第11話 いざ王都へ!
第11話をお届け致します。
このお話から「王都編」が始まります。
本格的に自分が一体何者なのか判明するコウキ君とエダさん。
一体どんな事件に巻き込まれるのでしょうか?
2019.5.2改稿
「聖誕祭?」
朝。
これから始まる体力仕事をこなす為にパンに噛り付いていた俺は、対面の席にすわるエダから一つの依頼を聞いていた。
「はい。私の里帰りも兼ねているのですが、シスター長の旦那様であるエシアさんから数日後に[王都シグムント]で開かれる[聖誕祭]に同行して頂けないかとの依頼を受けたのです」
礼儀正しく、食後のお茶を楽しみながら彼女はそう言ってきた。騎士の性質なのか食事にかける時間は日本のサラリーマン並みだ。
「まあ、魔物の脅威はまだまだ衰えてないからなあ。護衛は必須だろうね」
今だブオリ村で起きた猟奇事件に関しても進展したという連絡は来ていない。
王都から派遣された数名の騎士が常駐して警戒しているらしいが、討伐隊が派遣される事はなかったようで長期戦となるらしい。
「王都は王都で東西の大陸からの脅威に対して警戒しなければいけません。残念ではありますが仕方がない事かと」
冷戦状態とはいえ火の巨人と霜の巨人はいまだ睨みあいを続けている。戦地となる可能性が高いミドガルズは東西の砦に配されている人員をみだりに動かす事はできない現状だ。
「そんな状況ではありますが、脅威に怯えているだけでは国民の不安が増すばかりです。そこで毎年、収穫祭もかねて王都では大地母神竜の降臨なされた日に「聖誕祭」を開催しているのです」
そのお祭りには各都市の竜神教司祭が集まる事が王命として義務化しているという。
しかし、竜を聖なる生物として祭っているのにも関わらず王都の名前が[シグムント]とは。この世界では竜殺しではないのかな?
聞けば、王都までの道のりは馬車で一月程度かかる日程となり頼りとなる護衛が必須との事。失礼だが北の地方都市であるユミルの街に登録されている冒険者より、俺達の方が頼りになるという話だ。
「エシアさんとシスター長にはお世話になっているから、俺は何の問題もないんだけど……」
俺は後ろの厨房でランチタイムに向けて料理の仕込みを続ける大将を覗き見た。
自慢ではないが俺達は今や、この食堂の看板娘としての地位を確固たる物としてしまっている。
前回のブオリ村への魔物討伐の件でも相当渋られたのだ。実際に一度は来店したのに俺達がいないと分かると注文せずに立ち去るケースもあったらしい。大将の料理も美味いんだけどなあ。
と言う訳で恐るおそる話題を大将にきりだしたのだが、意外にもあっさりとOKがでた。
「何故かと言えば、俺等も王都へ出張店舗を出すからな! もちろん王都でも護衛以外の時間は働いてもらうぞ? ハッハッハァ!!」
「いや、でも今王都への道のりは危険があぶないのでは……」
思わず変な文法になってしまう。
「だから俺と女房。娘のエリの三人で旅に同行させてもらうぜ? 心配すんな、警護料は別途で払う!」
とりあえずエシアさんに確認してみますとは言ったが、後日大将の笑い声がエシアさん宅から響き渡ったらしい。司祭よりも食堂の大将の方が剛毅なようだ。
そんなこんなで三人旅かと思われた王都までの道のりは、ずいぶんと賑やかになったのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ユミルの街を出発して、おおよそ半分の工程まで達しただろうか。
エシアさんの小型馬車と、大将の調理道具や屋台を建てる為の建材を乗せた大型の馬車を引き連れた俺達は、大昔に崩壊したであろう城跡でその日の野宿の準備をしていた。
大陸中央部にあたるこの辺りは見渡すかぎりの草原だ。
ちなみにメンバーはエシアさん、俺、エダ、大将夫婦、エリさん、パンちゃんの六人と一匹だ。パンちゃんに関しては実はシスター長に預かってもらおうと考えていたのだ。だが野生の勘で俺達が遠方に出向く事を察したようで、エダの背中から離れようとしなかった。
それに加えて俺の頭に直接泣くわ叫ぶわ、散々な事になってしまい根負けした俺達は連れて行く事にしたのだ。早くも子供の世話にてこずる親の心境である。
旅に耐えられるか心配だった俺達だが、どうやらパンちゃんは雑食らしい。最初こそ馬車に積んで来た野菜を食べていたが、数日後には自分で獲物を狩るまでに成長していた。
今では獲物の肉をお裾分けしてもらう程である。出会った当初の食肉への忌避感など何処へやら。嬉しい誤算だったが時折、魔物化した獲物を狩ってくるので注意が必要だ。
「あ、この大ウサギは魔物化していますね」
そう言うと、エダは間違えて調理しないよう調理場の隅に避けておく。
日本に居た頃には見た事もない立派なウサギである。だが魔物は魔物。魔素に染まった肉を食べる訳にはいかない。人体にどんな害があるか分かったものではないからだ。
「ユミルの街から持ってきた食材を節約できるのは有りがてえな」
と言いながら大将は、俺達が捕らえた魔素に侵されていない小鹿を解体している。
さすが食堂という一国の主だけあって綺麗に内臓を抜き、解体作業も手早い。
「じゃあ俺は火の準備をしますね」
幸いこの年の草原は乾燥していた時期が長かったようで、森ほどではないが一夜を過ごすくらいの乾いた枯れ枝が容易に手に入った。脇に抱える程度の量を調理場へと持っていく。
この遺跡は各都市の商人やら旅人が王都へと向かう時に用いる休憩地だ。周りを見渡せば俺達と同じく野営の準備に精を出す人々がちらほら見受けられた。
俺が調理場に枯れ枝を持っていくと、隅の方でパンちゃんがガサゴソなにやら口を動かしている。
それを見て、俺は愕然とした。
「パン! お前何食べてんだ!」
それはエダが食べられないとして調理場の隅に避けていた、魔物化したウサギだった。
「パンちゃん! オエしなさい。おえっ!」
事態に気付いたエダも慌ててパンちゃんを抱き締め、お腹の辺りを押している。
だがパンちゃんは既に、さもご馳走様でしたと言わんばかりに汚れた手を舐めていた。
パンちゃんの一日の食事量はかなりのものだ。まだ子供とはいえ栄養をより多く取らなければ大きくなれないのだろう。正直、これまでの旅の食事量で大丈夫か心配していたのも確かである。
俺達の心配をよそにパンちゃんは実に満足そうだ。体に問題はなさそうだとホッと一息ついた瞬間。
「パンちゃん……?」
パンちゃんの体が縮み始めた。
白黒だった毛皮がみるみると茶色くなり、耳が長く伸び始める。
「エダ! 何が起ってる?」
「わ、わかりません! そもそもパンちゃんは未発見の魔物です。その生態なんて……」
そんな言葉を交わす内にもパンちゃんは先ほど捕らえてきた大ウサギに豹変し、エダの胸の中に飛び込んだ。
よほど暖かいのだろう。実に幸せそうに目を閉じてお昼寝タイムに入ってしまったのである。
夜も更け始め、焚き火の明かりと枝の爆ぜる音だけが暗闇に響き渡っている。
心配する俺達の親心も知らずにパンちゃんは実に気持ちよさそうに眠っていた。
今はエリさんの胸の中だ。
エダの診断によれば、今のところ体に異常は見られないらしい。
「体は何ともねえんだろ? 野生の勘てのは大したもんでな。自分の体に毒かどうかなんて簡単に見分けられるもんよ」
とは大将の弁。
「逆に言えば、王都にあんな図体の動物が入り込めるかどうかも怪しかったからなあ。この姿なら門番にイチャモン付けられる事もねえだろ」
「それはそうですが……」
エダは尚も心配そうにエリさんの胸の中で眠るパンちゃんを見つめている。
まあ、今のところ異常はないのだ。経過を見守るしかないだろう。
「それにしても、ここって昔のお城? ほとんど原型を留めてないけど大きなお城だったんだろうなあ」
今となっては所々にお城の基礎が残るのみだが、その範囲がかなり広い。
「ええ。ここはその昔、巨人大戦があった時代のミズガルズ王都です」
なんでもこの辺りは人間族の大陸ミズガルズの中心に位置する場所で、昔の王様はここにお城を構えていたらしい。
だが火、霜の巨人の戦争が始まると大陸の中心地である王都が最前線となり王族、貴族、平民の全員が現在の王都となる南へ移り住んだそうだ。
「結果的には港が近い今の王都の方が発展しやすい環境だったみたいで、ここは商人や冒険者の野営地としての価値しかないけどねえ。今でも何時戦争が再開するか分からないから放置されてるのよね」
どうやらこの大陸に住む人々にとっては当然の知識らしい。エリさんがエダの言葉の補足をしてくれた。
「さあ、お勉強もいいがそろそろ寝ねえと明日が辛いぞ? オレが見張り番すっから女衆は寝た寝た!」
この集団で唯一の男(本当は俺も男だが)である大将が旅が始まってからずっと、寝ずの番を買って出てくれる。大将の男気に感謝を籠めて俺達は眠りについた。
それからの道程に大した出来事はなかったのだが、王都に近づくにつれ商人と同じくらい巨大な荷馬車に大きく四角形に加工された岩を運ぶ労働者の姿が多く見られた。
ユミルの街では木造の建築物も見られたが、回りに森林のない王都では頑丈さを求める意味でも石造りの建造物が主流らしい。そのための石材を運ぶ人々が多く見られ、異世界に来たという実感が更に沸き立っていた。
それから更に半月。
順調に道程を消化した俺達は [王都シグムント]の巨大な門の前に立っていた。
「はあ~~~~~~~~」
「コウキ? そんなにお口を大きく開けていると恥ずかしいですよ?」
呆けているかのように山のような高さまでそびえ立つ城壁に見惚れていると、エダが苦笑しながらも嗜めてきた。
「いやだってさ。俺のいた世界にはこれほどまでに巨大な城塞都市ってなかったから。凄いわ、こりゃ」
一体全体どういう建築技術を持ってここまで巨大な壁を建築できているのだろう。
少なく見積もっても十五メートルは高さがある。
この世界は俺の世界で言う所の中世、あるいはもっと前の時代のはずだ。
鉄骨で骨組みを組むといった概念もなければ、コンクリートだって現代ほどの硬度は出ないだろう。何より建設重機がない。
つまりはほぼ人力なのだ。
おそらくは、この時代の人々は自分達なりの知識と研究でこれほどまでの建築物を建造したのだろう。まったく尊敬に値する偉業である。
転生前は建設会社の現場労働者として働いていた身としては、この城壁を建築した人達の努力が見られる一品だ。
「これほどの高さが無ければ巨人達の侵攻を防ぐ事ができないという判断だと思います。こちらに遷都してから今日まで、王都の防衛工事が続けられていると言われています」
なんとまあ、異世界のサクラダファミリアだなこりゃ。
満足するまで城壁を見学した俺を引きつれながら、一行は城壁の大きさからすると小人が通るかのように錯覚させる城門の列に並んだ。
さすがに王都だけあって厳重な検問が敷かれているようだ。数多くの馬車が二列で長蛇の列を形成している。
大門は大型貨物運搬の馬車が出入りする為、一般の入門は小門の方らしい。俺達は小門の方に並び小一時間並んだ所で順番がきた。
大将の大型馬車が念入りに調べられる他、エダの胸の中に納まっているウサギの姿をしたパンちゃんに検閲官の視線が向いた。
「そのウサギは?」
この世界にペットなんて概念があるのだろうか?俺は少々緊張して事の顛末を見守る。
「私の養父たる、ジャーリ伯爵への贈り物ですわ。私の名はエダ。エッダ=ヴォルヴァ=ジャーリと申します」
彼女の本名を聞いた途端、検閲官の顔色が変わった。それまでの横柄な態度から一変し確認に走る。しばらくして戻ってきた検閲官は人が変わったかのように丁寧な態度で通してくれた。
「もしかしてエダって偉い人?」
それまで神殿の巫女さんというイメージしかなかった俺に、彼女は苦笑して答えた。
「正確には私ではなく、私の後見人をして下さっているジャーリ伯爵です。シスター長とはご兄弟なんですよ? 当時、赤ん坊だった私を拾い育ててくれた恩人です」
まさか貴族の後ろ盾があったとは意外だった。いや、彼女自身が養父と呼んだように伯爵家の娘として生活してきたのか。それじゃあ、伯爵令嬢じゃないか。
因みにエダが名前で、ヴォルヴァとは竜神殿に出家し神に嫁いだ時に頂いた名前。そしてジャーリが後見人であり、親代わりでもあるジャーリ伯爵の名前だそうだ。
「まずは養父さま……ジャーリ伯爵の元へ到着の挨拶に伺いたいのですがよろしいですか?」
久しぶりの里帰りだ。早く伯爵に会いたいと顔に書いてある。
エシアさんも伯爵様からお預かりしている娘さんを送り届けるのに異論はないようだ。
「じゃあオレ等は商人ギルドにいって祭りの出店許可をもらってくるわ。その後は持ってきた建材で店の準備だな。無理にとは言わんが時間ができたら手伝いに来てくれよ?」
「りょーかい。大将も頑張ってなー」
嬉々として馬車を動かす大将はこれからの大きな戦場に向かう戦士のようだった。せっかくここまで来たのだ、大儲けして凱旋してやるといった気概に満ちている。
こうして大将一家と別れた俺達は、一路城内に居を構えるジャーリ伯爵の元へ向かうのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
すでに城壁の検察官から話が行っていたようで、城内へ楽々と入る事に成功した俺達は予定通りジャーリ伯爵家の軒先に到着していた。
見渡せば、さすが王城。城壁に負けないくらいの荘厳さで聳え立っている。道端の草一つにとっても綺麗に刈り揃えられており、王の威厳を見せ付けられるようだ。
ジャーリ伯爵家は王城の中にある貴族街の一角にあった。
屋敷の門の前に立つとメイドさん達が俺達を出迎えてくれる。
「お帰りなさいませ、お嬢様。いらっしゃいませお客様」
すげえ。本当の本物のメイドさんだ。今までコスプレでしか見た事がなかった桃源郷だ!
俺やエダとそう変わらない年頃の可愛いメイドさんもいれば、年配の貫禄あふれるお婆ちゃんメイドもいる。
ゲームの世界じゃ若く綺麗なメイドさんしか出てこなかったが、現実は違うもんだ。しかし、年配のメイドさんはメイドさんで心優しい包容力が感じられる。若く、可愛ければ良いと言うものではないのだ。
「ただいま戻りました。皆さんお元気そうで何よりです。早速で申し訳ありませんが伯爵様はいらっしゃいますか?」
びっくりしている俺をよそにエダはお嬢様っぽい口調で話しかけている。いや普段の丁寧語とそこまで変わらないのだけども、場所が変われば印象も変わるものだ。
「旦那様は城門よりお嬢様のご連絡がありましたら、客室にて今か今かと首を長くしてお待ちしております」
「わかりました。馬車をお任せしてもよろしいですか?」
「承知いたしました。まずは身嗜みを整える準備が出来ております。お客様もご一緒に用意してございますので、此方へどうぞ」
確かに今までの旅のお陰で、お世辞にも綺麗な格好とは言えない旅仕様の服装である。
しかし俺の分まであるとはどういう事だ?
不思議そうにエダの顔を伺うと、どうやら事前に手紙で知らせておいたらしい。俺の体のサイズなんてユミルの街でバレバレである。
「さ、コウキ。まずはサッパリさせて頂きましょう。服も私が選んだんですよ?」
「えっ……」
その言葉に何やらイヤな予感が俺の脳裏によぎった。何しろこのお嬢様はユミルの街では俺を着せ替え人形のように扱っていたのだ。いくら俺は男だと言っても、今は女の子なのですからそれなりの格好をしなくてはいけません!と言って憚らなかったのだ。
「いや、俺はいいよ? ホラ、お嬢様なんてガラじゃないし似合わないし」
必死の抵抗を試みるが彼女の無敵の微笑みの前に、あっさりと陥落してしまうのはいつもの通りだった。
最後までお読み頂き有難うございました。
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