第45話 人間族の少女エダ
毎日投稿41日目。
第45話となります。
只今、11月1日~5日までのあいだ海外に行くことになってしまったので、その間のストックを必死に執筆中です。せっかく此処まで続けたのですから、2章の完結まで毎日投稿で頑張りたいですね。
女性陣が新しいエダの身体に装束を着せている間。
もちろん俺は、豊穣神様と共に明後日の方向へと身体を向けていた。正直話を言えば俺とて男だ。見たくないわけではないが、親しき間にも礼儀ありである。この言葉はどの世界でも変わらない、と思う。
「コウキ姉。もうこっちを向いても大丈夫っすよ!」
そんなヴェルの声が耳に届いてから、ようやく俺の中にあった緊張感が解き放たれた。
こうして相棒の寝姿を目にすると、彼女が美少女さんであることを改めて思い知る。
新しい戦装束のせいもあってか、あんな女神様よりも目の前に居る相棒の方が神々しく思えるのだ。
純白の西洋巫女服に加え、腰には銀細工で装飾されたコルセットがその印象に拍車をかける。俺のイメージとしてはまんま、日本漫画に出てくるギリシャの戦女神そのものだ。
「まったく、今は恥ずかしがっている場合ではないというのに……」
ブツブツと言いながら、改めて懐からエダの魂を取り出すスルーズ様。……すんません。
でもこれで、何の憂いもなくエダとの再会が果たせるわけだ。起き掛けに張り手を喰らう心配もない。
改めて虹色に光るエダの魂を、スルーズ様が新しい身体の上に捧げ持つ。
すると魂という名の宝石から、虹色の中身が水滴となって落ちてきた。まるで空っぽの身体に輸血しているかのようだ。
段々と青白かったエダの身体も徐々に赤みが増してゆき、俺達の中で期待感が増してゆく。ミズガルズ王国軍との戦いの折に切ってしまったという髪も、この新しい身体では腰ほどまでの長さに達していた。
俺達の間で緊張感も一緒に増してゆく。別に豊穣神様と戦乙女様を信じていないわけじゃないが、本当に眼を開けてくれるのかと心配になるのはどうしようもない。
しばらくの間、無言の空気がこの場を支配した。
全員の視線が新しいエダの顔に集中する。すでにスルーズ様の手にあるエダの魂は、中身を全て吐き出したようで透明の容器と化していた。
「……エダ? 目を覚ましてよ……、エダっ!」
「こっこれっ、まだ触るでないっ!」
その場の空気に耐えきれなくなった俺は、目の前の白雪姫に声をかけ続ける。スルーズ様に止められなければ、肩を掴んで揺らしていたことだろう。今の俺達に出来ることなんて、もう声をかけるぐらいしかない。
「エダッ!」
「エダ姉っ!」
「エダちゃん!」
俺とセッパ姉妹の声が、果たして彼女に届いているだろうか。いや、信じるんだ。俺達の声は、きっと、エダの魂に届いてる!
そう信じて、俺達は何度も声をかけ続ける。
俺の知らない間に勝手に死んで、それでハイサヨナラなんてさせてたまるかっ!!
「………………………………んっ」
俺達が見つめる中で、ほんの僅かではあるけど、エダの口から声が漏れた気がした。
「――――っ! エダっ!!」
自分の声帯が許す、最大限の声で呼びかける。
すると、その声に答えるかのように。
俺の相棒は、ゆっくりと目蓋を開いた。
「こ、こうき? もう……、朝ですか……?」
爆発的な嬉しさと同時に、緊迫した空気から開放された身体が脱力してしまう。
白雪姫の第一声は、なんとも寝起きのような緩い声だった。自分の魂が女神の手の内にあったなどと、思いもしないのだろう。
瞳から流れる水によって、彼女の顔が見づらいったらない。まったく、誰のせいでこんなに涙を流すハメになったのだろうか。
あ、俺か。俺が女神に拉致され、洗脳されたせいかっ。自分も人の事を言えた立場じゃないじゃないか。
「エダ……、ご……」
反射的に謝罪の言葉が俺の口から出かけた。けど、俺の相棒は謝罪の言葉を快く受け取ってくれない。
昔から、いつもそうだった。この少女は俺を戦乱に巻き込んだと思い込んでいて、いつも負い目を感じているのだ。
なら、こう言い換えよう。
「もう朝か夜かも分からないよ、何せ極夜だからね。
おはよう。そして、いつもありがとう。
さあ、俺達の冒険を、また始めようか――――。エダ」
その言葉が聞こえたのだろうか。
事態をまだよく理解していないエダは、俺の顔を確認してニッコリと微笑んでくれた。
良い笑顔だ。本当に、心からそう思う。
その心からの笑顔を、俺は一生、決して忘れないと心に誓った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
寝ぼすけさんのエダは、まだ身体がうまく動かせないようだった。
おそらくはこの時代で初めての、二つ目の身体を得た人間だ。無理もないし、今はこの温もりが帰ったきただけでも満足しなきゃいけない。
今は俺の胸の中で、自分の身体に異常がないかゆっくりと確認している。
「だいじょうぶ? 変なところはない?」
ゆっくりと、囁きかけるように優しく、声をかけてみる。
「……はい。力は入りませんが、自分の意思で動かない箇所はありません。ですが」
「――――ですがっ? なにっ!?」
どこか不手際があったのだろうかと、慌ててしまう。
言っては失礼だが、彼女の新しい体はあの豊穣神の作品だ。信じてはいる、いるんだけど。あの頼りない神様の仕事に、何か不備があったとしても不思議ではない。なんとも罰当たりな心配事が脳裏に浮かんでしまった俺である。
「い、いえっ。身体に異常があるわけじゃないんですっ。あ、でも。異常でしょうか? あれ?」
今だに寝ぼすけさんモードは継続中らしい。自分が何を言っているのか、理解できているのだろうか。彼女自身もそれを自覚しているのだろう。ゆっくりと自分の心を落ち着かせてから再度、口を開いた。
「……聖気が、ありません」
「…………せいき?」
「はい。戦乙女としての権能が、力が。まるで最初から無かったかのように、何も感じられないのです」
あれっ? それって……。
「当然だな。お前は元々、戦乙女としての権能を魂に刻まれていたわけではない。私の身体・権能を使って、これまでの戦いを生き抜いてきたのだ」
その場で今だに座り込んでいる俺達の頭上から、エルルの声がかけられる。
「……私が、もうひとり?」
「意識の外では始めまして、だな。エダ、私が誰か理解できるか?」
「もしかして……、エルル?」
「ああ」
二人の視線がぶつかったまま、軽く数秒は時間が停止していた。いや停止していたってのに数秒って、表現がおかしいかもしれないけど。彼女の意識が事態を把握するにつれ、驚きの表情に染まってゆく。
そして。
「ええええええええええええええぇ――――!?」
おお、とりあえず大声は出せるようになったみたいだな。
よかった。本当に良かったよ、も~。
それから、しばらくして。
「つまり私は一度、女神に魂を抜かれて、そして新しい身体に乗り移ったということですか?」
エダの事実確認の作業は続いていた。
彼女の言葉に、全員がうんうんと頭を縦に振る。
さすがの事実に、ショックが隠しきれないようだ。まぁ、輪廻転生ならまだしも身体から魂を抜かれたから、新しい身体に移ってもらいましたって。
「なんて……、デタラメな」
そんな言葉を漏らしながら、自分の額に手を当てている。そりゃ、驚いて当然の話だよなぁ。
「もっ、もしかして。なりたい種族とかありましたか?」
エダの呆れた声に反応して、以前のビクビクモードが復活したのか豊穣神様が不安そうな声をあげている。っていうか、神話の通りなら世界樹の枝からは人間しか生み出せないんだろ?
「いえ、それならば今まで通りに人間族で良かったと思います。お気遣いありがとう御座います、豊穣神様」
「えへへ……」
それでも彼女は感謝の心を忘れない。
動かない腕に苦労しながらも、彼女は神様の頭に手を乗せ撫でてあげている。撫でられた豊穣神様も嬉しそうだ。それでいいのか、神様。
「ドワーフもお勧めだったっすよ?」
「そうだね、ドワーフのエダちゃんも見てみたかった気もするねぇ」
「そうですね。それも、楽しかったのかもしれませんね」
嬉しそうな声色で、ヴェルとスクルドさんも会話に参加する。もう安心だと確信して安心したのだろう。それに答えるように、普段どおりの口調でエダも会話を楽しんでいる。
だが。
……確かに、褐色の肌でプロポーションの良いエダというのも……。なんて変な妄想を浮かべてしまったのが間違いだった。
「……どうしました?」
「なっ、なんでもないぞ?」
「……本当ですか?」
「ホントホントっ!」
俺の心を読んだのか、ジトーっとエダの懐疑の視線が俺に襲い掛かる。
やべっ、せっかく穏やかな空気で終わりそうだったのに。
「……そうですねっ、コウキは胸の大きな女性が好みですもんねっ! 今からでもドワーフの身体に変えてもらいましょうかっ!!」
「いえっ!? エダさんは人間族のエダさんが一番ですよっ!?」
こんなムスペルス大陸の最果てで、俺は彼女の怒りを買ってしまう。
蘇って早々、おもいっきり拗ねてしまったエダさんのフォローに必死となる俺。
慌てて弁解しながらも、まぁ。これまで何度も繰り返してきた俺達の日常なんだよなぁ、なんて感動してしまった。
やっとこんな日常が戻ってきただけでも、良しとしなければいけないな。
……うん。
そんな、和やかな空気を楽しんでいた俺達だったのだが。
「……和やかな空気は、ここまでだな。お客さんがお呼びだぞ?」
どうやら最後の難関がお出ましになったようだ。
俺の低い声に、その場の緊張が舞い戻る。実を言えば、随分前から俺は自慢の鼻と耳で彼女の存在を感じ取っていたのだ。お優しくもお待ち頂けるようだったので、わざと見ないようにしていたのだけど。どうやらサービスタイムは終了したらしい。
「そろそろ良いかしら? 私ももう、待ちくたびれちゃったわぁ」
と、そんな軽口を叩きながら。
火口の袖口に立つ女神様が、怒りを押し隠すような表情で俺達を見下ろしていた。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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……50話でも終わらねえ……(汗




