第13話 「狂気」
第13話をお届けします。
今回のお話は、ひっじょーに暗いです。このお話の前半の山場でもあります。
正直このまま投稿するかも悩みました。後ほど改稿するかもしれません(汗
以上を注意してお読み下さい。
ブログ始めました!私の執筆に至るまでの準備を記事にしております。少しでも参考になれば幸いです。
「アラフォーおっさんが「小説家になろう」でラノベを書いてみた」
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2019.5.2改稿
翌日、俺達は朝から待ち構えていた護衛の二人と共に大神殿にお邪魔していた。何やら、竜神教の最高責任者である大司教ニーズ様に俺の事を連れて来いと言われたらしい。
「あんまり目立ったり、正体を明かしたりしたくないんだけど……」
「ですが言うまでもなく竜神教について、最も多くの知識を持つお方がニーズ大司教様です。コウキ様の素性を調べるのにこれ以上の方はいないかと」
そう言う彼女のテンションは上がり気味だ。昨日の打合せでお目通りする機会に恵まれ、相談に乗る機会を与えてくださったとの事。
曰く温厚で優しそうなお方だったらしい。
「まあ、この二人に素性がバレてるんだから大司教って人に伝わっているのは当然か」
俺達の後ろを着いてくる二人は、先日まで俺の護衛を勤めてくれていた大神殿の騎士バラスと神官タリナさんだ。俺が視線を向けると、我関せずといった風に顔を背けている。
大通りをひたすら王城に向かって歩いてゆく。
すると、王城とはまた違う意味で立派な大神殿が見えてきた。
堅牢な壁に包まれている王城とは違い、大神殿は両側が切り立った崖に鎮座している。その大神殿の先は岬になっているようで、その先端にはユミルの教会にあった物とは比べ物にならないほど巨大な竜神像が聳え立っているのが見える。
「ジャーリ伯爵家エダ=ヴォルヴァ=ジャーリ様、コウキ=ヴィーブル様ですね? どうぞお通り下さい」
話は事前に通っているらしく、俺達はあっさりと大神殿の中に通された。護衛の二人はここで留守番だ。
俺達の案内役なのだろう。壮年の神官さんが俺達の名前を確認すると先導してくれる。
それにしても、まるでギリシャのパルテノン神殿みたいに圧倒される建物だ。一体これほどの建造物をいかにして建造したのか興味が沸くが、城壁からしてあの様相だ。
機会があれば、この街の職人さんと話してみたいものである。
大広間に通されると学生時代、世界史の教科書に載っていたような祈りの間が広がっている。流石にミケランジェロの壁画のような作品はなかったが、その代わり細かい彫刻が壁なり柱なりに掘り込まれている。
その祈りの間の奥には、この大神殿の高位神官の皆さんがずらりと並んでいた。
上座の壇上にいるのがおそらく大司教様だろう。豪勢な神官服を身にまとい、長い白髭を蓄えている。いかにもなお爺さんだ。
「ジャーリ伯爵家エダ=ヴォルヴァ=ジャーリ、コウキ=ヴィーブルと共に参りました」
「ご苦労、ミズガルズ竜神神殿大司教ニーズである」
彼女に習って跪く。
「よい。二人共、面をあげよ」
広大な広間に大司教様の声が響き渡る。
「お主の話にあった竜神の化身とは、この娘の事か?」
「仰せの通りでございます」
日本じゃこんなに偉い人と出会った事がないから緊張している。
例えるならば、一般家庭の日本人がローマ正教の大司教様に謁見するようなものだ。
もし初対面で自然に接する事ができるなら、その日本人はよっぽどの大物か空気の読めない人かのどちらかだろう。
「コウキ=ヴィーブル、そなたに問う。異世界からの訪問者であるという証拠はあるか?」
大司教様の荘厳な声が祈りの間に響き渡る。これまた難しい質問だと思わず考え込んでしまった。よくある転生物の物語では現代科学の象徴と言うべき文明機器を所持しているものだが、俺は裸一貫で放り出されたのだ。
物的証拠は何もない。
「証拠になるかどうかは分かりませんが……」
「許す。示してみるがよい」
こうなれば仕方が無い。どちらにしろ俺の情報は大司教様に伝わっているのだろう。俺は額に巻いている布の結び目を解き、取り去った。
赤く光り輝く「竜宝珠」が露になり、その場にいる全員の視線が俺の額に集中した。
ザワザワと周囲の神官さん達のざわめきが激しくなる。
「世界樹の麓で出会った守護竜様によると、これは「竜宝珠」という宝石らしく、みだりに見せてはならないと助言をもらいました」
さすがに「願望珠」としての力までは公開しない方がいいだろう。やってみろと言われても出来ないし。
これが異世界人の証明になるかどうかは分からないが、少なくともこの世界で俺と同じ人間は見た事がない。大司教様は最初は驚きに目を見開いていたものの、最後には納得したかのように頷いた。
「やはりか。報告を聞いた時はまさかとは思ったが」
大司教様はそれだけを言うと、おもむろに片手を挙げた。
何かの合図だろうか?
咄嗟に横にいるエダに視線を向けるが、彼女も困惑しているようだ。
「あの……何か……っぐ!?」
何の事が分からず、疑問の口を開こうとした瞬間。
背後から、俺の後頭部に強烈な衝撃が走った。
瞬間的に自分の状況を把握する。
これは鈍器による衝撃だ。身体の奥底にまで衝撃が響き渡るような鈍痛を感じる。
いくら俺でも無防備な体勢で急所を突かれたのだ。ひとたまりも無い。
目の前が次第に暗く、そして真っ暗になってゆく。
「コウキ! ……おのれ、何者!?」
隣からエダの悲鳴と怨嗟の声が聞こえたような気がした。
閉じようとする意識に対して、俺は必死に抵抗しながら後ろを振り返る。誰が不意打ちのような手段で俺に害をなすのか?
そこにいたのは。あの、ユミルの街の食堂で見慣れた顔だった。
「シグさん!? どう、して……?」
ある日突然、ユミルの街から居なくなったシグさんだ。どうして王都の大神殿にいるんだ?
その答えを聞く余裕はもうなく、俺の意識は深淵の底へと落ちていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目を覚ますと真っ暗な部屋に横たわっていた。
まだシグさんにやられた後頭部にズキズキとした鈍痛が響く。今までの経験から、それほど時間が経過していない事は察せた。
ジメジメとした、石造りの部屋に格子の扉。薄暗い光しか照らさないランプが不気味さを強調している。部屋の隅には使い古されたベッドに、薄汚い壷。まさかコレに便をしろと言うつもりだろうか。
俺が横たわっていた部屋は、どこからどう見ても牢屋だった。
格子の扉の先には見張りに立つ兵士の姿が見える。
「おい! いきなり牢屋行きってどういう事だよ! 誰か説明しろ!」
格子の扉を握り締めながら、ダメ元で声をかけてみる。予想通り牢屋番の兵士が言葉を発する事はなかった。その代わり俺の覚醒に気づいたのか牢番の一人が階段を上がっていく音が、牢屋中に不気味に響き渡る。
やがて、牢屋番とは明らかに違う鎧を身にまとった男が姿を見せた。
暗闇に慣れた視界に冷たい男の声が乱反射する。
「一度、席をはずせ。また呼ぶ」
この簡略化された話し方に、俺は心当たりがあった。
目の前に現れたのは豪奢な騎士鎧を身に付け顔に緊張の二文字を書いたかのような、ぶっきら棒な男だった。
「シグさん」
「久しぶりだな。せっかく見逃してやったと言うのに王都まで来るとは……」
相変わらずの話し方だ。ユミルの街で安物パンと野菜スープの注文を聞いていた時と変わっちゃいない。
「いきなり気絶させて牢屋にぶち込むなんて、王都の騎士はどういう教育を受けているんだ?」
とりあえず、恨み言の一つも言わなきゃ気が済まなかった。牢屋にぶち込まれるような罪を犯した記憶もないしな。
別に期待している訳ではなかったが、シグさんの表情に変化はない。
牢屋に水滴の垂れる音が響き続ける。どこからか雨水が漏れているのかもしれない。
シグさんの変化のない表情が、この状況も相まって恐怖心を加速させていた。一拍の静寂の後、彼が口を言葉を紡ぐ。
「すべては筒抜けだったという事だ。お前がユミルの神殿で竜に化けた時からな」
あの時か。シスター長に俺の存在を知ってもらうため、神殿の中庭で竜に戻った。あの時にはすでに監視されていたと言うのか。
あの頃の俺に怒鳴りつけたい気持ちでいっぱいだったが、過ぎた時は戻らない。
「お前という存在は危険だ。冷戦中とは言え両大陸の巨人が睨みあっている今は、尚更な」
「別に俺は普通にこの世界で生活していただけだぞ……」
「情けない限りだが人間は身に降りかかりそうな危険は、事前に対策を施す生き物だという事だ」
つまり、俺が敵だろうが味方だろうが関係ないと言っているのだ。抗議しながらも、シグさんの言い分にも一理あると理解してしまう自分に嫌気がさす。
人間は想像する生き物だ。
実際に自分達に危険が及ばないとしても、危険な平気を見逃す事ができない臆病な生き物なのである。
「あのまま、ユミルの街で給仕娘として一生を終えたのならば事を荒立てる必要もなかった。自分の素性を隠しながらな。しかしお前はもはや兵器としての可能性を知られてしまった。それも必ずしも人間の味方になるとは限らないと判断されるほどにな」
「……何の事だ?」
俺が人間の敵になる? この世界に来てから人間に危害を加えた事なんてないぞ? 酔っ払いを吹っ飛ばした事例はあるが。
「魔物の子を保護しただろう」
その言葉に俺の感情が暴発した。
「パンちゃんは関係ない!」
必死の形相で睨みつけるが、彼の表情は変わらない。いやむしろ更に厳しい表情になっただろうか。
「お前とて、もう理解しただろう。人間はそういう生き物なのだ。それに」
「……ッ!」
シグさんの言葉は続く。俺はパンちゃんが諸悪の元凶のように言われて、怒りのあまりに言葉が出てこない。
「お前は本当に自分が[邪悪な存在]ではないと断言できるか?」
その言葉は槍のように俺の心の奥底に突き刺さった。俺が一番危惧している事案を的中され、改めて自分の身体の異常さを思い返す。
とても聖上なる存在とは思えない、蛇のような竜の姿。
彼女の血に求めて荒れ狂った衝動。
人の命を必要とする[竜宝珠]の力。
自分でも疑っていたのだ。だから自分が竜神だなんて信じる事ができなかった。
「信じて貰えるかは分からないが、エダ=ジャーリ嬢に傷を付けてはいない。彼女自身、敬虔な教徒であるのは間違いない。大神殿の一室でしばらく軟禁される程度で済むだろう」
もしくは邪竜捕獲の功労者として表彰されるかもな。とか言いながら、まるで吐き捨てるような口調で説明される。
だが、こんな魔女裁判のような行為が行われていいはずがない。そう思い更に抗議しようと口を開いたのだが、先に声をだされてしまった。
「いいか。少なくとも[聖誕祭]が終わるまではここで大人しくしていろ。お前が暴走すれば被害はお前だけでは済まなくなる。ここは王都で間違いなく一番安全な場所だ」
俺の考えを読んだかのように釘を刺された。お前が下手に動けばエダやパンちゃん、ジャーリ伯爵家にまで被害が及ぶと。
その一言で俺はもう、反論できるだけの気力を奪われてしまった。俺一人が我慢すれば皆が助かるのだ。今は大人しくするしかない。
もう話す事はないと言わんばかりにシグさんは踵を返し、牢屋番に話しかけた。
「牢屋番、もういいぞ。監視を密にせよ。彼女を傷つける事は許さん。徹底しろ。いいな?」
「はッ! 了解しました!!」
シグさんの声に反応して牢屋番が戻ってくる。とりあえず拷問を受けるような待遇ではないようだ。
俺は多少の安心感と共に、しばらくの牢屋生活を覚悟した。
時間の感覚がない。おそらくは地下牢獄なのだろう。光取りの窓もなければ、生き物の気配も時折見回りに歩く牢屋番の足音だけだ。
決まった間隔で届けられる貧相な食事を食べ、寝る。
その繰り返しだ。
最初の数日はまだよかった。暖かい食事が届けられたし、牢屋内のランプも絶やされる事はなかった。しかしそれも程なく食事は冷めた物になり、ランプの光のない暗闇の中で生活する時間が増えていった。
今では圧倒的に暗闇を支配する時間が増え、一体自分が一日のうち何時間起きていて、何時間寝ているのかも分からなくなっている。
そんな日々がどれくらい過ぎただろうか。
もしかしたら、そんなに日にちは経過していないのかもしれない。もしくはもう数ヶ月も拘束されているのかもしれない。
「[聖誕祭]が終わるまでは大人しくしていろ」
彼はそう言った。伯爵の家にお邪魔した時には三日後だと言っていた。ならもうとっくに[聖誕祭]は終わっているのではないか?
いやそもそも祭りはどれくらいの期間、開催されているのだろうか? 分からない。俺は何もわからない―――――。
最近、俺は、ずっと同じ事だけを考えている。
俺はなぜ、こんな世界に転生したのだろうか。
俺はなぜ、こんな身体で転生したのだろうか。
俺はなぜ、こんな仕打ちを受けなければならないのだろうか。
俺はなぜ、なぜ、なぜ、なぜ、こんな―――――。
疲れた頭でふと、日本でのTV番組を思い出す。どんな番組だっただろうか、中世時代に行われた拷問の数々を有名司会者が紹介している番組だったような気がする。
人間は暗闇の中に長時間放置されると精神に異常をきたす。
それを若手の芸人で検証しているのだ。
結果は数分と持たずに狂乱し、医者のドクターストップが入っていたはずだ。
閉所恐怖症。暗所恐怖症。
それは別に特定の人間だけではなく、根本的に人間が恐怖を感じるように出来ているのだと。
今も暗黒が牢屋を支配している。
聞こえてくるのは僅かな牢屋番の気配のみ。
気が狂いそうになってきている。
もうどうでもいい。殺すなら殺せ。殺さないなら開放してくれ。
パンちゃんは元気にしているだろうか?
魔物だとあの男にバレているのだ。
俺と同じようにどこかに幽閉されたのだろうか?
もしかしたら……もうすでに。
エダは今頃どうしているのだろう。
まだ大神殿内に軟禁されているのだろうか?
それとも俺を助ける為に奔走してくれているのだろうか?
それとも、俺の事なんてもう、忘れてしまったのだろうか?
最近、卑屈な思考ばかりが脳内を駆け回る。寒い、毛布くらいよこせってんだ。
冷え切った身体と対象的に額の[竜宝珠]が熱い。まるで焼きゴテを押し付けられているかのようだ。俺の負の感情が増せば増すほど、[竜宝珠]の熱は俺を狂わせてゆく。
更に、もう時間の感覚さえ消えうせた頃、俺の感情は限界に達していた。
そもそも俺にこんな仕打ちをするような奴らだ。
なぜ、従わなければならない?
そうだ。それは彼女が、エダが悲しむから。
悲しむのか? もう俺の事なんて忘れているかもしれない彼女が?
わずかな聴覚以外の感覚を遮断された俺は、あの男の最後の言葉も、もはや頭の中に残ってはいなかった。
今まで必死に押さえ込んでいた感情が、頭の中で荒れ狂う。
もういい。もうどうでもいい!
俺の体に変化が起こる。本来、彼女が触れなければ出来るはずのない変化が。
腕が細く、膜が貼り出してゆく。
二本の足が一つになり、長く、長く伸びてゆく。
首が伸び、口元が伸び、牙が生え、皮膚が鱗に覆われてゆく。
もはや、俺の意識には憎悪と憎しみ以外の感情は、残っていなかった。
人間の時にはあれだけ広かった牢屋が、今ではとても狭く感じる。
もっと広い所へ行きたい。
もっと明るい所へ行きたい。
もっと暖かい場所へ、もっと、もっともっと!!
限界だった―――――。
「こ、こ、か、ら、出せええええええええええええええ!!!」
俺は鋼鉄製で出来た格子の扉目掛けて、全力で竜の尻尾を叩きつけた。
もしよろしければ感想、評価宜しくお願いします。




