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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第2章 ドベルグル皇国
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第39話 戦乙女エルル

毎日投稿35日目。

第39話です。

今回のお話から数話、初めての戦乙女エルルさん視点でお送りします。

本当なら説明の無いまま読んでもらって気付いて貰えれば最高なんですけどね^^;

念の為ってヤツです。

 この宝珠竜(少女)は、強くなった。


 身体だけの意味ではない。……心も、だ。

 女神フレイヤ様の命により、私は今。もう長いと言って良いほどの付き合いとなった少女の二刀を受け止めている。

 剣術こそまだまだ荒削りだが、自分の身体能力を理解し始めたのだろう。決して深追いせず、それでも(おく)することなく。異国の巫女衣装を身に(まと)った少女は、赤いスカートを(ひるがえ)しながら私と互角に渡り合っている。

 

 最初の出会いでは、この少女は変わり果てた姿の私と再会して、身動き一つ取れないでいた。

 次の光景でも似たようなものだ。私が操った身体でミズガルズ国王を(あや)めた時、一体何が起きたのか理解できないとでも言うように立ち尽くしていた。だがまあ、その後にこの身体(エダ)を連れて逃げ出せたのは成長の証なのだろうか。

 そして、あの馬鹿ヒルドとの(いくさ)。この少女は、もう一人の私の心を支えられるほどに、強い心を持ち始めた。そして最後は9人の戦乙女の一角を、天界へと叩き帰すことに成功したのだ。


 いくら良い戦に恵まれたとはいえ、この成長速度は私の眼を見張るほどだ。

 いや、これは宝珠竜だけの話ではないのかもしれない。今は女神に魂を取られたもう一人の私、エダの奴だって幾多の困難を乗り越え成長していった。


 これが下界の子供達の姿なのだろうか。

 どんな苦難でも自分の糧とする、他ならぬ大神から授けられた[成長するという権能]。


 時々、そんな彼女達の姿が眩しく映る時がある。

 

 天界の戦乙女として創造された私は、良くも悪くも、成長するという変化を持たない。生まれた時からこの姿だし、時と共に老いるという劣化現象さえもない。


 神々が創造した不変の戦乙女。

 それが、私だ。


 下界の子供達は弱い。

 だがそれは、成長する余地を与えられた証拠なのだ。


 時に笑い、時に泣き。


 それでも、この子達は前へと進み続けるのだろう。


 いつしか私は、この子達の行く末を見守りたいと思うようになっていた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「…エルル。  …………エルルッ!!」


 遠くから、私の名を呼ぶ声が聞こえてきた。

 意識の奥底へと埋没(まいぼつ)させてしまった現実が、強引に引き戻される。


 ハッとしながらも眼前の光景を見つめると、驚いたような顔を見せた宝珠竜(コウキ)の剣が間近に迫っていた。

 その一瞬で私は理解する。

 私は、心此処にあらずな精神状態で、この戦闘を行なっていたのだ。


「何、ぼ~っとしてるのよっ! 真面目に戦いなさいっ!!」


 祭壇の上からの罵倒に耐えつつ、意識をハッキリと覚醒させる。

 なるほど、先ほどの私を呼ぶ声は女神フレイヤ様か。彼の御方は、この決闘をゲームだと称した。別にその言葉に不満など持ってはいないが、少々緊張感が足りなかったらしい。

 私は首の皮一枚の間合いで、宝珠竜の剣撃を回避することに成功した。すぐさま後ろへと素早く跳び下がり、宝珠竜との距離を取る。


「……なんだ? もしかして決闘中に寝てたのか? 随分と余裕があるな、エルル」


 その宝珠竜が言葉にした「エルル」という響きは、つい先ほども聞いたような気がする。なるほど、先ほど私に呼びかけたのはフレイヤ様ではなく。


 この宝珠竜(少女)だったのか。


「お前こそ、先ほどは絶好のチャンスだったはずだ。……なぜ、もう一歩。踏み込まなかった?」


 これまでの剣撃とは違い、明らかに今の一撃は鈍かった。そのお陰で私はギリギリのところで回避することが出来たのだ。私の問いに、宝珠竜は苦笑しながら答える。


「……あんまりにも(すき)だらけだったもんでね。何かの罠だと思っちゃったのさ」

「本当に……、それだけか?」


 自力で言えば、私とて強くなった。私は完全体として覚醒したと同時に、エダに取られていた力の半分も取り戻したと言い換えた方が正確か。単純に考えても、今までの倍は聖気を自在に操れる。

 だが宝珠竜の方は、純粋な力だけなら私やフレイヤ様すら凌駕するほどの力を秘めているだろう。だがその力の規模が規格外すぎて、対軍や巨人のような巨大な相手には効果的でも、個人との決闘では持て余す。一撃で、この場全ての生命を滅ぼしてしまいかねないのだ。


 そんな宝珠竜にとって、今の好機は逃す事の出来ない希望だったはず。


「もしや貴様……。私に同情して剣を振るえないとでも、言うまいな?」

「……まさか。次こそ勝負を決めてやるさっ」


 そう言いながらも、やはりコイツの表情は(すぐ)れない。

 やはりそうか。少しはやる様になったかと思えば、この宝珠竜は、この甘ちゃんはっ! この身体が自分の相棒(エダ)のものだからと、私を傷つけずに勝とうとしているのだ!!


 まったく甘いにもほどがある。一体、どんな世界から飛んで来れば、こんな甘ちゃんが存在するのかっ。


 私はそれまで[武器創造の奇跡]で顕現(けんげん)させていた聖気の剣を消し去ると、宝珠竜に背を向けた。


「……はいっ?」


 背中から、なんとも間抜けな声が聞こえてくる。

 私はそれを無視したまま、祭壇(さいだん)へと続く階段の元で(ひざまず)いた。


「偉大なる女神フレイヤ様、お願いしたき()が……」

「なあに?」


 今までの不甲斐ない戦いで、フレイヤ様の機嫌が悪くなっているのが私にも伝わってくる。


「あの者がこの決闘に勝利した場合、私の天界への帰還をお許し願いたい。そしてこの身体を治療し、その者の魂をこの身体へ……」

「ふぅ~ん。……貴方はそれで良いの?」


 私の言葉に、少々驚いたような口調で女神が問いを返してくる。

 だが、それぐらいの条件でなくては、この甘ちゃんは私に刃を向けられないだろう。これは私のプライドの問題だ。戦乙女としての、そしてこの下界の管理者としての。


「――ハッ。それならば、あの宝珠竜も全力で剣を振るえましょう」


 言うべきことは言い切った。後は、女神の採択を待つのみ。




 しばらくの間、女神の沈黙が続いた。

 私は相変わらず、後方に無防備な背中を(さら)し続けている。奇襲を受ける可能性など考えもしなかった。そもそも、そこまで狡猾(こうかつ)に動ける者ならば、私がこんな余計な手間をかける必要もない。


 私がこの決闘で勝つならば、この宝珠竜もそこまでの存在だったという事になる。


 逆に、私が負けるならば。この宝珠竜は一つの罪を身に宿すだろう。


 それは、この甘ちゃんに必要な儀式なのだ。


 この混沌とした世界で、不殺(ふさつ)などという信条を貫くなど、出来るわけが無いのだから。


「いいでしょう。女神フレイヤの名において、約束するわ。天界より地に降りし、宝珠竜よ。この決闘に勝利したならば、この魂も、その身体も元通りにしてあげましょう」


 しばらくの間、沈黙した女神は。声高らかに、このミーミルの泉全体に響き渡るように、宣言した。


 これは天上の神である女神の宣言だ。

 決して破られることのない、神の裁定。その言葉を(たまわ)った私は、軽く一息つくと改めて宝珠竜へと向き直った。 

 

「……なんか、気を使わせちゃったかな?」


 私の視線の先で、(ほほ)をポリポリと()きながら苦笑している。


「これで不満などあるまい。我らの決闘は、(おそ)れ多くも女神の前で行なわれる御前試合。つまらぬ寸劇など、見せるわけにはいかぬのだからなっ!」


 お互いの眼光がぶつかり合う。

 ここまでお膳立てしたのだ、もう遠慮することなど何もない。私は再び、聖気で作り出した剣を握り締める。ここから先は文字通りの死闘だ。私が天に帰るか、それとも宝珠竜が滅されるか。


 私は再び、飛ぶように宝珠竜へと斬りかかる。


 だがそんな私の剣撃を受けた止めた宝珠竜は、ボソリと(つぶや)いた。


「不満などない? ……大有りだ。まったく、別人格のクセして、どっちも自分の事ばっかり(たな)にあげるんだからなっ! お前等はっ!!」


 その言葉の意味を、私は理解できなかった。 


 理解できた事と言えば、一つだけ。


 何故かは知らんが、私の言葉か行動か。


 どちらかが、この宝珠竜の怒りを買ったという事実だけだった。

最後までお読み頂き有難う御座いました。

よろしければ、感想・評価など頂ければ幸いです。

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