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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第2章 ドベルグル皇国
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第44話 人体練成

毎日投稿40日目。

第44話になります。

今回のお話は、はがれんっ!


…………………………、以上です。

 寒風が吹きつける大氷河地帯の果て。

 その中にポツンとある火山湖の底に今、俺達は立っていた。ポツンとある、と言っても火口湖の直径は2kmほどもある大火山湖だ。[神の息吹]によって全ての水が消滅した今となっては、この過酷な環境でも生き抜いた水草や(こけ)が足を滑らせようと画策(かくさく)してくる。

 こんな場所でエダの蘇生を行なうのか?


 だがそんな問題も、豊穣神フレイ様の権能によって解決の目途が立った。

 なんと言っても、この御方は神だ。

 しかも全ての植物の成長を司る豊穣神。そんなフレイ様にとって周囲の水草を伸ばし、ベッドのような形状を作り出すことなど朝飯前らしい。豊穣神様から幼女のパンを受け取った俺は、その光景を見つめ続けいた。


 ちなみに幼女となったパンは、今まで豊穣神様の権能によって一連の騒動の間、安全な所で眠ってもらっていた。この子にあんな死闘は見てもらいたくなかったのだ。それにしてもあれだけの戦闘があったにも関わらず、パンはゆったりとした表情で眠り続けている。これは将来、大物になるかもしれないな。


 閑話休題(それはさておき)

 なんだろう。極寒の氷河地帯であるはずの此処(ここ)が、まるで春先を迎えたかのような温もりに包まれている。それまで濡れていた水草が草原に生える牧草のような温もりを持ち、身体を凍えさせていた寒風が春の安寧(あんねい)をもたらす温風となって俺達を包み込む。

 豊穣神フレイ様は、そっと、まるで人間の身体を横たえるように世界樹の枝を置いた。青々とした水草をベッド代わりにして、豊穣神の権能が発現される。



 そしてその場に(ひざ)を付くと、天上へと顔を向けて祈り始めた。


「豊穣神フレイ様はの、その名の通りである農作物の[豊穣(ほうじょう)]を司る神ではある。だが豊穣とはそれだけの意味ではないのじゃ。下界の生物を育み、繁栄への道へと(みちび)く[生殖(せいしょく)]を司る神でもあらせられる」


 そこでスルーズ様の解説が止まった。

 世界樹の枝に変化が起きたのだ。それまで金属のような薄茶色の光沢を放っていた枝が、段々と赤く、熱せられたように温度が上昇してゆく。


「三人共、眼を離すでないぞ? このような神の奇跡などこの先、大地に帰る時まで拝見する機会は無いじゃろうからの……」

「…………(ゴクリッ)」


 そんな、この国の戦乙女様の言葉に。

 ヴェル・スクルド・そして俺は、小さく喉を鳴らしながらその光景を見守っていた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 豊穣神様の祈りが、世界樹の枝に創造という名の進化を与えている。


 そんな光景を見つめながら。

 俺は、エダが地の守護竜様から聞いたという大地創生を思い出していた。


 (いわ)く。

 天上の神々は、下界の生命を世界樹から作り出した。

 火の神は、世界樹に落ちた落雷から発生した炎から火の巨人を創り出し。

 水の神は、世界樹の中に走る樹液から霜の巨人を創り出し。

 風の神は、世界樹の花粉から妖精を創り出し。

 そして最後に、地の神は世界樹の枝から人間を創り出したという神話だ。


 いや、もはや神話という(くく)りではないだろう。何しろこの世界を創生した神々が実在しているだ。

 俺達は固唾(かたず)を飲んで、豊穣神の権能を見守り続けている。

 エダが地の守護竜様から聞いた大地創生では、世界樹によって生まれた4種族のうち、人間族は世界樹の枝から生まれたという。

 その世界樹の枝が、今ここにある。

 つまり俺達は豊穣神の手による大地創生を、今この場で目撃することになるのだ。

 事前の作戦会議で話には聞いていたが、聞くと見るとは大違いである。


 天上へ向けて祈りを続ける豊穣神の周囲に、若緑色の神気が(まと)わり始める。

 それはやがて豊穣神の身体に入り込み、頭から首へ、首から枝へと伸ばした右腕へと移ってゆく。

 この世界に来てからというもの、不可思議な現象には慣れっこになっていたつもりだった。が、さすがに自分の目の前で、一人の人間を創り出すとなれば驚愕(きょうがく)するほかない。

 俺は、その神秘的な光景から眼を離すことができなかった。俺だけじゃない、その場に居る誰もが、声を出すことなく豊穣神の権能を見つめ続けていた。


 やがて若緑色の神気が右腕に集まり終わると、世界樹の枝へと更なる移動が開始された。


(そっか。命ってこういう感じで生まれたのか……)


 日本にいた頃。

 俺は他の大多数の一般人と同様、無神論者だった。一応年間を通じて行なわれるイベントには参加していたし、正月くらい初詣(はつもうで)にも行こうというものだが、そこまで真剣に祈りを捧げていたかと言われれば否定しなければならない。

 そんな俺だったのだが、さすがにこの世界では神様を信じられずにはいられない。確かに面倒な神様も居るようだが、このような超常現象を見せ付けられては白旗を振らざるを得ないのだ。


 俺の目の前で、豊穣神の神気を受け取った世界樹の枝に変化が起きていた。

 真っ赤に染まった枝に若緑の神気が浸透してゆく。それはやがて姿を変え、大きく膨らみ、四肢を生やし、頭部が出来上がってゆく。

 やがて神気が治まると、冷めてきたのだろうか。世界樹の枝によって創られた新しいエダの身体は、真っ白な肌を覗かせ、長く神秘的なプラチナブロンドも視認できるようになる。


 それは正に。

 天上の神の手によって創造された、新しい人間が誕生した瞬間だった。




 だが新しきエダという人間の誕生は、これで終わりではない。

 世界樹の枝によって創造された、新しいエダの身体はまるで生気というものを宿していなかった。

 この身体は、器に過ぎないのだと俺は直感的に理解する。半分ほど目蓋が開いた瞳はまるで光を宿しておらず、まるで動き出す気配がない。


「――――ぷはっ! ハァ、ハァ、ハァ――……。スルーズ、後は、おねがい……」


 いくら神様といえども、かなりの無茶をしたらしい。

 気付けば、豊穣神様の顔に大量の汗が伝っていた。無理もないと俺だって思う。これだけの奇跡を起こしたのだ、その負担の大きさは俺なんぞには()(はか)ることさえできない。


「……お疲れさん。ありがとうな、豊穣神様」

「――はうっ!」


 軽い眩暈(めまい)を起こしたのだろう。フラリと倒れそうになった豊穣神様の身体を、俺は慌てて背中から受け止めてあげる。全部の力を使いきったのか、その身体は驚くほどに冷たかった。俺はビショビショになった顔を、自身の衣服で優しく拭いてあげた。俺の汚れた白衣(はくえ)で申し訳ないけど、他に布が無いので勘弁してもらいたいところだ。

 そんな些細な心配事など知る由も無い豊穣神様は、顔を真っ赤にしながらも俺の胸の中で瞳を閉じた。どうやら自分の仕事が終わって安心しきったようだ。


「さてっ。それでは、……わらわの出番じゃの」


 豊穣神様が眠りに就かれたことを確認したスルーズ様が、スクリと立ち上がる。

 新しいエダの身体の前に立つと、女神フレイヤから取り返した彼女の魂を慎重に(ふところ)から取り出した。


 だがちょっと待ってほしい。

 今のこの状態は、俺にとって色々とマズイのだ。


「スルーズ様。ちょい待ちっ!」


 俺は疲労困憊で眠り続ける豊穣神様を体温で暖めながら、静止の言葉を投げかけた。


「なんじゃ? 急がぬとフレイヤ様がやって来てしまうぞっ!」

「それはごもっともな意見なんだけど、ちょっとだけ待って! この姿でエダが眼を覚ましたら可愛そうだよ。……正直、俺が眼のやり場に困る」


 そう、当たり前の話だけど。

 新しい身体となった彼女は、何の衣服も身に着けていない生まれたままの状態だ。他の人全員が女性なのだから問題ないと思われるかもしれないが、俺だけは身体は女性でも心は男なのだ。

 さすがに直視するのは紳士として許容できない。


「エルル、エダの装束(しょうぞく)は保管しているのか?」


 俺は後ろでこの光景を見守っていた、もう一人の相棒に声をかける。


「ああ、それは持っているが……。スルーズの言うとおり、今は蘇生を急ぐべきだぞ?」


 もう一人の相棒(エルル)は、俺を一体どんな存在だと認識しているのだろうか。さすがにマズイって!


「そう言わずに……、頼むからぁ」

「むう、了解した。私とてエダの中から色々と見ていたのだ。恥ずかしがりはするとは思うが、怒りはせんと思うがなぁ」


 拝み倒すように自分を見つめる俺の頼みを、エルルは不思議そうな顔を隠しもせずに頷いた。


 俺だって本人が良いって言うなら見ていたいさっ!

 でも、それはさすがに可愛そうだろっ!!


 そんな俺の心の声に同意してくれる存在は、残念ながらその場には存在しなかったのだ。

最後までお読み頂きありがとう御座いました。

鋼の錬金術師。大好きです。

オッサンなので連載開始当初から本誌で読んでました。

銀のさじ、早く再会しないかのう。

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