第28話 神であるということ。
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第28話になります。
先日、初めて1日のPV数が1000を超えました!
沢山読んで頂き、本当にありがとうございます。今後とも、私と拙作をよろしくお願いしますねっ!!
魔の森の中にひっそりと建つ、木造の可愛らしい一軒家。
そこに住む愛らしい新妻の罠に、私達は苦しめられていた。その新妻の正体は人でもなければ下界の生物でさえない。天上から舞い降りた愛の女神、フレイヤその人だったのだ。
まるで絶対的な命令権を行使されたかのように、私達は指一本さえも動かすことが出来ない。そんな窮地に希望の光を照らしてくれたのは、私の胸の中にいた愛おしい一人娘だった。
私達の腰ほどにまで到達した黄金の奔流が部屋を満たす中、熊人族の幼女となったパンちゃんはコウキの元へと駆け出した。
その行動には何のやましさもない。この子はただ、自分の大好きな父親の元へ行きたいだけなのだから。
「……ぱぱ? ――――ぱーぱっ!」
女神フレイヤの横で理性を失った瞳を見せているコウキは、彼女の突撃をなんとか転倒せずに受け止めた。だが、私と一緒に狩りに出かけていた時のような笑顔は一切見られない。まるで心が抜き取られたかのような無表情だ。
「う~」
自分が得た温もりに満足したかのように、コウキの足にしがみ付きながらパンちゃんは呻き声をあげる。コウキの話では、出会った当初から頭に直接ではあるが言葉を解していたというパンちゃん。だがこの熊人族の姿では、まだ会話というものを覚え始めたばかりといった感じだ。
でもだからこそ、この子はフレイヤの権能を突破できた。私達が誰一人なし得なかったこの窮地を、私達の子パンちゃんが突破したのだ。
「…………」
「ぱーぱ? ……う~っ。ぱーぱぱーぱ、ぱーぱ!」
反応がなかったのが不満なのか、パンちゃんはコウキの下半身に捕まりながら呼びかけている。まるで早く帰ってきてと言っているかのように。そして、早く私を抱き締めてと言わんばかりに。
それでも相棒の表情が変化することはない。それが不満だったのだろう、パンちゃんは瞳に涙を浮かべながら癇癪を起こし始めた。
「ぱーぱ?」
「……ぱ」
「ぱーぱぱーぱ!」
「……パ」
「ぱーぱ……、う~~。ぱーぱぱーぱぁ!!」
「……パ、ン」
パンちゃんの必死の叫びに、僅かではあるがコウキの口が動いた。
――――つぶやい、た?
果たして、天界の一員である女神の御前で、一人の幼女が奇跡が起こす。
今、確かに。コウキが、パンちゃんの名前を呟いた。今までのようなフレイヤによって操られたわけじゃない、コウキ自身の意思で私達の子の名前を口にしたのだ。
「うそっ!? 私の[操魂の権能]が……やぶられた!?」
常識では考えられない事態に、さすがの女神フレイヤも慌てざるをえない。
私達の腰を覆うほどに流れ続けていた黄金の波が、徐々に減ってゆく。女神フレイヤが相棒に対して力を割くために、権能の配分を変えたのだ。
そして。
黄金の波が膝丈ほどにまで下がってきたところで、私は叫んだ。
(エルルっ! 変わりなさいっ!!)
(おい、ちょっと待て! たとえ動けるようになったとしても……)
私の中に居るもう一人の私。戦乙女エルルが何かを言いかけていたが、今は問答をする時間さえ惜しい。これが最初で最後のチャンスなのだ。私は渾身の力を、右足に籠めて飛び出した。
この家が小さいことが今度は幸いした。再び黄金の波に足をつけることなく、憎き女神へと飛びかかれる距離だ。私は部屋の天井スレスレまで跳躍しながら、新しい相棒を権現する。
それは皇都レイキャヴィークで一番の武器鍛冶師、スズリさんに鍛えてもらった青白く光る細剣。巫女の祈り、戦乙女の聖気によって切れ味が増すという、白銀鋼を使用した私専用の剣だ。以前、私が持っていた聖剣バルムンクの話を聞いて、スズリさんが再現してくれた私だけの剣。
私は剣の概要を教えてもらってから、今日まで鍛錬を繰り返してきた。全身を覆う私の聖気、祈り。それは攻撃に転じる一瞬だけ、この[ドラグヴァンディル]を神さえも斬り裂く神剣へと昇華させる。
「女神フレイヤぁっ! ――――――覚悟!!」
裂帛の気合をもって神殺しを成す。
この跳躍の一瞬で、私は覚悟を決めた。神殺し、天界の戦乙女にあるまじき反逆の徒となることを。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はああああああ――――――――!!!」
私の全てを籠めた一撃が、女神フレイヤの頭上に振り下ろされる。
だが頭上から襲い掛かる私を見た女神フレイヤの表情は、依然として穏やかな微笑に包まれていた。そして、何かを呟いたのだ。
「おいたは、……ダメ、よ」
それは何とも緊迫感のない、おだやかな声だった。
だがもはやその表情を勘ぐっている余裕など、どこにもない。私は重力の導かれるままに、女神に向けて踊りかかった。
私の一撃は、確かに女神フレイヤを貫いたはずだった。
でも私の握る新しい相棒[ドラグヴァンディル]から伝わった感触は、まるで雲を切り裂いたかのような手ごたえしか与えてくれない。
なっ、なんでっ!!?
私は心の中で絶叫していた。
一瞬、私の脳裏に過ぎった不安が、現実のものとなっている。間違いなく必中の間合いだった。更に言えば、女神フレイヤは避ける素振りさえ見せなかった。間違いなく、この一撃は届いたはずだった。
着地と同時に再び黄金の波の中に足を踏み入れてしまった私は、今度こそ。女神の鎖に捕らわれた。
「う~~ん。敢闘賞、と言ったところかしらね。えっと……、エダちゃんだっけ?」
まるで緊迫感のない穏やかな声が、私の耳に届いた。
「なっ、なぜ……? ――ああっ!?」
私の周りを流れる黄金の波が、首元にまで上がってくる。今度こそ本当に動けという私の意思が身体に一切伝わらない。
「……ふふっ。不思議なのかな? 貴方の剣は、確かに私を捉えた。それは私も保証してあげる。……でもね、残念でした~」
身動きの取れない私の前で、女神フレイヤは踊るように振り向いた。エメラルドのような瞳が悪戯っ子のように輝き、口元は余裕の笑みを浮かべている。
「他の神なら成せたかもしれない。でも私は愛の女神。その最大の権能は[すべてに愛されている]こと。意味がお分かり?」
女神フレイヤが楽しそうに踊りながら、言葉をつむぎ続ける
「私はすべてに愛されている女神。それは、天上の世界アースガルドから始まって死者の国ヘルヘイムに至るまで変わることはない。私は、運命にさえ愛されている――!」
踊るように言葉を紡いできた女神フレイヤが、私の眼前にて停止した。その細く、白い指で私の鼻をちょんと突く。
「だから、エダちゃんには敢闘賞をあげる。よくできましたっ♪」
なんだそれはっ! と叫びたかった。
それでは私達がいくら足掻こうと、まるで無意味だったということなのか。天上の神を相手にするというのは、こういうことなのか。神の決定の前には、どうすることも出来ないのか。
もう私達には、この女神に対抗する手段がない。あれが最初で最後のチャンスだったのだ。もう、女神フレイヤの裁定を待つしか……ない。エルルと身体を入れ替える瞬間、彼女が叫んだ静止の言葉を私は今になって理解した。
絶望の暗闇が私の心を支配してゆく。なぜ、なぜなのか。私達はただ、大切な人を救いたいだけ。
私はただ、ウルズちゃんとトキハちゃんを救いたいだけなのに……。
「じゃあ、敢闘賞のごほうびを上げちゃいますっ。――エルル、出てきなさい」
女神の命令は絶対、とばかりに私の意識が入れ替わる。
「フレイヤ様。私への罰は、いかようにも……」
「バカねえ。ご褒美って言ったでしょ? う~ん、そうだね。私、エダちゃんが気に入っちゃった! だから、エルルを完全体にしてあげるっ! それで貴方の目的は、達成されるでしょ?」
再び、私は自分の身体の中からその光景を見上げていた。この意識の中の世界は静寂に包まれている。先ほどの外界での喧噪が嘘のようだ。
「私は自分の言葉を曲げることはない。……意味は分かるわね?」
「……はっ」
女神フレイヤの手がエルルの胸元へと伸びてくる。そしてそのまま、チャプンと音を立てて体内へと入り込んでしまう。その女神の手はエルルではなく、私の方へ。現実の光景が写る私の意識の窓へと繋がっていた。意識だけの存在である私は、この女神の魔の手から逃れるすべはない。
真っ暗な意識の中で、女神フレイヤの真っ白な手が私へと伸びてくる。そんな不思議な光景を、私はただ、呆然と眺めていた。
そして不思議と落ち着いた心で、事実を受け入れる。
ああ、そっか。
私。
ここまで、なんだ。
私は。エダ=ヴォルヴァ=ジャーリの旅は。
ここで、終わるのか。
そんな客観的な感想を胸に抱きつつ、私は。
自らの最後を悟った――――。
最後までお読み頂きありがとうございました。
フレイヤ様無双の回でした。
実は最後までフレイヤ様がエダの剣をどう防ぐのか、描写を考えていました。
やっぱり、こういう場面が強さの見せどころですからね(オーバーロード感
結果、動かないことにしましたw エダさんは本気で神殺しを成そうとしていたのに「運命が」拒否してしまう。そんな感じです。
明日の更新は普通通り、夕方になると思います。
これからも応援、宜しくお願いします!




