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宝珠竜と予言の戦巫女  作者: Mikami
第2章 ドベルグル皇国
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第26話 神の降臨

毎日投稿21日目。

第26話をお届けします。


警告!

 前話に引き続き、15禁とさせて頂きます。さすがに18禁じゃ、ないよね?

 グロ耐性に自信の無い方は明日の27話であらすじを入れますので、ブラウザバックしてお待ちください。でも自分の中では、設定を詰め込んだ回なので読んでもらえたら嬉しいです(笑


 でも、15歳未満の君は見ちゃダメだぞっ?

「みんな、このシチューを食べちゃダメッ! このにくは、……この肉はっ!! この森で消息不明になった熊人族の、……女性の肉ですっ!!!」 


 他ならぬ私自身の絶叫が、暖かな家族団欒の一幕を木っ端微塵に吹き飛ばした。


「え、エダねえ、……一体なにを言ってるっすか?」


 ヴェルちゃんが今、まさに自身の口に運ぼうとしていた木のスプーンに視線を落とす。そこにはお肉大好きだからという理由で、大盛りにしてもらった熊人の肉があった。スプーンを持つ手がガタガタと震えだす。まさか自分が美味しく食べていた肉が、自国民の身体の一部であるとは想像できるはずもない。

 信じられないとばかりに身体を硬直させるヴェルちゃん。それは隣の席にいたスクルドさんも同様だ。だが、彼女の行動は早かった。


 それまでのテーブルマナーの良さを一変させ、ガタンと椅子を蹴飛ばして立ち上がると。


「ヴェルっ! 立ちなっ!!」

「えっ? ……えっ、スクルドねえ? ――――――ぐっ!!」


 ヴェルちゃんの胸倉を左手で強引に掴み、立ち上がらせ。彼女のみぞおちに、強烈な一撃を叩き込む。途端に胃の中のシチューが逆流し、ヴェルちゃんの口から飛び出してくる。

 その光景は、まともに直視するには、あまりにも酷い光景だった。


 だが、私とてその光景を黙って見ているわけにはいかない。


「パンちゃん!」

「……う?」


 テーブルの下でシチュー皿に顔を突っ込んでいた大切な子を無理矢理、自分の胸の中に抱え込む。この子には、あの姉妹が行なったような非常手段は使えない。屈強な身体を生まれつき持つドワーフ族とは違い、パンちゃんにはどんな悪影響があるかも分からないからだ。

 今の私に取れる行動はただ一つ。


 この悪魔のような森の魔女から、愛しい私達の子を引き離すことだけだ。


 自身の右足にあらんかぎりの力を送り込む。

 そして私は、たとえ一歩でもこの魔女から離れるためにリビングの方向へ転げ飛んだ。間違ってもこの子に怪我がないよう、両手で必死に守りながら。

 この家の食堂は一階の端にあり、対してリビングは反対側の端。それでも距離にして4、5mほどだ。あの魔女が一足飛びで襲いかかれる距離しか離れることができない。

 本当なら玄関から外へと飛び出したかったのだけど、私達の位置はテーブルをはさんで玄関の反対側だ。この状況をあの魔女が意図的に配していたのかは分からないが、事態は最悪の一歩手前だった。


 これではあの魔女を突破しないかぎり、この家の外へは脱出できないっ!


 私は自分の逃げてしまった位置を把握しながら、方時も視界から外さないよう森の魔女を睨みつけていた。


 

 だが、私がこの状況を最悪の一歩手前だと称したのは、彼女の存在がいたからに他ならない。


「まったく、ひどい悪食だね。アタイ等を巻き込まないで欲しいよ」

「うう、スクルドねえ。ひどいっす……」


 森の魔女から反対側へと転がり込んだ私の横には、同じようにヴェルちゃんを確保したスクルドさんが居る。彼女も魔女の洗脳に掛かっていなかったのだ。


「アンタだってあんな肉を胃の中に収めて置きたくなかっただろ? 手間を(はぶ)かせてやったのさ。それに、いい気付けになったろ?」

「そりゃあ、なんか長い夢から目覚めた気分っすけどぉ」 


 二人共、軽口を発しながらも目の前の敵から視線を外すことはない。二人の手にはすでに愛用の大槌(おおつち)と二本のナイフがある。スクルドさんはもちろん、ヴェルちゃんだって幾多の修羅場を潜り抜けてきた冒険者だ。

 この事態をきちんとわきまえている。


「ねえ、……どうしたの? 私のシチューはおいしくなかった?」


 悠然と微笑みながら、今だ食堂に居る森の魔女が口を開いた。


「味の問題ではないっ! 私達に人肉を食べさせるとは、鬼畜の所業にもほどがあるぞ!!」

「でも、美味しかったでしょ?」


 だから味の問題ではないと、もう一度叫びかけた私は、魔女の雰囲気が変化したことに気付いた。

 気付いてしまった。


「――――――――なっ!?」


 それまでは何の変哲もない女性の姿だった魔女の身体から。いや、髪から。黄金の奔流が流れ出してくる。まるで際限なく、魔女の髪が伸びて行くかのように。私はこの波に見覚えがあった、忘れるはずもなかった。


(コウキの、……黄金の宝珠竜の煌めき? なんで、なんであの魔女がっ!?)



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 黄金の波が私達を飲み込もうとしていた。

 これぞ、神の御力(みちから)

 その力の前には、下界で暮らす私達程度では抵抗できるはずもない。


 抵抗するな、神の裁きを受けよ――。


 これは幻聴だろうか。耳の鼓膜を通って聞こえてくる声ではない。言うなれば、頭の中に直接響く声。


「ヴェルちゃんっ! 壁を破壊して!! どんな手段でもいいから、とにかく、この家から逃げてっ!!!」


 私の切羽詰った絶叫がこの場に響き渡る。

 だが、ヴェルちゃんの身体は動く気配を見せなかった。


「ヴェルちゃんっ!!」

「だ、だめっす……。逃げなきゃいけないのに、それは分かってるのに。アタシの大槌(おおつち)が、手が動いてくれないっす!」


 ヴェルちゃんが全身を震わせながら叫ぶ。

 その異変は私にも起きていた。こんな状況なのに、一人でも生き抜くために戦わなければならない状況なのに。


 何もやる気が起きない。


 全てをこの場に委ね、神の裁きを待つ罪人であるかのように。動けない。


 間違いない。この技は、この黄金の奔流は。


 かつて。私の相棒がミズガルズ王国軍五万の軍勢を無力化し、戦乙女ヒルドが自らの身体を用いて権限した原初の巨人をも跡形も無く消し去った。あの光。


 コウキの[宝珠竜の暖光](ピース=オブ=ヴィーブル)だ。


 なぜ、なぜあの魔女が使えるのだ!?



「美味しかったでしょ?」


 そういうと、森の魔女がこちらへ歩みはじめた。


「人間の肉はね、私達にとっては最高の美容食なのよ? なぜだか分かる?」


 そんな事、知りたくもない。

 だが魔女の髪から伸びる黄金の波は、すでに私達の腰ほどまでを飲み込んでいる。まるで全身に力を入れられない。完全に囚われてしまったのだ。


「人間とは、かつて天上の神々が世界樹の枝から生み出した存在。世界樹の欠片。だからこそ、貴方達はこの下界で繁栄することができた」


 ゆっくりと森の魔女が独白を続けながら近づいてくる。


「他の種族はダメね。ドワーフは煙たいし、ヴァイキングは水っぽいし、エルフは風を食べたかのように味気ない。でも人間はさいこぉ、特に獣の血が混ざりこんだ獣人は品種改良したかのように美味しいの」


 もうすでに森の魔女は、私達の目の前にまで到達していた。私の顔に森の魔女の手が伸びてくる。二本の細い指で、私の顎をクイッと持ち上げてくる。


「肉の食感を味わえながら、元は世界樹の枝だからベジタブル。これほど最高の食材は他にないわ。だから……」


 私の視界に、魔女の顔が映り込む。まるで接吻をするかのように、私の目の前に魔女の顔が近づく。


「だから[巨人大戦]の時も助けてあげたのよ? 私達、天上の神々が美味しく食べるために」


 何度も私は自分の身体に指令を送り続ける。動けと。今ここで動かなければ、私達は助からない。

 だが、私の身体は金縛りにあったかのように動かない。只々、身体が痙攣するのみ。


 あの時。

 ミズガルズ王都シグムントにある天命の丘で、ブリュンヒルデに出会った時にも感じた恐怖。

 それは、絶対的な力を前にした時の恐怖。

 私と同列な戦乙女ヒルドとの戦いとは比べ物にもならない、恐怖。


 森の魔女の唇が、私の唇へと近づいてくる。

 自然と瞳から涙が零れた。

 なぜか直感的に理解できた。これは死の接吻。これを受け入れた瞬間、私は自己を失う。コウキとの、旅が終わる――――。


(変われ。……まさかフレイヤ様が降臨なさるとはな。……この世界もいよいよ末期だ)


 それは一縷(いちる)の希望。


 私の中に居る、もう一人の私。

 戦乙女エルルが、私の意識を自身の奥底へと追いやった。

最後までお読み頂き有難う御座いました。

このお話で初めての女神様、ご降臨で御座います。

このお話の神様は非道なのではありません。「えこひいき」していないだけなのです。

微生物だろうが、竜だろうが、人間だろうが。

神様の前では等しく「自分が生み出したモノ」なのです。

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