第18話 戦乙女の鎧
第18話をお送り致します。
今までオルムさんからもらった剣以外に、まともな装備を持ってなかったコウキ君。
今回のお話でようやくゲットです。だがしかし、その鎧はマッドな鍛冶屋が作った曰く付きの鎧でしたとさ。
今後とも頑張りますので宜しくです!
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希少な薬草を仕入れまくっていると言う噂は、それなりに冒険者の間でも噂になっていたらしい。
俺が酒屋に顔を出すと酒を口に運んでいた男共の視線が俺に集まった。
元々、日本に居た頃から友達が少なかった俺だ。いきなり初対面の人間と会話するのは少々ハードルが高い。
そんな風に見えなかったって?
今までに出会った人達が異常にお喋りだっただけだ。ウェイトレスだって仕事として割り切っていたしね。
なので最初は酒場のカウンターに陣取って聞き耳を立てる作戦とした。なにせ、冒険者の男共ときたら声のデカイことデカイこと。
特に聞き耳を立てなくとも話しの内容が聞こえてくるのだ。
やれ、最近は小型動物の魔物しか討伐以来がないだの、獲物の買取単価が安いだの。目の前にギルド職員がいる事などお構いなしだ。
これが日本であれば自分の保身を考えてここまで声を大にする人間はいないだろう。
だが、今の俺は知っている。
他人の目を気にしたり、他人の命まで背負い込もうとする[英雄]。そんな[英雄]から真っ先に死んでゆくのだと。
俺は麦酒を注文しながらも周りの話声に聞き耳を立てていた。
「そういや聞いたか? 魔物化した大型の熊が出たってよ」
「ああ、1PT喰われたらしいな。さすがにコレは拙いってんで討伐クエストが発注されるって噂だ」
「これは大規模PTでの討伐になるな。危険だが儲けもデカイ」
そんな会話が聞こえてくる。驚きで思わずむせてしまった。
会話に花を咲かせていた冒険者にも目についたのだろう。咳が止まらない俺を怪訝な表情で見つめていた。盗み聞きしていたのがバレバレである。しょうがない。気になる情報なのは確かなので俺は席をたった。
「お兄さん方。今の話もうちょっと詳しく教えてくれない? 一杯奢るからさ」
ニッコリと笑顔でテーブルに手をつく。
「なんだ姉ちゃん、出稼ぎか? 止めとけよ。報酬はかなりのもんだが、命あっての物種だ」
今の俺は金色に輝く長髪を適当に纏め上げ目立たないようにしている。顔の下半分も布で隠して忍者の気分だ。容姿を隠さなくては周りの男共が騒ぎ立ててしまう。面倒だが仕方ないのだ
「もちろん、無理しようなんて思っちゃ居ないさ。けど、薬草採取の時にバッタリ出くわしたくないしさ」
その言葉に俺が最近、薬草採取しまくってる例の女だと分かったらしい。それなりに度胸のある奴だと理解してくれたのかテーブルの椅子を引っ張ってくれた。
俺は礼を言いながらも着席して人数分の麦酒を注文した。
「俺は最近、[東の砦]に着たもんだから良く知らないんだが、熊の魔物って此処じゃ珍しくもないのか?」
俺の問いに男二人組は首を横に振った。
「まさか。そんな何度も出てこられちゃあ堪らんよ。そもそも、肉食系の動物が魔物化する事だって稀だ」
話によると、肉食動物より草食動物の方が魔素の影響を受けやすいらしい。更に言えば大型動物よりも小動物の方が魔物化する。俺は以前、エダと一緒にウサギやネズミの魔物退治をした記憶を思い返していた。
俺の悪い予感は段々と現実味を帯びてくる。この[東の砦]はパンちゃんと出会ったブオリ村から、山沿いに真南に下った場所にあるのだ。あの一件の魔物化した熊がここに現れたのかもしれない。
つまり、パンちゃんのお母さんかもしれないのだ。
「その魔物が、人を殺した?」
「ああ、3人組のPTが喰われたそうだ。まだ遺体も回収できていねえってよ」
二人組は、しばらく平原の方でできるクエストをこなそう。などと相談している。ある程度の蓄えはあるようで無理に危険なクエストをこなす必要はないようだ。
俺は一言、彼等に礼を言うと改めてクエスト掲示板を見上げた。
確かに、真っ赤な[DANGER]の文字と共に大型の熊の討伐依頼が張り出されている。
本当ならば、パンちゃんの為に行くべきなのかもしれない。しかし我ながら情けない事に、王都での一件が俺に厳しい現実を受け止める勇気を奪っていた。
(もう家族に危害を加えられない、耐えられない。まだパンちゃんのお母さんだって判明した訳でもないんだ。もう少しだけ様子を見よう)
なんとも後ろ向きな考えである事は、自分自身が理解している。それでも今の俺は心の中に刻み付けられたトラウマを克服できないでいた。俺はその日の夕食を終えると、大熊の魔物の件に尾を引かれながらも宿の暖かいベッドに向かってしまうのだった。
六日後、約束通り俺は防具の作成を依頼した「ヴェル=セッパの鍛冶屋」に訪れた。
「ちわーっす。ヴェルさん? コウキですけど~?」
あいかわらず、受付のテーブルには誰もいない。唯一の店員にして、この鍛冶屋の主であるドワーフの少女は奥の工房で作業しているのだろう。
店の奥からカンッカンッと鋼を鍛える音が響いてくる。どうやら俺の声は届いていないらしい。
「おーい! ヴェルさーん!! 防具取りに来たぞー!!」
相手に悪気がないのは分かっているので、大きな声で呼びかけてみる。
するとようやく気付いたのか、はたまた俺の声にびっくりしたのか。奥から盛大に金属製品が崩れる音が鳴り響いた。
「おいおい……。大丈夫かよ? 死んでないだろうな……」
心配になった俺は悪いとは思いつつ店の奥にある工房にお邪魔してみた。幸い迷うほどの大きさでもない。受付カウンターの裏には石造りの工房が広がっていた。壁には煤がこびり付き、ありとあらゆる鍛冶道具が掛けられている。それは、あの少女が使うにはあまりにも大きすぎるような気がした。
そして工房の中央には……鉄の山がそびえ立っていた。その鉄の山がブルブルと震えている。
「まさか……この下?」
最悪の事態を想像した俺は、慌てて武具の材料であろう鉄の山を掻き分けようとした。いくらドワーフといえども、自分の身体の上にこれだけの重量物が圧し掛かればタダではすまないはずだ。
その頂きを攻略しようと手をかけたその時。
「どわああああああああああああっふ!!!」
どんな奇声だよと、思わずツッコミたくなるような雄たけびを上げて彼女は鉄の山から飛び出してきた。
工房中に鋼鉄の塊が飛び散って轟音を響かせる。
間近にいた俺も被害をこうむりそうだったが、幸いにも俺の身体の頑丈さは知っての通りだ。とっさに顔の前で腕を十字に組み、なんとかやりすごせた。
「おおっ!? 中々やるっすねえ~」
「中々やるっすね~。じゃない! 危ないだろうが!」
にゃはは。とか笑いながら当の本人はさっぱりしたものである。
「お姉さんなら大丈夫っすよ。アタシが防具を作ろうって人っすからね。ヤワな人はお断りっす!」
前に来た時も思ったが、とんでもない鍛冶屋さんである。
「ってちょっと待て。俺はアンタに何の実力も見せてないぞ?」
俺はただ単に防具の注文をしただけだ。手合わせなんてしてないし、したとすれば身体測定くらい……あっ。
「気付いたっすね? この前、サイズを測らせてもらった時にお姉さんの力量はおおよそ測らせてもらったっす! いや~、ほっそい腕なのにスゴイっすね~」
おそらくは俺の体を触った時の反動で察したのだろうが、それにしても凄い観察眼だ。ドワーフなんて日本で読んだ小説では大抵がイカツくて豪快なおっさんなイメージだったが、この少女も外見はともかく中身は酷似しているらしい。
「もういいから。肝心の防具はもう出来てんのか?」
会話をするだけで疲れる鍛冶屋さんに辟易しながらも注文を確認すると、鍛冶ドワ少女は得意満面にうなずいて見せた。
「もちろんっすよ! いや~、久々の大仕事だったんで張り切っちゃったっす!」
だから声がいちいちデカイって。
ん? 大仕事?
俺はそこまでの大口注文はしていないはずだが。そもそも儲けたと言っても薬草採取での話だ。そこまでの余裕はあるはずもない。なにやら不吉な予感を感じながらも、俺は彼女の後についていった。
鼻歌交じりの彼女の後をついていくと、そこは前回身体測定を行った衣装室だった。
見た感じ前回とそこまで部屋の変わりは……あった。
部屋の中心にデンと置かれた鎧らしきモノ。
大きな布が被せて隠されてはいるが、その形は明らかに全身鎧のソレだった。さっきから感じている不吉な悪寒が更に強くなる。
そんな俺をよそに得意満面な彼女は布の端っこを掴み……。
「さあ! ごかいちょ~~~~~っす!」
店主はまるで何かの式典で記念像を発表するかのように、勢いよく布を取り去った。
はたして、やはりと言うか、やっぱりと言うか、俺の悪い予感は的中するのであった。
彼女の豪快な掛け声と共に現れたソレは、ただひたすらに、神秘的だった。だが、それ以上にこれを装着した自分の姿を想像すると、ひたすら恥ずかしかった。
胴体部の金属箇所は白銀。縁の黄金から反射した光で煌びやかな光沢を放ち、下地となる布地は蒼穹のごとき青に白い線。所々に配置された、黄金色と赤色の宝石が実に派手だ。
それよりもなによりも気になったのは、
人体の急所が集まると言われる、中心線。つまり喉、胸、鳩尾すべてが無防備に肌を露出させていたのだ!
「ふざけんな! これのどこが全身鎧だ!! ただの痴女じゃねーか!!!」
更に言えば腕や足も篭手はついているものの、二の腕や太ももまでも覆い隠す布地がまるでない。俺の盛大な苦情に、彼女は笑って答えた。
「にゃははー。全身を金属で作ったら、いくらお姉さんでも鎧の重量に耐えられないっすよ~。それに各部に取り付けた[魔光石]が全身をコーティングしてくれるっす。これがアタシの最高傑作[戦乙女の鎧]っす!」
「一般的なデザインにするって言ってたよな?」
「そっすよ? 女の武器を全面に押し出すってのはコンナ防具を言うっす」
ピラっと隣に畳まれた防具を持ち上げる。それはもはや水着だ。某国民的RPGに出てくる、アブない水着だ!
呆れた表情を隠さない俺に、これを作れるのはドワーフ鍛冶師界広しと言えどもアタシだけの傑作っす! などと犯人は訳も分からない供述を、声高々に言い放っている。
「それに、これはコウキ姉さんの為に生みだされた。お姉さんだけの鎧っす。着てくれないと、この子は日の目を見る事もなくゴミ箱送りっすよ?」
ぐぬぬ……。せめて下にインナーっぽい服を着ればなんとか……。
「ちなみに下着以外はマントしか羽織れないっす! [魔光石]の光で焼きただれちゃうっす!!」
ええい! このドワーフ界のマッドめ。着りゃいいんだろ! 着りゃ!!
俺は半ばヤケクソ気味に、新しく完成した相棒に身体を通した。
新しく完成した鎧を身にまとった俺は、あまりの羞恥心に頭から噴火しそうな有様だった。
なんとか外から大きめのマントで全身を覆い隠す事で衆人環視の目を誤魔化す努力をしているが、気分は完全に全身コートの変質者だ。
「あ、あと。これはサービスっす!」
ガチャガチャと物置の中から彼女が取り出したのは、二対の羽根が付いているサークレットと全身を覆い隠せるほどの大盾だった。確かに盾役なのに盾がなくては話にならない。
それより、もう一つ渡されたサークレットに一瞬、俺の秘密がバレたのかと冷や汗がでる。
「うんうん。やっぱりその鎧にはサークレットが似合うっす!」
俺をさんざんマネキンとして遊んだ彼女は、実に満足げに頷いている。
別に他意はないようでホッとする。
「ったく……。もういいな? 俺は行くぞ!」
「ちょっと待つっす! 忘れ物っすよ?」
もうこれ以上用はないとばかりに店から出ようとした俺を彼女が呼び止めてくる。
渡されたのは……[請求書]だった。
「おい、これは」
請求書に書かれた「0」の数に背中から冷や汗が流れ落ちた。
「お姉さんは予算を言わなかったから、張り切っちゃったっす!「ヴェル=セッパの鍛冶屋」スペシャルオーダー!いやあ、お姉さんセレブっす!」
冗談じゃない。俺の全財産をはたいても「0」が二つも足りない。背中から垂れていた冷や汗が更に濁流のような大滝となって俺を襲う。
俺の真っ青な顔を察したのだろう。ドワーフの少女はニシシと笑いながら、
「もしかして予算オーバーっすか? 大丈夫! 「ヴェル=セッパの鍛冶屋」はアフターケアも万全っす! ウチのPTでガンガン稼げばそれくらいの金額はすぐ貯まるっすよ?」
と、のたまった。
この時になって、俺はようやくすべてがこのドワーフの少女の計画だったのだと確信した。だが、確かに予算を告げずにオーダーしてしまったのは俺の落ち度だ。
かくして、異世界にきて初の負債人となってしまったのだった。
エダ、パン―――――助けてぇ。
異世界に来てからずっと一緒だった神官騎士とパンダの姿がこれほど恋しいとは。
俺は孤独に耐える大変さをしみじみと実感したのだった。
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