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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第2章 ドベルグル皇国
122/138

第43話 脱出

毎日投稿39日目

第43話です。

なんとしても今月中にこの章を終わらせたい。。。

がんばります。

 ミーミルの泉の祭壇。

 その広間で膝をつく私と、直ぐ傍で力強く立っている宝珠竜の首元で、金銀のネックレスが光輝いていた。


 なんとも、その輝きが私達の繋がりを証明しているようで胸の中から込み上げてくるものがある。


「……コウキっ」

「あいよ、……お前がそんなに泣き虫だなんて知らなかったぞ?」

「誰のせいだっ、……だれ、の」

「はいはい」


 気が付けば、そんな会話を交わしながら私はコウキの胸の中にいた。

 理由なんて単純なものだ。他でもない私が、一人ぼっちの孤独に耐えられなかったから。

 

 私は弱くなったのだろうか。今はただ、この暖かい温もりが何よりも愛おしい。

 コウキの腕が私の背中に回り、力強く抱き締めてくれる。ああ、私はなんと単純な存在なのか。この温もりの中に居るだけで、今まで感じていた不安が消え去っていく。

 ふと、彼女の衣服。白衣(はくえ)に穴が空いていることに気付いた。間違いない、私の[親和破りの剣(ダーインスレイブ)]を受けた時に空いたものだ。


「傷は、だいじょうぶなのか?」


 自分で聞いておいて、何を今更とは思わずにいられない。彼女に傷をつけたのは、他でもない私だ。傷つけた本人が傷の心配をするなど、笑い話にもならない。


「……問題ない。さすがは、愛の女神の権能だな。一度こうと決まったら、とことん運命を捻じ曲げるらしい。まあ、その女神様はご立腹みたいだけどな?」


 コウキの言葉に、私はハッとしながらも胸の中から顔を上げた。


 そうだ、今はこんなにもゆっくりしている時ではないっ!

 私は慌てて、祭壇の上へと視線を向ける。そこには、明らかにコメカミに血管を浮き上がらせた女神の姿があった。


「いや、すまん。お待たせしちゃったかね?」

「感動の再会ってところかしら? 私の大切な()を奪っておいて、只で済むとは思わないことね」

「……大切なら、もっと大事に扱ってほしいもんだ」


 私の横で、コウキが天上の女神と対等に舌戦を仕掛けている。

 なんだか言葉使いが、いつもと違う。何時だったか、彼女のこんな言葉使いを聞いた覚えがある。あれは……、そうだ。あのヒルドの馬鹿との最終決戦の時だ。あの時のコウキは、怒り心頭とばかりの怒りをその身に宿していた。

 人間族の王都を焼かれ、大切な相棒であるエダを傷つけられそうになって……。


 もしかして、私のために怒ってくれているのだろうか?


「初めてよ。私をここまで、コケにしてくれたお馬鹿さんはぁ!!」


 私達が見上げる祭壇の上で、女神の怒りが爆発した。黄金の髪が大波のように迫ってくると同時に、女神の膨大な神気がミーミルの泉全体を揺らしている。

 

 まずいっ、これほどの神気をこんな密閉空間で展開されたら。


 この洞窟自体が持たないっ!


「コウキ! だっ――――」

「ここは逃げの一手じゃ、走れぃ!!」


 しゅつ、しないとっ!! という私の台詞は、この大陸の戦乙女の言葉にかき消された。

 一体どうやって女神の傍から離れられたのか、スルーズは両脇に二人のドワーフを抱えながら信じられない速度で出口へと向かっている。

 だが、今はそんな問答を交わしている予知はない。


 私は傍に居る豊穣神フレイ様に胸に抱くと、相棒と一緒に洞窟の外へと駆け出した。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「もっと早く走れっ! もっと、もっとだっ!!」

「ええい、もうっ! 空を飛べればこんな苦労は無いのになっ!!」


 溶岩の力で空けられたであろうミーミルの泉へと続く洞窟を、私達はひたすらに逆走していた。

 チラリと後ろを振り向けば、洞窟の天井から降り注ぐ小石と共に、女神の大波が迫ってきている。あの黄金の波に捕まれば一巻の終わりだ。

 行きでも感じたが、この天然洞窟は一切の人の手が入っていないため凹凸(おうとつ)が激しい。少しでも油断しようものなら転倒は避けられない、そんな道だ。


 スルーズ達はすでにかなり先行してしまったらしい。眼前の暗闇の中に、彼女達の姿は確認できない。なら、彼女等の心配をする必要はなさそうだ。

 今は、とにかく。我々三人が逃げ切れるかどうかを心配すべき。


「宝珠竜っ、速度が落ちているぞ!」

「――――くっ!!」


 私が先行して転倒しにくい道を選んでいるとはいえ、普通の人間ならば全力疾走など出来ない道だ。だが、これくらいの悪路なら彼女達は今まで幾らでも経験してきている。エダの奴が表に出ている時でも、私だって旅に同行するかのように見ていたのだ。

 最近で言えば、皇都へと続く山道か。ある程度人の手の入った道だとはいえ、あの道だって木々の根が張り巡らさていた。あの斜面に比べれば平坦な道だ。この宝珠竜がこの程度の道のりで疲弊するなど考えにくい。


 ならば、どうして。


 ――――――――っ!


 私の脳裏に、一つの懸案事項(けんあんじこう)が思い浮かんだ。


 先ほどの決闘での、宝珠竜の傷についてだ。


 確かに、私の手による傷は塞がっていた。だが塞がっているだけで[何もかも無かった事になっている]わけでは、ないのかもしれない。

 私の親和破りの剣(ダーインスレイブ)は確かに、宝珠竜の柔肌を貫いた。あの瞬間、たとえ一瞬であったとしても、致命傷の傷を負わせたのだ。


 女神の権能は[目の前の敵を討ち滅ぼせ]という命令に対して効力を発揮した。


 ならば、命を奪いかねない傷は癒したとしても。


 それ以外の傷は、そのままなのではないか?


「チッ!」


 私は自分の導き出した結論に対して舌打ちを漏らす。

 それと同時に、なぜもっと早く気付かなかったのかという後悔にかられた。


 私の胸の中には女神フレイヤの弟神フレイが居る。


(どうする? フレイ様を見捨てて宝珠竜を助けるか……? いや、しかし……)


 いくら天界の女神を裏切ったとはいえ、私は戦乙女だ。

 目の前の助けるべき神を見捨てて、相棒を助けるなどという不義理を行なって良いのだろうか。今更何を考えているのかと、頭の中の私が苦言を述べてくる。

 それでも、私は天界の戦乙女なのだ。たとえ裏切り者と罵られようと、私は私である事を変えられない。


「エルル……、エルルってば!」


 気付けば、私に運ばれている豊穣神フレイ様が私を呼びかけている。


「僕ならだいじょうぶ、一人で脱出できるよ」

「で、ですが……」


 その申し出は有りがたいが、どうにも頼りなく見えてしまうのは(いな)めない。


「エルル。僕はね、大神から一つの勅命(ちょくめい)を受けて此処に居る。それは「神々が干渉した証拠を下界に残すな」だよ。意味が分かるかな?」


 私に抱きかかえられながらの言動に、いささか威厳が欠けるが豊穣神の顔は本気だ。


「この大陸に、フレイヤ姉様が干渉したっていう証拠を残しちゃならない。姉様の我がままで死人が出ることはあっちゃならないんだ。……だから、僕は大丈夫」


 私の胸の中から、豊穣神フレイが飛び降りた。


 そして。


 私達を置いて、我先にと一直線に逃げ出してしまう。


「それじゃ、後はよろしくぅ~~」なんて言い置きを残しながらの全力疾走だ。初めはポカンと、そして後には少しだけの苦笑を(にじ)ませてしまう。


 まったく、頼もしいのか情けないのか。


 私はその苦笑を押さえ込むと、宝珠竜を抱きかかえるため、彼女の姿を追って引き返した。


  

 洞窟の外、かつて[神の息吹]を顕現(けんげん)させた火口湖は、この先の天災を予期するかのように静まり返っていた。幸い、行きと同じく吹雪(ふぶ)いてはいない。

 だが極夜の時間はまだ続いているようで、日の光が姿を現す気配もない。早々に世界樹の花を日の光に当てて蜜酒(ミード)にしてしまいたかったのだが、この現状ではあと数時間は無理だろう。


 それに、その前に。


 私達にはやらねばならない使命があった。


「スルーズ。……じゃあお願い」

「承知っ」


 豊穣神フレイ様の指示で、長く切り取ってしまった世界樹の枝を花から分離させる。

 私達に残された時間は少ない。今、この時に怒り狂った女神が襲来してもおかしくないのだ。


「――どうぞ」

「うん、ありがとう」


 世界樹の花の根元から切断した50cmほど枝を、豊穣神に渡すスルーズ。


 私達はこれから、神々の奇跡を目撃する。


「じゃあこれから、人体創造の儀を行ないます」


 吹雪は止んでいるとはいえ、冷たい寒風が吹きつける火口湖の(ほとり)で。


 豊穣神の権能が、七色に輝いていた。

最後までお読み頂きありがとう御座いました。

次回っ、ハガレンっ!(笑

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