第26話 懐かしい人との再会-2
第26話をお届けします。
幕間その2
簡単に言えばエダが宿屋で体力満タンなお話。
里帰りは人を元気にするものです(現実は疲れるだけかもですが)
現状ストックを消費するだけの毎日。。。4章ラストはちょっとお時間頂くかもです。
まだ納得のいく文章になってない。あとで改稿してのいいのですggg
今回もお読み頂ければ幸いです。
2019.5.2改稿
翌朝。
大将とエリさんはもうしばらく此処で稼ぐらしく、出発する私達を見送ってくれた。これから先はこれほど贅沢な野宿は望めないだろう。それにゆったりとした旅を続ける気もなかった。
前回、ユミルの街から王都までの日程はゆっくりとした旅路で一月を要した。だが、それは大量の荷物を積んでの話だ。今回は必要最小限の荷物のみを早馬に積んでの強行軍である。私の概算ではあと五日ほど見ればユミルの街に到着するし、世界樹までは追加で二日。あと、一週間もあれば目的地に到着する算段だ。
実際問題としてコウキの容態が何時、急変してしまうかも分からない。急がなくてはならなかった。
「この戦乙女の身体に翼でも生えていればもっと時間を短縮できるのに……」
思わず愚痴が口からこぼれる。私は頭を左右に振りまわして、軟弱な考えを捨て去った。
シグルド殿下が貸し与えてくれた駿馬はさすがだった。申し訳なく思いながらも急がせた私に、健気にも答えてくれる。旧王都の遺跡を出発してから三日目の夕刻、私達はユミルの町に到着していた。
「シスター長! 只今戻りました!!」
ユミルの街に入った私達は、懐かしい光景に目もくれず竜神殿に飛び込んだ。毎週末には街の皆が祈りに訪れる祭壇の間で、シスター長は竜神像に祈りを捧げていた。
私の声が届いたのだろう。シスター長はゆっくりと目蓋を開き、私のいる玄関口へ顔を向けてくれた。
「帰りが遅いんだよ! この馬鹿娘が!!」
てっきり感動の再会を期待していた私は、その場に正座させられてしまった。久しぶりの[シスター長 二時間お説教コース]が私の頭を悩ませる。ちなみにシグルド殿下はシスター長の形相を見るや否や戦術的撤退を決め込んだ。ズルい。
「で? なんでアンタ一人だけ……ああ、さっきの男も居たね。二人だけで戻って来たんだい? コウキさんは捨てて来たのかい」
他の人なら憤慨して否定できる言葉だが、シスター長に言われると自己嫌悪に陥ってしまう。そろそろ正座した足が限界を迎えていた。これはシスター長の説教コースが終わっても暫くは立ち上がれないだろう。
私はこれまでの経緯をシスター長に説明していた。コウキがいきなり邪竜の化身だと弾劾され、暴走してしまったこと。コウキを救うため[天命の丘]に赴き、私の正体が神々の使徒たる[戦乙女の末妹エルル]だと判明したこと。コウキ達が命がけで私の意識を回復させてくれたが、今度はコウキが戦乙女の槍で意識不明となってしまったこと。
シスター長は無言で私の懺悔を受け入れてくれていた。
「私はこれからもう一度、世界樹へと行ってこようと思います。もはや私達が信じた神々の言葉は信用できません。ならば私自身でコウキを救います」
私の言葉をすべて聞き終えたシスター長は無言で立ち上がると、この神殿の象徴でもある竜神像の前に向かい合った。
一体何をするのかと見つめていた私はその後、唐突なシスター長の凶行を間に当たりにしてしまった。
「シスター長! な、何をしているのですか!?」
あろうことか、シスター長は竜神像の中に安置されていた竜神殿の象徴である聖遺物を取り出していた。
箱ごと祭壇前の机にドンと置くと、厳重に保管されていた聖遺物を取り出したのだ!
「何をしているってのは私が言いたいよ。エダ、アンタは自分の身体からどれだけの聖気を垂れ流しているか自覚してんのかい?」
「は、はい!?」
私は慌てて自分の身体を調べてみた。結果、シスター長の指摘は私が自覚している以上に的を得ていたのだ。
戦乙女エルルとなった私の身体は、もはや人間の身体とは言えない。普通の刃物では傷を与えられず、普通の人間なら誰もが持っている[精気]が[聖気]に変化していた。
地上に暮らす人間は精気を気力として使用し、日々の行動の活力とする。簡単に言うならば、精気が尽きた人間は気力を使い果たしてバテバテになるのだ。
私の場合[聖気]を肉体強化や神聖武器の権限、奇跡の発動などで使用している。
私の身体からは、その[聖気]が溢れるかのように漏れ出ていたのだった。
「普通の人間には気付かれないかもしれないけどね。高位の神官が見れば一目瞭然さ。アンタそれでよく普通の人間として此処までこれたね!」
「返す言葉もありません……」
シスター長の言葉にぐうの音も出ない。確かに戦乙女の身体になってからは高位神官と面会してはいない。もしかしたらトキハちゃんは気付いていたのかもしれないが。
だが、それ以上の事実がシスター長の口から発せられた。
「アンタ、その派手な髪飾りを取ってみな。そこにアンタが今の自分を保っている秘密があるんじゃないのかい?」
シスター長の言葉は私の図星を突くものだった。その眼光を前にして観念した私は、コウキから借りたサークレットを頭から取り去った。すると、私の額からコウキと同じ宝珠が姿を見せていた。
その色は白金に近い黄金。真紅の如く輝いていたコウキの[竜宝珠]とはまるで違う輝きを放っている。それは私が人間としての意識を保つ限界が迫っているからなのだ。
あの聖域でコウキに助けてもらった時、私の身体を支配していた[天界の冠]は確かに二つに割れて消滅した。
しかし、冠の中央に鎮座していた宝珠は私の額に埋め込まれるように残ったのだ。
天界の神々は私を手放すつもりはないらしい。この宝珠は今だに、私が神々の尖兵である証拠となっている。
それからは髪飾りやコウキのサークレットで、ひたすら隠し通してきたのだ。この宝珠は私の罪の証でもあった。
[天命の丘]で人の命を奪い、コウキを眠らせてしまった私の……罪。
「……仰るとおりです。戦乙女エルルが言うには[聖宝珠]と呼称するそうですが、この宝珠が黄金から白金。そして完全なる白光となった時、戦乙女エルルは再び覚醒するでしょう」
コウキが私を[地竜の剣]で目覚めさせてくれた時は、赤みがかった小金色だった。
しかし、コウキを助ける時に私は[人間としての血]を使いすぎたのだ。それ自体は微塵も後悔してはいない。コウキを助けるためならば幾らでも差し出そう。でもその代価として私には時間が無いのも分かっていた。
私の[聖宝珠]の中で人間の源である血を表す[紅]が戦乙女エルルの源である聖気を表す[白金]とせめぎ合い、力尽きそうになっていることを。
今思えばユミルの街で血を舐められた時も、コウキはこんな状態だったのかもしれない。自分が自分で無くなる恐怖。コウキは常にこの恐怖と戦っていたのだ。
「ですから一刻も早く世界樹へと迎い、コウキを救う方法を探さなければならないのです。私が……私である内に」
私の懺悔は終わった。少しは肩の荷が降りたような気がしたのだ。後はコウキを救う手段だけを考えればいい。そう、それだけを。
「馬鹿を言ってんじゃないよ。自分の身体も大事にしな! コウキさんだけ戻っても意味はないんだからね!!」
自己犠牲を前提とした私の考えをシスター長は一喝した。それは怒号と言うよりは悲鳴に近かった。思わす見上げたシスター長の顔には、初めて見る涙と、慈愛の心で溢れていた。
「コレに触れてみな」
私の手は緊張で震えていた。戦乙女となった私の身体が[聖遺物]にどんな影響を与えるのか予想できなかったからだ。
目の前の聖遺物はすでに厳重に保管されていた箱から取り出され、堕天竜ミドガルズオルム様の身体の一部が目の前にある。[地竜の剣]がコウキの手に顕現した時と同じ、角かとも思えるほど巨大な棘だ。
なぜこのような行動に出たのか私には分からない。だけどシスター長には確信めいた考えがあるようだった。
恐るおそる手を伸ばす。すると聖遺物はその形を徐々に縮め始め、最後には消えてしまった。
「こ、これは一体、なんで!?」
驚きと、この神殿の聖遺物を消滅させてしまった事実に私の頭は混乱していた。これでもはや、ここは竜神殿では無くなってしまった。
なぜなら母なる大地母神竜、つまりは堕天竜ミドガルズオルム様を指した名前だが、かの御方の聖遺物が無ければ正式な竜神殿とは認められないのだ。信仰すべき対象がこの神殿にはもう無いのだから。
「やっぱりこうなったね。竜神様には申し訳ないが可愛い娘のためだ。許してもらうとしようかね」
「そんな簡単に認めていい事案ではありません! ……えっ!?」
緩すぎるシスター長の言葉に抗議しながらも、私は自分の額に鎮座している[聖宝珠]に脈動を感じた。まるで血管が走っているかのように血液が流れ込んでいるのがわかる。
「天におわす方々には毒だったのだろうが、アンタみたいな人間には薬となった。そんなところだろうねえ」
額に当てた手の平から伝わる脈動を感じながら、私はシスター長を見上げた。何時の間に持ってきたのか、手鏡で私の顔を写してくれる。
私の額の[聖宝珠]は今までの白金ような輝きが身を潜め、赤味の強い黄金色に変化していた。紛れも無く人間の人格である私の力が戻った証だ。
「アンタのお会いした大地母神竜様は、天界から堕天した御方なんだろう? ならば人間の味方をしてくださると思ったのさ」
その言葉に私は唖然としてしまった。つまり確信など無かったという意味だからだ。一つの神殿を預かる者としては、あまりに荒唐無稽な行動だった。
「そんな乱暴な……」
あまりのシスター長の行動に言葉も出ない。ユミルの街の人々はこれから何に対して祈りを捧げればいいのだろう。呆れて物も言えない私だったが、これで私に関しては時間の猶予ができた。それだけではなく、多少の無茶も出来るほどに回復していたのだ。
「この街はアタシに任せておきな。その代わり今度はちゃんと二人で帰ってくるんだよ!」
「はい。私はこの町に赴任して……幸せでした。お元気で!」
「だからちゃんと帰って来いって言ってるんだよ。この馬鹿娘!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
半ば強引に帰還の約束を押し付けられた私は、神殿を後にした。このユミルの街まで来たら、世界樹まで急げは一日で到着する。これ以降は自分の足で行かなければならないだろう。
馬で行けば世界樹の麓にある樹海の前で置き去りにしてしまう。樹海の中は未開の原生林が広がっているので、現地で生き延びるよう進化した動物にしか通行を許さないからだ。
「……話は終わったか?」
「確かにお説教は終わりましたが……逃げましたね?」
私は敵前逃亡犯を盛大ににらめ付けてやった。シグルド殿下は多少の気まずさは感じているだろうが、知らん振りを決め込んでいる。
憎たらしいまでのふてぶてしさだが、今は猫の手も借りたい状況だ。私から折れるように話しかけた。
「まあ、いいです。殿下にはお願いがありますから、それを聞いてくれたら許してあげます」
私の真剣な表情が伝わったのだろう。シグルド殿下も表情を引き締めた。
「聞こう。願いとは?」
「私が世界樹から帰還するまで神殿の……いえ、この街の警備をお願いします」
シスター長の会話の中で、私は天界の神々に対する警戒心を高めていた。シスター長が私の身体を長引かせてくれたのは間違いない。だがそれは神々への反逆と捉えられて当然の行為だ。天罰と称して何かしらの手段を講じてきてもおかしくなかった。
ゆえに、私が居なくとも大丈夫だという保険が必要だったのだ。
シグルド殿下は暫く考え込んでいたようだったが、やがて私の願いを聞き届けてくれた。
最後までお読み頂きありがとうございました。
感想・評価よろしければお願いします。




