第1話 転生したのは竜神様?
初めて「なろう」に投稿させて頂きます。Mikamiと申します。
これまでは読む専に徹してきた私ですが先達の皆様の作品を読むうち、自分でも書きたくなってきました。
なのでこの「宝珠竜と予言の戦巫女」が処女作であり習作でもあります。
誤字、脱字。ストーリーの食い違いなどご意見ありましたら頂けると幸いです。
それでは駄文ではありますが宜しくお願い致します。
2019.5.1改稿
追記:ブログ始めました!
時間がありましたらご覧ください。
「アラフォーおっさんが「小説家になろう」でラノベを書いてみた」
http://mikami7194.livedoor.blog/
その日。
突然、訳も分からず飛ばされたこの世界で。
初めて出会った少女に、俺は一瞬にして魅了された。
夏のように気温は高いが、冷たい水がふりそそぐ滝のほとり。
その光景はサバンナと言ってもいいほどの広大な平原に咲いたオアシスだった。
滝が打ち付ける勢いで体を沈めることができるほどの深さになった滝つぼは、水浴びにも水分補給にも最適の場所だ。
乾いた喉を癒すため、そして身体にこもった熱を冷ますため。周囲をろくに確認せずに飛び込んだそこに、天使はいたのだ。
腰ほどまで伸びたプラチナブロンドの髪は、水の流れと遊ぶように揺らめき。その白い裸体は、滝つぼの水に濡れながらも光り輝く陽光を反射させていた。
まん丸に見開いた巨粒のサファイアのような瞳が、まっすぐに俺を見つめている。
そんな天使の沐浴の場に、俺はろくに確認もせず飛び込んでしまった。
「すっ……すみません!? あっあの、別に決して覗くつもりは無くてですね!? 不幸な事故というか、幸運な偶然というか!」
慌ててあさっての方向に目線を変え、謝罪と言い訳の言葉を並べ立てた。反射的に謝ってしまう自分が実に日本人らしく、情けなくもある。
ここがどんな世界かも分からない現状では、覗きがどれほどの罪になるのかも想像できない。仮に俺の現代常識で言ってしまえば、この一言で事足りる。
THE END だ。
最悪の結末を覚悟した俺だったが、意外にも被害者である天使の口からでた言葉は悲鳴でも怒号でもなく。
両手を胸の前で合わせながらの懇願だった。
「竜神様。どうかこの世界をお救いください!」
「……はいっ!?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
まずは自己紹介をさせてもらいたい。
俺の名は「佐藤 光輝」。
随分とキラキラな名前だと自分でも思うが、自分で付けた名前ではないのだから仕方がない。
「光り輝く人生を送ってもらいたい」
命名の根拠としてはごく平凡だとは思うが、名づけられた本人はたまったものではない。何しろ俺にはそれほど特筆するほどの特技もなく、頭もよくない。ごくごく一般の家庭にいる、ごくごく普通の少年だったのだ。
両親の願いもむなしく、俺は平凡な学生時代を送り地元の建設会社に就職した。
毎日を工事現場の作業員として汗を流し、夜は学生の頃からの趣味であるゲームとアニメ鑑賞で一日の疲れを癒す。それで満足だし、このまま平凡な生活が続いてゆくものだと疑いもしなかった。
パワーショベルで掘削した穴へ転落するまでは。
意識を取り戻した時、俺がいたのは救急車の中でもなく病院のベットの上でもなかった。
草の上だった。
いやそれだけでは何の事やら分からないことと思う。だが自分自身何がなにやら分からなかったのだ。
「どこだ。ここ…」
見渡す限りの平原。遠方をのぞけば幾重にも連なる雄大な山々。青々とした大空にはその中に浮遊城でも潜んでいるのではないかと思えるような、巨大な入道雲が広がっている。
そしてその中央にそびえ立つのは、冗談だとしか思えないほどの巨樹。
まるで今まで生活してきた日本の風景とは似ても似つかぬ絶景に、しばらくの間ほうけてしまった。
今現在、自分の置かれている境遇に到底理解が及ばない。それでも自分の身体の感覚に違和感を覚え、ふと自分の体を見下ろしてみた。
そのあまりにも異常な光景に、俺の思考は今度こそ完全に停止してしまったのである。
足がなかった。
そのかわりに、黒光りする鱗におおわれた大蛇のような尻尾がとぐろを巻きながら体を支えている。
手がなかった。
そのかわりに、巨大なコウモリを連想させる羽根が心地よい風を受け止めていた。
人の顔がなかった。
視界の中に、これまた鱗でおおわれたコモドドラゴンのような鼻と下顎から伸びた大きな牙があった。
しかも、前世で見ていた作品に強敵として登場したドラゴンのような巨大な体躯ではない。どちらかといえば竜騎士の相棒たるワイヴァーン、いわゆる飛竜のようだ。
「なんじゃこら……。だれか、誰か説明してくれええええええええええ!!」
どうやら、信じがたいが、どうにも、自分は、飛竜に生まれ変わってしまったらしかった。
しばらく呆然として無駄な時をすごした俺だったが、ようやく現状が認識できるようになってきた。普通の人なら絶望に打ちひしがれるような状況だったが、俺の中には不思議な高揚感も混在している。
なぜならばこの状況が家で、そして工事現場の休憩時間に暇つぶしで読んでいた小説に酷似していたからだ。
「いわゆる異世界転生モノってやつか。
しっかし、どうせ転生するなら勇者とか王様とか色々あんだろうがよぉ……」
誰もいない荒野で愚痴ってみる。
もちろん返事はない。
見渡す限りでは、人里に見えるような建築物も存在しなかった。
「……救助の手なんて来る訳もないか。とにかく水、食料、寝床をなんとかしないとな。でもこの体って何を食べればいいんだ?」
とりあえず行動しなければ、俺に待ち受けるのは餓死のみである。俺は自分自身に気合を入れなおした。
転生前に動画で視聴した特殊部隊所属の元軍人さんが出演していたサバイバル動画を思い出し、今後の行動を模索する。
一般人じゃ真似できないだろコレ満載な内容だったが、今の俺なら多少は真似できるかもしれない。
ふと、先ほど視界に入った巨樹の方角から甘い匂いが風に運ばれてきた。
同じ方角から小川のせせらぎもかすかに耳に届いている。
巨樹の麓には富士の樹海を連想するほどの森林地帯が広がり、甘い果実がみのっているのだろう。
今の俺は嗅覚も聴覚も優れているらしい。食料があり、水があり、森の木々は雨露をしのいでくれるはずだ。
俺はこの異世界を生き延びるために行動を開始した。大きな不安と少しの冒険心を胸に秘めながら。
ズリ……ズリ……ズリ……。
「二足歩行って偉大だったんだなあ……」
俺の口からは、人間であった頃には絶対つかないであろう台詞が出ていた。なぜなら今の俺には二本の足がなく、あるのは一本の大きな尻尾だ。
自然の恵みを得るため、移動する手段として俺が採用したのは蛇のようにくねりながら体を前進させる。
ほふく前進だった。
え? せっかく羽があるんだから空飛べばいいじゃんって?
ならば皆様に是非ともお聞きしたい。
一体全体、空ってどう飛ぶんだ?
もちろん俺も真っ先に思い立ち、試行錯誤してみた。
転生後のこの体、巨体ではないとはいえ鳥のように軽いわけでもない。人間だった頃より明らかに胴は樽のように太く、長々としている。おそらくは100kgほどの体重はあるだろう。
こんな巨体をただ羽根を羽ばたかせるだけで、この雄大な大空へ体を運べる訳がないのだ。
そのかわりにこの体、体力だけはあるし人間だった頃に全力ダッシュするくらいの移動速度はほふく前進でも出せた。特に疲労感もなく移動し続けられるので当面は移動に問題はなさそうなのだ。
とりあえず、今現在の目標は水分補給だ。
甘そうな匂いが漂ってくる樹海はまだ遠いが小川は平原に向かって流れてきているようだ。そこまでなら、なんとか苦労もせずにたどり着けそうだ。
俺はただひたすら体をくねらせ、前進を続けた。
そこで天使との出会いがあるとも知らずに……。
「……やった。……水だっ!!」
人間の頭ほどもある葦の群生地を掻き分けた先。ようやく辿りついた小川には、ご丁寧にもシャワー代わりにしてくれと言わんばかりの小さな滝まであった。
ここまでの移動でカラカラに乾いていた喉は、一刻も早く水分をよこせと急いてくる。
自身の喉からの要望に答えるため、俺は泉と化した滝つぼに飛び込んだ。バシャーンと盛大な音が辺りに響き渡る。
「きゃあっ!?」
「あああああああ……っ。……ヘブン」
あまりの気持ちよさに意味不明な声が出た。頭から水の中に突っ込み、喉の渇きを潤す。本当ならば煮沸してから飲むべきなのだろうけど、この身体なら並の細菌に屈することもないだろうと適当な理由で納得させた。
「まさに天国だなあ……。どこかにペットボトルとか流れ着いてないかな? まあ、暫く川沿いに進めばいいか」
……ん? ……きゃあっ!?
なんか今、俺とは明らかに違う声が聞こえたような?
空に向けていた顔を下げ、周囲を見渡す。俺が飛び込んだ場所から少しだけ離れた岸辺に、
――――天使がいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「竜神様。どうかこの世界をお救いください!」
「……はいっ!?」
覗きの現行犯として人生の終わりを覚悟した俺だったが、岸辺の浅い水面で頭を下げる天使のような少女の言葉に混乱していた。
……神様? 俺がっ!?
「どうか、どうか私達人間族の大陸を竜神様のお力で救って頂きたいのです。そのためならばこの命、竜神様に捧げます!」
今だ一切の衣類を身に着けていない少女が、バッっと頭を上げた勢いのまま護身用の短剣をとりだし、自らの喉元に突きつける。
「ちょ、ちょっと待って。早まるな! とりあえず事情を話してくれないとこっちも訳わかんないぞ!」
この世界で始めて出会った少女は、俺の前で自殺しようとしていた。とりあえず、自分の首下に突きつけている物騒な短剣をなんとかしなければならない。
俺はなんとか少女をなだめようと、羽根をオール代わりにしてゆっくり近づいてゆく。
「いいか? 今そっちに行くからな? 動くんじゃないぞ?」
「いいえ! 竜神様にこの命を捧げる覚悟はとうに出来ております。どうかお受け取りください!」
「いや、いらないから!」
突然の事態に、もはや叫ぶしか選択肢が見つからない。
「私ごときの命ではご満足していただけないのでしょうか……?」
サファイアのようだと評した少女の瞳に涙が浮かんでいる。
「誰の命だろうといらないよ!」
まるで会話が成立していない! とにかく落ち着いてもらわなければ話もできないのだ。
俺にとっても、この少女はこの世界に来て出会った初めての人間だ。
この世界の事を把握するためにも、何とか落ち着かせなければ……!
「とりあえず名前を聞いてもいいかな?」
「は……はい。私は竜神教の巫女、名をエダと申します」
落ち着きを取り戻してきたのだろう。
少女は首元から短剣を降ろし、俺の質問に答えてくれた。あまりな展開に、当初の天使のような外見に魅了された俺も妙に冷静だ。
「エダさんね。その竜神教っていうのは、この世界では一般的な宗教なの?」
「はい。私達が住む人間族の大陸[ミズガルズ]で国教とされています」
なるほど……。竜崇拝が一般的な世界なのかな?
会話を続けながら、ゆっくりと近づき……。
尻尾を一閃、彼女の手から短剣を弾き飛ばした。
「あっ……!」
「まったく、命を粗末にするんじゃない。親御さんが悲しむぞ?」
とりあえずエダと名乗った少女には反省してもらわないとな。
俺は一息ついたのち、自分も名乗った。
「初めまして。俺の名前は佐藤光輝といいます。よろしく」
「よ、よろしくお願い致します。……竜神様」
まずは一安心だな。
胸をなで降ろした俺は、改めて少女を見下ろしてみた。
埃まみれだが、洗えば眩しく輝くであろうプラチナブロンドのロングヘアを後ろにまとめ、南国の海をイメージさせる大きな青い瞳が、少女を可憐に演出している。年齢は17歳くらいだろうか。
しかし本人は気付いていないようだが……、詳しい話をする前にこれだけは言っておかなければならない。
「とりあえず……。何か着てくれないかな? こんな姿だけど俺も一応、男だから」
「……えっ。あ、す、すみませえええええん!!」
両手で大切な所を隠しながら、彼女は岸の枝に掛けている服を取りに走り出した。
「……お待たせ致しました。お見苦しいモノをお見せしてしまって申し訳ありません」
「いや、見苦しくなんか……むしろ眼福でしたって、何言ってんだ俺は」
まるでお見合いの場かのように、お互いが俯いてしまう。
うう、この場の空気が重い……。
ここまでの旅路が過酷だったのだろう。こちらの世界の巫女装束らしき彼女の服はボロボロだった。これでも少々目のやり場に困る格好なのだが、裸よりはマシだ。
「ところで、とても変な質問をさせてもらいたいんだけど……」
ここは強引に話題を変えることにした。
申し訳ないがこちらの用件を優先させてもらおう。
「はい。私に答えられることでしたら、なんなりとお聞きください」
教えてもらえるようなので、俺は転生してから今まで疑問だった根本的なことを聞いてみた。
「ここって、どんな世界?」
「はい?」
そう! 元の世界でよく見た転生モノならこちらの世界に来る前に神様が登場して、今後の説明なり強力な武器なりスキルなりを授けてくれていたのだが……。
俺は何の説明も、何の準備もなく放り出されたのだ!
今の俺がまず欲しい知識は「この世界がどんな世界なのか?」ということだった。
その後、俺は少女から色々と教えてもらった。
彼女はここから南の大陸[ミズガルズ]で竜の神を崇拝する神殿の巫女。
曰く、大地母神竜がこの大地を創生したと信仰する宗教で、人間族の大多数が竜神教教徒なのだとか。
更に、この世界は四つの大陸に分かれているらしく。
東に火の巨人族の大陸「ムスペルスヘイム」
西に霜の巨人族の大陸「ニブルヘイム」
北に風の妖精族の大陸「アールブヘイム」
南に人間族の大陸「ミズガルズ」
そして四つの大陸の中央にそびえたつ、この世界の象徴である「世界樹」
それぞれの大陸は世界樹から流れ出る大河で分けられており、最初に俺が見た雄大な山脈とも合わさって他の三大陸との国境となっている。それぞれの国家はお互いに睨みを利かせながらも、平穏な生活を送っていたそうだ。
そして此処は、その世界樹のふもとにある聖域の孤島「荒廃の島」
彼女はその辺に落ちていた木の棒で、簡易的な世界地図を地面に描いてくれた。しかし、それは有り難いのだが説明してもらううち、俺は思わずふきだしそうになってしまった。
それは、あまりにも有名で聞き覚えのある地名が列挙していたからだ。
―――――北欧神話―――――?
ここは北欧神話の世界なのか?
だが転生前の世界では、竜を崇拝する宗教なんて聞いたことがない。これは俺のいた世界の北欧神話と誤差があると認識した方がいいだろう。
俺は頭の中で、この世界の情報を整理していった。
ある日、彼女は自らの勤める神殿の礼拝堂にいた。神像に跪きながら日課である祈りを捧げていると、神からの啓示を受けたというのだ。
――これより三度の白夜がめぐったのち最終戦争は巻き起こる――
――これを防ぐことができるのは世界樹の更に上、天界より降臨されし竜神のみ――
啓示を受けた彼女は、真っ先にこの神殿の最高責任者であるシスター長に報告した。
しかし、その反応は半信半疑といったところだった。
彼女自身、敬虔な信徒だったのだがこんな田舎街の神殿に啓示が降りるだろうかと。
それでもなお食い下がると、そこまで言うのならとシスター長は「竜神探索」の任を彼女に授け今に至るらしい。またこの辺りは世界樹の近くである聖域ということもあり、魔物が出にくい地域であるという事も幸いした。
「話は大体のところ理解したよ。でも本当に俺がその竜なのか?」
「間違いありません、私は見たのです。あの世界樹の更に上……天界から流れ星のごとく舞い落ちる竜神様を」
ちょうど俺が転生した瞬間を見ていた、唯一の人間がこの少女だったということらしい。
大方の事情を聞き終えた俺は、自分がその「竜」なのかという疑問を感じ得なかった。竜、というより飛竜に転生したこの体は全体的に黒く、どう見ても光輝いてはいない。
しいて言うなら額に埋まっている宝石がルビーのように赤く輝いているくらいだ。
それに、北欧神話で竜といえば悪役の代名詞だったはず。
「あの……。竜神様?」
どうやら、目の前の少女を放置して考え込んでしまっていたらしい。
まずは現実問題から解決していかないとな。
「とりあえずその竜神様って呼ぶのは、やめてもらっていいかな? 俺は自分自身がそこまで大層な存在だとは思えないんだ」
「……では、なんとお呼びすればよろしいのでしょうか?」
俺の顔を見上げながら困惑した顔で質問されてしまった。
「光輝でいいよ。昔からそう呼ばれてるから」
これ以上、様付なんかで呼ばれてたら堅苦しくってしょうがない。
「……わかりました、コウキ様。ならば私のことはエダとお呼びくださいませ。これよりこの身は貴方様の僕、共にこの世界を救う礎となりましょう」
様付けが取れず、世界を救うとか俺にできるなんてとても思えないが、今はそれでいいか。
とりあえず行動しないことには何も始まらない。
「それよりこれからどう行動するか相談しようか」
「あ、それでしたら……」
どうやら何かまだ目的があるらしい。
俺自身、現状は生き延びることしか目的はないのだ。悪い人間だとは思えないし、しばらくこの少女と行動を共にしてみよう。
こうして、波乱万丈を予感させる俺の異世界転生物語は幕を開けたのだった。
第一話。最後までお読みくださり有難うございます。
とりあえずストックのある分までは数日間隔で投稿していきたいと考えております。
今後とも宜しくお願い致します。