第23話 傷だらけの帰還
連日更新12日目!
第23話をお届け致します。
このお話で第3章が終了となります。
次章のタイトルは……えー、明日の17時までに考えます(汗
サブタイトルならパッと思いつくのですが、何話も総括する章のタイトルって難しいですねえ……。
前回のヴェルやエルルの必殺技にツッコミがくるかと思ったら来ませんでしたorz
読んで頂ければ私の好きなアニメが分かるかと思います
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「アラフォーおっさんが「小説家になろう」でラノベを書いてみた」
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「それで彼女はどうするの? コウキ。知り合いなのよね?」
大方の治療が終わった頃を見計らって、ケイカがクレーターの中心に跪いているエダを指差した。見た感じ大怪我はしていないように見えるが、気絶しているようだ。ヴェルもトキハも俺がどうするのか見守ってくれている。どうやら俺に任せてくれるらしい。
「危なくないよう、三人は離れていてくれ……頼む」
ようやく覚悟を決められた俺は、三人に向かって頼み込む。これ以上、彼女達を巻き込む訳にはいかない。これから先は俺とエダの問題だからだ。
ゆっくりとクレーターの中心に向かって滑り降りる。さすがに隕石が落ちたような巨大な穴ではないため、すぐに戦乙女と化したエダの元へ到着した。
膝を折り、俯いた顔からは表情を伺う事ができない。俺は緊張しながらも彼女の肩に手をかけた。
――コウキ。聞こえますか?コウキ!
直接、脳内に聞こえた声はとても懐かしいものだった。
「エダ? エダなんだよね!? 聞こえる、聞こえるよ!」
突然、声を張り上げた俺に後ろの三人娘がびっくりしているようだったが、気にしている暇はない。俺は必死にエダの意識に呼びかけた。
――よかった、あの娘達のおかげです。コウキ、事は急を要します。私の胸を地竜の剣で貫いてください!
いきなりのお願いに俺の頭が真っ白になる。そんな事をして大丈夫なのか?
――私の身体は大丈夫です! 今は戦乙女の人格に支配され、私の意思で身体を動かせないのです。ですがミドガルズオルム様の剣なら、地竜の剣なら私をここから開放できるはずです。コウキ、早く!
「……本当に大丈夫なんだな?」
――問題ありません。なぜなら、他の誰でもない戦乙女の意識自身が言っていたのです。あの剣だけは拙いと。さあ、早く!
おそらく、この状態も長くは続かないのだろう。覚悟を決める必要があった。腰の鞘から[地竜の剣]を引き抜き、戦乙女の胸に剣先を当てる。
「帰ってきたら話したい事が沢山あるんだ。行くよ!」
――私もです、コウキ。大好きです!
突然の告白に動揺しながらも全身の力を籠めて彼女の、戦乙女の胸を貫いた――――。
彼女の身体から、血が出る事はなかった。
確かに胸をユミルの街で手に入れた[地竜の剣]で貫いている。それは間違いのない事実だ。なのに剣から伝わってくる暖かい温もりはなんなのだろうか。
エダの胸に刺した[地竜の剣]をゆっくりと引き抜いていく。不思議なことに胸の傷はスッと閉じ、そして消えた。
もしかしたら、彼女もまた人間では無くなってしまったのかもしれない。けど、それでもいい。タリナさんから聞いていた天命の丘で何かが起こったのだろう。
だからと言って、エダがエダじゃないより全然マシじゃないか。俺はそう思った。
暫くすると、胸の中にあるエダの身体から暖かい温もりが感じられるようになってきた。目蓋がかすかに震え、開いていく。
それと共にカランという軽い音を立てながら、彼女の額のサークレットが割れて――――消えてしまった。
自然と自分の両の瞳から涙が溢れていた。
「おかえり。いや、ただいまかな?」
「はい。おかえりと、ただいま。両方です……コウキ」
感極まって彼女の身体をつよく、強く抱き締める。
この温もりが今、ここにある事を何度も確かめるように。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それほどの高さではないとは言え、クレーターが形成した斜面を登るのは大変な作業のように見えた。
「立てる? 立てないなら、このまま皆の所まで連れて行くけど?」
「まだちょっと辛いですから。このまま……」
まるで恋人同士のような会話だが、ちょっと甘えてくる彼女が可愛いのだから仕様が無い。三人娘が待つ場所まで、お姫様だっこで連れて行く。
上を見上げれば三者三様の表情で、俺達の帰りを見守ってくれていた。
「まるで、お姫様を助け出した騎士様ね」
と、ニヤニヤ顔のケイカ。
「ホント、絵になりますね~。これでコウキさんが男だったら完璧です!」
と乙女モードに入っているトキハ。
「むう、ちょっと羨ましいっす! 後でアタシにも!」
なぜか対抗心を燃やすヴェル。
そんな三人が迎える場所まで俺は駆け上がった。まずは一安心と言っていいだろう。俺はエダを立たせながら、ホッと一息ついていた。
「皆、ありがとうな。エダを助け出せたのは皆のおかげだ」
「皆様。ご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありませんでした」
俺はお礼を、エダは謝罪の言葉を口にしていた。
「それはもう良いいのだけど貴女、本当に大丈夫なの? 胸にコウキの剣が刺さっていたわよね?」
ケイカが当然の疑問を口に出した。それは俺も気になっていたのでエダの顔を伺ってみる。
「はい、問題ありません。その剣は大地母神竜であられるミドガルズオルム様の加護を受けた神器。その力は[破天]。天界の神々や、その使徒に対してのみ絶大な効力を発揮する剣なのです」
なるほど、どうりで今の今まで聖遺物な割には普通の剣だったわけだ。地上を生きる動物には効力を発揮しない剣なのか。
「オルム様のご加護で今現在、[戦乙女エルル]は私の中で封印されております。今までの立場とは逆になったという事ですね」
大体の事情は理解できた。当面は安心だけど、神々や他の戦乙女との戦いはこれからも続くのだ。
あとの問題はここから……。
「とりあえず、ミズガルズにもどりましょうか」
どう地上に戻るかという問題が残っている。と言おうとしたのだが、実にアッサリ帰還宣言をされてしまった。
「私達、元の世界にもどれるんですか?」
オトハが驚いている。彼女が現れる前にいた戦乙女ヒルドは、人間界へ続く扉は神々にしか開く事ができないと言っていたのだ。あの時点から嘘を付いていたとは思えない。
「はい。私の中の戦乙女エルルは地上の監視任務を神々から与えられていた為、ひとつ特別な権能を持っているのです。それがミズガルズへの扉を開く権能です」
任せてくださいと言わんばかりに胸を叩くエダ。
「よし。じゃあ帰ろう!」
「はい!」
「「「お――――!」」」
エダが何もない空間に手をかざすと、人間が丁度一人通れるくらいの光の輪が出来上がった。
「とりあえず、王都の叔父様の屋敷へ繋げました。これからの話は、そこで話し合いましょう」
三人娘は緊張しながらも、一人ずつ光の話の中に入っていった。見た感じは、完全に通り抜けフープだとも思ったが言葉にはしないでおいた。
残りは俺とエダだけだ。
「んじゃ、お先に」
「はい。私もすぐに行きますから」
彼女と言葉を交わし光の輪に手を伸ばした、その時。
強烈な殺気が、エダの身体に当てられている事実に、俺だけが気付いた。
「危ない!!」
「……え?」
反射的に彼女の身体を押していた。直後、自分の胸に凄まじく熱い感触が突き抜ける。見下ろすと、光の槍が俺の胸を貫いていた。
ふと、横にいるエダに顔を向けてみる。俺の異常に気づいた彼女は、この世の終わりかと言う表情で俺を見つめていた。
「未熟、未熟なり。我らが末妹エルルよ――――。せめて貴女の任務は私が代行しましょう。安心なさい」
後ろからの声は、この聖域に最初に来た時に居た戦乙女。
ヒルドその人だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
突然の出来事に頭の中が真っ白になる。
また私は失敗してしまった。この聖域に彼女がまだ存在している可能性を考えなかったのだ。
衝動的に戦乙女ヒルドに襲い掛かりそうになる感情を、私は無理矢理、押さえ込んだ。まだまだ私の力ではヒルドには敵わない。その事実を察してしまったからだ。
「……くッ! コウキ、耐えてください!!」
胸を戦乙女の槍で貫かれたままのコウキを抱きかかえ、私は自ら作った地上への扉に飛び込んだ。
「コウキ姉、エダさん。遅かったっすね……?」
ドワーフの少女が叔父様の屋敷の庭先で迎え入れてくれた。だが、事態の深刻さに気付いたのだろう。すぐに厳しい表情に変貌していく。
「コウキ姉! どうしたっすか!?」
コウキの身体に覆い被りそうな彼女を、私は手で制した。
「戦乙女ヒルドにやられました。事態は一刻を争う、この場に居る全員に命じます!!」
周りには叔父様や、懐かしいメイドの顔もあった。だが再会を祝うのはコウキを救ってからだ。
「この場で起きる、全ての光景を他人に話す事を禁じます。出来ない者は即刻、立ち去りなさい!!」
返答を待つ時間はない。私は隣にいるドワーフの少女に命令した。
「コウキの鎧を全て外しなさい。肌着から下着まで全てです!」
「……え? なんで……?」
「問答している時間はありません。早くなさい!!」
「は、はいっす!」
彼女がコウキの鎧を外している間、私は[癒しの奇跡]を発動させる。今の戦乙女としての私なら、人間だった頃より数倍の治癒力を発揮できるはずだ。
だが、それだけでは足りない。所詮、[治癒の奇跡]は自然回復力を促進させる奇跡だ。致命傷を癒すほどの回復力は、どれほど力を籠めようが変わらない。
「これでいいっすか!?」
ドワーフの少女がコウキの鎧、衣服を取り去ってくれた。今のコウキは生まれたままの姿になっている。
「……はい。何が起こっても取り乱してはなりませんよ?」
隣から唾を飲み込む音が聞こえた。彼女もなんとなく察しているのだろう。今ここで、想像もつかない出来事が起こるということを。ドワーフの少女の脇には彼女の仲間のハーフエルフと人間の神官も、コウキの服を抱き締めながら見つめている。
どうやら、覚悟は決めているらしい。
「……いきます」
私は人工呼吸ではない本物のキスを、コウキに口に与えた。
「アンタ、何してんの? そんな事してる場合じゃ……えっ?」
私の唐突な行動に文句を言いそうになったハーフエルフの少女は、コウキの肌の異変に気付いたようだ。
人間の皮膚が竜の鱗に変わってゆく。足が尻尾に、手が羽根に、顔が竜の頭部へと変貌してゆく。
「……え? 何コレ? コウキなの!?」
ハーフエルフの少女が動揺の声を発している。だが、今更だ。コウキの身体が、私が始めて出会った姿へと戻ってゆく。
数秒後、コウキの竜化は完了した。人間の姿よりは竜の姿の方が体力は有るはずだ、今出来る対策は全て、試してやる。
「そこの、神官さん。貴女は[癒しの奇跡]を使えますか?」
「は、はい! 使えますけど……」
彼女もコウキの仲間の神官さんだ。半ば確信しての問いだった。
「ならば私と交代して下さい。それとコウキの剣を私に」
私は神官の娘さんが治癒を開始した事を確認すると、ドワーフの少女からコウキの剣を受け取り、鞘から抜き払った。
並みの刀剣では戦乙女である私の身体を傷つける事は敵わない。だけど、この[地竜の剣]なら……!!
私は剣を逆手に握り返すと、自らの左手首を切り裂いた。
私の手首から真っ赤な血が流れ出した。
その事実に私はちょっと安心する。私がまだ戦乙女としての身体に成り切っていない証拠のように思えたからだ。
周囲から小さな悲鳴が聞こえてくる。私以外に、この状況で自らの身体を傷つける意味は察せないだろう。
コウキの竜化した頭を自らの太ももに乗せ、口の中へ自分の手首を入れていく。コウキの身体の半分は神々の使徒たる竜神の身体だ。私の血がコウキの象徴たる[竜宝珠]の回復に最適なはずだった。
「神官さんは力の続くかぎり、[治癒の奇跡]をお願いします。ただ、無理はしないで下さいね。二人には他の人間が入ってこないよう見張りをお願いします。見る人によっては誤解を生みかねない状況でしょうから」
コウキの口に血を与えながら、私は指示を出す。勝負はここからだ。私の体力が尽きるのが先か、コウキが回復するのが先か持久戦となるだろう。
ふと見上げるとジャーリ伯爵……叔父様が私を見下ろしていた。隣にはパンちゃんの姿も。思わず涙が零れてしまった。
「養父様、急の帰宅にも関わらずお騒がせして申し訳ありません。ですが、説明は後で。パンちゃんも待っててね……。コウキは私が必ず助けるから」
養父様は私の言葉に重く頷くと、私の傍で見守ってくれるようだ。パンちゃんも血が少なくなり冷えた私の身体を、自分の身体で温めてくれる。
ここにはコウキだけじゃない、私の家族が支えてくれる暖かさがあった。
(コウキ、お願い……。目を覚まして!)
取れるだけの手段をすべて出し尽くした私に出来る事は、もはや祈るだけだった――――。
意識を取り戻した私の最初の視界は、真っ白な天井だった。
この光景には既視感を感じる。確か狂気に身を委ねたコウキから殿下を守る為に、牙をこの身に受けた時……。
「そうだ! コウキは!?」
勢いよく起き上がろうと身体に命令を送ったはずが、私の身体は命令に従おうとしなかった。
(そっか。血が足りないのか……。)
流石に二回目ともなれば、冷静に状況を分析できた。それでもコウキの安否だけは確認しなければならない。
「……あっ、目が覚めましたか?」
私が眠るベッドの横で、優しい笑顔の若い神官さんが看護してくれている。
「あなたは……、コウキの」
「はい。コウキさんと冒険者PTを組ませて頂いています、神官のトキハと申します~」
なんとも、ゆっくりとした口調で話す娘さんだ。だが、それが今は心地よかった。
「コウキは……?」
「一先ず、命の危険はないと思います。ただ暫くは療養が必要でしょうね」
その言葉に、張り詰めた緊張感から私は解き放たれた。
「そうですか……。良かった」
「よくありません! あれだけの血を流して、危険なのはエダさんの方だったんですよ? しばらくは絶対安静です!」
彼女の話によれば、コウキのPTは東の砦の冒険者ギルドに所属する有名な冒険者PTらしい。叔父様はこれ以上の危険が私達に及ばないよう、彼女達を臨時の護衛として雇い入れたらしく警備体制は万全との事。
確かに戦乙女エルルに、あそこまでの深手を与えたのは彼女達だ。ならば彼女達に任せておいて何も問題はない。
私は再び、体力を取り戻すべく身体に襲い掛かる睡魔に身を任せた。
結局、私は身体を完治させるのに四日の静養を必要としてしまった。その間、コウキの冒険者仲間である彼女達の尽力もあり特に目立った事件は起きていないらしい。
外部からの脅威には。
「身体の状態はもう問題ありません、健康そのものな筈なんです。でも意識が……」
トキハさんが沈んだ表情で、客室のベッドで眠るコウキを見守っていた。人間の姿に戻って静かに眠っている。薄い絹の寝間着を着て寝心地は悪くはなさそうだ。
しかし、当の本人であるコウキはもう完治しているはずなのに、意識だけが戻らない。
原因は不明。
いくら私が戦乙女としての力を持っていたとしても、コウキはこの世界に只一人の[異世界来訪者]だ。前例などあるはずもない。
見れば心音や呼吸も安定しているし、傷跡も残っていないらしい。あの時点でトキハさんがもう大丈夫だと判断したのも無理はなかった。
「トキハちゃん。コウキ姉、まだ起きないっすか?」
ドワーフの少女ヴェルちゃんが、枕元でコウキの顔を見つめ続けている。よほど心配なのだろう、朝からずっとだ。
「ほらヴェル、私達はそろそろ警備の時間よ。そんなに見ていたらコウキの顔に穴が開いちゃうわよ?」
軽口を叩きながらもケイカさんの声は幾分、沈んでいた。心配なのは彼女も一緒なのだ。ケイカさんの言葉に少しだけ頷いた彼女は、客室から退出していった。
彼女達と入れ替わりで養父様が顔を見せると、状況が好転していない事を場の空気で察したのだろう。複雑な表情を見せている。
「エダ、少し話がある。私の書斎まで来れるかね?」
「……はい。分かりました」
養父様の言葉に、私は素直に従った。
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