第24話 本人確認(後編)
毎日投稿19日目
第24話をお送りします。
RT企画のおかげで沢山の人に感想・評価を頂けています!
もう100話越えの長編なのでここまで追いついていないかもしれませんが^^;
「本当に、申し訳ありませんでした……」
新たな食料を探すため、薄暗い魔の森に入ってから小一時間ほどが経過していた。
本当なら先頭を歩く相棒の肩には、大きな猪が掛かっているはずだった。なぜなら体感的には森に入ってすぐ、一時間もしないうちに相棒の設置した罠に猪がかかっていたからだ。
索敵から罠の設置、トドメの一撃まで。
そのすべてが、元々用意されていたシナリオに沿うかのように進んでいた。何もかもがおかしい。こんな光景、本職の猟師さんが見たら発狂することだろう。
だが今、この場に猪の姿はない。
何の事はない、原因は私だ。私が罠にかかった猪にトドメを刺せなかったのだ。
情けない自分に腹が立つ。今だトラウマを克服できない自分に、だ。
数ヶ月前。
ブオリの村でパンちゃんを迎え入れてからと言うもの、私は魔物にトドメを刺せなくなっていた。
もしかしたら、万に一つの確率でも。パンちゃんのお母さんかもしれないと思うと、手が止まってしまうのだ。
もちろん調理に使うウサギなどの魔物化していない小動物は、可哀想だとは若干思うものの抵抗はない。問題はもっと大型の、熊や猪、鹿などだ。だが村から距離の離れている距離の此処でも、更に言うなら既に市場に並んでいる形の残る食材でも。私はなぜか、ナイフや槍を突くことが出来なくなっていた。
罠にかかった獲物を、コウキが拘束し、私がトドメを刺す。この役割分担は、あらかじめ話し合っていた。私だって驚いた。最近は慌しい毎日が続いていたので、悠長にお料理をする時間さえも持てない。このトラウマは数ヶ月後の今、私に襲い掛かってきたのだ。
結局、獲物の猪は派手に暴れ続けて、足に掛かった罠を足首ごと切断して逃げていった。猟師達で言うところの[足切り]と呼ばれるものだ。これは獲物をいたずらに苦痛を与えてしまう事から、猟師の間では恥ずべき失敗として広く知られている。
「いやいや、思えば女の子にあんな役目をさせちゃダメだよね。反省するのは俺の方さ。まあ、今日はこの果実だけで許してもらおう」
「……はい」
恐縮することしきりな私を、相棒は苦笑しながらも許してくれた。
その代わりと言ってはなんだが、私達はあらかじめ用意してもらっていたカゴに果実をもぎ取っている。これまた用意されていたかのように都合よく、大量の果実をこぼれんばかりに付けた木がアッサリと見つかるのだから笑えない。けど、いくら大量にあっても私の持つカゴだけでは採取する量にも限度がある。
結局、これから狩りを再開しては昼食の準備に間に合わないということで、カゴいっぱいの果実で許してもらおうという話になった。
「そんなに心配しなくても大丈夫。実は倉庫にまだ食べきれていないお肉があるからね」
相棒が私の謝罪の言葉をフォローしてくれる。
だが、それも今までどおり。例えるなら親戚の子供が仕事のお手伝いをしてくれた、と言ったところか。親密ではあるが、どこか他人行儀な点は変わらない。
「今日は備蓄の肉をヘイズに捌いてもらおう。お昼ご飯は期待していいよ~、……ある程度の日数、熟成させた方が美味しいお肉になるからね」
「すごく博識ですね……、以前に猟師のお仕事をされていた事があるのですか?」
「いやいや、猟師なんてやったこともないよ。これは……、あれ。言われてみれば、どこで知ったんだったかな?」
またもや過去の事を思い出そうとすると、考え込んでしまうコウキの姿がある。
これだってそうだ。この世界の一般的な人で、肉の熟成なんて専門的な知識を知っている人は少ない。あの食堂の大将だって「肉は捌きたてが一番よっ!」と豪語していたのだ。明らかにこの世界から遥か先をゆく知識を、この人は持っている。
これが相棒本人である証拠でなくてなんなのか。
申し訳なく思いながらも、私は自分の中で導き出した確信をより深いものへとしていた。
だが、問題はまだまだ山積みだ。
最大の問題は、どうやってこの相棒を元の人格に戻すか。こちらに至っては手掛かりすら掴めていない。彼の正体は、天上の神々が下界に降臨した姿である宝珠竜だ。
その彼を音もなく誘拐し、さらには自分に都合の良い別人格を植えつけるなど普通の人間には不可能だ。
ますますヘイズさんという女性が何者なのか、謎が深まる。
(まだだ、焦るなエダ。この状態で下手に彼女を糾弾しようものなら、おそらく私は孤立する。幸いな事にまだ一日の猶予が残っている。急ぐことは無い、慌てるな……)
私は自分自身の感情を抑えつつ、帰宅の途についた。
大丈夫。きっとチャンスはやってくる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ただいま。ごめんねヘイズ、今日は獲物が取れなかったよー」
後頭部をポリポリと掻きつつ、コウキは玄関の扉を開いて入ってゆく。記憶を操作されているとはいえ、その姿は私と相棒であった頃と何ら代わることはない。
「本当に申し訳ありません……。私がきちんとトドメをさせなかったからです」
ミスはミス。ここは謝罪するべきところだろう。私はヘイズさんに向かって、深々と頭を下げた。
「まあ、コウキったら。女の子にそんなことさせようとしたの!? 気にしなくてもいいのよ。ウチには、お肉がまだまだありますからね。大丈夫、お昼ご飯は任せておいて!」
恐縮しきりな私をなだめながら、ヘイズさんはお説教モードで相棒を叱り付けている。
その姿がなんだか、シスター長と被って見える。この世界に来たての頃、ユミルの街にて。コウキはよく竜神殿のシスター長であるマリーさんにお説教を受けていた。まあ、その時は主に淑女としてのマナーに関することだったけど。
だが、この風景は偽者だ。幻影なのだ。私は真実を取り戻さなくてはならない。
「ヘイズさん、どうかその辺りで許してあげて下さい。元はと言えば無理に着いて行った私が悪いのですから。その代わりと言ってはなんですが、デザートだけは確保してきました」
相棒を玄関先で正座させて昏々とお説教をしていたヘイズさんだったが、私の持つ果実が山盛りのカゴを見て再び笑顔になる。
「お疲れさま。後の事は私に任せて、ヴェルちゃん達とゆっくりしててね。直ぐに美味しいお昼ご飯を作ってあげるから」
ヘイズさんはそう言うと、カゴを私から受け取って台所へと行ってしまった。
昼食が出来上がるのを待つ間、私はパンちゃんを抱きながらソファでのんびりとさせてもらっている。この家の中では監視の眼があると思った方がいいと判断したからだ。下手に不審な行動をしてしまうと、いささか拙いことになるかもしれない。
「おつかれさま、森の中はどうだった?」
のんびりとくつろぐ私に、スクルドさんが話しかけてきた。
「基本的には、昨日までとさほど変わり映えはしませんね。ですが桃色の霧は晴れたままです」
「……そうかい、それは何よりっとっ」
そう言って、隣の席に勢いよくお尻を投げ出してくる。
「……もう少し静かに座ってください。パンちゃんが起きてしまうじゃないですかっ」
「わるいわるい。なにせ、昨日からこの家にやっかいになってるもんだから身体が鈍っちまってねぇ」
どう見ても悪いなんて思っていない様子で、目の前に置かれたお菓子をついばむスクルドさん。
「しっかし、ここが魔の森のど真ん中だなんて忘れそうなほど退屈だねえ。また炎竜でもやってこないかね」
「……不謹慎です」
今のところ、間違っても再会したくない存在の二番だ。ちなみに一番は台所で料理を作っている。
しばらくの間、私達の会話は無言の時間が続いた。
そういえば、朝の一件。今までのスクルドさんなら、私が森に入るのを止めるのではないだろうか?
…………ふむ。
「……予定通り、明日の早朝には出発するよ」
「はい……。極夜は待ってはくれませんもの」
「ああ。その戦装束はまっさきに洗ってくれたみたいだけど、アタイ達の服はまだ洗濯中だ。まっ、出発の頃には乾くだろうけどね。生乾きの服なんてまっぴらゴメンさ」
この可愛らしい服も悪くはないけどねぇ。なんだか、こそばゆいよ。とか言いながらスクルドさんが今来ている服をつまんでいる。
「そんな事を言っている場合でもないですけどね」
「そりゃそうだ。灰だらけの服よりかは断然マシってやつだね」
――――っ!!
それはっ!?
スクルドさんの発言で思わず振り向こうとした私の頬に、褐色の指が付きつけられる。
その意図を直感的に察した私は、目線だけで確認をとった。
彼女の顔は不敵に微笑んで、その感情をうかがい知ることが出来ない。出来ないけどっ。
瞳を見開く私を置いて、スクルドさんは立ち上がった。
「もう少しで昼メシだ。エダちゃんは朝メシも食べてないだろ? 楽しみに待とうよ」
それだけを言うと、スクルドさんは台所の方へ歩いて行ってしまった。まったくあの人は、……本当に頼りになるお姉さんだ。
本当に。
私は台所から見えないようにため息をつくと、のんびりモードを再開させた。
最後までお読み頂き有難う御座いました!
明日の投稿から2話ほど、グロい描写が入ります。
苦手だというかたは、前書に回避方法を提示しますのでご注意を……。




