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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第2章 ドベルグル皇国
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第34話 神の息吹

毎日投稿30日目。

第34話になります。

今回は大自然をいかにイメージできるか? という検証です。

まだまだ拙い文章ですが、神の息吹の壮大さを想像して頂けたら嬉しいです。

「ううっ……上着をもう一着用意しておけば良かったかなあ」


 思わず、そんな情けない言葉がこぼれてしまう。

 ここはムスペルスヘイム大陸の果てに存在する大氷河地帯。その自然の猛威が、この強烈な寒気が、俺達の行く道を阻んでいた。

 吹雪こそ(しず)まっているが、吹き付ける風の冷たさで俺の肌が凍りつきそうだ。思わず身体を縮こまらせて、視線も地面の氷へと向けてしまう。それでも魔物が出現したらと思うと、索敵を(おこた)ることは出来ない。なのに吹きつける冷風のせいで、顔を上げることさえ困難だ。


「そっすか? 身体を動かしていれば温まるっすよ~」


 先頭を突き進む戦乙女スルーズ様の後を追うドワーフの少女は、俺とは違って子供は風の子と言わんばかりのはしゃぎっぷりを見せている。

 そんな彼女を尻目に、スクルドさんはしっかりとした足取りで隊列の指揮を担ってくれていた。ヴェルは分かるとしても、スクルドさんがこんなに寒さに強いとは。


「ヴェル、雪の下にはクレバスが隠れているからね。あんまり飛び回るんじゃないよっ! ……それにしても、コウキ君がこんなにも寒さに弱いとは知らなかったねぇ」


 俺の前を進んでくれているスクルドさんが呆れ半分、そして面白半分で俺をからかってくる。彼女達の外套(がいとう)の下は俺より薄着な筈だ。なのにこの差は何なのだろうか。

 俺だって、多少の無茶なら甘んじて受け入れる覚悟はしていた。だが、真冬の工事現場でも体験したことの無い寒さを全身に受けて降参してしまいそうになる。

 俺のいた日本では気温が下がっても零下10度くらいだったが、この寒気はまるで北極か南極にでも来たかのようだ。まあ北極も南極も、訪れた経験なんて無いのだが。


 それに気にかけるべき存在は他にもいる。


「パンの体調は、えっと。大丈夫ですか?」


 俺はそう言って、一行の殿(しんがり)を勤めてくれている豊穣神フレイ様の方へと顔を向けた。この少年。こんなでも一応神様なので、一切の温度変化を受け付けないのだそうだ。つまり彼に抱かれている分には常春な環境が約束できるそうで、幼女のパンちゃんは恐れ多くも神様の胸の中に居る。もう神への不信感などという、個人的なこだわりを重視していられる事態ではないのだ。


「ええっ、えっと。……だいじょうぶみたいです。ぐっすり眠っていますよ」

「そうですか……。すみません、お任せしてしまって」


 おもわず、日本社会風な言葉使いになってしまう。この世界に来てからというもの、口に戸を立てない人達の方が圧倒的に多かったからなのか。こんな丁寧な口調を使うのも久しぶりだ。


「いえいえっ、僕も暖かいので助かってます!」


 そんな俺の言葉になぜか慌ててしまった豊穣神様は、自分の力のことも忘れて可笑しな返答を放ってきた。いやいや、だからアンタは気温を無視できるんだろ?

 そんな久しぶりの和やかな空気を展開してしまった俺達だったのだが、少々緊張感に欠けていたみたいだ。この隊を指揮するリーダーから声が飛んでくる。


「ほらほら、神様と親睦を深めるのも良いけど時間が無いよっ! 全員が命綱で繋がっているんだ、誰か一人でも遅れれば全体の道程にも遅れが出るんだからねっ」

「りょうかいっ。……じゃあ、頑張って行きますかっ!」


 元気よく声をかけてくれるスクルドさんの声に、俺は元気よく声を返す。

 俺の目の前には、青色の氷河と白い雪のみが存在する銀世界がどこまでも広がっている。そこには生物の気配なんて微塵も感じられない。こんな氷河地帯に世界樹の苗木なんて本当に生えているのかと思わず疑問に思ってしまうが、それでも俺達に引き返す選択肢はない。


 俺達には成さなければならない使命がある。ウルズをトキハを、そしてエダを自分の手に取り戻すのだ。


 全員の心に今、火が灯っている。いかに強烈な寒波でもこの情熱だけは、消し去ることなんて出来るものか。まるで南極点を目指す冒険家のような気概で、俺達一行は足を止めることなく進んでいった。


 だからだろうか。


「でもこの子。本当に○○の子ですか――――?」


 そんな再出発後に聞こえてきたフレイ様の声を、俺達は誰もハッキリと聞き取ることは出来なかった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 そんな風除けもない、極寒の氷河地帯を進んで数時間後。

 時間で言えばお昼すぎといったところだろうか。休憩なんて言葉がまるで無い強行軍は、唐突にその足を止めた。


「お疲れさん、とはまだまだ言えんがな。まずは、到着じゃ」


 一行のガイド役を買って出てくれていたスルーズ様は、何の達成感も無い声で後方の俺達へと振り向いた。とりあえずは目的地に到着したようで、今までの疲れが俺の体にドッと襲い掛かってくる。許されるものならこの氷の大地に座り込みたいくらいだ。

 だが俺達の目的はこれで達成された訳じゃない。むしろ、やっとスタート地点に立てただけなのだ。一行の殿(しんがり)を勤めてくれていた豊穣神フレイ様が合流したところで、一行はその絶景を目の当たりにした。


 ほれほれ見てみぃ。と言わんばかりのドヤ顔を浮かべたスルーズ様の横に立つ。

 そして、その場に立つ誰もが眼前の光景に眼を奪われていた。


「おおおお~っ!」

「……こりゃまた、絶景だねえ」

「氷河地帯にこんな場所があるなんて……」


 そこで俺達は正に大地の、神々の作り出した神秘と遭遇した。


「これは……、巨大なクレーター? いや、火口湖かっ!」

「うむ、ここはな。遥か昔、神代の時代に噴火した火山を利用して作られた祭壇なのじゃ」


 まるで自分が作ったように自慢するスルーズ様の言を聞きながら、俺達は開いた口が塞がらなかった。

 直径で2kmほどはあるだろうか。太古の時代に噴火したであろう火口には雪と氷が降り積もり、なんとも幻想的な風景を作り出している。皇都レイキャヴィークの火口湖にも感動したが、その大きさは比べ物にならない。

 しかも更に不思議なのは、火口湖の水がこの極寒の気候でも凍ることなく液体を維持している点だ。いや、維持しているなんてもんじゃない。むしろボコボコと水面が沸騰しているとはどういうことだ?


「世界樹の苗木が生えている神々の祭壇は、……この下じゃ」


 ……はっ?


「この下って……。沸騰している湖のお湯しか無いっすよ?」

「だから、その、下じゃっ」


 まるで当たり前じゃろう、と言わんばかりの口調に愕然(がくぜん)としてしまう。


「ふざけているのかい? こんな熱湯に飛び込んだらタダじゃ済まないよっ!」


 火口を背にしたスクルドさんが、自国の守護者に向かって暴言を吐いている。もちろん俺達だって同意見だ。そもそもこんな極寒の地で服を濡らしてしまったら、確実に凍死という末路を迎えてしまう。そんな苦情を全員でまくし立てていた時だった。


 まるで地鳴りのような響きが周囲に鳴り響いた。しかも火口湖の熱湯が盛大に沸騰し始める。


 おいおい、……おいおいおいおいおいっ!!


「噴火する――っ!」

「騒ぐでないわ。大人しく見ておれっ」


 全身に身の危険を感じた俺は、反射的に絶叫しかけた。だが、いたって冷静沈着なスルーズ様の声が俺達をその場に留まらせる。


「で、でも……っ!?」

「危険なんぞ無いわっ。……刮目するが良いぞ? 下界の者がコレを拝謁するのは、お主等が始めてじゃろうからの。年に一度の大絶景じゃ!」


 思わず噴火だと感じた異変は、ゆったりとした速度で変化し続けていた。ボコボコとした沸騰音が俺の耳に届いてくるが、その音の変化はとても緩やかで。いやむしろ、周囲に響いていた地鳴りが鎮まってきた? その場に居る全員が、固唾を飲んで火口湖を見つめ続けていた。


 数分後。

 それまで緩やかに変化していた火口湖の異変が、急激に形を変え始める。


「見てみてっ! 湖が……、盛り上がってるっす!!」


 ヴェルが俺の横で興奮を隠せないでいる。確かに、火口湖の熱湯が何かに押し上げられているかのように、それでいて表面の膜で押さえられているかのように。巨大なレンズ状に膨れ上がってゆく。


 これって……、まさか――――――!?


 俺が日本に居た頃、TVで見た自然現象が脳裏に浮かび上がる。


 次の瞬間。


 巨大な火口湖は凄まじい咆哮を轟かせて、大噴出を起こした。


「こ、これって……間欠泉!?」


 そうだ、これは。巨大な間欠泉だっ!

 地中に存在する水が地熱により温められ、一気に地上へと噴出する自然現象。ヴィリンガホルトの街でスクルドさんから存在は知らされていたけど、これほどまでに大きな間欠泉だなんて想像も出来なかった。轟音を立てて空へと昇った巨大な熱湯の柱が、俺達の視界を真っ白にさえぎってしまう。


 む? このままじゃ、俺達はこの大量の熱湯に飲み込まれないか!?


 再び、身の危険を感じた俺が思わず大声を上げそうになる。だが、俺の限界まで開かれた口を、スルーズ様の小さな手が塞いだ。


「むぐぐっぐっぐぐ!?」

「……騒ぐでない。熱湯など降っては来ぬ、……空を見上げてみよ」


 そのスルーズ様の声は、大声でも無いのに不思議とこの場に居る全員の耳に届いた。


 今だに極寒の強風が吹き荒れる大空を、――見上げると。



「ふあああああああぁっ……」

「なんと、まあっ……」

「凄い。なんてレベルじゃないな、これは――」


 自然が作り出した白銀の星々が、暗闇に染まりかけた夕闇を支配していた――――。


 しかもその場に留まる本物の星とは違い、上空の強風に乗って大河のように星々が流れてゆく。まるで地上に降り注いだ天の川のようだった。間欠泉で吹き上げられた全ての熱湯が霧となり、極寒の風によって瞬時に凍り付いたのだ。


 危険など無いと言った戦乙女様の言葉を、今。俺はようやく納得することができた。

 まるで人の手が入っていないこの地は空気が異常なほど()んでおり、これほどの水量であっても大空で瞬時に凍らせることが出来る。現代で言えば、南極に行った旅行者が良くやる遊びの一つだ。まあ、此方の方が有り得ないほど大規模だけど。


「この現象はの、年に一度。この日、この場所でしか見られぬ[神の息吹]よ。そして、この[神の息吹]こそ、世界樹の花が咲いた証拠でもある。……底を見るのじゃ」


 スルーズ様の言葉に導かれて、大空へと向けていた視線を再び火口湖へと向ける。

 普通の間欠泉であれば、周囲の温水が再び流れ込み泉を形成し直すものだが、この火口湖は上空から降り積もる雪だけが溶けて形成されるらしい。


 と、いうことは。


「これが……ミーミルの泉へと続く大洞窟じゃ」


 間欠泉により火口湖の水が全て噴き上げられたそこには。


 まるで全てを飲み込むかのような。

 火口湖と同じ広さの。


 巨大な噴火口が、大口を開けて……、俺達を今や遅しと待ち受けていた。

最後までお読み頂きありがとうございました。

昨日は初めてのレビューを頂いたり、感想を頂いたり。興奮冷めやらぬ夜となりました。

今後とも拙作をよろしくお願いします。


引き続き、よろしければレビュー・感想・評価・ブクマをお願い致します。

その分だけ更新速度が上がります(笑

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