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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第2章 王都
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第14話 私が信じた神

第14話をお送り致します。

これまではコウキ君の一人称で進めていましたが、今回はエダさん視点のお話です。

性格が似ているせいか、作者の力不足か。文章がコウキ視点と似通っていますが混乱しないようお願い致します。


ブログ更新しています。

アラフォーおっさんが「小説家になろう」でラノベを書いてみた

http://mikami7194.livedoor.blog/


ツイッターも更新しています。

https://twitter.com/Mikami47386113


今回も暇つぶしになれば幸いです!


2019.5.2改稿

 私は間違っていたのだろうか?


 コウキが竜神様であると私は信じている。


 あの日、世界樹へ向かう道中、私は神が舞い降りる光を見た。


 歓喜した。私の受けた啓示は間違いではなかったと。生きる目的が出来たのだと。


 けど、私が竜神様だと断定した人は、私達人間と変わらない考えを持つ御方だった。


 私がいくら「貴方様こそ世界を救済される竜神様に他なりません」と言っても、困ったような笑顔を見せる。


 もしかしたら私はあの御方を竜神だと言って、苦難の道に誘っているだけなのだろうか?


 コウキほどの能力があれば、十分この世界でも生きていける。


 私は、コウキを、苦しめている。


 私は、コウキを、傷つけている。


 今日という一日は、私にとって生涯忘れられない日となった。


 

 私のすぐ横で、急所である首筋を強打されたコウキはあっさりと意識を失った。

 口から悲鳴が出かけたが、私の意識は感情よりも行動を優先させた。

 反射的に横に飛んで暴漢との間合いを取った。剣の所持は禁止されている為、持ってきていない。

 咄嗟に近くにいた警備兵の剣を強奪する。何やらこちらに掴みかかって来たので、金的に蹴りを入れて黙らせた。

 

「何をする、貴様ぁ!!!」


 コウキに暴行を働いた戦士に向かって、躊躇い無く斬りかかる。

 相手は大剣。此方は細身のロングソードだ。

 取り回しの良さでは此方が有利。

 そう判断した私は神聖な場所である事も忘れ、戦士との斬り合いに全神経をかたむけた。


(相手は一人、賊をコウキから引き離さなくては―――――。)


 思考が冷静に、けれども激しく回転している。

 力では女の身である私は暴漢の男に適わない。けど人間同士の剣の勝負に力は要らない。

 要はどちらが相手の急所に、いち早く一撃を与えられるかの勝負だからだ。


 この時の私は、相手の顔など見る余裕は一切なかった。

 大切な存在を目の前で殺されようとしたのだ。この男は敵だ。時間にすれば僅かな時間での攻防だったのだろう。

 だが目の前の事件を壇上から見下ろしていた大司教様が、鋭くも重い声で言い放った言葉に私は愕然とした。


「剣を降ろすのだ。エダ=ヴォルヴァ=ジャーリよ。その御方に無礼は許されぬ」


 その大司教様が発した言葉を理解するのに、数秒を要した。


「なぜです! この大神殿での暴挙、それも竜神であらせられるコウキ様への暴行。許されざる背信行為に他なりません!」


 怒りの余り、相手が大司教様だという事さえ頭の中から吹っ飛んでいる。

 上段に剣を構える。頭部への剣戟は何処であろうとも致命傷だ。ましてや相手は兜も被ってない。

 あの分では警備兵が集まるのも時間の問題だろう。警備兵に捕縛される前に天誅を食らわせてくれる!


「はああああ――――――っ!!」


 私は、コウキを害した卑劣な男に向かって、裂帛(れっぱく)の気合をもって剣を振り降ろした。


 結果から言えば私の剣は男に届かなかった。

 いや、届いてはいた。

 男の手から腕を伝い、肘から地面へ、血が流れ落ちている。

 

「なっ……何を……?」


 驚愕に目を見開く私の前の男は、剣で受ける事もせず、篭手で受け流す訳でもなく、手で私の剣を鷲づかみにして止めていた。


 私の膝が地に落ちる。

 そのどうしようもない技量の差に。

 怒りに荒れて狂う脳内が一気に静寂に包まれた。


「エダ殿。貴殿は思い違いをしているのだ。彼女は神ではない」


 落ち着いた言葉が私の意識の中に浸透していく。

 男の手から流れ落ちた血液が私の顔に垂れた。初めて人を斬った。その事実と、彼の言葉に混乱する。

 そうだ。この顔に私は見覚えがある。ユミルの街で、いつも一番安いパンと野菜スープを食べていた。そして私やコウキが酔っ払いに絡まれると、いつも気遣ってくれた人。


「シグさん……?」

「ああ。久しぶりだ」


 今、この時が現実なのか夢なのか分からない。

 神殿内に剣が床に落ちる音が鳴り響いた。こんな時でも私は竜神殿の巫女であるらしい。


「きず……傷を見せて下さい。早く!」


 咄嗟に彼の手を掴み、傷の具合を確かめる。やはり傷は深く、骨にまで達していた。

 けれど指の切断にまで至っていないのは、私と彼の技量の差がそれほどまでに開いているからだろう。


「よかった。これならまだ……!」


 慌てて治癒の奇跡を彼の手に施べく、彼の手に向かって両手を突き出す。

 自分で傷つけて自分で癒す行為に、私は一体何をやっているのかと自分に呆れ果てていた。


 しばらくの静寂の後、彼の手を治療し終えた私はコウキに目を向けた。頭が混乱していたとはいえ、彼女を忘れるとは何たる事か。


「大丈夫。気を失っているだけだ」


 確かに胸の動きは正常だし息遣いも荒くはない。よかった、大事にはならなくて済みそうだ。彼の言葉とコウキの様子に一旦は落ち着いた私だったのだが、騒ぎに駆けつけた警備兵がコウキを取り囲んだのを見て再び激昂しそうになる。


「貴様等、その御方に触れるな!」


 素早く立ち上がり警備兵達を牽制する。


「そこまでだ。エダ=ヴォルヴァ=ジャーリ」


 素早く床に転がっていた剣を拾い上げながらも、またもや壇上からの声に阻まれた。

 警備兵の槍が私の方にも向けられる。私達は完全に包囲されていた。


「本来、その御方に傷を付けただけでも大罪なのだぞ。その御方は」

「まて、俺から話そう」


 大司教様が発した言葉をシグさんが制した。

 呆然としながら壇上を見上げる私を、重みを感じる様子もなく抱き上げる。突然の事態に混乱してばかりだ。


「大司教殿、彼女への説明は私からしておこう。此処に居る皆に命ずる。今回の一件について箝口令を発する。ゆめゆめ口外しないように」


 それと、


「彼女の事も私に一任させてもらう。異存はないな、大司教殿」


 彼女、コウキには彼の側近であろう騎士達が丁重に抱き上げていた。一体全体、どう言う事なのだろう?

 なぜか此処にいる全員、大司教様までもシグさんの命令に従っている。だけども不思議と違和感がない、今の彼には正に王者の風格が備わっていた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「まずは落ち着くといい。紅茶で構わないか?」


 ここは大神殿の別室。大司教様がお客様をもてなす為の応接間だ。

 彼の腕の中から開放された私は、来客用の椅子に座りながら気持ちを落ち着けていた。

 この大神殿のシスターさんが紅茶を入れてくれる。

 コウキの状態が気になるが、教えてもらえるような雰囲気でもない。しばらく、シグさんと共にお茶を飲む静かな時間が続いていた。


「あ、あの……」


 この場の空気に耐え切れずに何か会話をしようとするが、上手く行かない。

 何しろ、気がかりな事が大量にある。


 なぜ、大神殿であのような暴挙が発生したのか。コウキの容態は大丈夫なのか。

 そして、目の前のこの男性は一体何者なのか。私の顔を読み取ったのか、シグさんはボソリと言葉を発した。


「……彼女を傷つけるような真似はしない」


 それを頭から信じるほど私は馬鹿ではない。私の顔から緊張が解けない事を察したのだろう。

 少しずつ、彼は自分の正体から明らかにしだした。


「うむ、まずはそうだな何から話すか。俺の事からか」


 彼が合図を出すとお傍付きの騎士なのか、若い騎士が巨大な剣を持ってきた。

 

「それはっ」


 私はその剣に見覚えがあった。そうだ。ユミルの街に彼が滞在していた時に、いつも背中に担いでいた剣だ。彼はその場で大剣を苦も無く鞘から抜き放った。


 思ったとおり、巨大な剣だ。

 巨大な両刃の剣先から手元に来れば来るほど幅広くなっており、古代文字が両側に掘り込まれている。そして、鍔の中央に白銀に輝く巨大な金剛石が神々しい。(つば)の左右にも古代文字が細かく掘り込まれていた。


「魔剣グラム。遥か昔、神々の尖兵たる竜が堕天し、地上に舞い降りた。この剣は、神々から当時の祖先が堕天した竜を滅する為に託された」


 その話なら知っている。というか竜神教の聖書に(つづ)られている有名な一節だ。

 古代、邪竜が地上に舞い降り世界を灰燼に帰そうとしていた。事態を憂いた神々が、世界樹の幹に一本の剣を突き刺し人族の勇者を募った。その剣を一人の男が抜き、ミズガルズを平定したのだ。

 その人物こそ、ミズガルズの初代国王シグムント。人間族の伝説の勇者だ。

 以来、人族の象徴として魔剣グラムは王の名と共に古代より様々な絵画に詳細な姿が描かれ、継承されてきたのだ。


 その伝説の剣が今、目の前にある。

 と、言う事は。


「まさか、シグルド殿下でいらっしゃいますか?」

 

 彼は私の問いかけに無言で答えた。沈黙は肯定と同義である。私は王族である御方に何て事を!


「そのままでいい。無理に来てもらったのは此方の方だ」


 その場で椅子から地面に(ひざまず)こうとして、止められてしまう。本当にいいのだろうか? 私のせいで、叔父様に迷惑がかからないだろうか。


「今、お前の目の前にいる人間は一介の戦士であるシグだ。それ以上でも以下でもない」


 ほんの少しだけ笑ったような気がする。どうやら相当にフランクな性格の王子様らしい。


「なぜ殿下が王都を離れ、ユミルの街に?」


 気にするなと言われても相手は王族だ。

 慎重に言葉を選んだ私の問いは、核心を突いたようだ。お茶を傾けながらも私に向ける視線が鋭い。


「君は神からの啓示を受けたそうだな?」

「はい。ユミルの神殿にて、確かに」

「……俺も啓示を受けた」


 その言葉に私は衝撃を受けた。まさか私以外にも啓示を受けた人がいたなんて。


「君は世界を最終戦争から救済する竜が降臨する。俺は違う。古代、地上に降臨した邪竜の再来だと」

「そんな!」


 そんな馬鹿な事がある訳がないと言いたかった。

 だけど私の中で、今まで信じて疑いもしなかった啓示に、疑いの感情を持ってしまったのは揺ぎ無い事実だ。


 本当は前々から気になっていた。

 そもそも、何故私だったのだろう?

 ただの一介の田舎街の神殿に勤めるだけの存在である私になぜ、啓示が降りたのだろう?


「君の受けた啓示を否定する気はない。俺とて啓示を受けた時の感触を今でも覚えている。あの瞬間の感触は、受けた者にしか分からないだろう?」


 そうだ。あの暖かい光に包まれる感触は忘れる事が出来ないほどの衝撃だった。

 それだけは間違いのない事実だ。


「俺はこう考えている。ほぼ同時に二つの異なる啓示が下された。どちらも正しいとするならば」


 途中で言葉を切ったシグルド殿下は、一度息を大きく吐くと、文字通り一息で言い放った。


「天界から降臨した竜は二体いる。天界から降臨した、竜神たる聖竜と、堕天した邪竜がな」


 その言葉は、私の今までの宗教観を覆すのには十分すぎるものだった。



 あまりの事実に頭が混乱している。

 コウキの他にも天界から降臨した竜がいる? そんな馬鹿な。

 混乱する私をよそに殿下の話は続いた。


「お前達が出会ってからの行動は監視させていた。正直、最初は彼女が邪竜かどうかも判断しかねた。」


 それはそうだ。私達はただ普通に生活していただけなのだから。


「だが彼女と君は魔物の子を保護し、彼女は君の血を糧としていた。俺の目の前でな」


 やはりパンちゃんの事も、あの食堂での一件も見られていた。

 だがコウキを、彼女を、邪竜だなんて認める訳にはいかない。一緒に生活を共にしていた私には分かるのだ。時に笑い、時に泣き、思い悩むコウキは間違いなく私達と同じ人間だった。

 それを、その場その場でしか見ていない人に何が分かるのか。


「コウキ様は私達、人と同じ思考を持つ方です。決して邪悪な存在だとは思えません」


 私は殿下の意見を真っ向から否定する。この場での殿下の決断で、コウキの処遇が決まるかもしれないのだ。私が何とかしなくては!

 私の決意をよそにシグルド殿下の表情は変わらない。


「そうだ。彼女は俺達人間と同じように喜怒哀楽がはっきりしている。君には認めづらいだろうが、それが彼女が邪竜たる証拠なのだ」

「それでは人間事態が邪悪であると言っているようなものです!」


 思わず席を立ち上がる。


「そうだ。君のような一介のシスターには伏せられているのだが、神々は決して人間の味方ではない。そして人間のような思考も持たないのだ。絶対正義の名の下に庇護し、そして天罰も下す。神々には[迷うという思考が存在しない]のだ。無論、神々の尖兵たる竜神にも」


 思わず私の膝が崩れ落ちる。

 それでは私達人間とは一体何なのか。人間こそが[邪なる者]なのか!

 目を見開き、呆然としたままの私に、殿下は席を立ち言い放った。


「たとえ神々から見捨てられようとも、我々は生き抜かなくてはならない。それが人間の生き方なのだからな」



 しばらく私の脳は思考を停止していた。

 神々の真理を聞いた私を、自由にさせる訳にはいかないらしく別室に軟禁されている。

 鍵は掛かっていないが、扉の向こうからは警備兵の気配を常に感じた。


 用意された椅子に座りながら、今までの人生を思い返していた。

 子供の頃から教わり、学んできた信仰が崩れてゆく。

 神々を信仰し、この地に人が生活できる大地をお与えになった大地母神竜に感謝し、日々を生きてゆく。

 それがこの大陸で生きる者として正しい姿だと信じていた。

 それを今日、真っ向から否定された。

 それでは今までの十七年は一体何だったのか。

 自然と涙が零れてきたが、不思議と嗚咽(おえつ)を吐く事は出来なかった。


 ごめんなさい――――コウキ――――。

もしよろしければ評価、感想お願い致します。

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