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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第2章 ドベルグル皇国
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第33話 ムスペルスヘイムの大氷河

毎日投稿29日目

第33話をお送りします。

やっとこさ、後編のスタートです。果たして、コウキ君達はエダさんを助け出し、世界樹の蜜酒をゲットできるのでしょうか?

 凍るような寒波が吹きつける魔の森の中、霜の降りた地面を踏み砕く音だけが木霊していた。


 俺達は今。

 残る戦力を結集して、一路ミーミルの泉を目指していた。身体の調子は良くとも、疲れという点で言えば俺達全員、(かんば)しくはない。それでも俺達に残された時間は限られている。かの泉に咲く世界樹の花が咲くのは今日、しかも明日になれば枯れてしまうという現実。


 その非情な現実が、魔の森を進む俺達の足に力を()めさせた。


 作戦会議が終わる頃には、もう朝日の光が魔の森を照らし始めていた。誰が号令をかけるでもなく、俺達は身支度を整え作業小屋から出発する。

 エダを失った俺達の戦力はお世辞にも充実しているとは言えない。新しい戦力としてこの国の戦乙女スルーズ様が参加してくれたが、この道中で彼女の力に頼るわけにはいかなかった。それは他ならぬスルーズ様自身の言葉から始まったのだ。


「力と強さを象徴するわらわとて、女神フレイヤ様と正面からぶつかったのでは勝算なんぞない。その一瞬まで、わらわの力は期待するでないぞ?」


 軽々と俺の顔面を握りつぶそうとしたほどの力を持つスルーズ様の言葉だ。当分はこの人の力を借りるわけにはいかない。まずは俺達の力だけでミーミルの泉にたどり着かなくては。

 準備は万端。とはお世辞にも言えないが、この現状で出来るだけことはやりきった。ただ一つだけ、そう、直近での問題はただ一つだけだ。

 PTの先頭を行く俺は、その問題が気がかりになって後方へと振り返る。

 そこには。戦乙女スルーズ様におんぶされて気持ち良さそうに眠るパンの姿があった。



 どうにかしてパンを、避難させられないものか?

 夜明け前、大方の作戦を決め終えた俺達は最後の難題に取り掛かっていた。それまでのパンダの姿ならいざ知らず、このか弱い幼女の姿となってしまったパンをミーミルの泉に連れて行くのは危険すぎる。


「誰か一人が引き返して、パンちゃんをヴィリンガホルトに連れて行くっすか?」


 作戦会議の場となった古ぼけたテーブルに手を着いて、ヴェルが建設的な意見を口にする。


「いや、無理だ。これ以上の戦力低下は絶対に許容できない。それじゃあ、パンちゃんが助かったとしてもアタイ等は全滅だ」


 険しい表情を隠しもしないスクルドさんがヴェルの案を却下する。俺はこの二人の意見、そのどちらにも賛同できないでいた。どちらの意見も考えとしては正しく、それと同時に間違ってもいるのだから。

 結局は妥協案として、しばらくはこのPTの中で一番安全であろうスルーズ様に預かってもらう事となった。本当であれば豊穣神フレイに守ってもらうのが一番安全なのかもしれない。だが戦力以前の問題で気性が頼りない上に、今の俺達は神に対する不信感がMAXの状態だ。この辺りが妥協線となるだろう。


 まったく、綱渡りの連続で気の休まる暇がない。

 この世界に転生してから、俺は事件に巻き込まれてばかり居る。まさか、俺を転生させた犯人はドSなのだろうか。まあ楽しくも頼もしい人達との出会いもあったので、あのまま死んでしまうよりはマシなのかもしれないが。

 ともかく、今は前に進むしかない。一流のBAD ENDより三流のHAPPY END。たとえ、どんな手を使ってでも俺は、エダを取り戻す。あの真面目で寂しがり屋な俺の相棒を、取り戻すんだっ。


 そんな非情な決意を固める中。豊穣神フレイ様だけが、不思議そうな表情でパンを見続けていた……。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 意外にも魔の森後半の道程は、トラブルも起きずに歩を進められていた。

 あるとするなら、急激に気温が下がってきたことだろうか。元々多くの火山地帯に囲まれたムスペルスヘイム大陸は、冬の季節が到来しても地熱のお陰で過ごしやすい気候だ。俺だってここに至るまでは防寒具を着なくても問題無いほどだった。

 だがこの先はそうもいかないようだ。氷河地帯が近づいてきたのだろう。地熱と氷河の空気がぶつかり合い、濃霧が発生している。段々と地熱の恩恵が薄れ、地面に霜が見られる面積が多くなってきた。


「コウキ君、全員分の防寒具を出してくれるかい?」

「……了解です」


 後方でPTの殿を受け持ってくれているスクルドさんの提案で、俺は[収納の奇跡]で持ち運んでいた全員分の防寒具を取り出す。旅の必需品を俺が担当していて幸いした。もしこれらをエダが担当していたら、極寒の冷気に耐えながら戦場へと向かわなければならないところだったのだ。


「炎竜も出てこなかったっすね……」


 防寒コートに袖を通しながら、ヴェルがボツリと呟いた。


「俺も竜の姿になると感じるけどな。竜って見た目通りの変温動物っぽいんだよな。ある程度体温が上昇しないと行動できないんだよ」

「ほほ~」


 ヴェルが気合の抜けた相槌を返してくる。すぐ後ろのスクルドさんに「気合を抜くんじゃないよ」なんて突っ込まれているが、俺としては何時ものヴェルに戻ってくれてちょっと安心していた。だが、この気温の問題は炎竜だけのものじゃない。


「だから、俺の宝珠竜としての力もあんまりアテにならない。この人間の身体でなんとかしないとな」


 変身したら体温が下がって動けませんでした。なんて笑い話にもならない。どちらにしろ今はエダが居ないから宝珠竜にもなれないし、ミーミルの泉は大氷窟の奥底にあるらしいので大きな身体は邪魔なだけだ。

 この人間の身体と、皇都レイキャヴィークで武器鍛冶師スズリさんに造ってもらった装備で何とか切り抜けるしかないのだ。




「ほえ~……」


 ヴェルが目の前の絶景を見上げながら、だらしなく大口を開けている。だがそれも無理はない。俺だってこの状況が状況でなければ、似たような行動をとっただろう。

 何事も無く魔の森を抜けた俺達の前に現れたのは、地平線まで続く雄大な氷河地帯だった。そこには一本の植物も生えておらず、只々来る者を極寒の冷気で(はば)んでいる。もちろん道なんてモノは無い。もし仮にあったとしても、自然が作りだした無数のクレバスによって真っ直ぐ進むこともできないだろう。


 ただ観光に来ただけならば、歓声をもってこの光景を迎えていたに違いない。

 だが、俺達の目的はこの大氷河地帯に眠るミーミルの泉だ。この危険地帯に足を踏み込み、生きて帰らなければならない。


「広すぎて、目が(くら)みそうだね。目的のミーミルの泉はどこだい?」


 一晩かけてようやくいつもの調子に戻って来たスクルドさんが、肩をすくめて大自然に文句をたれている。本当に彼女の言う通りだ。この広大な氷河を手掛かりなく探索していたら、あっと言う間に一日など過ぎてしまう。

 そんな俺達の不安を一蹴してくれたのは、この地の戦乙女だった。


「安心せい。元々はと言えば、わらわはその蜜酒(ミード)を採取するために下界へと降臨したのじゃからの」


 そうなの!?

 俺は思わず驚きの表情でスルーズさんの居る方向へ顔を向けた。どうやらセッパ姉妹も初耳だったらしい。ヴェルもスクルドさんも、初めて聞いたとばかりに驚いている。


「それなら最初に教えて欲しかったっすよ!」


 と、俺達全員の意見を代弁するかのようにヴェルが恨めしげに口を開いた。


「たわけ。本来、世界樹の蜜酒(ミード)というモノはの。天上の支配者、大神様への献上品なのじゃ。下界の者が採取に向かう事自体、天界の怒りを買ってもおかしくないのじゃぞ?」


 厳しい表情を隠しもしないスルーズ様が、ヴェルの苦言をピシャリと封殺する。確かに、改めて考えてみれば、あらゆる病を癒すなんて宝が人間の世界に有るわけがない。それこそ天上の、神々の薬というなら逆に信憑性が増すというものだ。


「ここからが、本当の地獄じゃ。……覚悟はいいかの?」


 不敵な笑みを浮かべて、スルーズ様が俺達に覚悟を問う。もちろん、ここまで来ておいて元来た道に戻るなんて論外だ。一人を除いて全員が重く頷いた。


「……うう、僕はできれば遠慮したいんですけど……」

「天上の神様が何へこたれてんだいっ! ちょっとは(うやま)うに足るところを、見せておくれよっ!!」


 ブルブル震える豊穣神に、下界で生まれたドワーフの女傑がバンバンと背中を叩いている。そんな奇妙な光景を見守りつつ、俺達は大氷河地帯に足を踏み入れた。

最後までお読み頂きありがとうございました。

あまり長いと栞を挟んでも読みづらいと思い、一話を3000~4000文字にしていますが。

私の書き方だと全然文字が足りません^^;

それでもストーリーは進んでいきますので、まったりとお付き合いくださいなっ。

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