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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第2章 王都
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第12話 王都での新しい出会い

投稿が遅くなってしまい申し訳ありませんでした。

第12話をお届けします!


王都での新しい出会いにコウキ君はほんわか状態です。今のうちに和んでいてもらいましょう(笑)

さて、投稿が遅れた理由ですが皆さんと気軽に意見交換できる場がほしいと思いブログを作成していました。


アラフォーおっさんが「小説家になろう」でラノベを書いてみた

http://mikami7194.livedoor.blog/

私が連載を始める前に、どのような準備をしたのか記事にしてあります。

正解かどうかはわかりませんが、参考になれば幸いです。

ぜひ一度立ち寄ってみてください!


2019.5.1改稿

養父様(おじさま)、エダにございます。帰還のご報告に参りました」

「入りなさい」


 応接間であろう扉の前でエダが入室の許可をとる。

 お風呂で磨かれ、白銀のドレスを身にまとう彼女はどこからどう見てもお姫様だった。

 この国のお姫様がどれだけ美人だろうが彼女には及ばないのではないかと思ってしまう。

 それに比べて俺はどうにも、漆黒のドレスに着られている感が拭えない。

 綺麗に編みこまれた髪は頭皮がジンジンするし、踵の高いヒールが不安を助長させる。

 額の[竜宝珠(りゅうほうじゅ)]を隠す為につけたサークレットは大きい宝石が嵌められており、何かの拍子に傷を付けてしまわないか心配だ。

 化粧をしてくれたメイドさんは完成した俺を見て騒ぎ立てていたが、生憎(あいにく)俺はナルシストではないのだ。

 内心、幼年時代の七五三の写真を見せられたかのような恥ずかしさを感じつつも伯爵とエシアさんが待つ応接間に突撃した。


「失礼致します……」

「失礼しまっす……」


 もういい、笑うなら笑え! とばかりに清水の舞台から飛び降りた俺だったが、いくら待っても伯爵とエシアさんは此方を見たまま呆けている。

 伯爵の年頃は五十台半ばだろうか、今でも鍛えているのだろう。ガッシリとした体格と綺麗に切りそろえられた髭が歴戦の騎士を彷彿とさせる。

 この応接間も見事なものだ。綺麗な調度品も某骨董鑑定番組に出したら、一体いくらの値がつくのか分からない。


「あの~……何か?」


 あまりに静寂の時間が長かった為、思わず問いかけてしまう。そういえば平民から貴族に話しかけてるのって罪になるのか? 話しかけてからそんな事例もあったなと後悔した俺だったが、伯爵は一つ大きな溜息をつくと口を開いた。


「エダ、まずはお帰りと言わせてくれ。竜神殿に出家したお前が今だに養父と呼び、顔を見せてくれるのは真に嬉しい事だ」


 彼女は満面の笑みを見せつけながら叔父さんである伯爵を見つめている。その顔に俺は見覚えがあった。顔は綺麗に化粧を施していても分かる。これは彼女が悪戯に成功した時に見せる顔だ。


「お前の隣にいる女性が、手紙に書いてあった娘かな?」

「はい、そうです養父様。名をコウキ=ヴィーブル様とおっしゃいます。私の窮地(きゅうち)を助け、今では姉妹のように接しさせて頂いているお方です」


 ちょ、エダさん? 貴方はお手紙に何て書いたの?


「ま、まあまずは座りなさい。コウキ殿も。お茶は紅茶でもよろしいかな?」

「は、はい。大丈夫です」


 来客用のソファに薦められるがままに腰を降ろす。

 俺の顔を見知っているはずのエシアさんでさえ、俺を見たままポカ~ンとしている。一体なんなんだ。


「まったく、私の崇拝すべき神との運命の出会いがありました。という手紙を見た時には何事かと思ったが」


 そんな大層な人間ではないので問題ないです。いや、大層な竜ではないと言うべきか。


 というかエダさん! どんな紹介文を書いたんだよおおおおお。


 そんな俺の心の中での弁解をよそに、この場の注目が俺に集まっている。

 そんなに見つめないで欲しい。緊張のせいで(のど)がカラカラだ。慌ててメイドさんが入れてくれた紅茶で文字通りお茶を濁す。


 そんな俺を見つめながら、伯爵は大きく息を吐くとおもむろに口を開いた。


「確かに、その姿を拝見した今ではお前が神と見間違うのも納得だ。

 お初にお目にかかる、コウキ殿。

 儂はミズガルズ王国にて伯爵の地位を賜っております、ジャーリという者。

 以後、お見知り頂きたい」

「え……あ、頭をお上げ下さい、伯爵様! 貴族様に頭を下げてもらうような人間じゃありませんので!」


 いきなり自己紹介と共に頭を下げられた伯爵に、俺は慌てて立ち上がりながら困り果ててしまった。


「いやはや、娘の手紙にこの世のお方とは思えないほど綺麗なお方です。と書かれているので覚悟はしておったのですが……。正に目の保養とはこの事ですな。聞けば食堂で給仕の仕事をなさっているとか、かの街の者達は幸せ者ですなあ」


 伯爵は顎の綺麗に切りそろえた髭を撫でながら好好爺然としている。


養父様(おじさま)。コウキ様の事は今後いくらでもお話しますので」

「おお、そうであったな。[聖誕祭]は三日後に王城で盛大に執り行われる。詳細についてだが」


 空気を読んだのだろう。エシアさんは[聖誕祭]の話題に移ろうとすると席を立った。


「それでは私目はこれにて。何しろ私には王都の図書館が待っていますのでな。エダ殿、コウキ殿、まずは旅の疲れをゆっくりと取るがよろしかろう」

「はい。お疲れ様でした。また後日、聖誕祭にてご活躍を楽しみにしております」


 彼女の言葉に微笑みながら、エシアさんは伯爵に一礼したのち退出していった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 エシアさんが退出した応接間には一瞬の静寂が支配した。

 しかしそれは伯爵が心を爆発させる為の前準備だったらしい。これからどんな話が飛び出すのか固唾を飲んで見守っていた俺だったが、テーブルに俯いていた伯爵が顔を上げると、なんとも顔のゆるい親バカが爆誕したのだ。


「え~~~だ~~! おかえり~~!」


 伯爵は文字通り彼女に向かって飛び込んだ。リアルにル○ンダイブを見たのはもちろん初めてである。[聖誕祭]の話をするんじゃなかったのか?


「と、養父様(おじさま)! コウキ様の前では止めてください!」

「いいじゃないの~? もう家族みたいなもんなんでしょ? コウキちゃんも混ざるかい?」

「……結構っす」


 突然の豹変ぶりに困惑するしかない。そういえばシスター長も打ち解けると態度が豹変したっけ。こういう血なのか、なんなのか。

 どうやらこのおっさん、親子のスキンシップを取りたいだけの為にエシアさんを追い出したようだ。

 なんだかんだ言って彼女も本気で抵抗している訳でもないし。ただただ、身内の恥ずかしい場所を見られたと言ったところだろう。


「落ち着いて下さい! まだ紹介したい子がいるんです」

「うむ? コウキちゃんの他にまだ家族が増えるのかい?」


 勝手に家族の一員にされているし。


「コウキ様。連れて来て下さいませんか? 私は養父様(おじさま)が重くて」

「はいはい。メイドさんがお世話してくれてるんだよね」


 俺は席を立つと応接間の扉を開いた。そこには玄関で出迎えてくれた年配のメイドさんが控えておりパンちゃんを連れて来てくれた。

 パンちゃんも体を洗われ、ブラッシングもしてもらったようで埃一つない綺麗な毛並みになっている。


「紹介します。パンちゃんです」

「それだけですか?」


 これ以上どう紹介しろというのか。ウサギ状態のパンちゃんは大きな瞳をクリクリさせながら、今だエダに頬ずりをしている伯爵を見つめていた。


「子と言うから人かと思ったがウサギかね。二人で飼っているのかい? 飼って……」


 今まで目の端がダダ下がりしていた伯爵が、ある事に気付いた。

 パンちゃんの体に蓄えられている魔素。つまり魔物の気配に。今までの表情が嘘かのように真剣な表情にもどるジャーリ伯爵。


「どういう事だ! 王都に魔物を入れ込むとは!!」


 ジャーリ伯爵もシスター長の兄弟だけあって、聖職者の技能である魔素を感じ取る事ができるようだ。

 テーブルに置かれた、おそらくは緊急用のベルに手を伸ばす伯爵。

 その手をエダは素早く止めた。


「お待ち下さい。この子は確かに体内に魔素を持っています。ですが魔物化していないのです」

「なんだと? だがこの魔素量では」


 魔物化は魔素を吸い込んだからといって即、魔物化するものではない。

 野生動物だって意識があるのだ。今までとは違う自分になろうとする異分子に必死に抵抗する。魔素の貯蓄量が限界に達した時、魔物化してしまうのだ。

 その基準量は動物によって違うのだが、パンちゃんは小型動物には(今現在はだが)考えられない程の魔素を既にもっているらしい。


「確かに魔物化した動物は通常、エサになる動物を認識すると即座に襲い掛かってくるものだが」


「この子はこの通り、とっても大人しいんですよ? 養父様(おじさま)も抱っこしてみますか?」


 まん丸目玉でジッとジャーリ伯爵を見つめるパンちゃん。特に暴れる事もなく伯爵の胸に収まった。

 その可愛さに篭絡されそうになるジャーリ伯爵だったが、理性の中ではまだ魔物だという警戒心が残っているのだろう。なにやら難しそうな顔でパンちゃんを抱いている。


 だが俺達の攻撃は、まだ終了していないのだ。


「すみません。頼んでいた物をお願いします」


 部屋の外で待機しているメイドさんに、あらかじめ頼んでいた物を受け取る。


「ダイコン? こんなものをどうするのだ?」

「見てのお楽しみです。パンちゃんお借りしますね」


 なんせ俺じゃないと持てない重さになるからな。大根はパンちゃんの大好物なのだ。

 早く食べさせろと俺の胸の中で暴れだす。パンちゃんが食べやすいように、ナイフでサラダバー状にした大根をパンちゃんの口に運んだ。コリコリコリとリスのように食べ始める。


 すると変化はすぐに起きた。

 見る見るうちに俺達が出会った頃のパンダのパンちゃんに変貌したのである。

 相変わらず白黒のツートンカラーな毛皮は愛らしく、可愛らしい。そんなパンちゃんに見つめられたが最後、ジャーリ伯爵は無条件降伏を申し出た。


 正にこの親にしてこの子ありである。



「それでは養父様(おじさま)。私は大神殿にて[聖誕祭]の打合せがありますので行って参ります」


 一応、そうジャーリ伯爵に断りを入れた彼女だったが、正直今の伯爵に伝わっているかどうかは(はなは)だ疑問だった。なにしろパンちゃんにオヤツの野菜バーをあげるのに夢中だったのだ。

 まあ、邪険にされるよりは全然マシである。俺はそう思う事にした。

 それにこの分ならパンちゃんに危険が及ぶ事は皆無だろうしね。


「それじゃあ、俺はどうしようかな。大神殿に着いていっても余計なトラブルになるかもだしなあ」


 俺の正体に一番気付く可能性がある場所に態々(わざわざ)行く事はない。ましてや年に一度のお祭りの前だ。お邪魔になってしまうのも気が引けた。


「それでしたら一度、王都を観光してみてはどうですか?」

「お、いいね。そうするかなあ」


 なにせこの世界に来て初めての大都会だ。未開の地への冒険心は男子なら必ず持っているものなのだ。


「じゃあ夕方にまた合流しようか。合流場所はどこにしよう?」

「エシアさんが図書館に閉じ篭りっきりなっているはずなので、お迎えに行きましょう。実はシスター長にもエシアさんについて念を押されていますので……」


 十代半ばの女の子に心配されるオジサンって。


「放っておくと何日も寝食を取らずに熱中してしまうので、くれぐれも……と」


 研究者ってのは、どこの世界も一緒なのだと改めて実感したのであった。

 伯爵宅の正門前でエダと別れた俺は、とりあえず大通りの町並みを拝むべく行動を開始した。なにしろユミルの街の時とは違い、今の俺の懐はかなり暖かい。

 丁度お昼時だ。ジャーリ伯爵家でお昼を頂くという案もあったのだが、当の伯爵があの状態じゃあね。


 王都の調理人の実力とやらを試させてもらおう!



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 王都中にお昼を知らせる鐘が鳴り響いた。

 どこから沸いて出てきたのか、昼食休みを取る為に大通りの食堂街は多くの人でごった返していた。左右を見れば、どの店舗からも漂ってくる食欲を刺激する臭いに囚われそうになる。

 ちなみにジャーリ伯爵家で着せられたドレスは丁重に返却し、動きやすい貴族服に着替えている。実はこれも伯爵家からお借りした物だ。なぜ俺の体格にぴったりの服があったのかは謎である。

 今の俺は周りから見れば、男装の貴族令嬢といった風に見えるだろう。


「やっぱり港町が近いから魚介類かなあ」


 ミズガルズ大陸の内地に位置していたユミルの街では、魚介と言えば干物が殆どだった。

 たまに川魚が入ってくる事もあったが、俺は生の魚の美味さをしっている日本人なのだ。

 この機会を逃す訳にはいかない。

 それに本当にここが北欧に似た地域であるならば、あの魚がいる筈だ。


 鮭である。


 日本でも一般的な魚ではあるが、北欧でも超メジャーな食材である事を俺は知っていたのだ。

 店先で鮭をスモークしているお店を発見した俺は、迷いなく飛び込んだ。

 スモークサーモンのマリネ、サーモン入りのサンドイッチ等々。

 異世界に来て以来の故郷の味に陶酔してしまう。メニューの片っ端から鮭料理を注文して胃に収めた。もしエダと同行していたらあまりの食いっぷりに苦言を呈されていただろうが、今は一人なので思う存分味わう事ができるのだ。


「おいおい、お姉さん。綺麗な顔して凄まじい食いっぷりだねえ」

「もうちょっと静かに食べれないの? 美味しいのは分かるけど」


 昼時で多くの人が賑わう時間帯では相席が基本である。隣で俺と同じく鮭のサンドイッチを頬張っていた体格のいい男と、エダと同じ巫女だろうか?神官服に身を包んだ女性に苦情を言われてしまった。


「おっと失礼。久しぶりの故郷の味に酔いしれてしまってね」


 確かにいささかマナーが悪かったかもしれない。俺は興奮が納まらないままに謝罪した。


「まあ、そこまでの食いっぷりなら逆に気持ちいいけどな」


 男は俺に負けないぐらいの大口を開けてサンドイッチに喰らいついている。


「やめなさいよ。恥ずかしいわね……だからアンタと来るのはイヤだったのよ」


 そういいながら女性の方は、マリネを上品にナイフで切り分けて口に運んでいる。


「お姉さんも[聖誕祭]目的で王都に来たクチかい? ングッ!?」

「ちゃんと飲み込んでから喋りなさいよ。悪いわね粗野な男で」


 口の中に大量に押し込められたサンドイッチを飲み込まずに話しかけてくる男が、神官服の女性に頭を叩かれている。

 どうやら悪い男という訳ではないらしい。俺は苦笑して答えた。


「ああ、ユミルの街から来たんだ。あちらでは新鮮な魚なんて食べられないから嬉しくてね」

「へえ、ユミルの街から、ね」


 なんだろう? 俺の言葉に含むような言い方で返事を返ってきた。神官服の女性も驚いたような顔でこちらを見つめている。

 なんだ? ユミルからの来る人って珍しいのか? 困惑する俺に対して男が言い放った一言。

 この一言で余りにも短かった王都観光が終わってしまったのだ。


「じゃあアンタが異世界から来たって言う竜神様かい?」



 男が放った一言でテーブルの空気が一変した。

 男の声はそこまで大きな声ではなかったが、それでも周りの人達に聞こえてないか心配になる。

 そもそも、俺の正体を知っている人間は極一部のはずだ。エダ、シスター長と守護竜のオルムくらいのはずなのだ。


「アンタら、何者だ?」


 さりげなく腰に手を廻す。しまった、何時も帯刀している剣は伯爵家に預けている。王都で帯刀を許されるのは王都の騎士のみだからだ。

 俺の殺気に気づいたのだろう。男は苦笑しながら戦闘体勢に入ろうかといった雰囲気の俺を、片手で制してきた。


「慌てなさんな。別に取って食おうって訳じゃない」

「そうよ。もし貴方が本気で暴れたら、私達じゃ食い止められないだろうしね。多分だけど」


 それでも警戒を解こうとしない俺に対して、男は口の中の食べ物を飲み下すと自己紹介してきた。


「俺の名はバラス。そんでこっちの神官がタリナ。一応、ここの大神殿で騎士をやっている者だ。これでもエダ=ジャーリ嬢の先輩なんだぜ? よろしくな。男勝りのお嬢さん」


 そう言って片手を俺の方へ出してくる。握手したいらしい。


「ユミルの街から来た、コウキ=ヴィーブルだ。詳しい説明はしてくれるんだろうな?」


 そう言って男の手を握った俺は、先ほどまでの料理の味さえも吹っ飛んでしまっていた。



「それで俺に何の用だ? 今日は[聖誕祭]の打合せのはずだろ、騎士様と神官様がこんな所で油を売っていていいのか?」


 昼食を終え店を出た俺は、後ろから付いてくる二人組に呆れかえりながら訊ねた。


「細かい相談は文官の奴らがやってくれるさ。俺等は荒事専門だから祭りが始まるまで暇なのさ」


 確かに、バラスと名乗った男から発せられる雰囲気は荒事専門の臭いしかしない。


「私は違うわよ。アンタみたいな脳筋と一緒にされたくないわ」


 さも心外だと言わんばかりの神官さん。タリナさんは俺の耳に口を近づけてくる。


「せっかくの[聖誕祭]だって言うのに、トラブルが起きそうな気配があってね。貴方、その姿では力を十分に発揮できないんでしょ?」


 確かに身体能力は竜の体と同じくらいだが、総合した戦闘力だと人間の姿では数段劣る。

 竜の姿ならば強力な力を持つ尻尾で一度に何人も吹き飛ばせるだろうが、人間の姿ではそうもいかない。食堂で俺に力では及ばないと言ったのも、俺が竜の姿だったらの話だろう。

 それだけ、体の大きさと言うものは強さに直結するのだ。


「だから……何でそこまで俺に詳しいのか、いい加減答えてくれないか?」

「もちろんエダから聞いたんだけど? 王都にいる間、貴方を警護してほしいと、ね」


 それだって俺からすれば信じられない事だ。今まで俺に関する事情は隠し続けてきたのだから。


「エダを怒っちゃダメよ? ユミルの街とは違い、ここは王都。検問で怪しい人物は入れないとはいえ、善良な市民しかいないとは限らないんだから。」


 まあ、確かにタリナさんの言葉は正しいのだろう。


「安心して。貴方の素性は極一部の神殿の人間にしか伝わっていない。初対面の人間を簡単に信じる事ができない気持ちはわかるけど、私達は味方よ」

「タリナさんは良いとしても、バラスさんだっけ? ……口、軽そうなんだけど」


 これまでの話でタリナさんは沈着冷静な印象を受けた。エダが打ち明けたなら信用しても良いだろう。だけどバラスさんの方がどうにも不安だ。


「それに関しては此方の失態ね。言い訳のしようもないわ……。私がちゃんと見張っておくから許してもらえると助かります」


 聞けば神殿騎士一のお調子者らしく、エダとタリナさんが話していた所を盗み聞きしていたそうだ。

 そんな面白そうな案件があるならばと、同行をタリナさんに申し出たらしい。


「まあ、危険感知のスキルに関しては彼の右に出る者はいないわ。それは保障する。」


 つまり自らのスキルを有効活用して盗み聞きしたんか!

 才能の無駄遣いだな、ホントに。

 ここまで来ると怒ればいいのか笑えばいいのか、分からなくなる。


「とりあえずは、感謝しておくよ。ありがとう」


 耳から口を離したタリナさんは、ニッコリと笑ってくれた。可愛い人である。

 後ろで何やら喚いている男がいるようだったが、まあいいか。



 体が女の子だからだろうか。警護として同行してくれているタリナさんに王都を案内してもらったのだが、殆どの時間をウィンドウショッピングに費やしてしまった。

 日本にいた頃は買いもしないのに見て回ってどうするんだと正直思っていたのだが、不思議と楽しい時間だった。

 段々とこの体に意識が馴染んできているのかもしれない。気をつけなければ。

 俺の代わりにバラスさんが、彼女の買い物に付き合った彼氏のように疲弊している。


「そろそろ夕方だし、エシア司祭を迎えに行こう。王立図書館で本の虫になっているらしいから」


 俺は二人にエダとも王立図書館で集合する予定だと伝えた。意外にもエシア司祭は王都でも有名人らしい。


「司祭なのに布教活動をまったくしないで、研究に没頭している変な人でしょ?」


 どこも否定できないのは決して俺のせいではないはずだ。

 王立図書館の玄関口には先に到着していたのか、周りをキョロキョロ見回しているエダを発見した。

 あちらも俺達を発見したようだ。元気よく俺に向かって手を振っている。


「コウキ! それにタリナにバラスさん。突然の護衛依頼を受けて頂き有難うございました」


 今の彼女はタリナさんと一緒の大神殿用の神官服を見にまとっている。

 俺の視線に気づいたのだろう。自分の服装を見下ろしながら感想を求めてきた。


「ど、どうでしょうか? 大神殿の方が用意してくださったんです」


 ユミルの街の巫女服と比べると黒いワンピースに、白の短めのジャケットが可愛らしい。


「うん。とっても似合ってるよ。王都の服飾技術はさすがだねえ」


 エダがちょっと落ち込んだような顔をする。

 あれ? 褒め方間違えた?


「神官服を褒めてどうすんのよ。褒めるなら服と一緒に本人も褒めなさい」


 タリナさんに突っ込まれて、ようやく事態を把握する。

 女の子を褒めるって難しいものなんだなあ。


「ゴメンゴメン。エダが可愛いのは出会った時から変わらないからさ」


 今度は顔を真っ赤にさせてしまった。本当に難しいもんである。



 シスター長の予想通り、エシアさんは本の虫になっていた。というか本に埋もれていた。

 朝に別れて夕方になるまでの数時間で、良くぞココまでの状態になれたもんだと呆れてしまう。

 エダとのアイコンタクトで自分のすべき事を察した俺は、エシアさんの足首を掴み思いっきり引っ張る。まるで畑から根野菜を引き抜くかのようだ。

 積み重なった本が崩壊する。コレ全部片付けなきゃいけないのかよ……。

 五人がかりで本棚に蔵書を戻す作業が終わる頃には、とっぷりと夜が更けていたのだった。


 ジャーリ伯爵宅前で護衛の二人と別れた俺達は、パンちゃんがしっかりとお留守番出来ていたか心配しながら玄関の門を開いた。

 玄関先では年配のメイドさんが優雅なお辞儀で出迎えてくれる。


「ただ今戻りました。あの子は大人しくお留守番出来ていましたでしょうか?」

「それはもう。旦那様からおやつを頂いた後に、そのままソファーで眠ってしまいまして。起こしてはならぬとの旦那様の(おお)せでありましたので急遽、午後からのお客様は第二応接室にてお迎え致しました」

「それは……申し訳ありませんでした」


 深々と頭を下げて謝罪する彼女に習って、俺も頭を下げた。

 早々に応接間に消えていく彼女を見て俺と年配のメイドさんは顔を見合わせて苦笑した。


「お嬢様とは思えないくらい皆さんにも礼儀正しいんですね。まあ、彼女らしいですが」

「養子の身である事をお気になされているのかもしれません。此方にいらっしゃった頃は、新人の良いお手本になられていましたよ。お嬢様は」


 後ほどお茶をお持ち致します。とだけ告げて年配のメイドさんは厨房に消えていった。

 俺はメイドさんからお茶を受け取ると応接間に向う。


「エダ? お茶もってきたよって……」


 よほど疲れたのだろう。彼女は王都に来る前までのように、パンちゃんのお腹に頭を預けながらソファーで眠ってしまっていた。実に気持ちよさそうな寝顔である。


「ホント、こんな生活が長く続いたら最高だよな……」


 俺は苦笑しながらも風邪を引かないよう、毛布を借りに部屋を出たのだった。

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