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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第2章 ドベルグル皇国
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第37話 女神様のゲームと、炎巨人の剣

毎日投稿33日目。

第37話をお送りします。

このお話で、コウキ君の持つ「真の核爆弾」が登場します。

今後、彼はこの兵器をどのように扱うのか。

まだまだ先は長いです……(汗

「エルル、――待ちなさいっ」


 お互いの右足が飛び出そうとした瞬間。世界樹の苗木が立つ祭壇の上で、楽しそうに見守っていた女神フレイヤが突然、決闘の開始を中断させた。

 これが神々の声というものなのだろうか。意識を相手に集中させる余り、周りの雑音など耳に届いていなかった筈なのに。

 この女神様の(りん)とした声だけは、ハッキリと脳内にまで届いたのだ。


「……女神フレイヤ?」

「……今度は、何だよ?」


 俺だけではなく戦乙女エルルまで、主である女神に対して抗議の意味合いを含んだ問いを投げかけた。もう俺達の剣は鞘の固定具から解放されている。つまり、戦闘の火蓋はすでに切って落とされているのだ。

 そんな俺達の非難もどこ吹く風。女神フレイヤは名案を思いついたと言わんばかりに、はしゃいでいる。


「このまま決闘しても、面白くないわっ。……ここはひとつ、ゲームをしましょう!」


 何言ってんだ? ……この神様は。




 その場の空気をまったく読まない女神様は、名案だとばかりに楽しそうに手を叩いた。


「だ~か~らっ。ゲームよ、げ、え、む! せっかく宝珠竜と戦乙女が決闘するのだもの。楽しまなくちゃ、損ってもんでしょ?」


 うんうん。と自分の名案に酔っているのか、女神は祭壇の上で何度も頷いている。今更だが、ふざけるにも程がある。俺達の命をかけた真剣勝負を何だと思っているのか。

 だが、そんなおちゃらけた空気も長くは続かなかった。細めた瞳はそのままに、喜びで広げていた小さな口は妖艶な笑みに変えて。


「フレイ、剣を持って(・・・・・)こっちに来なさい」


 不敵に笑う女神の一言が、俺達全員の肩をビクリと跳ねさせる。なぜならそれは、俺達が魔の森の小屋で一晩かけて立てた作戦の一つだったのだ。


 女神に呼ばれた当の本人は、スルーズ様の背中の後ろでブルブルと震えている。


「フ~レ~イ~?」

「ひゃ、ひゃっい!?」


 自分の弟が、命令を即座に聞き入れなかったことがご不満らしい。ジト目で二度目の命令を言い放つと、今度は飛び上がるように弟が反応した。


「安心なさい、お仕置きは天界へ戻ってからにしてあげる。……それより、さっさと[その子]の剣を持ってこっちに来なさい! 大丈夫、だってこれは貴方達にチップを持たせてあげるサービスなんだからっ」


 チップ? サービス? この女神は一体、何がしたいんだ?


 突然の事態に女神フレイヤの考えがまるで読めない。

 こんな状況でどう対応するべきか分からず立ち尽くしていた俺達だったが、真っ先に動いたのはスルーズ様だった。


宝珠竜(コウキ)。そなたの牙を、借りるぞ?」


 それだけの言葉で俺の正面に回りこんだスルーズ様は、いきなり俺の口に両手を突っ込んでくる。


「はがっ!?」

「安心せい、用が終わればすぐさま元に戻す……。フレイ様」

「……うう~。……はい」


 強制的に大口を開けさせられた俺の顔を、背中に隠れていた豊穣神がこそこそと前に出てくると……。


「えっ、えいっ!」

「はがががが、――――――――がっ!?」


 強烈な痛みが俺の歯茎に走った。一瞬、ブチュッという生々しい音が激痛と共に俺の頭の上にまで駆け抜ける。


 はっ、歯ぁ! 俺の歯が無理矢理、抜き取られた!?


 この痛みをどう表現すれば良いのか。ああ、話は簡単だ。麻酔なしで歯を抜き取られた、そんな痛みを想像していただければ十分だと思う。

 身体は頑丈でも心は普通の日本人である俺には、これまで体験したことのない激痛だ。紅白に彩られた新しい巫女装束が汚れるのも構わず、その場で転げまわってしまう。


 作戦を()りこんだ時に聞いてはいたが、……神様ならもうちょいスマートな摘出方法があるんじゃないのか!? と思わずにはいられない。

 両手で引き抜かれた箇所を必死で押さえながらもんどり(・・・・)打っていたのだが、俺の歯を申し訳なさそうな顔で持っている豊穣神の姿が視界に入る。

 それは間違いなく、俺の口から抜き取られた犬歯だった。つまりは宝珠竜の姿になった時に巨大な牙となるであろう歯だ。



 その俺の犬歯が徐々に豊穣神フレイの手の中で変貌してゆく。


 細長く、幅広く。そして、熱で真っ赤に染まった刀身。


 俺の牙が神の権能によって、一本の剣となる。


 その剣は、洞窟の天井にまで到達する炎熱を放ちながらも、豊穣神の手に収まっていた。




「やっぱりね、……炎巨人(スルト)の剣。さすがは私の気に入った()。と言いたいところだけど、何者なのかしらね? 貴方は」


 その声色は穏やかながらも、あからさまに俺を警戒しているような口調だ。あの女神フレイヤが、俺の牙から作り上げられた剣を警戒している。ようやく歯茎の痛みが引いて来た俺は、ゆっくりと立ち上がり口を開いた。


「俺が何者か、だって? そんなの俺自身が一番知りたいんだけどな」


 痛みが引いたと言っても、今だ前歯の辺りから鈍痛が響く。文字通り、身体の一部が無くなったような感覚だ。物理的にも、そして精神的にも。俺の身体は一体、どんな構造なのだろうか。それを一番知りたいのは、他でもない俺自身だ。


「まぁ、この剣が何よりも貴方の存在を証明しているんだけどね……。そうね、啓示では無いのだけど女神の予言というモノをあげましょうか」

「なにっ?」


 そう言うと、女神フレイヤは祭壇の上に立ち上がる。そして大いなる女神が、下界の民へと届ける神託を告げるように口を開いたのだ。その顔には若干の赤みが増しており、あの女神フレイヤが興奮しているのだと見て取れる。


「……予言しましょう。貴方が本当にこの世界を見限った時、この下界は炎獄の劫火(ごうか)に包まれる。その後には何も残らない。人間も妖精も、そして神々でさえも。なにも、残らない」


 ――――はっ?



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 突然つげられた女神の予言。

 その言葉に、誰もが声を出せないでいた。


 世界樹の苗木から蜜酒を採取する際、俺の牙が必要になるという話は事前に聞いていた。こんな無理矢理な方法で抜き取られるとは思わなかったが、この件については俺も了承していたことだ。


 だがこの雰囲気から察するに。

 俺の牙から作り出した炎熱の剣が女神にも、そしてこちら側の戦乙女にも。予想外な結果だったのだと感じ取れる。

 あの暴虐無人な女神フレイヤでさえ「やっぱりね」などと言いつつも、驚きを隠しきれていないのだ。


 だが、この場で俺だけが。

 あの剣の放つ炎に見覚えがあった。


(あれは……俺が大神殿で全てを焼こうとして放った、[宝珠竜の核炎獄]?)


 そうだ。あれは、この世界に来てまだ間もない頃。

 (いわ)れ無き罪により、竜神教大司教モーズの手で王都の大神殿地下牢獄に監禁された時だ。暗闇によって(ほとん)どの感覚が無くなり、俺は狂気に身を委ねた。この世界を悲観し、すべてがどうでも良くなった俺は、迷いなくシグさんにあの炎(・・・)を放ったのだ。

 幸いなことにシグさんは生き延びてくれたし、大神殿は崩壊したものの人的な被害はなかった。


 その時の炎と、あの剣が(まと)っている炎は。まったく同じものだと、俺の感覚が告げている。


 それに女神の口から飛び出た[炎巨人(スルト)の剣]という名前。北欧神話について、専門的な知識を持っていない俺でも耳にしたことがある有名な剣だ。

 その剣が、北欧神話においてどのような存在だったのかまでは知らない。だが、今の女神の予言と一緒に考えてみれば、ろくでもない結論になることは分かりきっていた。




「フレイ、その剣を持ってこちらへ来なさい。くれぐれも、慎重にね……」

「ねえさまぁ~」


 女神フレイヤの命令を受けた豊穣神は、自分の手にある炎を剣に(おび)えているようだ。涙目になりながらも両手で持ちつつ、腕をピンと伸ばして可能な限り自分の身体から遠ざけている。


「しっかりしなさいな。アンタだって、男の子でしょ?」

「……う、うん」


 女神に励まされながら、豊穣神はゆっくりと祭壇に向かって歩いてゆく。そんな状況に反応したのは、今まで沈黙を守っていたドワーフの女傑だった。


 あの剣が女神の手に渡ったら、手が付けられないと判断したのだろう。懐から二本の魔剣を取り出したスクルドさんは身体を前に落とすように駆け出そうとした。

 だがその一瞬の行動を、他の誰でもないこちらの戦乙女が制止したのだ。


「スクルド、……手を出してはならぬ」


 次の一歩で飛び出そうとしていた彼女の顔の前に、スルーズ様の手が立ちふさがった。


「どうしてだい。……どう見てもあの剣はヤバイ、やば過ぎる。アレが敵の手に渡ったら、アタイらは全滅しちまうだろっ!」

「そのような次元の話ではない。あの剣が暴走なんぞしおったら、この大陸なんぞアッサリ消し飛ぶぞ? ここは天上の神々に任せるのじゃ」

「……なんだってっ?」


 自分の予想の遥か彼方をゆく戦乙女の言葉に、さすがのドワーフの女傑も驚きを隠せなかった。


「わらわとて、この宝珠竜の牙なら神剣を作り出せるだろうと予想しておった。世界樹の枝を刈り取れるほどの神剣を……。じゃが、わらわの予想はまったくもって甘かった。あの剣を権限したという結果に、ではない。お前達が友人だとして連れてきたこの者が、どれほどの存在か判断できなかった。……という意味でじゃ」


 そんなスルーズ様の言葉が、俺の胸に突き刺さる。本当に俺は何者なのだろうか? エダの言う通り、この世界を救う救世主なのか。それとも――――――――。


「コウキ姉は、優しくて暖かい人っすよ?」


 寂しそうな顔を浮かべながら、ヴェルが必死に弁護してくれる。


「問題なのは性格ではない。この者の存在自体が、異端なのじゃ」

「……そんな」

「…………」


 この場の空気が重く、苦しいものへと移り変わってゆく。


 けど、けどだっ。

 俺にも、この世界で。どうしたって成し遂げなきゃいけない願いがある。

 俺がこの世界に害を成すなら、神々の裁きに従おう。もしそれが、大切な友人達の手によるものなら文句さえもない。


 けど、その前に。


 俺は、俺を相棒と呼んでくれた少女だけは、何としても救い出さなくちゃいけないのだ。

最後までお読み頂き有難う御座いました。

物語が遅々として進みません(泣


設定、懲りすぎたかなあ……。

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