第27話 愛の女神フレイヤ
毎日投稿23日目
第2部2章 第27話目をお送りします。
さてお約束の25・26話(15禁)のあらすじです。
・ヘイズさんが出してくれたお昼ご飯のシチューはお肉がいっぱい!
・けど、そのお肉は魔の森で消えた熊人族の女性達だった。
・パンちゃんがそのお肉で幼女に変身!
・ヘイズさんの正体は愛の女神フレイヤ様でした!
こんなとこです。箇条書きにすると要素少ないなあ^^;
では続きをどうぞ!
「お久しぶりに御座います、女神フレイヤ様。このような状況ですので、膝を着かぬ無礼をどうかお許し下さい……」
交代した戦乙女エルルの意識が、私の口を使って目の前の魔女を崇めるかのような言葉を発している。
だが、それも無理はない。彼女が発した魔女の名前は、竜神教を信仰する私でも知っているようなビッグネームだったのだ。
女神フレイヤ。
豊穣と愛の女神として下界でも広くしられるこの御方は、神々の中でも随一の美貌を持つことでも有名だ。私が最初に出会った時に抱いた、この世の人とは思えないという感想もまったく間違いではなかったということになる。フレイヤという女神の名前は、ミズガルズでは結婚式などの愛の誓いによく用いられている。
だが私が持つ女神フレイヤ様の知識など、本当にこの程度のものだ。なぜならミズガルズ最古の文献である[創生記]にもその程度の記述しかない。本来であれば一生拝謁できる機会さえない、伝説上の神そのものだった。
「あら、やっと出てきたのねエルル。元気そうで何よりだわ~」
「ハッ。ですがフレイヤ様まで下界に降臨されるとは……」
一体、この下界に何の用でしょうか?
と、エルルは言いたかったのだろう。だが、女神フレイヤはその先を口にさせなかった。
「今も言ったでしょう? お食事に来たのよ。こ~んな可愛い子が下界に居るなんて、なぜ皆おしえてくれなかったのかしら?」
そういうと女神フレイヤは、正面からコウキの首元へ抱きついた。
(――なっ!?)
私の視線がその光景に釘付けになる。だがエルルに身体を明け渡してしまった私ができることは、ここで見守ることだけだ。
「……私の子がミズガルズにも、このムスペルスヘイムにも居ないから完全に油断したわ。もっと早く知っていれば駆けつけたのにぃ」
「ロキ様の、……ロキ様の許可はお取りになられたのですか?」
エルルがそう言った瞬間、ずっと微笑んでいたフレイヤの瞳が初めて険しいものへと変貌する。エルルの言葉によって不機嫌になったのは火を見るより明らかだ。
「差し出がましい質問をしました。どうかお許しを……」
「ふんっ。なんでこの私が、あのイタズラ火坊主の許可を取らないといけないのよっ。だいじょうぶ、私は美しいから皆ゆるしてくれるわ。それより……」
フレイヤの視線が私の身体に注がれる。
なんだろう? まるで私の事を品定めでもしているかのようだ。頭の上から足の靴先まで。満足そうに私の全身を見定めた女神は、突然。こう、言い放つ。
「エルル。貴方、――――私のモノになりなさい」
突然の略奪宣言だった。
まるで、自分の言葉は全て叶えられると確信しているかのような声。それは神のみが許される傲慢さだ。
当然、拒否されることなどありえないと言わんばかりのその態度に、私は絶句せざるを得なかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
黄金の奔流に支配された家の中は、先ほどまでの楽しそうな喧噪が嘘のように静まり返っていた。まるでこの家には誰もいないかのようだ。唯一魔の森に吹きつける冷たい風の音だけが、この世界を形作っている。
私を含め、エダちゃんもスクルドさんも指先の一本すら動かすことが出来ない。天上の神が動くなと命じているのだ。下界の民なんてその意思に従う他ない。
今、この場に。本来、天上の世界に居るべき美しき女神が今、この場に現界している。この下界で起きてはならない事態が展開されていた。
「フレイヤ様のモノになれ、とは。……どういう意味でしょうか?」
身体の中からエルルの視線を通して見ている私にも、この場の緊張感が伝わってくる。一体、この女神は何を言っているのだろうか?
「どういうって、言葉通りの意味よ? あんなナルシーなバルドルのところじゃなくて、私に仕えなさいって言ってるの」
「ご冗談を……」
エルルは女神の言葉が信じられないとでも言いたいかのように、首を振っている。よくは分からないが、それだけ戦乙女の忠義というものは絶対なのだろう。だが、それでも私達の目の前にいる女神は本気だった。
「冗談じゃないわよ、それに貴方にとっても最良の道よ? 何と言っても私に仕えるなら……、この子も一緒だからね?」
女神フレイヤの燃え盛るような赤い瞳が、間近で見つめあうコウキの瞳に写りこむ。お互いの黄金の髪は混ざり合い、もはやどちらの髪かも分からなくなっていた。
つまりは、これまで通り相棒という関係を続けたいなら私に仕えろということか。やっぱり神という存在は随分と自分勝手な生き物だと再確認する。
むぅ。
そろそろ私の堪忍袋の尾が切れそうだ。
いかに神とはいえ、私の相棒を横取りするなど許さないっ!
と、言いたいのだけど……。
相手は今までの貴族とは比べ物にならない、神だ。
いくら戦乙女の身体を持っていると言っても、私はこの女神に一撃でも入れることが出来るのだろうか。しかも今現在、表に出ているエルルはまるで下僕のような丁寧さで礼を尽くしている。
あの、戦乙女エルルが……だ。
よほどの対策を施さないと、この窮地は脱出できないだろう。
けど、どうする? どうすれば私は、相棒をあの女神から取り戻すことができる?
私は戦乙女の身体の中で自問自答を繰り返す。
現状、私を含めてヴェルちゃんやスクルドさんも動きを封じられている。強制的に、あの女神様に対して反抗的な行動が出来ないように強制されている。
なら、反抗的な行動じゃなければ行動できる?
私の脳内に突破の切っ掛けが生まれた気がした。
いや、やっぱりダメだ。自分の心に嘘はつけない。あの女神の正体が暴露された時点で、私は敵対心を持ってしまっている。それは隣の二人も同じこと。二人だって武器を構えた時点で戦意という名の敵意を心の中に持ってしまっている。例えどんな平和的な行動を起こそうが、その裏にはあの女神に対する敵対心を持ってしまうのだ。
その心の動きをあの女神はいとも簡単に察知できるのだろう。ならば私達三人はどうあってもこの場を動くことが、出来ない。
そもそもがこんな思考を巡らせている時点で、あの女神に対して敵意を向けている何よりの証拠ではないか。
この束縛を脱する事が仮に出来るなら、幼子のような純真無垢な心が必要だろう。
幼子のような……。
幼子?
私の視線が、エルルの胸の中で眠る少女となったパンちゃんの姿へと移る。
――これだっ!!
ほんの一筋ではあるけど、私は光明が見えた気がした。古来より親の仲を取り持つのは、何時でも。
愛しい我が子の存在ではないか。
しかしそこまでの結論に至ったとしても、問題は山積みだった。第一、まだまだ子供のパンちゃんが私の意図した行動をとってくれるとは思えない。
改めて私の胸の中に納まったパンちゃんを見つめてみる。
人間でいう所の年頃で言えば3~4歳といったところだろうか。白と黒の色彩が交じり合うサラサラの髪の毛が何とも愛らしい。が、まだまだ自我に目覚めて日が浅い年代だ。自分の興味の沸いた行動にのみ、直感的な行動をとってしまうような年頃である。
私が「~をやって」と言っても理解はできないだろう。それでも、この場で自由に動けるのはこの子だけなのは確かだ。
その証拠に私達は指一本も動かせない状況なのに対して、パンちゃんは相棒の隣に居る見知らぬ女性に興味をもったようだ。
「うー。うー?」
などと言葉になっていない声で、女神フレイヤを不思議そうに見ている。まだまだ乳離れできていないようで、小さな指を自身の口に含んでいた。だがその行動が出来るだけでも、私の仮説は証明されたようなものだった。
(どうする。まさか、パンちゃんに女神フレイヤを相棒から引きはがすなんて行為はできないだろうし……)
更に言えば私達の大切な子を、そんな危険な場所へ単独で向かわせるわけにもいかない。
(やはり……、無理か)
私の脳裏に絶望の二文字が舞い降りる。
それならせめてパンちゃんだけでも助けてもらえるように、なんとかこの女神と交渉するか?
私がそんな悲壮な決意をした時だった。
「……ぱぱ? ――――ぱーぱっ!」
突然、私の胸の中で叫んだパンちゃんが飛び出すように駆けだした。
その行き先なんて予想するまでもない。私達の目の前に、優しいお父さん(お母さん?)がいるのだ。パンちゃんとしては、ごく自然な行動だったのだろう。きっとパンちゃんの目には、もはや女神フレイヤの姿など映ってはいない。
ついさっき私がやってはならないと感じた行動を、何も言わずにパンちゃんが実行してしまった。
ただただ、大好きな父親の元へ行きたい。
その一心だけで、私達の大切な子は拙い足取りで駆け出してゆく。
「えっ? 何よこの子。……貴方達の子?」
突然のパンちゃんの突飛な行動に、さすがの女神様も困惑している。
悪意もなく、敵意もなく。
幼い子供特有の、何の色も塗られていない真っ白な心。
そんなパンちゃんの心が、洗脳されたコウキの意識を激しく揺さぶった。
最後までお読み頂きありがとうございました。
さて、明日の更新ですがなんとか午前中に投稿したいと考えております。
今後ともよろしくお願いします!




