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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第4章 宝珠竜の復活
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第25話 懐かしい人との再会-1

第25話をお送りします。

今回は幕間的なお話、ちょい短いので気軽にどうぞ。

来週から本業が忙しくなる・ストックが無くなるのダブルパンチで、連日投稿は一先ずお休みになる予定です。(4章の終わりまではいけそうです。)


なるべく週末に書き溜めて投稿したいと考えていますので宜しくお願いします。


2019.5.2改稿

 無駄な案件に時間を喰ってしまった私は一度、養父様(おじさま)の屋敷に戻るべく足を進めていた。本来ならば一刻も早く世界樹に向かいたい所ではあったが、保険はかけて置くべきと判断したからだ。

 ふと、後ろから私を追ってくる大きな気配に気付いた。誰かと思えばシグルド殿下だ。


「エダ殿……俺の同行をお許し願いたい」

「なぜですか? 私は外敵の侵攻に警戒せよと言ったはず」


 彼の持つ[魔剣グラム]はコウキの[地竜の剣]と並ぶ、人間族の希望だ。天界の兵団、特に戦乙女級との戦闘になれば、対抗できるのはこの二本の剣のみだろう。


「俺は、貴殿の相棒に対しての贖罪(しょくざい)を終えていない」

「国の存続より、個人の感情を優先するのですか!?」


 そう呟いた言葉は、彼の本心なのだろう。それなりの対策はして来たのだろうが、この男は王族には向かない性格をしているようだ。


「一人の女性を救えない男に国を救えるとは思わない。以前と同じように戦士シグと読んでくれ」

「まったく、仕様がない人ですね。貴方は……勝手にすればいいです」



 叔父様の屋敷に到着すると、すぐにヴェルちゃんが飛び出してきた。


「エダ(ねえ)! お帰りっす!」

「ただいま、ヴェルちゃん。私の留守中、何も起きなかった?」


 勿論っすよ! と自分の身長より長い大槌を肩に担ぎながら、ニカッと笑うドワーフの少女に私も笑みがこぼれた。ふと、私の後ろに居る殿下に気付いたようだ。不思議そうな顔をして私に問いかけてくる。


「後ろのお兄さんは誰っすか?」


 陽気な少女というのは良い物だ。多少の言葉使いが成っていなくても、他人に好印象を与える力がある。私が紹介する前に殿下が前に出て自己紹介を始めた。


「初めまして、お嬢さん。俺は人間族の戦士シグ。そのまま、シグと呼んでくれ。彼女やコウキ殿とは以前に付き合いがあってな。今度の旅に同行する事となった。今後とも宜しく頼む」


 そう言って右手を出すと、ヴェルちゃんと握手していた。当のヴェルちゃんは見上げるほどの大男に、目を真ん丸にしている。


「え、え……エ」

「え? って何?」

「エダ(ねえ)が男を連れてきたっすうううううううううう!!!」


 雄叫びを上げながらヴェルちゃんが屋敷の中へ駆け込んでいく。私は呆然と見送りながらも、不適当な叫び声を上げるドワーフの少女に突っ込まざるを得なかった。


「実家でもコレ? 勘弁して……」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 明けて翌日。

 旅支度を整えた私と、シグことシグルド殿下は世界樹に向けての進路をとっていた。それなりの食料や、夜営道具を殿下が用意した馬に載せて駆け出した。

 馬に乗るのは一体どれぐらいの期間が空いていただろうか。ユミルの街に巫女として滞在していた時は個人の馬なんて高級な移動手段はなかったし、コウキと出会ってからは彼の背に乗っていたから久しぶりの乗馬だ。

 私の後方には同じく、馬に荷物を載せたシグルド殿下が追従している。


 今の私はコウキから預かった[戦乙女の鎧]を着込みながら大手のマントで隠している。

 頭には同じく、コウキが付けていたサークレットを被り(正直、私を支配していた天界の冠に似ているので躊躇したが)腰には[地竜の剣]という完全装備だ。

 この屋敷に置いておくよりも、私が持っていた方が安全だろうという養父の判断だった。

 戦乙女の姉妹が何時また襲撃して来るか分からないので警戒しておくに越したことはない。

 対するシグルド殿下はユミルの町に滞在していた時と同じ、質素な皮鎧に皮篭手(かわごて)という身軽な装備を付けていた。目立つのは背中に担いだ[魔剣グラム]ぐらいのものだ。


「私も、もうちょっと身軽な服を持ってきた方が良かったかもしれません……」


 私は後ろを付いて来る殿下の耳に入らないような小声で溜息を漏らした。

 叔父様の屋敷に戻って旅支度をしている時にも、ハーフエルフのエルルさんから「その装備なら、戦乙女様だと告げられても疑う人間はいないでしょうね」(など)とからかわれた。

 この鎧を着ていたコウキは人前では決してマントを離さなかったらしい。確かに王城のような目立つ場では違和感は無かったが、このような旅だと注目の的だろう。

 戦乙女として覚醒してから変わってしまった赤、緑のオッドアイの瞳も合わせて、私の隠密行動は効果が薄いと言わざるを得ない。

 こうなったら道中に立ち寄る、ユミルの街で普段着も購入していこう。私はそう硬く決意するのだった。



 工程の三分の一程となる今夜の宿営所は、私と再会したコウキ達が探索に挑んだ旧王都遺跡となった。さすがは王家ご用達の名馬、素晴らしい速度を見せてくれる。

 大きめの立木の(そば)を今夜の宿営場所とし、馬の(くつわ)(くら)を外してお尻をポンと叩いてあげる。調教が行き届いている為、勝手に逃げ出す事はない。嬉しそうに草原の草を食べ始めた。夜は魔物が危険な為、放してあげられるのは日が暮れるまでの短い時間だけだ。


 旅に出る前にトキハさんから聞いてもいたが、旧王都の遺跡にはそれなりの数の屋台が点在している。ここからコウキ達は私の居る聖域までやってきたのだ。感傷に浸るには賑わい過ぎているけれども。


「これなら貴重な携帯食料を使う必要もありませんね。適当な屋台で夕食を済ませましょう」

「……そうだな。大変な賑わいになっているとは聞いていたが、これ程とは思っていなかった」


 私達は貴重品だけを身につけると、屋台街の方へ歩を進めた。すると、


「煮豆をご注文のお客様~?」


 屋台街の中でも一際、人ごみが激しい所から懐かしい声が私の耳に飛び込んできたのだ。


「……もしかして、エリさん?」

「む~? 誰ですか、私の名前を呼ぶのは! ……ってエダちゃん!?」


 ユミルの街から王都まで同行した、かつての職場の一人娘。エリさんだった。



 久しぶりに再会したエリさんは王都で分かれた時よりも、だいぶ健康的に焼けていた。相変わらず可愛いエプロンを身に付け、大将の絶品料理を所狭しと運んでは、注文を受けている。その口上は今も健在で()くし立てるように話しかけてきた。


「ひさしっぶりー。今まで何処にいたのよ?[聖誕祭]が始まったら手伝ってねって言ったじゃん!」

「……すみません。色々と忙しくて」

「そっかー。じゃあ、しょーがないねえ」


 私の苦し紛れの一言を疑う事なく信じてくれる。いつもユミルの街で振り撒いていた笑顔は今も変わらない。


「なに? ユミルに戻るトコなの?」

「そうですね。その予定です」


 他愛もない世間話を続けていたのだが、エリさんが私の後ろにいる男を目ざとく見つけてしまった。途端にニヤニヤした顔に変貌(へんぼう)してしまうエリさんに、出発前にからかわれたハーフエルフの少女の顔が重なった。


「ふーん……。あ、何? 王都で男捕まえてきたの?」

「違います。たまたま行き先が同じなだけです!」


 自分のことを常々、男だから! と言っていたコウキが懐かしい。それが本当だとしても、女の子の姿のコウキとの旅の方が楽だったなと、しみじみ感じる。しかも助け舟を出した方が良いのかと、勘違いをした殿下が余計な話題を振ってしまった。


「ああ、ユミルの街の看板娘さんか。俺も二月ほど前までユミルの街でお邪魔していたのだが……」

「あー! ホントだ。コウキちゃんをナンパしてた戦士さんだ!」


 その遠慮も何もない台詞に、今度は殿下がガックシと頭を落とす番だった。


 丁度、夕食を取る為に訪れた屋台街だったので、私達は久しぶりの大将お手製料理を堪能することにした。ほどなく空席ができ、腰を下ろせたので早速注文を開始する。


「手伝ってくれたら、(まかな)い料理出すよ?」


 とも言われたが大将に捕まったが最後、少なくとも数日は拘束されるのは目に見えている。丁重にお断りするとパンと肉、スープを注文した。まさか野宿で暖かい食事を頂けるとは思っていなかったので、嬉しい誤算だ。

 私達の分の食事が提供されると同時に、大将の「今夜はここまでだ! 食材打ち止め!!」という大声が聞こえてくる。間に合わなかったお客さんの残念がる声が聞こえてきた。どうやら滑り込みセーフだったらしい。


 大将の料理はユミルの街に居た頃となんら変わらない味を保っていた。ほんの二ヶ月前の話だというのに、ユミルの町で巫女をしていた頃が懐かしい。

 そこまで急いで食べた訳でもないのだが、ほどなくしてお皿の上にあった料理が残らず私の胃袋に収まっていた。

 屋台だというのに食後のお茶までついてきた。私はエリさんにお礼を言いつつ、食後の一杯を堪能(たんのう)する。


「おう、エダの嬢ちゃん! 久しぶりだな。随分と男前な顔になったじゃねえか!」


 女性に対して男前と表現するのは、いかがなものだろうか。

 私の隣の席にドカンと座った大将が、(いかずち)のような金切り声で話しかけてくる。娘さんと同じく大将もまったく変わっていない。


「はい、お久しぶりです大将。[聖誕祭]ではお手伝いできず申し訳ありませんでした」

「いいってことよ。エダの嬢ちゃんだって遊びに行った訳じゃねえんだからな。わっはっは!!」


 相変わらず台詞の後は豪快な笑い声が付いて来る人だ。一(しき)り笑った大将は、急に真面目な顔をしたかと思えば、静かに確認を取ってきた。


「ユミルの街には寄るんだろ。マリーのババアの所には顔を出しとけよ?」


 大将の言う「マリーのババア」とは私がユミルの町の竜神殿に勤めていた時の保護者役、シスター長のことだ。


「はい。もちろんご挨拶させて頂きますが……、もしやシスター長に何か!?」


 一瞬、緊張してしまったが、大将が顔の前で「そうじゃねえ」と手を振っていた。


「俺も人の事は言えねえが年を取るとな、人の繋がりを過剰に大切にするもんだ。もうしばらく会ってねえんだろ? 顔ぐらい見せてやれ」


 私は大将の意外すぎる親身な言葉に、呆気に取られていた。いや優しい人であるのは間違いないのだが。


「……なんだよ。自分でも似合わねえ言葉だってのは分かってらぁ」


 飲んでいる麦酒のせいだろうか。大将の顔が心なしか赤くなっている。


「はい。ご忠告有難うございます大将。必ず竜神殿に伺い、ご挨拶して参ります」


 私のお礼の言葉に、大将は照れくさそうに「おう」とだけ言葉を返してくれた。それで大将の会話は終わった……と一度は思ったのだ。


「そういや、コウキ嬢ちゃんは今どうしてんだ?」


 その言葉に返す単語を、私は口にできなかった。

最後までお読み頂きありがとうございました。

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