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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第2章 ドベルグル皇国
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第35話 聖女? いえ、巫女さんです。

毎日投稿31日目。

第35話をお届けします。

ついに毎日投稿を続けて一月が経過しました。その中で気付いた事を言えば、毎日チェックしてくださる方もいらっしゃれば、週末にまとめて読んで下さる読者様もいることでしょうか。

どちらもまったく有りがたい話です。

今後ともよろしくお願いします。

 ぴとぴと、むわむわ、じめじめ。


 擬音で表現するなら、こんな感じだろうか。

 大自然の神秘を見せ付けられた俺達は、火口湖の底に広がる大洞窟へと足を踏み入れていた。今まで熱湯が流れていたお陰だろうか。洞窟の中は意外なほど暖かく、そしてジメジメしていた。外に比べれば、もう外套さえも必要ないほどの快適さだ。強いて言うなら温泉地で感じるような強い硫黄の臭いが、俺の鼻を刺激するくらいだろうか。


 もう一度、俺は自分の心を引き締めるように大きく深呼吸を繰り返した。

 この先こそが、俺達の目的地。

 世界樹の苗木が生えているミーミルの泉へと続く道だ。幸いなことに動き回るには十分の広さがあり、この大洞窟で戦闘になったとしても問題なく動ける。あらかじめ用意していた解毒のイヤリングがあるお陰で、所々で硫黄のガスが噴出していてもへっちゃらだ。臭いけど。


 むしろ大変だったのは、地表からこの洞窟に降りる時の方が大変だった。

 なぜなら当初。俺達はあらかじめ用意していた冒険グッズからロープを取り出し、火口の底へと降りる準備を進めていると。

 「面倒じゃの、皆わらわに捕まれいっ」という戦乙女スルーズ様の一言により、まさかのロープ無しバンジージャンプをさせられたのだ。

 日本にいた頃でも絶叫系のアトラクションを苦手としていた俺は、股間が縮み上がるような恐怖心を覚える。まあ、今の俺には無いけど。

 もちろん着地の寸前にスルーズ様の翼で全員受け止めてもらえたのだけど、寿命が半分くらい縮まった気分だった。



 話を今に戻そう。

 先ほども語ったが、火口湖の底から始まった大洞窟探検は意外にも快適だった。いや、快適すぎると言い換えても良い。多少湿度は高いが、蒸し暑いわけでもなく奥へと続く道は歩きにくいというほど凹凸が激しいわけでもない。まるで、何者かが早く奥へ来いと言っているかのようだ。


 そんな違和感をスクルドさんも感じ取ったらしい。ポツリと言葉を漏らした。


「気に入らないね……」

「へっ? 何がっすか?」


 姉の発言に、毎度のごとく妹が反応する。


「寒くも無いし、快適でいいじゃないっすか」

「そっちじゃない。……氷河地帯を進んでいる時にも思ったけど、何で一度も相手さんは仕掛けて来ないんだ?」


 やっぱり、スクルドさんも感じたか。


「そうなんだよな。もしあの氷河地帯で戦闘になっていたら、俺達の戦力はもっと削られていたはずだ。神様連中と違って、寒さを無効化する手段もないし空も飛べないからクレバスの存在も無視できない。苦戦は必至だった筈……」


 それなのに、女神フレイヤは手を出してこなかった。これは彼女の油断? いや、自信とか余裕の(たぐい)か。


「……どうやら随分と舐められているようだねえ。これは次にお会いした時には最大級の歓待をしてあげないとね」


 俺の前を行くドワーフの女傑が薄ら笑いを浮かべながら、二本のナイフをもてあそんでいる。ちょっと怖い。

 

「言っておくが、女神フレイヤ様と戦おうなんて考えてはいかんぞ? かの御方は(まご)うことなき天界の神様じゃ。もし下手に手を出してお怒りを買おうものなら、この大陸なんぞ吹き飛んでしまうからの」


 俺達の会話が耳に届いたのか、先頭を進むスルーズ様が口を挟んでくる。


「それじゃ、どうしろってんだいっ」

「……慈悲を()うしか、ないじゃろうな。エダという娘を天へと昇るその日まで下界へ置いて頂けるように。そして完全体となったエルルに二人を癒してもらえるように」


 二人の声高な会話が、大洞窟の岩壁に反響して響き渡る。まるで、誰かに聞いてもらいたいかのような声量だ。


「あらあら、スルーズも可愛くなったものね。私に、慈悲?」


 果たして、案の定というか何と言うか。

 大洞窟の奥深くから、以前にも聞いたおっとりとした声が届いてきたのであった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「おいおい、魔の森で見せていた姿とはまるで違う神々しさだねぇ。いよいよ女神様の本領発揮ってやつかい?」

「これ、やめんかっ! フレイヤ様を挑発するでないっ!!」


 売り言葉に買い言葉。スクルドさんが我慢できずに声を張り上げてしまう。その横で必死にスルーズ様が(いさ)めるが後の祭りだ。


「ふふっ、元気な()は大好きよ? さあ、早く祭壇へいらっしゃいな。貴方達なら大歓迎してあげる。……そこに何故だか居るフレイを除いて……ね」


 女神フレイヤの視線を感じたのか、後ろの方で豊穣神フレイ様がビクンと身体を震わせた。よっぽどこのお姉さまが怖いらしい。

 それだけを言い残して、女神フレイヤの気配がプッツリと途絶えた。どんなカラクリかは分からないが、本人が近くまで来ていたわけではないらしい。


「フレイヤ様お得意の[操魂の権能]……じゃの。ただ運んで入れるだけのわらわ達、戦乙女とはまるで違う、あの方だけが使える権能じゃ。おそらくは自分の魂の欠片を僅かだけ飛ばしたのじゃろう」

「あの女神様は、そんなことも出来るのか……」

「うむ。おそらく、お主を操ったのもこの権能じゃ。……全ての敵を魅了し、味方に引き入れる。これほどの権能はそうそうあるまい」


 そうは言われても、その時の記憶なんて殆ど残っていない。僅かばかり、パンが俺の足元にしがみ付いていてエダが拘束されていた記憶が残るばかりだ。


「何にせよ、ここからが本当の戦場(いくさば)というわけじゃな。皆、いつでも戦えるよう準備せいっ」


 俺の横で待ってましたとばかりにスクルドさんとヴェルが武器を構える。このPTで前衛を努めるヴェルはもちろん、スクルドさんもすでに臨戦体勢だ。

 しかしそれは俺とて同じ。

 ドベルグル一の武器職人、スズリさんの最高傑作。とくとご覧あれってやつだ。



 俺は[収納の奇跡]で持ち込んだ新しい装備一式を顕現した。

 実はこの新しい俺専用の装備一式。まだちゃんと見てなかったりする。武器に関しては俺自身がスズリさんの詳しく打ち合わせた為、ほぼ全ての全容は把握している。

 だが、防具の方はエダ・スクルドさんとのデートに連れまわされたこともあり、全てを見てはいない。一応、収納の奇跡でしまいこんだ時に、白地と赤地の衣服といった感じの服なんだな程度の認識をもってはいたが、着るのはもちろんキチンと見たことさえない。


 まあ、この段階で以前と同じように悪い予感はしていたのだが。


 実はスズリさんの手が足りなくて、防具の方はあのヴェルが担当したと言うのだからドキドキものだ。このドワーフの少女にはあの、[戦乙女の鎧](ヴァルキリーアーマー)という痴女のような鎧を作り上げた前科がある。


 聖気の集まった右手を、洞窟の天井へ向けて突き上げる。


 すると、右手に集めた聖気が、再び俺の全身を包み込み始めた。何故こんなポーズをしなければならないのかは不明だが、これがエダに教わった通りの方法なのだから笑えない。この世界の住人である彼女(エダ)ならこのポーズも絵になるのだが、何やら俺がやると子供の頃に見た魔法少女の変身ポーズを思い出してしまって恥ずかしい。

 そんな羞恥心を心の中で押さえつつ、俺は[収納の奇跡]による着替えを完了した。


「……………………。おい、ヴェル」


 着替え終わった俺は、顔を真っ赤にしながら製作者を睨みつける。


「ん? なんすかコウキ(ねえ)。……って。おおっ、さすがアタシ! 完璧な仕事っすねっ!!」

「どこが完璧だっ! ここここ、これ。これって……。なんでお前が日本の巫女服なんて知ってるんだ!?」


 そう、俺の新しい防具。いや、衣服は。転生前の初詣でよく見た、日本の巫女さんが着る純白の白衣(はくえ)に朱色の緋袴(ひばかま)という純和風スタイルだった。そして最後のトドメとばかりに、極薄の生地で作られた千早(ちはや)がカーディガンのようにフワリと肩に掛かる。


「なんでって、エダ(ねえ)のリクエストっすよ? 自分だけ巫女服なんて恥ずかしいから、以前コウキ姉が話していた故郷の巫女服をって」


 情報源は俺かっ!? ってそんな話、エダにしたっけ?

 ……あ。確かに話した。

 あれは俺がこの世界に来て間もない頃、ユミルの食堂でウェイトレスとして働いていた時だ。就寝前に竜神教の巫女さんの話をしていた時に、日本の巫女服の話を確かにした。……確かにしたけどっ! エダさん。そんな昔の話、よく覚えてましたねっ!?


「いやぁ、白銀鋼で編んだ繊維でこの服を織るのは大変だったっすよ! でもそれだけの価値はあったっす!!」


 なんて事を言いながら。またもや犯人は訳も分からない供述を、声高々に言い放っている。


「心配しなくても白銀鋼製っすからね。コウキ(ねえ)の聖気で防御力はバッチリっすよ! それに装飾具に宝石代わりの魔石を組み込んだっすから、こんな短剣で刺されても傷一つ付かないスグレモノっす!!」


 と言いながら短剣を突き出してきた。確かに、結構な勢いで繰り出されたヴェルの短剣でも傷一つない。


 だが問題は、そこじゃない。そこじゃないのだっ。


 被告人の独白は更に続いていた。確かに、手首にはリング状になった金のブレスレットがはめられており、色とりどりの魔石が眩い輝きを放っている。

 だが俺の金髪と、紅白に染められた巫女服では余りにも違和感がある。まるで神社の短期アルバイトを体験しに来た外国人のようだ。身体は女でも心を男な俺にとって、これほど恥ずかしい衣装も中々ない。


「確かに、隠密行動には向かないかもしれないが……。似合ってるじゃないか。なあ?」

「うむ。わらわも見た事がない衣装じゃが、何やら神聖な雰囲気をかもし出す衣装じゃな」

「ぼっ、僕もお似合いだとおもいますよ?」

「ぱーぱぁ!」


 製作者であるヴェルを断罪するのに夢中だった俺は、周囲の視線を今更になって気付いた。元々真っ赤に蒸気していた顔が、更に沸騰してしまう。


 っていうかパン、お願いだからこの格好でパパと呼ぶのはやめて……。

最後までお読み頂き有難う御座いました。

はい、ご察しの通り。作者の趣味全開な衣装をコウキ君が着てくれました!

戦巫女というタイトルの割に巫女成分が無くなってきた本作。苦肉の策でございます。

現実でも一度見た事のある金髪巫女お姉さん。意外とカッコよかったですよ?

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