいている。


「うあああ――――!!」


 骨が背中の皮膚を突き破った感触を確かに感じた。しかし私の視界に見えたのは骨ではなく、




 ――――純白の翼だった――――


(さあ、急げ!お前の家族が危ないぞ!!)


 私の意識の中で、戦乙女エルルの笑い声が木霊していた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 段々と赤い光が夜空を広く照らし出した。悔しいが私の足だけでは此処まで速く到着することは叶わなかっただろう。

 私は今、大空を飛翔していた。世界樹から吹き付ける風が私の背中を強く押してくれる。もちろん初めての体験だが、空を翔る快感を満喫する余裕はなかった。

 地平線の先から人々の悲鳴と怒号が此処まで聞こえていた。それは侵略する王国軍の怒号なのか、それとも逃げ惑うユミルの街の皆の悲鳴なのか。

 なんにせよ、真っ赤に染まった空は落ち着く気配を見せてはいない。ならばまだ、全てが終わった訳ではないはずだ。


 ふと地上を見下ろしてみた。そこにはユミルの街から逃げてきたであろう、二十人ほどの集団が移動している。

 それを確認した私は地上に降り立つため、目一杯広げていた翼を垂直に立てていた。

 ふわりと、逃げ惑う集団の先頭を(さえぎ)るように降り立つ。


「竜神殿の巫女エダです! 詳しい状況を教えてください!!」

「エ、エダちゃん? ホントにエダちゃんなのかい? その格好は……」


 騒然とした群集の中で一人のおばさんが進み出てきてくれた。私はその顔に見覚えがあった。いつも食事の材料を買いに行くとサービスしてくれた商店街の名物おばさんだ。


「私の詮索は後に、一体何があったのか説明してもらえますか?」

「それが私らにもサッパリなんだよ! いきなり王都から兵隊さん達がやって来たかと思えば、この街に王家に仇名す邪竜が潜んでいる。大人しく出せ! とか言ってきてさあ」


 この状況でも世間話が達者なおばさんに感謝だ。何故かは分からないが、やはりユミルの街にコウキが来ている。私はその事実を確信した。


「すいません、おばさん。もう一つだけ質問をさせて下さい。竜神殿のシスター長は見ていませんか? 逃げているところでも良いのです、何方か見た人はいませんか!?」


 私の最後の質問にはっきりとした答えをもっている人は……いなかった。


「最悪の事態だ。クソっ! 皆さんはこのまま北上してください。北に向かえば少なくとも魔物の襲撃はありませんから!!」


 昔の私からすれば有り得ない悪態をついた私は、再び大空に向かって飛び立った。

 この時、私はシスター長の居場所に確信を得ていた。(かたく)なあの人はあそこに居るに違いなかったからだ。


「あの頑固者は……もうっ! 人の心配だけして自分のことには無頓着なんだから!!」


 あえて戦乱の中に残ったであろう母親代わりの恩人に向かって、私は全力で翼を羽ばたたせた。



 ようやくユミルの街上空に到達した私は、見慣れたはずの街並みを見下ろし愕然(がくぜん)としていた。王都には及ばないものの、人々の人情で栄えた私の第二の故郷は今、灰燼(かいじん)と化そうとしている。


「……っ!」


 怒りのあまり言葉も出ない。地上では今だ王国の兵らしき集団が家々に入っていく姿が見える。本当はこのまま舞い降りてあの暴挙をやめさせたい。しかし、冷酷な私の心は優先順位を間違えるなと訴えていた。

 兵士達は既に町の中へ散っている。それを各個撃破するには時間がかかりすぎるのだ。

 その結論で自分を無理矢理、納得させた。


「そうだ! 竜神殿……!!」


 誤魔化すように街の奥へ急行する。幸いにも竜神殿に火の手は上がっていない。

 しかし、それも時間の問題だった。入口には多数の兵士が詰め掛けており、今にも神殿の門が破壊されそうになっていた。


 いや、破壊された!

 扉を叩き割る轟音と共に、軍勢が神殿内になだれ込んでいる光景を見た瞬間、私はステンドグラスの窓目掛けて飛び込んでいた。


 ガラスの破砕音と一緒に、私は神殿内に突入した。

 神殿内にガラスの破片が、夜空に浮かぶ星々のように煌めいた。兵士達を制止するシグルド殿下と竜神像に祈りを捧げるシスター長の姿が瞳に写る。

 良かった、本当に良かった! 無事だ!!


「只今戻りました。(マリー)さん!!」


 叫ぶように帰還の報告をした私に、シスター長は祈りのポーズを崩さずに私を見上げてくれた。


「まいど毎度、遅いんだよ……。おかえり、エダ」


 私は両手と翼をめいいっぱい広げて、シスター長の首に抱きついた。



「良かった、良かったですううう。うええええええ」

「せっかく格好よく登場したのに台無しだねえ、あんた」

「そんなの、どうでも良いですうう」


 シスター長の胸の中で確かな暖かさを感じることができ、私は思わず泣きじゃくってしまった。何時もの調子で話しながらも、私の頭を優しく撫でてくれるのがとても気持ち良い。


「ホラ、此処にいるのは私だけじゃないんだよ? いい加減泣き止みなさいよ、恥ずかしい」


 そう言われて抱きついたまま振り返ると、呆れたような表情のシグルド殿下と呆気に取られた兵士達が対峙していた。


「……殿下、ジャマです」


 私のあんまりな言葉を聞いた殿下は、張り詰めていた首をガクンと落としてしまった。兵士の人達も放心状態になっている。


「コラ、あの人もアンタの仲間なんだろ? なんだいその扱いは」

「私を騙してお酒を飲ませようとした人なんて、その程度で十分です」

「……アぁあ?」


 私の言葉でシスター長の中でも殿下の印象が急落してしまった。下落も下落、奈落の底まで真っ逆さまである。もはやシスター長の目には殿下が道端のゴミ程度にしか映っていないだろう。それでも無理矢理、婚約者にさせられた件は黙っていたのだから感謝してもらいたいくらいだ。


 それよりも私はシスター長に確認しなければならない事があるのだ。


「こうき、コウキは本当にこの街に来ているのですか?」


 私が最後にコウキの顔を見たのは王都。叔父様の屋敷で眠る姿だったが、もしかしてもう目が覚めたのだろうか? それとも意識の無いままユミルの街にまで連れて来られたのだろうか。

 私自身も状況はある程度、把握できていた。この目の前に居る王国軍の兵士達は明らかにコウキを探していた。ならばもはや王都に安住の地はなかったのだろう。私達同様、かなり危険な状況に陥っているに違いないのだ。コウキだけではなく、叔父様や屋敷の皆も。


「安心しな。弟達が安全な場所まで避難させてくれたよ。アイツも伯爵の地位を放り投げて来るんだから、もう……馬鹿だねえ」


 とんでもない発言を聞いてしまったが、今は避難するのが最優先だ。コウキはこの厄災(やくさい)の中にはいない。それだけを確認できれば十分だった。


「この街から脱出します。私にしっかりと捕まってください!」


 再び飛翔するべく背中の翼を広げた私を、シスター長が唖然とした顔で見ている。


「なんだい? アンタ遂に天使様の仲間入りしちまったのかい!?」


 遂にとは何ですか!? と思ったが、この人はどんな事件に巻き込まれても自分の調子を崩さない人なのだ。私の母親代わりの恩人は、そんな頼もしい人だった。

 私はシスター長を固く抱き締めながら、再び自分で突き破った窓から飛び立った。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 改めて空から見上げると、王国の軍勢の規模に血の気が引いてしまう。これは明らかに王都だけの軍勢ではない。周辺貴族の私兵や、火・霜の巨人の警戒にあたっている東西の砦からも兵を動員しているだろう。


「およそ……十万と言ったところか。親父殿も無茶をする」


 私の足元から呟くような声が聞こえてきた。私の左足首に大剣を背負った大男が(すが)り付いていたのだ。


「なぜ、私の足に縋り付いているのですか? シグルド殿下」

「いくらなんでも、あそこに孤立させられるのはあんまりだろう……」


 そう言いながら真上を向こうとした殿下に、私は思いっきり顔面に足蹴をお見舞いしてやった。


「上を見るな。この変態! 大体、この国の第一王子である貴方がなぜ王国軍に追われているのですか!!」

「ぐッ……やめろ! 君と違って俺に翼はないのだぞ!」


 私がコウキから借り受けた[戦乙女の鎧](ヴァルキリーアーマー)は露出が激しい。さすがにスカートではないが、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。この人のことだから別に落としても生きているような気がしたが、仕方なく許してあげた。


「君を逃がした罪で廃嫡(はいちゃく)らしい。まあ、清々したがな。王位は弟が継ぐらしいが、俺とは違い内政が得意な奴だ。問題はないだろう」


 元々、俺は国王なんてガラでは無かったからと晴れやかな顔で微笑んでいた。いや、私から見てもシグルド殿下はミズガルズのために奮闘していた。それをあっさり廃嫡だなんて。シグムント王は一体何を考えている?


「と言う訳で、今度こそ本当に俺は王族ではない戦士シグとなったわけだ。味方は例え一人でも多い方が良いだろう?」

「むう……仕方がありません。せいぜいこき使ってあげます」

「お手柔らかに頼む。それと今ほど一人と言ったが、俺の私兵五百が東の山脈の麓で待機している。ユミルの民はそちらに誘導すると良いだろう。ジャーリ伯爵もそちらに向かっているはずだ」


 むう、良い仕事をする変態である。変態だけど。地上では戦士シグと同行した騎士達が時間かせぎと、避難誘導を行なっている。

 戦乙女の身体を私は持っているが、決して全知全能の神ではない。悔しいが全ての人間を救うことなんて出来るわけがない。彼等もそれは覚悟しているようだった。何人かが此方に向けて手を振っている。

 それが、救助の要請などではなく、別れの合図なのが無性に悲しかった。

最後までお読み頂きありがとうございました。

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