第15話 破壊と慈愛
このお話は13話からのコウキ視点でのお話です。R15なお話です。ご注意ください。
時間をかけて書いた割に文字数が少ないです(汗
そして背中がムズムズします。
恋愛物を書く方はいつもこんな感じなのでしょうか?
尊敬します。ホント
2019.5.2改稿
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「アラフォーおっさんが「小説家になろう」でラノベを書いてみた」
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宜しくお願いします!
「こ、こ、か、ら、出せええ――――――――!!!」
地上からの雨水が滴り落ちる地下牢獄に、俺の怒声が響き渡った。俺はもはや、荒れ狂う自分の中の感情を抑え込めなくなっていたのだ。
牢屋内に凄まじい衝撃音が鳴り響く。俺の体中の力を捻り出した尻尾での一撃に、牢屋の扉である格子が悲鳴を上げながら吹き飛んだ。
竜の姿のまま、のそっと閉じ込められていた牢屋から這い出ると、轟音に気付いた牢屋番が慌てて様子を見に駆けつけたところだった。
「……ひィ!!」
俺を一目見るなり逃げ腰になり、来た道を全力で逃げていく。まったく失礼な牢屋番である。
目の前の壁を見れば、俺の牢に付いていた格子扉がグニャグニャに変形して石壁の中にめり込んでいる。周りを見渡すと近くに収容されている囚人が、牢の隅に逃げる込む姿がハッキリと見えた。
「なんだ? 今まで真っ暗だったのに、見える。見えるぞ!」
果たして俺の言葉が、外に音声として伝わっているのかも分からない。
だが今まで聴覚以外遮断されていた感覚が、今は大空の元にいるかのように知覚できる。それだけで今の俺には十分すぎる快感だった。
ただ、不可思議な事に視界だけは赤い靄のような霧がかった視界になっていた。まるで瞳の中に燃え盛る炎が立ち上っているかのようだ。
「まあいい、それよりも……」
俺をこんなにも非道な環境に追いやった輩に、鉄槌を喰らわせなければならない。以前の俺にはあるはずもなかった憎しみの感情が、地下牢獄の外へと駆り立てた。
早く広く、明るい世界に戻りたい。そして、この燃え盛るような憎悪を仇敵に向けて叩き付けてやりたい。
今、俺の意識の中にある感情は、それのみだ。
地上に向かう階段を這いずりながらも登ってゆく。視界の先に待望の光り輝く世界が見えた。それだけで俺の心の視界も眩いばかりに光り輝く。
やっと、やっと地上に出れる!
俺は飛ぶような勢いで地上に躍り出た。
そこは大神殿の中庭だった。
小さな石造りの建物に牢屋の入口らしく、格子の扉が取り付けられている。
地下牢獄からの轟音が聞こえたのだろう。外には、大神殿中の兵が集結しているかのような軍勢が俺を待ち構えていた。
あいつ等だ。あいつ等が俺をこんな過酷な環境に閉じこめた張本人だ。
到底、許す事はできない。
倒すべき敵だ!!!
「お前等だな? 俺をこんな所に閉じ込めやがったのは!」
俺の怒声が確かに届いているはずだった。だが誰も、俺の声に反応しない。只只、遠巻きに警戒するのみ。
それが俺の感情を更に逆撫でする。
「シカトかよ。まあいいや、結果は変わらないしな」
姿勢を低くし、とぐろを巻いた尻尾に力を充填する。
こんな奴らなんて、竜の姿になった俺なら一撃だ。流石に殺すのはまずいだろうが、少々痛い目には遭ってもらう。いや? 殺してもいいのか?
いやいや、流石に殺人は拙い。
俺の中で、僅かに残った理性が制止してくる。
拙い? どうして? あいつ等は俺に不当な扱いをした。
その報いを受けさせるだけだ。
だがあの兵達にも家族がいるだろう。関係のない家族にまで悲しみを与えて本当にいい筈が無い。
それがどうした! 俺はあいつ等に狂わせられかけたんだぞ!!。
頭の中で色々な思考が駆け巡る。元日本人の俺。狂気に犯された俺。どれが本当の自分なのだろう?
竜となった俺は人間を殺せるのか? そもそも俺は竜なのか? 人間なのか?俺は一体、誰なんだ?
俺の中で様々な葛藤が駆け巡っていた。
しばらくその場から動こうとしない俺と、警戒したままの警備兵達との睨み合いが続いていた。
この緊張状態を終わらせたのは奴等の方からだった。突如、軍勢が左右に分かれてゆく。まるで、誰かに道を開けるかのように。
俺の予想通り、軍勢の奥から二人の男女が姿を見せた。
一人は俺をこんな目に遭わせた張本人のシグ。
もう一人は、この異世界に転生してから片時も離れた事のない少女。エダだった。
「君は彼女に剣を向けられないだろう、俺が相手をする。他の者も下がれ。いや、大神殿の外に出ろ。お前達では話にならん、巻き添えを食らうぞ」
そう言って男はエダと軍勢を下がらせると、背中に担いでいた大剣を抜き放った。
「グッ……」
鞘に納まっていた時は何も感じなかったのに刀身が姿を現れた瞬間、俺の体に悪寒が走った。
あの剣は拙い。この世界に来てしばらく経つが、あれ程イヤな感じがする経験はこれまでになかった。
「聖誕祭が終わるまで待てと言っただろう。何か君の扱いに不手際でもあったのか?」
落ち着いた調子で淡々と話すシグに、俺は激昂して尻尾に貯めた力を解き放った。その力はそのまま、地下牢獄の入口となる格子扉に襲い掛かる。俺の居た牢屋の扉よりは頑丈だったらしく、ひしゃげはしたものの扉を支える蝶番は己の役目を全うした。
ようやく広い青空の元へと帰ってきた。新鮮な空気が俺の体内を駆け巡るかのようだ。地面に生える芝も、空を飛び回る鳥の音も、すべてが懐かしい。
だが、それしきで俺の中の狂気は止まる気配を見せなかった。
「ふざけるな! あんな五感を殆ど封じるような牢屋で、不手際も何もないだろうが!!」
「なに?」
俺の声が奴には聞こえるのか?
初めて俺の声に人間が反応した。
「なんの話だ。いや、俺は君を傷つけるような真似は厳禁したはずだが?」
そんな事もはやどうでもいい。
今考えるべきは、俺にこんな不等な仕打ちを課した敵を滅する事。
それだけだ。
こうしている今も、俺の中に僅かに残った理性が破壊衝動に飲み込まれてゆく。人間ではなく、ただの破壊の化身に変貌してゆく。だがそれが無性に心地いい。
己の中に渦巻く狂気に全てが飲まれてゆく、俺はすべてを狂気の感情に委ねた。
俺達の居る大神殿の中庭は、正に戦場と化していた。
額の[竜宝珠]が今までになく熱い。
まるで燃えているかのようだ。
今まで感じ取る事が出来なかったが、今ならハッキリと分かる。
[竜宝珠]の中で膨大な熱が蓄積されているのだ。
その熱が臨界を超えた時。
俺の体は炎に包まれた。
「コウキ!」
何処からか、聞きなれた女性の声が響いてきたような気がする。
「君も下がれ! 今の彼女は理性を失っている!!」
「申し訳ありませんが殿下、それだけは承服致しかねます。……これは私の責任でもあるのです!」
二人がなにやら口論している事だけは理解できる。だが今は、身体中に燃え盛る炎によってうまく知覚できなかった。
「あああアアアアァ――――――――!!!」
雄叫びを上げながら二人に襲い掛かる。確かにあの魔剣は俺に傷を負わせる事ができる凶器だ。
だがそれがどうした。逆に言えば、あの剣以外は怖くはない。男を始末した後、女を排除すればいいだけだ!
「どけッ!!」
男が女を横に弾き飛ばした。
大きな顎を開き、男に俺の牙を食らわせようと噛み付く。口の中に嫌な金属音が響き渡ると共に、強烈な熱を感じた。
「それは、ナンダ」
男の剣から黒い炎が沸きあがっている。
ソレがなければ、俺の炎を纏った牙は剣ごと男の身体に喰らい付いたはずなのに。
「魔剣グラム。邪竜を滅する黒炎を纏わせる魔剣だ。以前に彼女が君に話した事があると言っていたぞ?」
鍔迫り合いをしながらも冷静な口調で話しかけてくる男に、俺の感情が逆撫でされる。
この身に纏った炎と、男の魔剣から舞い上がる黒炎が交わり、天高く巻き上がっている。
このままでは中庭全体が炎に包まれるのも時間の問題だろう。
「残念だ、君は我らの希望になりえるかと思ったのだが。はああァッ!!」
男が残念そうな言葉と共に俺の牙を押し斬った。中庭に甲高く鳴った金属音が、この衝突の結果を示していた。
「……グウウっ」
痛烈な痛みと共に、近くの地面に突き刺さった自分の牙を見下ろす。俺の牙が斬られた。状況を把握すると同時に思わず、後方に退いていた。
俺はこの男の力量を直感で察してしまった。
この男は強い。
新しい力に目覚めたとはいえ、俺は竜での戦闘をこれまで経験していない。
戦闘の経験値が違いすぎるのだ。
このままでは、俺は負けるだろう。
この男に殺されてしまう。
死ぬのは嫌だ。せっかくこの世界で新しい人生を始めたのだ。この世界に来て初めての[死の恐怖]が俺の全身を支配する。
「イヤダ、シヌノハイヤダ。コワイ、イタイノモ、シヌノモ……イヤダ!!」
何かないか。
問答無用で相手を無力化する圧倒的な力はないのか!目前に迫った死への恐怖に、全身が強張っている。自分の体の奥底に問いかける。すべての理不尽を破壊する、圧倒的な力。俺が生き残る為のチカラ!!
………………………………………………………………。
……………………あった。
なぜ、こんな事ができると思ったのかも分からない。身体から吹き出ていた炎を、すべて体内に逆流させる。
尻尾や羽根の先から、胃を、喉を通し。俺の中のありったけの炎のすべてを、この一撃に集中させる。
俺の中の炎のチカラ。すべてを、額の[竜宝珠]へ集中させる。目が焼ける。鼻、口、脳までも。
[宝珠竜の核炎獄]
本来、少量ずつ使うべき灼熱の炎を、この戦場を吹き飛ばす為だけに。
死ぬのはイヤだ。しかし、どうせ死ぬのなら、
すべてを、[核のごとき炎獄]で道連れにしてやる!!
「ミンナ、ミンナ……モエテ、シマエ――――――!!!」
すべてを灰燼に帰す為の地獄の炎を。臨界にまで溜め込んだ[竜宝珠]から、
解き放った――――――――。
つい先ほどまで綺麗に芝が整えられていた大神殿の中庭は、今や真赤な残り火と黒く焦げた芝だけが一面を覆いつくしていた。
いや、それどころではない。大神殿を形作っていた大石は膨大な熱でボロボロになり、もはや原型を留めていない。かつて日本史の教科書で見た地獄絵図が、ここに再現されていた。
それでも俺の中に残った狂気が止まる気配はない。
普通の人間なら一瞬にして死に追いやるほどの爆発だったはずだが、目の前の男は魔剣を盾代わりにして一命を取りとめていた。
それでも全身の重度の火傷が、これ以上戦える状態ではない事を物語っている。
「サイゴに何かあれば聞いてヤル」
狂気に身を委ねた俺が、慈悲とも言える言葉を掛けられたのは意外だった。
「君は、人類の、彼女の、敵と、なるのか……」
重度の火傷により口を開くのも辛いのだろう。単語一つ一つに苦痛を浮かべながら言葉を口にしている。
「ナニをイウ。オレはジブンのミをマモったダケだ」
この世界の人間に正当防衛の権利など分かる筈もないが。
その俺の言葉を聴くと男は頭を下げ、目を瞑った。覚悟は出来ているらしい。
残されたもう一本の牙を男の首筋に突き立てれば、終わりだ。
日本でも、この世界でも初めて人を殺す。
今までの俺だったなら、その行動は、正に禁忌だ。殺されたくないし、殺したくもない。
だが、この男は敵だ。おそらく生まれ出たその日から、既に俺と殺しあう運命であったのだ。
「じゃあナ――――。」
殺人という禁忌を振り払うかのように俺は、躊躇いなく男の首筋に牙を突き立てた。
殺人を犯した。
俺の中に残った僅かな理性がそれを知らせている。
牙の感触からしても肉の中に深々と突き刺さっているのは間違いない。
だが、思わず目を瞑りながらになってしまった急所への一撃に、俺は違和感を覚えた。
人間の肉に齧り付くのは勿論、初体験だ。
それでもわかった。
男の肉の感触にしては妙に柔らかく、そして暖かい。
まるで女性の抱擁の中にいるかのようだ。
異変を感じて見開いた、
その先には――――。
「ア、ア、ア……。エダ……? ナンデ……?」
そこには。
男の前に立ちふさがり、俺の頭部に抱きつきながら背中に牙を受け止めた彼女がいた。
服は元より体中が黒く変色しながらも、その柔らかい感触は何時もと変わらない。
俺の中に居座り続けた狂気が焦りに、そして恐怖へと一瞬で変貌する。
致命傷の一撃を受けたにも関わらず、彼女の表情は慈愛に満ちていた。
「ごめんなさい。私さえ、私さえコウキと出会わなければ、こんなに悲しまなくても良かったのに。私が貴方を竜神として立場を押し付けた張本人。貴方ではなく罪人として裁かれるべきは私」
彼女は何を言っているのだろう?
いや、今はそれどころではない。俺の牙は背中から奥深く突き刺さり、彼女の肺にまで到達しているはずだ。
案の定、彼女の口から血が垂れている。
片方の肺が損傷しているのに、言葉を紡ごうとしているからだ。
早く治療しなければ手遅れになってしまう。
それなのに彼女の懺悔の言葉は止まらない。
「貴方は優しい人。時に笑い、時に泣き、人間と同じ道を歩める人。どうか私の代わりに生きてください。竜神でも邪竜でもない。コウキ=ヴィーブルとして」
「分かった。分かったから! 早く治療しないと君が死んじゃう! ほら、癒しの奇跡って神官なら使えるんだろ? 大神殿には沢山の神官がいるじゃないか!」
大切な人を失う恐怖が、俺の狂気を吹き飛ばした。
日本で習ったじゃないか。思い出せ。確か身体に凶器が刺さっている時は抜いてはいけないはずだ。抜けばそこから大量の出血を促してしまい、失血死してしまう。
この世界に輸血の技術はあるのか? 縫合できる技術を持つ医師は? 麻酔は?
分からない。何一つとして分からない。
なんだよ。知識だけあったって、技術と道具が無ければ何の役にも立たないじゃないか!
自分の瞳から涙が溢れ出す。
気が付けば、俺の体は人間の少女に戻っていた。牙が無くなり、彼女の背中から大量の出血が俺の手を濡らす。
周りを見渡せば、シグさん以外誰もいない。その事実が更に俺を、恐怖のどん底に突き落とした。
「何やってるんだよ! 見て分からないのか。彼女を助けてくれ。たすけて、たすけてください……おねがいします、たすけて……」
「コウキ。大好きです。どうかパンちゃんと一緒に穏やかな一生を……」
その言葉を最後に、彼女の意識が途絶えた。
「待って。待ってよ! 俺はまだこの世界の事なんて何も分からないんだ。エダがいなきゃ、エダがいなきゃダメなんだ! 勝手に置いていかないでくれ。頼むから、お願いだから置いていかないで……」
焦りと恐怖は、言い様のない怒りとなって自分自身に襲い掛かる。
何が竜神だ。何が世界を救済するだ。俺は大事な人、一人さえ守れないじゃないか。
何が[竜宝珠]だ。何でも叶えてくれるのなら、今ここで彼女を助けてくれ。
俺は一心不乱に祈り続ける。
破壊でも、殺戮でもない、救済する力を。
人類すべてなんて望外な願いではなく。目の前の、俺の腕の中で眠ろうとしている愛しい人を。
た す け て ―――――。
赤く霧がかっていた視界が薄れてゆく。
代わりに、白く、黄色く、まるで、雲の隙間から降り注ぐ日の光のような視界に。
俺は自分の人生で初めて、
神様に助けを求めた―――――。
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